「……」
開始前にピットから管制室に辿り着き、真耶と共に試合の成り行きを見守るつもりだった千冬は、早々に一夏の言い放った宣言にしゃがみ込み、伏せた顔を両手で覆う。内心不安を抱きながらも、初陣の勇姿に期待も抱いてはいたが、逃げに徹することで軽快に回避し続け、早々スカートアーマー状に搭載された『
「……!」
「ま、まぁ、一夏君も言ってますが、ガルガロスさんの真似してみたんでしょ?あの年頃の男の子ならそんな感じの憧れくらい誰だって持ってますよ」
「……ただのカッコツケだったらまだマシなんだよ……加減は理解してるから実際そこまで行くような例はそうそうないらしいが、あの人たちのは事実上の死刑宣告みたいなもんだ……」
「……!」
手の隙間から向けた左目に映る真耶の懸命にフォローしようとする姿は、立場関係なく好ましいものだとは思うが、生憎そんな暢気なことを言ってられる様な話でもないのが現実なのを理解しているがために、千冬はなかなか立ち上がれずにいた。
彼等の掛け声は好戦的な性格を表すように攻撃的な内容の物が多く、例えば各所で大暴れした姿が記憶に新しい悠紀耶は「ひと暴れさせてもらおうか」と割かし日常的な範疇に収まっているが、その
ちなみに他の仲間達も、ある種の名乗りみたいなノリでこうした独自の掛け声を有しており、初対面時、全裸で満足に言葉も発さぬままだったブラッドでも、「
「大体データ収集が主目的だって伝えたのに、なんで早々『殺す気で』なんて物騒な発言を代表候補生にぶつけるんだよ……。いくら実物を満足に触れるどころか、碌に見たことないような素人共より覚悟も技術もあるからって、戦地でもないのに何をやらせる気なんだ……」
「でも、一夏君の方は一応言う程殺気を感じさせては来ませんよ?少なくともその辺りは、ちゃんと理解してるみたいですね」
「……!……っ!」
辛うじて口元が見える程度とはいえ、シールドに限らず、壁や地面、果てはIS本来の戦場とも言える空中へと縦横無尽に駆け回り、時折セシリアが反転して放つレーザーライフル『スターライトmkIII』のレーザーを装甲で受け流しながら追撃を続ける一夏の顔は、確かに真耶の言う通り敵意や殺意は感じられる様なキツさは見受けられないが、逆に無感情で機械じみているともとれる。
「早々にこんな話をするのもなんだが、とにかく残りの試合に関しては、互いに手の内を知っている他の男子陣と四十院、これを見てある程度
再び視線を自身の手に向け、どうするか考えようとしたところに、先程から執拗に声をかけ続けていた『
「なぜ『白式』搬入前にも関わらず試合が始まっていて、しかも受け取る予定の
「当然でしょう、彼の専用機は件の『
「入学間もない一般生徒が国際規格に反した『
「己が身を削り、人を殺しかねない機能を発するなど、加減のできない素人には到底危険すぎる武装しか搭載されてない上に、それを最優先した結果他に芸のない、機能のオマケ同然な本末転倒の産物が国際規格通り?他国が最新型のスポーツカー開発に取り組む中、1度世界最速を記録したものの、とうに現役を引退した蒸気機関の再現に必死な国は考え方が違いますね。えぇ、凡人の私には、到底理解できない崇高な思想なのでしょう」
執拗に乗り換えを強制してくる相手を、多忙や慣れを理由に切り上げていたこれまでの様に、挑発も交えて真正面から受け流し続ける千冬だが、先に堪忍袋の緒が切れた相手は、知らぬ間に地雷を踏み抜いてしまう。
「信じられない!自らの専用機が有した
「あ?」
記録され、多くの人目に晒された以上、他人が『ブリュンヒルデ』として称賛なり『出来レースで成り上がった世間知らず』と軽蔑なりする分には――前者の場合騙しているような罪悪感や、その裏でどのような嘲笑や軽蔑がされているのだろうとの恐怖から、必死に緊迫と吐き気をこらえながら――甘んじて受け入れている千冬だが、その地位と実力に懐疑的な彼女は、称号に縛られるのを酷く嫌う。
そもそも――剣道の腕に覚えはあるし、未開の才が眠っていたにしても――束との交友関係なんて社会的な注目を浴びる要素以外はそれまで突出した部分のない自分が、乗り始めた途端並み居るプロの軍人やスポーツ選手などを相手に剣1本で勝てたのは、身を引いてから思い返してみると、どうしても異常としか認識できなかった。イタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフと対峙した第2回『モンド・グロッソ』決勝戦のように、かつての戦績が全て接待試合の結果ではなかったにしろ、やはり――ありもしない筈の――親友を負かした相手や、その所属国家に対する束の報復を過剰に恐れた結果、『ブリュンヒルデ』の座と称号がなし崩し的に押し付け同然に与えられたとしか思えない部分が強く、ドイツで鍛え方の違いを実感してからは、余計それありきで用意されたハリボテにしか見えなくなった。
そして自身がそこに座したせいで一夏に生じた莫大な弊害を無視し、比較すればないも同然の恩恵を厚かましく振りかざし、「束のご機嫌取りに持ち上げた」と疑えば余計怪しくなるほど称賛を交えて否定する日本政府関係者への疑惑と嫌悪感は、「自分のせい」と抱え込みがちな彼女が唯一外部へと明確に向ける悪意でもあった。
「『ブリュンヒルデ』の矜持?束怖さに押し付けられたあんなお飾りの称号が、そこまで大層な物だったとはな。生憎と『
「がっ……はぁ……!」
普段は周囲を気にするあまり、猫背で縮こまっているが、千冬は女性としては背が高い。そんな彼女が背を伸ばした状態で襟元を掴んで掲げれば、大抵の女性は足が地面から浮き上がり、首を絞められることになる。事実相手は、それまでの毒を放てど基本受け流すような態度から一転して放つ怒気と、首を絞められる息苦しさで、満足に声を発することもできなくなった。
「ちょっ……先輩!それ以上はまずいですよ!?」
「っ……!」
対照的に――女性としては平均的だが――小柄で、並ぶと千冬の胸元ほどしかない真耶が必死に引き留めたことで手を放され、解放された女性。足をもつれさせ転倒したため、そのまま座り込んだ状態で息を整えると、何とか立ち上がって床に着いた各所を払う。
「とっ、とにかく!試合終了後にでも専用機変更の手続きをしてもらいますかね!1個人の意向でどうにかできる案件じゃありませんよ!」
キッと千冬を睨み付けて啖呵を切ると、強気な言葉とは裏腹に、逃げるように去っていく。
「個人がどうにかできる案件じゃない、ねぇ……どうにかできる代表にいつまで経ってもおんぶにだっこな連中が、何を言ってるんだか……」
『織田がつき、羽柴がこねる天下餅。座るままに食うは徳川』とは戦国時代の権力の移り変わりを歌ったものだが、さながら束がついてガルガロスが現在進行形でこねている
一応こっちは残しておきますが、見返してみると結構誤字脱字も多かったり・・・