INFINITE CROSS FUTURE   作:ゲオザーグ

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水面下の狂気

「……」

 

 開始前にピットから管制室に辿り着き、真耶と共に試合の成り行きを見守るつもりだった千冬は、早々に一夏の言い放った宣言にしゃがみ込み、伏せた顔を両手で覆う。内心不安を抱きながらも、初陣の勇姿に期待も抱いてはいたが、逃げに徹することで軽快に回避し続け、早々スカートアーマー状に搭載された『ブルー・ティアーズ(ビット)』4基を展開するセシリアに対し、開始直後から放たれる『グレート・ホワイト』の両腕――人でいう手の甲部分に縦並びで3挺設置された連装機関銃(マシンガン)、『セグロアシナガバチ(ブラックベリード)』を乱射し、同様に両肩から射出された小型ビット、『長良型』4基に『ブルー・ティアーズ(ビット)』の対処を任せ、鈍重そうな印象を持たせる巨体にも関わらず、観客を守るために展開されたドーム状のシールドを足場にして、攻撃を緩めることなく追いかける一夏の姿を見る余裕は、彼女になかった。

 

「……!」

 

「ま、まぁ、一夏君も言ってますが、ガルガロスさんの真似してみたんでしょ?あの年頃の男の子ならそんな感じの憧れくらい誰だって持ってますよ」

 

「……ただのカッコツケだったらまだマシなんだよ……加減は理解してるから実際そこまで行くような例はそうそうないらしいが、あの人たちのは事実上の死刑宣告みたいなもんだ……」

 

「……!」

 

 手の隙間から向けた左目に映る真耶の懸命にフォローしようとする姿は、立場関係なく好ましいものだとは思うが、生憎そんな暢気なことを言ってられる様な話でもないのが現実なのを理解しているがために、千冬はなかなか立ち上がれずにいた。

 彼等の掛け声は好戦的な性格を表すように攻撃的な内容の物が多く、例えば各所で大暴れした姿が記憶に新しい悠紀耶は「ひと暴れさせてもらおうか」と割かし日常的な範疇に収まっているが、その相棒(パートナー)とでも呼ぶのが合いそうな吉美は、「我が視界に入ったが最後よ」といかにもな感全開だし、穏やかな雰囲気を漂わせる様子から、あまり荒事には関わりの薄そうなウィンディでも「そよ風の如く優美に、暴風の如く鮮烈に」の掛け声と共に、生身ながらISで防御を固めた千冬を苛烈な程一方的に攻め立て、反撃のチャンスも見出せぬままエネルギーを削り切ってしまってみせた。そして肝心の今しがた話題に挙がったガルガロスに至っては「始めようぜ、大死闘(デスバトル)をな」と、かなりストレートに敵意を前回にしてくる。

 ちなみに他の仲間達も、ある種の名乗りみたいなノリでこうした独自の掛け声を有しており、初対面時、全裸で満足に言葉も発さぬままだったブラッドでも、「戦闘開始(バトルスタート)」と発するらしい。尤も気に入らない相手に対しては、満足に名乗るどころか、顔も見せないまま不意討ちで潰してしまうことも多いそうだが。

 

「大体データ収集が主目的だって伝えたのに、なんで早々『殺す気で』なんて物騒な発言を代表候補生にぶつけるんだよ……。いくら実物を満足に触れるどころか、碌に見たことないような素人共より覚悟も技術もあるからって、戦地でもないのに何をやらせる気なんだ……」

 

「でも、一夏君の方は一応言う程殺気を感じさせては来ませんよ?少なくともその辺りは、ちゃんと理解してるみたいですね」

 

「……!……っ!」

 

 辛うじて口元が見える程度とはいえ、シールドに限らず、壁や地面、果てはIS本来の戦場とも言える空中へと縦横無尽に駆け回り、時折セシリアが反転して放つレーザーライフル『スターライトmkIII』のレーザーを装甲で受け流しながら追撃を続ける一夏の顔は、確かに真耶の言う通り敵意や殺意は感じられる様なキツさは見受けられないが、逆に無感情で機械じみているともとれる。相手(セシリア)からすれば、どの道不気味なことには変わりないだろう。

 

「早々にこんな話をするのもなんだが、とにかく残りの試合に関しては、互いに手の内を知っている他の男子陣と四十院、これを見てある程度(プラン)を練れる島津はともかく、オルコットに対しては「いい加減にしてください!」……何ですか、今試合状況への対処で忙しくなるところですが」

 

 再び視線を自身の手に向け、どうするか考えようとしたところに、先程から執拗に声をかけ続けていた『白式(びゃくしき)』の搬入責任者として派遣された女性が痺れを切らして声を荒げる。千冬にとっては正直頼んでもないのに持ってこられたところで余計な手続きをするつもりなどなく、居座られようとただ邪魔でしかない以上、さっさと『白式(機体)』共々引き払ってほしい存在でしかなかったが、相手も「政府の意向」を盾に、頑として引き下がるつもりはないらしい。

 

「なぜ『白式』搬入前にも関わらず試合が始まっていて、しかも受け取る予定の一夏(1人目)が『グレート・ホワイト(違う機体)』に搭乗して戦闘してるんですか!」

 

「当然でしょう、彼の専用機は件の『白式(劣化コピー)』ではなく『グレート・ホワイト(あの機体)』なんですから。それに会場(アリーナ)使用時間は限られています。試合の順番及び組み合わせはランダムマッチングの結果ですが、頼んでもいない不良品のために予定(スケジュール)を変更や調整しなくてはならない義理も理屈もありません」

 

「入学間もない一般生徒が国際規格に反した『ガルガロス・モデル(G・M)』を使用するなど、他生徒との待遇格差が酷過ぎます!残りの生徒達も追々ですが、参考にならない機体は廃棄し、直ちに規格通りの機体に搭乗してもらわなくては!」

 

「己が身を削り、人を殺しかねない機能を発するなど、加減のできない素人には到底危険すぎる武装しか搭載されてない上に、それを最優先した結果他に芸のない、機能のオマケ同然な本末転倒の産物が国際規格通り?他国が最新型のスポーツカー開発に取り組む中、1度世界最速を記録したものの、とうに現役を引退した蒸気機関の再現に必死な国は考え方が違いますね。えぇ、凡人の私には、到底理解できない崇高な思想なのでしょう」

 

 執拗に乗り換えを強制してくる相手を、多忙や慣れを理由に切り上げていたこれまでの様に、挑発も交えて真正面から受け流し続ける千冬だが、先に堪忍袋の緒が切れた相手は、知らぬ間に地雷を踏み抜いてしまう。

 

「信じられない!自らの専用機が有した単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を骨董品扱いですって!?かつて日本を魅了した『ブリュンヒルデ』の矜持はどうしちゃったの!?

 

あ?

 

 記録され、多くの人目に晒された以上、他人が『ブリュンヒルデ』として称賛なり『出来レースで成り上がった世間知らず』と軽蔑なりする分には――前者の場合騙しているような罪悪感や、その裏でどのような嘲笑や軽蔑がされているのだろうとの恐怖から、必死に緊迫と吐き気をこらえながら――甘んじて受け入れている千冬だが、その地位と実力に懐疑的な彼女は、称号に縛られるのを酷く嫌う。

 そもそも――剣道の腕に覚えはあるし、未開の才が眠っていたにしても――束との交友関係なんて社会的な注目を浴びる要素以外はそれまで突出した部分のない自分が、乗り始めた途端並み居るプロの軍人やスポーツ選手などを相手に剣1本で勝てたのは、身を引いてから思い返してみると、どうしても異常としか認識できなかった。イタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフと対峙した第2回『モンド・グロッソ』決勝戦のように、かつての戦績が全て接待試合の結果ではなかったにしろ、やはり――ありもしない筈の――親友を負かした相手や、その所属国家に対する束の報復を過剰に恐れた結果、『ブリュンヒルデ』の座と称号がなし崩し的に押し付け同然に与えられたとしか思えない部分が強く、ドイツで鍛え方の違いを実感してからは、余計それありきで用意されたハリボテにしか見えなくなった。

 そして自身がそこに座したせいで一夏に生じた莫大な弊害を無視し、比較すればないも同然の恩恵を厚かましく振りかざし、「束のご機嫌取りに持ち上げた」と疑えば余計怪しくなるほど称賛を交えて否定する日本政府関係者への疑惑と嫌悪感は、「自分のせい」と抱え込みがちな彼女が唯一外部へと明確に向ける悪意でもあった。

 

『ブリュンヒルデ』の矜持?束怖さに押し付けられたあんなお飾りの称号が、そこまで大層な物だったとはな。生憎と『ブリュンヒルデ(お飾り)』に据えられてから引退するまで、そんなものを持ち合わせたことは1度もないよ。私はただ家に金が入って、一夏(アイツ)の生活を少しでも楽にできたら程度の気持ちでしかなかった。それを事情も知らない赤の他人共が私の存在を口上に掲げて、一夏(アイツ)の努力や成果を踏みにじるばかりか、余計な害意をぶつけた挙句、汚点扱いまでされていたと聞いた時は、怒りの余り元凶の女権団を皆殺しにしてやろうかとまで思った。まぁ、一夏(アイツ)を『犯罪者の弟』にしたくないがために何とか踏み止まったがな。

 

「がっ……はぁ……!」

 

 普段は周囲を気にするあまり、猫背で縮こまっているが、千冬は女性としては背が高い。そんな彼女が背を伸ばした状態で襟元を掴んで掲げれば、大抵の女性は足が地面から浮き上がり、首を絞められることになる。事実相手は、それまでの毒を放てど基本受け流すような態度から一転して放つ怒気と、首を絞められる息苦しさで、満足に声を発することもできなくなった。

 

「ちょっ……先輩!それ以上はまずいですよ!?」

 

「っ……!」

 

 対照的に――女性としては平均的だが――小柄で、並ぶと千冬の胸元ほどしかない真耶が必死に引き留めたことで手を放され、解放された女性。足をもつれさせ転倒したため、そのまま座り込んだ状態で息を整えると、何とか立ち上がって床に着いた各所を払う。

 

「とっ、とにかく!試合終了後にでも専用機変更の手続きをしてもらいますかね!1個人の意向でどうにかできる案件じゃありませんよ!」

 

 キッと千冬を睨み付けて啖呵を切ると、強気な言葉とは裏腹に、逃げるように去っていく。

 

「個人がどうにかできる案件じゃない、ねぇ……どうにかできる代表にいつまで経ってもおんぶにだっこな連中が、何を言ってるんだか……」

 

 『織田がつき、羽柴がこねる天下餅。座るままに食うは徳川』とは戦国時代の権力の移り変わりを歌ったものだが、さながら束がついてガルガロスが現在進行形でこねている(IS)を振舞われるまま食いながら彼を叩く連中が、果たして振舞いを断たれればどれほど生き残れるのやら、と、千冬は疲れ果て濁った眼で、幼少期「眼光が鋭くて怖い」と言われたのを思い出してからそれを隠すために伸ばした前髪越しに天井を仰いだ。




()突然ですが、投稿してから全然進まないまま結構経ったせいで色々設定の変更点なども増えた(一夏の偽名とか)ことから、新しく投稿しなおそうかと思います
一応こっちは残しておきますが、見返してみると結構誤字脱字も多かったり・・・
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