入学初日となった。真新しい制服に身を包み、家を出る。入試の時は余裕が無かったので通学路に何があるかなんて確認している暇はなかったが今回は違う。
この道を3年間通るのだ。帰りに色々な店に行ってみるのもありかもしれない。そんな至って普通の高校生のようなことを連想しつつ、雄英の校門の前に立つ。
実は俺の家から雄英は距離が近く、徒歩25分ほどで着くのだ。その為、幼い頃は雄英の文化祭や、体育祭には通っていた。
まあ、個性が発現してから行くことは無くなったがな。
一際大きい校門を潜り雄英の中に入るとそこには、訳が分からないほど大きい建物がそこにあった。
それもそのはずだ。雄英高校のヒーロー科は全国屈指の名門校、それにヒーロー科以外でも有名なのだ。
日本一の設備、日本一の人材そして自由を大切にしている校風。その全てを兼ね備えた学校が雄英であり、ヒーローを目指すならまず雄英を目指せと言われているほどである。
入試の際も言ったが倍率は脅威の300倍。その試験を通過したものだけが通うことの出来るヒーロー科。さらにそのヒーロー科の中でも入試で特に優秀だった上位20名がAクラスに配属される。もちろん俺はAクラスだが、他にどんな個性を持った奴らがいるのか楽しみで仕方ないのだ。
後者の入口で配られている校内の地図を頼りに自分の教室である1-Aへ向かう。異形系の個性でも不便が無いように大きく作られたドアを開けて教室の中に入る。
時間的には少し早かったようでまだ教室には数人しかいない。その数人も緊張しているのか、視線が細かに変わったり、ソワソワしている感じがある。
そんな俺も、思いのほか緊張しているのか先程からムズムズしている。
話しかけるべきか?それとも迷惑じゃないだろうか?そんな何時もだったら浮かばなそうな疑問を頭に留めつつ、俺はトイレに行くために席を立つ。
誰も喋っていなかったので俺の椅子を引くガラッという音に一斉にこちらを見るも、元の方向を向き直す。
そんな様子を横目に見つつ、校内の地図を持ってトイレに向かうのだった。
『疲れたな』
トイレをめざして歩くこと20分、地図が逆さまだったり、見ている階が違かったり色々あったが無事用を足すことができた。
教室に戻ると、ほとんどの生徒が登校しており3人ほどのグループを作って談笑している。
俺は自分の席に座ると、改めて周囲を見渡した。
(監視カメラ並びに盗聴器の心配はなしか)
前世の癖でこういう部屋に入ると必ず確認してしまうのだ。高校生になったとはいえ現代の社会は個性による犯罪が横行している。
それを取り締まる警察も、ヒーローに頼ることしか出来ないという何ともふざけた体制だ。
オールマイトの登場で犯罪率は大幅に減少したがそれでも彼がいるからこそだ。
偽物の平和、1人に背負わせているあまりにも大きい代償。つつけば容易く壊れるこの社会に俺は示さなければならないのだ。
「仲良しごっこなら外でやれ」
以前からそこに居たのは分かっていた寝袋が起き上がり、クラスにそう言い放つ。
「ここは雄英、そんな仲良しこよしなんてしてたらあっという間に足元すくわれるぞ」
全くその通りだ。ただそれでも、
「早速だがこれに着替えてグラウンドに集合しろ」
それでも、平和を享受するのは悪いことなのだろうか。そんな考え捨てたはずなのに、数え切れないほどの絶望と数えたくない程の憎しみを経験したはずなのに、そんな甘い考えが出てくる自分はやっぱり根本は彼らと同じなのだろう。
でも、それでも、俺が示さなければ誰が彼らに気づかせるのだと。
ああ、だから気づかせるのだ。いかに
指定された体操服に着替えグラウンドに出る。既に寝袋(担任)がそこに立っていた。
「では、これより個性把握テストを行う」
その一言にクラスメイトは阿鼻叫喚する。皆、入学式やオリエンテーションなどが待っていると思ったのだろう。それにいきなり体力テストをやるというのだからそりゃ嘆きたくもなる。
「雄英の校風は自由だ。生徒にも自由が与えられる分、教諭側にもある程度の自由が与えられている」
「ヒーローを目指すならばまずは自分の個性を知らなければならない。何ができて何ができないのか、限界は何処なのか?それを探るための第1歩だ」
限界か、、そんなものとっくの昔に知っている。俺の個性は前できたことが出来るようになっただけ。つまり前と何も変わらない。
なら大丈夫。弁えている。これで希望を抱くことも無い。そう、いくら力があっても、守りたい人を守れなければ意味が無いのだ。
「國重、これを思いっきり投げてみろ。あと、入試のように個性を使わずにやるのは無しだからな。これはお前の個性を図るためのものでもある」
その相澤の言葉にクラスメイトは言葉を失った。いくらなんでもおかしいのだ。彼は首席で雄英に入学している。それも実技試験で圧倒的な結果を残して。
当然彼らは何らかの個性によって首席を勝ち得たと思っていた。だがしかし彼は個性すら使っていなかった。
クラスメイトが唖然とする中、ただ1人の男は怒りでわなわなと震えている。
「おい!!どういうことだ!ゴラァ!?舐めプしてやがったのか!?」
爆豪勝己だ。
ただそう取られても可笑しくは無いだろう。どんな個性でも雄英を目指すのなら最大限自分の力を引き出し、自分をアピールしなければならない。
それを彼は個性すら使わずに成し遂げだ。爆豪にとっては最大限の嫌味だろう。
「おい、黙れ爆豪。それで國重個性は使えるのか?」
『ええ、問題はありません』
この世界で初めて使う。根源から前世の肉体情報を取得し、構築し、第3魔法を使って自分の魂を移す。
驚く程よく馴染む懐かしの体に戻った俺は円の中に立つ。しばらくするとまたクラスメイトの叫び声が聞こえた。
「「「「「「え???」」」」」」
「あれが彼の個性なんですの?」
「どういうことだ?」
「姿がかわった!?」
「イケメンは死ね!」
若干1人おかしい奴がいるがまあいい。自分の限界を知る。正直俺に限界なんて無いし、出す方法も無い。
ただ純粋な最大効率の肉体強化でどこまで行けるのかくらいは知れるはずだ。
全身に魔力を行き渡らせ、身体を補強する。前世で最も使っていた術だ。たかが15年ほど使っていなかったって問題はない。
俺は持ちうる全ての力を使って投げようとして、、、辞めた。
『すいません先生。俺には全力で投げることはできないようです』
「どういうことだ?」
『今俺は身体をデメリットなしで最大まで強化しているんです。その結果俺がこのまま投げたボールは光速を優に超えてしまいます』
「そういう事か。わかった。周りに被害が及ばない範囲で思い切り投げてみろ」
軽く頷き、先程の5割にも満たない力で投げる。目の前の端末には3251mと表示された。
「個性を使用することによって本当の自分の限界を知る」
相澤はクラスメイトを半ば睨みつけるように告げた。
「それがヒーローになる第1歩だ」
「すげぇー!!」
「3.5kmなんて聞いた事ねぇぞ!」
「何それ面白そう!」
面白そうか。無理はないだろう、この間まで中学生だった奴らに急に自覚をもてと言う方が無理だ。ただこの先生はそんなことに配慮してやるほど優しくないだろうがな。
「面白そう、、ね。お前たちはこの3年間そんな心づもりで過ごすのかい?」
やはりな。彼は極端な合理主義、生半可なものが何より嫌いなはずだ。
まぁ前前世の俺に似ているがな。ただ極端に合理性を突き詰めたとして、何か得るものがあるのかと問われればそれはNoと答えるだろうな。
「よし、トータル成績最下位の物は見込みなしとして判断し、除籍処分としよう」
「「「「「はぁぁぁぁぁ!?!?」」」」」
阿鼻叫喚とはまさにこの事だ。真っ直ぐ彼の目を見る。するとその言葉が嘘では無いことが分かった。
これも彼の言う合理主義なのだろうか?いや、これに関しては違うな。経験に基づくかれなりの優しさか。。
そんな訳で、俺たちの3年間が今始まった。
最初に測るのは50m走。しかもこれはただの純粋な身体能力にものを言わせた勝負では無い。自分の個性をよく理解しそして解釈を広げ、あらゆる工夫を凝らして挑むいわばこれまでの集大成なのだ。
個性によって向き不向きがあるとはいえ全力で挑まない訳は無い。
俺はスタート位置に着くと、足を地面にめり込ませる。スタートの合図がした瞬間めり込ませた足で地面を蹴り、一瞬でゴールに着く。
記録 0.87秒。まずまずといった結果だ。今出せる全力とはいえ、ほぼ1位確定なのではないだろうか。
瞬間移動でもすればさらに早くなるだろうが今回は単純な強化による身体能力の計測を俺自身目的としているのでこれで構わない。
次に測るのは立ち幅跳び。これは普通に踏み込んでジャンプするだけだ。記録は45m65cm、まあまあと言ったところだ。
その後も体力測定は進んでいき、総合結果は1位が俺、結構ダントツだったな。ただ、ソフトボール投げと立ち幅跳びは麗日に負けてしまったがまあいいだろう。
そして最下位は緑谷だった。まともに個性を発動させられたのが最後のソフトボール投げくらいだったので仕方がないだろう。
「ちなみに最下位の除籍は嘘な。お前たちのモチベーションを上げる合理的虚偽だよ」
「「「「「「「はぁぁ!?」」」」」」」
「考えたらすぐ分かりますでしょうに、こんな嘘見破れて当然ですわ」
いや、嘘だ。俺は目を見れば言っていることはだいたい嘘か本当かわかる。そして除籍と口にした時の相澤の目は嘘をついていなかった。おそらくこいつは見込みなしと判断した場合問答無用で切り捨てる男だ。
それは彼なりの愛なのか知らないが。
それに、「おい!國重だったっけ?」
『ああ、俺になにか用か??』
「いや、お前の個性すげぇなって思ってよ。ちなみに俺は切島鋭児郎な」
そう切り出してきた彼が握手を求めて来たので素直に応じる。
『國重晶だ。まあな、出来ることが多いだけだ』
「それでもすげぇよ!俺の個性は硬化だからよ、いまいち使いずらいんだよなー」
『硬化か、でも格闘技とか習ってるだろ??』
「わかるのか?」
『ああ、俺も一通りの武術は修めてるしな』
呼吸、歩法、姿勢これらでだいたい相手が何を修めてるのかが分かるのだ。それに俺自身、たくさんの武術を修めてきたしな。
「そんなことまで分かんのかよ!ところでよ國重、お前の個性ってなんなんだ?」
「それ私も聞きたい!」
麗日がそう割り込んできた。それに続いて俺も、私もと続々とこちらに人が集まってくる。
『俺の個性は』