祟りの蛇の観察記録   作:よよぎ

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祟りの黒蛇

 

 

 平安、後に呪術の全世紀と呼ばれる時代。

血を血で洗い、あらゆる命が湯水の様に使われていく。

そんな文字通りの平安とは程遠い、地獄とも形容される

様な気色の悪い時代。

 

数多くの命が、両面宿儺と言う一人の鬼神により貪られ。総力を挙げた討伐隊が結成されるがそれも虚しく壊滅。

 それにより当時の呪術界は深刻な人手不足に陥り、宿儺の噂がより広まった事で呪いが増加。 それによって、さらに死者が増えると言う悪循環が起こった。

 

そんな中、一人の農民が畑仕事に疲れ。休憩しようと近くの岩場に寄ると、1匹の大きな黒蛇がその場におり。

その、見た事もない程巨大な蛇を目にした男は。

思わず後ずさりをし、尻もちを付いても気にも止めず下がり続けて恐れおののいた。

 しかし蛇はその様子を気にも止めず、山を見続け。

そんな様子の蛇に、男はなんとなく話しかけてみた。

追い払われるか、逃げるだろうなと思った男だが。 話を

始めた男がふと隣の蛇を見てみると、なんと蛇は先程よりも男に近づき。言葉が分かるのか?という問いに、答える様にチロチロと舌を出した。

 

それからと言う物の蛇の噂は村中に広がり、神の御使いや神の生まれ変わり等とあらぬ噂が流れ始め。

その後まもなく、蛇が見ていた山の中腹付近に小さな社が建てられ、そこが蛇の住処となった。

 そしてある日、呪術師と名乗る輩が広まった噂の確認と蛇の討伐の為村を訪れた。 もちろん村人はそれに対して反論したが、呪術師はその言葉に聞く耳を持たず、その日の夜に討伐に向かった。

 

その明け方、心配した村人達は山の麓に集まり。

社まで向かおうとしたが。討伐に向かったはずの呪術師が地面に転がり、そのうちの数人は息絶え。村人に運ばれた先で目を覚ました者も発狂し、自殺で命を断った。

 その日を境に蛇は姿を表さなくなり。追加で派遣された呪術師の変死も続いた事で、神の祟りだと信仰していた

村人ですら恐れ慄き、それ以前の様に社には人が寄り付かなくなった。

 

それから幾年の時が経ち、宿儺が呪物となり封印されて間もなくの事。 祟り神として祀られ始めた蛇神の社に一人の人物が住み付き、その光景を見た村人は神を諌めた巫女としてその人物を勝手に崇め始め。供え物が再び格段に増えたと言う。

 

 

 

 

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 山の中腹に位置する少し寂れた社。

辺りでは鳥が囀り、無数の異形がウヨウヨと漂う。

そしてそれが社に近づいた直後。赤黒く染まった縄の様な物が絡み付き、締め付けに耐えきれずに破裂した。

よく見るとその縄は社の中から飛び出しており。異形が破裂すると社の扉が完全に開き、1つの人影が姿を現した。

 

 

「人間と言うのは勝手なものだ。急に私を崇めたと思えば排斥し始め、肉体を抜け出した私を巫女として再び…。

元より私は雄であり雌では無い、勘違い甚だしい。

奴らのせいでここに異形が湧くのも迷惑だ。 異形が麓に

降りぬ様に消しているにも関わらず祟り神扱い……釈然としない。いっその事ここを出て行こうか」

 

こうなった今、もうここに留まる理由もない。 此処よりも落ち着ける場所に行くとしようかな。

 

彼がそう決めて立ち上がった直後、社の前に額の縫い目が特徴的な男が姿を現した。

 

 

「やぁ、噂を聞きつけて来てみたらやっぱり君だったか。

小動物が呪霊となって、生前の信仰と恐れから本当に神に近くなった事で非術師にも見える様になるとはね。

20年前から君に期待してて正解だった。」

 

「………羂索。無駄な話をしに来たなら殺すぞ」

 

羂索。私が生まれてから1年程度が経った頃からの付き合いがあり、他人の体を乗っ取る人でなし。

呪力と術式を持った私に興味を持ち、知識を教えるだけ

教えて消えた、れっきとした屑。

私の勘だが、恐らく元は女だと思う。

 

「おっと勘弁しておくれ、今は戦闘用の体じゃないんだ。それに、君の術式で呪力総量のゴリ押しをされたら戦闘用の体を手に入れたとしても勝てる自信がない。

私も君の術式の全てを知ってる訳じゃないけど、そこが逆に恐ろしいと所でもある。

あと。多分だけど呪霊になった事で、君の術式に少し変化があったんじゃない? 君に関する噂は、全て君が受け皿になってるから。そこら辺で影響を受けてるんじゃないかなと思ってね……」

 

「……………なる程、道理で色々増えてる訳だ。

拡張機能が後付で取り付けられたと言った所か、村人達が想像する祟りを詰め合わせた様な物。その分幅が無駄に

広く、それら全てが生物特攻。

元々の術式範囲に変化が無いのは助かったな」

 

「…へぇ、所でなんだけど。 名前とかは考えたのかな?

名前があった方が呼びやすいんだけど」

 

「名前か……私は特にそう言う物にはこだわりは無いが。

堺津喪ノ神 (サカツモノカミ)………まぁ、今はこれでいい。

勝手に付けられた名だ。これで不自由はないだろう?」

 

「まぁ、それでいいかな……」

 

「話はもういいか? 丁度今からここを出て行く所だったんだ、ここからずっと北に向かう。

………生きてたらまた会うかもな」

 

 それじゃあ、と言いながら彼はその場を使って行き。

残った羂索もため息を付くと彼に続く様にその場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 平安から、ざっくりと千年が経った2003年。

かの蛇が祀られた社は、その倍以上の規模に立て直され。年月が経つごとに神の形は人により変えられ、元とは全く違う形で伝えられていた。

 

そんな神を祀る神社の鳥居に、一人の人影が座り込む。

どこか和服を思わせる軍服を纏い、その艶のある長い黒髪は日の光に当たるもその色を変えずにいる。

彼こそこの社に祀られている、堺津喪ノ神その人である。

 外見こそ1000年前とは変わらないが、唯一の違いは眼帯を付けている事。何の飾りっ気もないただの黒の眼帯だ。

 

彼はこの千年、定期的に人間と契約を交わしながら生きて来た。 それは術師から姿を隠すためでもあり、人間の生活に興味があったからでもある。

 要は肉体譲渡の契約。生きる希望のない者や深刻な傷で長くは生きれない者、そのやり残した事や未練等を果たす代わりに肉体を譲ると言う縛りである。

他にも条件はあるが、大まかにはそんな物。 肉体に取り付く事で記憶の共有が完了し、肉体が術式を所持していれば生得術式の使用も可能になる。

 肉体を抜け出せば、記憶を持ち越した上で肉体の術式の使用は不可能と言う形になるが。上記の縛りに加え特殊な縛りを加えることで例外もあり得る。

現に彼は。その例外によって現在、片目を隠さなければ

いけない状況になっているのである。

 

 

 

 

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「…暇だ。ここらに湧いた呪霊もだいたい祓ったし、都心に行くのも面倒くさいからなぁ。

しかし、仙台に留まるのも詰まらない。あぁ、そう言えば各地に放った眷属から六眼持ちが生まれたと数年前報告があったか。 言われてみれば、呪霊も増えたのもその影響だろうな。 所でいつまで隠れているつもりだ?」

 

 彼が10m程離れた背後の木に向かってそう問いかける。

すると。木陰から一人の女が姿を現し、気味の悪い笑みを浮かべて近づいていく。

 

 

「やぁ、516年ぶりぐらいかな? 元気そうで何より。

あの頃より、だいぶ雰囲気が変わったね」

 

「そう言うお前は雰囲気どころか、側まで代わりやがって相変わらず肉体を入れ替えてるの、かぁ……!?

え、えぇ……はぁ? 嘘だろ!?」

 

「それが嘘じゃないんだなぁ、今妊娠8ヶ月目。

いやぁ、私が妊娠とは………もう笑っちゃうよね。君も

面白いとは思わないかい?」

 

「……思わないな、気色が悪い。元の肉体の持ち主が可哀想に思えてくる程だ。

とりあえず、それで何しに来た?」

 

「もうちょっと早く来る予定だったんだけどね、旦那が

ここに行こうってさ。君は知らないかもしれないけど、君は祟り神と同時に産神としても知られてるんだ。

君。基本的に子供には優しいし、そういった所が影響してるんだろうね。全くもって都合がいい事だ」

 

「それには同意するとして、私はお前の旦那が来ない内に麓のコンビニにでも向かう。私が此処に戻ってくるまでに帰っておけ」

 

 鳥居から飛び降りながらそう言う彼は、気色の悪いものを見る目で女を見つめると足早に山を降りて行った。

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