TS逆行転生者は妹を護りたい。   作:笑石

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34.7話 岬花苗②

 

 周防(スオウ)真守(マモリ)の姉である周防(スオウ)(イサギ)から詰められた時、その時が岬花苗の人生で最も身近に死を感じた瞬間だった。

 

 

 

「病院……?」

「そう。ちょっと知り合いが入院していて、今日はそのお見舞いに行く日なんだ」

 

 その日はなんてことのない普通の日で、真守とも普段と何も変わらない何気ない会話を交わしていた。その日はこれからの真守の予定を、別に花苗から聞き出したわけでもなく自然の流れで話題にしていた。

 

「へぇ、どこの病院?」

「えっと、あの……あそこ、○○病院ってところ」

 

 言われてすぐにはピンとこなかった。この辺りの病院ではなかったのだ。花苗としても特に興味を持てず、ただ何気なく相槌を打った。

 

「じゃあ、今日はこれで」

「またね」

 

 というわけでこれから病院に行く真守とは別れて、花苗自身には用事がなかったためにいつも通り家に帰ろうとした。

 

 その帰り道のことだ。

 

「花苗ちゃん」

 

 ゾワッ、と。後ろから聞き覚えのある声に話しかけられたとき、花苗はまるで全身の毛穴が開くような感覚を覚えた。

 声色は穏やかだが、そこには隠そうともしない……『殺意』と言うべき感情が乗せられている。

 

「潔、さん」

 

 振り返ると、女性にしては大きな体格の周防潔が立っている。同級生と比べれば長身の部類の花苗でさえ、たった一歳の差なのに大人と幼児を並べたが如き印象を持つ。

 

「……花苗ちゃん、あなた──能力者(アウター)みたいだね」

「……それは、こちらのセリフですよ」

 

 周防潔の放つプレッシャーは大人でもたじろぐほどの濃密さだが、花苗は不敵な笑みを浮かべて軽口を返す。

 

「それは、どういう意味かな」

「どういう意味も何も、明らかに傷の治りが早いでしょ」

 

 気付いたのは本当に偶然だったのだが、潔が真守を庇って小さな傷を負った時があったのだ。その場には花苗もいて、傷が瞬きの間に治っていた姿をしっかりと見ていた。その時の真守は気付いていなかったようだが……。

 

(その後、私の(くすり)をコソッと盛った事はバレてないと思ってたけど)

 

 花苗はポーカーフェイスを保ちながら考える。どうしてバレた? 彼女の前で、能力がバレるような行使をしたことはないはず。

 ちなみに花苗が盛ったのは一般人ですら少し体調に違和感を覚える程度の薬効のもので……とはいえ全く影響を感じさせなかった潔はただの人間では無いとその時に確信していた。

 

「……自分も『そう』だから、私の異常さにも気付けた、わけか」

「……まぁ、その通りです。ちなみに、どうやって私を『そう』だと見抜いたんです?」

 

「強い力を持つ能力者(アウター)は、他の能力者(アウター)を見分けることが出来るらしい」

 

 潔からのその言葉に、花苗は初めて表情を崩した。目を見開き、口を半開きにして──すぐにまた元の表情に戻す。

 

「潔さんではない、『強力な能力者』がいるんですね」

「単刀直入に聞く、真守ちゃんになぜ近づいた」

 

 殺意が増す。潔が聞きたいのはそれか、と花苗は納得した。まぁそうだろうとは当たりが付いていたが。

 

「友達だからですよ、それ以外に理由はありません。私が力に目覚めたのも、真守ちゃんと仲良くなってからです」

 

 これは、事実だ。花苗は本気で真守の事を友人だと考えている。実際に能力に目覚めた時点で仲が良かったかどうかは、捉え方次第と言えるが。

 

「そっか……」

 

 ポツリと、僅かに殺意を緩めた潔が少し俯き短い返事。少し落ち着いたのだろうか? と、花苗は少しホッとする。

 

「真守ちゃんには、どこか不思議な『縁』があるみたいだ」

 

 だが、続けて口にしたその言葉には、どこか不穏な気配が滲み出る。

 

「花苗ちゃん、私は貴方の『目』を不審に感じている」

 

 ボッ! 

 それはまるで弾丸だ。人間とは思えない速度で花苗に向けて伸ばされた腕は、しかし何も掴めず空を切る。何故なら花苗がそれを躱したからだ。

 身を低くして潔から距離を取る花苗は、咄嗟に指を針と化して引っ掻いた潔の腕をジッと見る。

 

 些細な引っ掻き傷だが、まるで蜃気楼だったのかと疑うほど跡形もなく消えていく。その時、急にふらりと潔の身体がよろめいた。

 ダン! しかし、地面を強く踏み締めた潔は何かを振り払うように頭を振り、何事もなかったかのような顔で花苗をジロリと睨み付ける。

 

「それが、花苗ちゃんの能力か……」

「試したことはありませんが、大の大人が一瞬で昏倒するような私の力を……」

 

 互いに警戒し、相手の動向を見逃さないように睨み合う。突然襲いかかってきた事に疑問を感じた花苗は、頭の中で言葉を整理しながら、なるべく刺激しないように口を開く。

 

「潔さん、私は貴方に怒られるような真似をした覚えがありませんが」

「いまはね」

「……私は真守ちゃんを害する様な真似をしませんよ」

「……たまに怪しい目をしている」

「……いや、ええ? それで、あの、ええ?」

 

 潔がたったそれだけの理由であれほどの殺意を向けてきたことに戸惑いを隠せず、花苗は一体どうしたものかと頭を悩ませる。

 

「私がどんな目を、真守ちゃんに向けているかはわかりませんが、それを言うと潔さんだって大差ないでしょう? 一つ下の妹に向ける目じゃありませんよ。真守ちゃんは幼児じゃない」

「うぐっ……」

 

 潔の真守に対する庇護欲の強さは異常だった。それは潔と真守が共にいるところを見ている花苗の目から見た感想だ。

 潔がそうなったのも花苗自身が真守の事を気にするきっかけになったあの『事件』の事が原因だろう、とわかっていながらも過剰な庇護欲を責め立てる。

 

「とても健全な姉妹とは思えませんね。例えば真守ちゃんが自ら望んで習っていた格闘技クラブ、あれ……潔さんが余計な介入して辞めさせてますよね。私が真守ちゃんから聞いた話だけでも、なんとなく想像がつきますよ」

 

 真守が複数の格闘技を習っている頃、それぞれ大体数ヶ月ほどで辞める羽目になった理由を聞いた事がある。

 親に反対されたならともかく、「クラブ内でいざこざがあった」とか「潔と誰かが喧嘩して姉妹揃って居づらくなった」とか「人間関係が」とか、様々な理由を聞いているうちに、特に気にしている様子のない真守の話からですら、チラチラと潔の影が見え隠れするのだ。

 ということでカマをかける、という体をとった。

 

 花苗は陰から真守が格闘技の練習をしている所を覗いていたり、真守と同じクラブに通っている人に話を聞いたりして、潔の暗躍を確信しているのだ。

 

「っぐ! あれは……真守ちゃんには危ないし、それにいじめようとしたりする馬鹿どもがいたり……」

「真守ちゃんのことを信用してないんですか?」

「そんなことは──!」

 

 一瞬で怒りを露わにし、潔はズイッと近付いてくる。花苗は冷静を装いつつも背中に流れた冷たいものを自覚しながら、いつでも対処できる様に臨戦態勢をとった。

 しかし、言葉が途中で出てこなくなった潔は風船が萎む様にその身から溢れていた殺意を霧散させ、少し俯く。花苗がその様子を訝しげに見つめていると、ポツリと語り出す。

 

「花苗ちゃんも知っているはずだ、真守ちゃんは……真守は、いつ死んでもおかしくなかった」

 

 ギュッと、自分の身体を抱く様に縮こませた潔は普段よりも一回り小さく見える。

 

「信用か……してない、のかもしれない。でも、私は家族として、たった一人の真守の姉として、あの子を護らなきゃ……私が、私が護らないと……でも、真守の邪魔をしたいわけじゃ、ない」

 

 思ったよりも効いたな。花苗は口角が上がりそうになるのを抑える。

 

「潔さん、私はただ不思議な力を持つ、真守ちゃんの友達ですよ。そりゃぁ、真守ちゃんの能力者に対する執念を見たことがある私としては、この能力のことは隠しておきたいですけど」

「なんで真守ちゃんが能力者(アウター)に異常な執着してることを知ってんの?」

 

 口が滑ったな。花苗は一瞬固まる。

 

「……炎を操る能力者(アウター)。私は真守ちゃんが彼と戦う姿を見ています。そして、戦う前に警察の方と共にいた真守ちゃんはその能力者と会話してたんです。異様な雰囲気だったので話しかけることもできず、近くで聞き耳を立てていたことは……確かに怪しいかもしれませんが」

 

 潔は炎の能力者(アウター)こと神楽アツキと真守がどの様な経緯で戦うことになったのかを知らない。それを察していた花苗はその時のことをカードとして提示した。しかもこれに関しては全て事実だ。

 

「その私が自身の能力について隠すことは、おかしくないでしょう? だって真守ちゃん、能力者(アウター)に対してすごい殺意を見せるんですよ。さっきまでの潔さんみたいに」

「……花苗ちゃんは、真守ちゃんの味方だと思っていいの?」

 

 花苗は笑顔で即答する。

 

「はい」

 

 その言葉に偽りはない。

 ジッと目を見つめて、潔は諦めた様なため息を吐いた。

 

「ごめん、少し頭に血が昇っていた。悪かったよ……でももし真守ちゃんを害する様なことがあれば、私は花苗ちゃんだろうと全力で排除するから」

「いいですよ。姉妹揃って元からそういうところがあると分かっていましたから」

「……ごめん」

 

 潔も、花苗との付き合いは短くない。真守が唯一ともいっていい心を許している同級生の友達で、よく遊びに来る。潔も花苗とは顔を合わせる機会が多く、良い子であることはよくわかっていた。

 人を害する能力者(アウター)というものは、自身の力を使うことに執着する。だが、花苗に至っては天子(テンコ)が見抜くまで潔には気付けないくらい、自制心がある能力者(アウター)なのだ。

 

 少なくとも、現状は真守を傷つけるような真似をしないだろうと判断し、しかしいつでもそれが可能な力を持っている相手だということを潔はしっかりと頭に入れる。

 一方花苗は、潔からの敵対心が随分と緩んだことを見抜き内心でほくそ笑み、姉妹揃って感情に振り回されやすいのが短所でもあり、可愛い所であるなぁと真顔で考える。

 

 ふと、キョロキョロと周囲を確認し始めた潔に花苗が疑問を覚えていると、潔はこんな質問をしてきた。

 

「そういえば、今日真守ちゃんは?」

「? 知り合いのお見舞い? に行くとか、○○病院に」

 

 花苗の言葉に、一瞬固まり何かを考え込む潔。

 

『そういえばさ! 今日、不動は間壁と『あの能力者』の入院してる病院に行ってるから、もしそこで真守ちゃん見たら伝えてとは言ってあるよ』

 

 脳裏に浮かぶのは、花苗の元に来る直前まで詰めていた相手である樹々透の言葉だ。天子の『予知』では確か、真守が不動と『脅威』に相対する、と。

 

 嫌な予感に、徐々に顔を青ざめさせる潔。突然妙な反応をする彼女に流石の花苗も予想が付かず困惑していると、潔はポケットからスマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。

 

「ど、どうしたんです?」

「や、ヤバいかもしれない。偶然とは、思えない」

 

 一体なんの話なのか。花苗は要領を得ない潔の言葉に疑問が深まるが、まさかその後彼女と共にとある病院に向かい、能力者犯罪史上最大の事件を見ることになるとは───。

 

 

 *

 

 

 なんやかんやがあって、潔が能力者であることが真守にバレた。すると潔は花苗に対して「花苗ちゃんの力はまだ黙っていてほしい。けど真守ちゃんのことはしっかり見ておいてほしい」と口酸っぱく言われる様になった。

 信用されているのか? それとも試されているのかもしれない。とはいえ中々面倒な性格をしているなぁと花苗はぼんやりと思う。

 

 そして迎えたのは、修学旅行だ。前日からスマホにメッセージで『逐一報告』『真守ちゃんは連絡ズボラ』『写真撮って』だのと何度も送られてくる。流石に辟易としながらも、あの時病院で見た化物染みた能力者(アウター)である潔にはなるべく敵視されたくないため、仕方なく言う通りにすることにした。

 

「一緒に写真? いいよ」

 

 ニコッと、昔に比べて心の底から明るい笑顔を見せてくれる様になった真守に、花苗も自然と笑顔が浮かぶ。

 観光名所で同じ班の男子にツーショットを撮らせ、それを潔に送る。写真の出来栄えは上々だ。仲良し女子、って感じがビンビン出ている。

 真守以外とはあまりソリが合わない花苗にしても、真守くらいとしか本気で笑えない。と本人は考えているが、本人が周りに興味がなくその姿が取っ付きづらくて敬遠されているだけである。

 

『真守ちゃん楽しそう』

『てかやっぱり真守ちゃんは細かく送ってくれない』

『その男子距離近くない??』

『やらしい目で真守ちゃんのこと見てる、絶対触らせるなよ』

 

 たまに班全員と撮った写真を送れば、密着している男子に対しての言及がすごい。面白くなってきて、油断した真守の男子との距離が近い姿を数枚撮って潔に送っておいた。

 

 

 そんな風に自分でも思っていた以上に修学旅行を楽しんでいる。そして自由行動の時、真守の知り合いと会った時はその相手の容姿を見て思わず眉を顰めてしまった。

 

 正弦、という男性だ。花苗からすれば大人と言える歳上で、真守からは「最近、居合術みたいなの習ってて。そこで教えてくれる人、結構イケメンなんだけど変人なんだよね」と聞いていた人なのですぐピンときた。

 

 真守の口から、「イケメン」という言葉が出てきた時は驚いたものだ。何故ならそういう色恋系統の話に真守は基本乗らない。最近は花苗とばかりいて、花苗もそういう話題を出さないのだが……昔、真守が他の女子に色恋話を持ちかけられて困っていた様子はよく覚えている。

 それに同級生から何度か告白も受けているはずだが、断ってはいるものの……そもそも恋愛というものに未だピンときていない様な様子を感じられた。

 

 そんな真守の口から、「イケメン」と。

 確かに見ている限り同級生には興味がなさそうだし、もしや歳上好きだったのか? と花苗は考察していたのだが……実物と会って、確かにイケメンであるとは思った。真守の好みなのだろうか……そこまで考えて、花苗は眉を顰めたのだ。

 何故ならば───

 

(ちょっと、清潔感がありすぎるな)

 

 服装については何故か着流しなので無視するとして、正弦の容姿は清潔感のあるシュッとしたイケメンだ。

 花苗としてはそれがあまり面白くなかった。

 

 なんというかこう……もっと……。

 

(たとえば国語の重中先生みたいな小太りで清潔感のないような……)

 

 まさに中年体型、というべき身体を持つ国語教師を思い浮かべる。無精髭もあって、髪や肌が脂感の強い彼だ。真守と『合わせる』なら彼の様な少し小汚い感じの方が、花苗的には───。

 

(いや、体育の近藤先生もありだな)

 

 体育教師は、骨太の筋肉質の顔が濃いめの男臭い男性だ。体は大きく、真守ではとてもではないが力で敵わないだろう。つまりもし襲われて押さえつけられたなら為す術もない。

 

 

 と、花苗的な真守との組み合わせとして、正弦は少々小綺麗にすぎる。少々面白くない。とそこまで考えて現実に戻ってきた。これはいけない、真守に不審に思われただろうか? と確認してみるが、仲良く正弦と話をしていて特に気にしている様子はなさそうだ。考え事をしながら適当に返事をしていたことはバレていない様だな……。

 

 

 その後、真守が店を出るというので特に異論はなく一緒に店を出た。その際に正弦の大学の教授だという人から渡されたお土産物を真守が手にしていたので、持とうか? と話しかけようとした。

 すると、彼女は何かに気付いて明後日の方向へ素早く移動してしまった。花苗は疑問に思いつつその後を追い───

 

 

 一瞬、目を疑った。

 

 黒い服装の少女だ。

 浮世離れした、現実味の無い人型。真守の側に立つ彼女は、花苗の目をして『異常』だった。

 

能力者(アウター)……っ? いや、これは──)

 

 黒い少女もまた、まるで奈落に引き摺り込まれそうな瞳で花苗を睨んでいる。永遠にも感じる一瞬、花苗の背に、潔の時とは比べ物にならない冷や汗が流れる。

 

 気付かれたという、確信があった。

 

 潔が言っていた。『強力』な能力者(アウター)は、同じ能力者(アウター)を見分けることができる、と。

 

 花苗は病院での潔の戦いを見ている。その時に思ったことがあった。

 

 あれほどの力を持つ潔ですら、能力者を見分けることが出来ない。だとすれば彼女よりも『強力』な能力者(アウター)というものは一体───。

 

 その答えが、今目の前に、あった。

 

 

 黒い少女の口が僅かに動く。三つ、言葉を紡いで花苗から目線を逸らし人混みに消えていく。

 

 ドッ、と。緊張から解放されて心臓が高鳴る。呼吸まで荒くなりそうだが、真守に何かを勘付かれるのが嫌で必死に平静を保つ。

 

 その日は一日、頭のどこか片隅から彼女の姿が離れなかった。

 

 恐怖。

 潔に威圧され死を身近に感じた時ですら、神楽アツキと対峙した時ですら花苗は感じなかったその感情。

 

 あれは、『違う』。

 

 できれば関わり合いに二度となりたくは無いが、花苗の女の勘は叫んでいる。

 それは不可能だと。

 

 

 *

 

 

 夜。入浴時間。

 花苗は思わず見惚れてしまっていた。

 

 まず、胸からお腹にかけて白い肌に赤紫の炎のようなアザ。痛々しくもあり、しかし花苗からすれば色っぽくもある。昔見た時よりもアザの色は薄くなっており、輪郭も肌に馴染んできた様に見えた。

 

 それと潔の妹とは思えない小柄な骨格、しかしそれなりに鍛えていることが窺える弛みのない身体、芯の通った姿勢。

 色素薄めの茶髪は淡さと重厚さを兼ね備えた上質な絹とすら比べ物にならない美しさだ。肌と髪を育てたのは花苗の様なものなので、自らの良い仕事を今この場で褒め称えそうになった。

 

 更に周りの同級生女子からの視線を集める胸部。下手をすればもう越えることができない同性も多くいるだろう小学生にしては大きなサイズに、年齢相応の張りと形の良さは、自らの美貌に自覚のある花苗としても敗北を認めざるを得なかった。

 視線を落として自分の胸を見る。まだ発展途上である。

 

「あ、あんまり見られるとさ……」

 

 普段は周囲からの視線に疎い真守も(花苗へのものだと勘違いしている)、流石に裸への視線は気付くらしい。意識の問題かもしれないが。

 サッと、胸からお腹にかけてをタオルで隠す様にする真守。そこには、花苗がまず最初に見つめていた昔の大怪我の影響によるアザがある。

 内心では、小さめの身体と綺麗な肌にその赤紫はとても映えるのに……と思いながら、口では思ってもいないことを言う。

 

「あ、ごめんね。でも、気にならないよ。薄くなってきたんじゃない?」

「そうかなぁ、まぁしょうがないかなって思ってるんだけど」

 

 全く気にしない、というのも小学生女子の感性としてはおかしいだろう。なので真守から見れば、気になってはしまうが気にしていない素振りをする花苗……に見える様に演じる。

 別に可哀想ともなんとも思っていないが、同情している様な雰囲気も出しておく、それの方が自然だろう。しかし普通の連中よりは同情は薄く、ましてや嫌悪感など一切見せないのは徹底する。嫌悪感に関しては演技すら難しいが。

 

「いやほんと……綺麗だよ……」

 

 思わずアザに向けて手を伸ばしてしまい、肌に触れる。そして本音が漏れた。ヤベッ、と思って花苗が顔を上げると、珍しく頬を赤らめて照れる真守の姿があり、胸がキュンと絞られる様な感覚。

 

「か、花苗ほどじゃないよ……」

 

 照れ隠しに、謙遜の様で他の女子に聞かれれば嫌味かと取られそうな事を口にする真守。まぁ、とはいえ花苗自身も先程述べた様に自らの美貌には自覚があり、肌は言わずもがな真守ほどの胸はないとはいえ、プロポーションの方も抜群だという自負がある。

 

「そーお? って、そろそろやめておこっか。もし他の女子に聞かれたら、ね」

 

 しかしここでこのまま真守と互いを褒め合ってもいいが、あまり容姿自慢を続けてそれを他の女子に聞かれれば疎まれる事は間違いない。

 それに風呂の時間も有限である。その後は特筆すべきイベントはなく、ロビーで真守とのんびりした後に同室の女子と遭遇した時は、真守の後ろめたそうな珍しい反応を見れて少し楽しかった。

 

 

 深夜。真守は寝ているのだが、なにやら不安そうな顔でずっと唸っているものだから花苗は彼女を布団から引き寄せてぎゅっと抱いてみる。

 すると幼児が親に抱きしめられたときの様にホッとした顔を浮かべるので、一度引き離してみると徐々にまた不安そうな表情を浮かべだす。

 面白くなって何度か繰り返していると、突然真守の方がギュッと抱きしめてきた。それなりに強い力のため振り解けず、しかしどこか必死なその姿に胸がキュンとした花苗はそのまま寝た。

 

 

 

『────で、死傷者も出ており──軽傷者が一名、現場には人間の手が──身元の確認を──』

 

 そして朝、スマホ片手にテレビのニュース画面を見つめて呆然とする真守がいた。どうしたのだろうと話しかけようとして、その顔がどんどん青ざめていくことに気付く。

 ニュースの内容を聞き、脳裏に昨日出会った正弦や同じ大学の友達、そしてお土産をくれた教授さんのことを思い出す。

 きっと、真守も同じことを想像したのだろうことはその顔を見れば分かる。花苗はちょっとゾクっとした。

 

 






最後の方はなるべく端折りました。
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