TS逆行転生者は妹を護りたい。   作:笑石

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四十一話 黒花の能力者

 

黒木(クロキ)

 

 待ち合わせ場所についた正弦がそう声をかけて、振り返ったのは黒い髪の化粧気の少ない女性だった。

 中肉中背で、顔つきや服装から大人しそう、という印象を受ける。そんな彼女を、正弦は『黒い花の能力者(アウター)』ではないかと疑っているらしい。

 

「こんにちは、雨宮くん。そちらの人達は……?」

 

 俺の家で紅子への協力を取り付けた正弦はいうが早いか、『黒木(クロキ)』という女性に連絡をとり近所の喫茶店で待ち合わせた。

 黒木からすれば正弦に呼び出され、来たのは彼自身だけではなく知らない女と子供……優しげな瞳に警戒心が宿るのも仕方がないと言えた。

 

「こんにちは、黒木(クロキ)深紅(ミク)さん。私はこういうものです。この子は、美南(ミナミ)佳奈(カナ)さんの件の、関係者みたいなものでして」

「今日はよろしくお願いします」

 

 紅子が警察手帳を取り出して黒木に見せ、その流れで紹介された俺は礼儀正しくを意識してぺこりと頭を下げ笑顔を見せる。警戒心を解くためだ。

 しかし、納得はしつつもどこか警戒を続けていそうな雰囲気のまま、俺達は席について話し始める。口火を切ったのは正弦だ。

 

「黒木、お前はずっと美南の事件の真相を知りたいと言っていたな。この刑事さんは、あの事件の時に俺と美南の担当をしてくれた人だ」

 

 ぴくりと、黒木の眉が僅かに反応した。目が少し大きくなり、向かいに座る紅子に向けて少し身を乗り出した。

 

佳奈(カナ)は、本当に何も『されていない』んですか?」

 

 その質問は、少し妙だった。彼女は正弦が守ったために外傷がない。それなのに……『されていない』のか? などと言う言葉が出てくるとは。

 

「黒木、単刀直入に聞く……。お前は、自らが異能の持ち主であるが故に、美南も何かしらの異能を受けて正気を失っていると考えているのではないか?」

 

 正弦が言っていたのは、これか。俺は納得した。彼が彼女と交わした会話をまだ詳しくは聞いていないが、何やら引っかかる物言いだったのだという。

 

「異能……?」

 

 さらに顔を険しくして、黒木は言葉を反芻した。何かを考えている。

 

「美南さんは何もされていない。確かに彼女は能力者(アウター)と呼ばれる超常の力を操る者が殺人を犯した現場に居合わせたが……雨宮くんが身を挺して庇い、傷一つなかったよ。凄惨な現場を見た、心の傷以外はね」

 

 紅子が捲し立てるように言い、反応を待つ。目を伏せて、黒木は押し黙った。しかしどこかホッとしたような顔をしている。

 

「超常の、力」

 

 ボソリと言って、黒木は顔を上げた。正弦を見て、キッと眼光鋭く睨みつける。

 

「雨宮くん、私がその異能の力の持ち主だとして、これは一体どういうつもりなの?」

「どういうつもりもなにもない、ただ確認をしにきただけだ。お前が黒い花を生み出す能力者(アウター)か?」

 

 

「そうよ」

 

 黒木が答え、俺と正弦はチラリと紅子を見る。すると紅子は無言で頷いた。この反応を見るに、おそらく今の言葉は真実なのだろう。

 だとすれば次に気になるのは、なぜその黒い花をばら撒いたのか、という点だ。今回黒い花の力でいくつかの事件が起きている。俺達としては、そこをはっきりさせておかないといけない。

 

「あの、黒木さん。私の学校に貴方と正弦さんと同じ大学に通う姉を持つ友達が居て、その友達が私の学校に黒い花を持ち込んだんです」

「へぇ」

 

 俺の言葉に短くそう返してくる黒木。目を丸くしているあたり、認識していたわけではなさそうだ。

 

「黒い花の行き先について、君は関与していない……ということか?」

 

 続け様に紅子が聞くと、黒木は自身の顎に手を置いて一瞬考え込む。

 

「……そう、ですね。『アレ』は勝手に栄養を求めてどこかへ行きますし」

 

 ところで、と黒木は続ける。

 

「あの、これはなんですか? 私に何を聞きたいんです?」

 

 どこか苛立った様子の彼女に俺は少しムッとした。既に、今の会話であの黒い花は彼女の管理下から離れたところで活動するタイプの能力であることは察しがついていた。

 しかし、自分の能力のツケは自分で払うべきだ。俺が見たのはあの男子中学生の件だけだが、あの件でも怪我人は俺含めて数人……俺以外は病院送りのひどいものだ。

 

「黒木さん、貴方の『花』のせいで、何人も大怪我して入院しているんです。私達は、貴方に『悪意』があるのかどうかを確認しにきたんですよ」

 

 自分の声に僅かに怒りが滲んだ。最近は落ち着いていたが、未だ他人に害を為す『能力者(アウター)』への怒りは俺の中に燻っている。

 

「もし、これからも貴方がその能力を悪用すると言うのなら……私は、貴方をタダで済ませるつもりはない」

「真守、やめろ」

 

 紅子が呆れたような声で静止してくるので、身を乗り出しそうになって若干お尻が浮いていたのを座らせる。ふぅっとため息を吐いて、少し自責。

 

「……私は、私の力が何を起こしたのかを知りません。ですが、私の力がどのような者にどのような作用をもたらすかは察しがついているつもりでした」

 

 俺の怒りを身に受けて僅かに驚いた顔をした黒木だったが、すぐに毅然とした態度で彼女はそう言った。

 

「私の力を使い、きっと『願い』を叶えたんでしょう。それはその者の望んだこと……そうして得た力を、私は求めている。なので確かに私にも責任の一端はあるでしょう」

 

 求めている……? 

 俺は彼女の言葉の中に、引っかかった部分があった。だが彼女の言葉は止まらないため、口は挟めない。

 

「なので、教えて下さい。私の『力』は、いったい何をしでかしたんですか?」

 

 

 *

 

 

「……なるほど、『増幅された欲望はコントロールを失う』んですね」

 

 困った顔で、注文した紅茶を啜りながら黒木はため息を吐いた。その様子を見ていると、どうやら本当に悪意を持って『能力』を使っていたわけではないらしいことが察せられる。

 

「鈴木さん、俺は真守からオリジン能力者(アウター)は自らの能力を発現した時から理解していると聞いていますが、黒木の場合はどうなるんですか?」

「能力の使い方は分かっても使った結果までは分からない、と考えた方がいいんじゃないですか?」

 

 正弦に対する俺の説明が悪かったのかもしれないと思い、口を挟んで補足する。一方、紅子の能力は個人で完結するタイプの能力の為、正弦の質問への答えは持っていないのか少し困った顔をしていた。

 

「その口振りだと、鈴木さん……? も、私と同じだと言うことですか?」

 

 黒木はこちらに随分と友好的だった。故に俺も紅子のことを隠さなくてもいいのではないかと思っていたが……正弦もそう思っていたのか彼はとっくに隠そうという気が見えない口振りになっていた。

 察しのいい人ならすぐに気づいてしまうだろうとは思ったが、黒木はどうやらその類らしい。

 

「あの、気分を悪くされたら申し訳ないんですけど。紅子さんは『嘘を見抜く』力を持っています」

「───嘘、を。なるほどね、雨宮くんが随分と直球で質問をしてくるのは何故だろうとは思っていたけど、まさかそんな反則的な手段を用意していたとはね」

 

 反則的かぁ……。と紅子が小さく呟くのが聞こえる。まぁ……《ネクスト》の連中のもつ派手な『能力』と比べると、紅子の能力は地味だものな。だがこと人間社会においては、圧倒的に『反則的』なのが紅子の力だ。

 

 

「私の力は願いを元に、その願いを叶えるための『力』を与えるもの。そしてその『力』はいずれ私に帰ってくる。佳奈がただ、辛い記憶でああなっているのなら……記憶を消す事を求めた『花』を作ればいいわけね」

 

 こちらが能力の開示をしたからなのか、もしくは別の意図があるのか黒木は淡々と語り始めた。

 俺はそこで、気になっていた事を聞く事にする。彼女の話した内容から立てた推測だ。

 

「その、『花』が帰ってくるというのは……『叶えた力』が貴方のものになるということですか?」

「そう。お嬢さんが見た、『怪力の花』……いえ、『種』を使えばね」

 

 ……すごい能力だ。

 (マモル)の時には聞いたこともない、成長性を考えるとかなり強力な部類の能力だろう。欠点としては他人の『願い』に依存するところだが、だからこそ黒木は『黒い花』をいくつも流通させたのだろう。

 

「そ、それには回数というか、個数の制限はあるんですか? 帰ってきた『花』は全て黒木さんの力に?」

「落ち着け真守」

 

 今度は正弦に呆れたような声で止められた。俺も少し熱くなっていた自覚はあるので、自制。だが、黒木を味方につけてこの能力を上手く使えば、『俺だって』もう少し役に立つかもしれないと、脳裏によぎってしまったのだ。だから能力の詳しい情報を聞き出そうとしてしまった。

 

「黒木。『種』と……わざわざ言い換えたな。力の譲渡、その対象はお前だけなのか?」

 

 ずっと真剣な顔をしていた正弦が、腕を組みそんなことを口にした。黒木は正弦を一度見て、チラリと紅子を見る。

 

「……聞いてどうするの?」

「もし俺にも使えるなら『怪力』を寄越せ。そしてそんなことよりも、お前はこれから気を付けて生きなければならない」

 

 いったい何を言い出したんだ? という空気が流れた。しかし正弦は真剣だ。俺もそのあたりでようやく彼の言いたいことを察した。

 ガッ、と正弦は俺の頭を鷲掴みにする。

 

「コイツが戦う能力者(アウター)の集団は、はっきり言えばかなり凶悪な犯罪者集団なんだが……その中には『洗脳能力者』もいてな、お前の力が申告通りだとすれば、狙われる可能性が大いにあると思われる」

 

 そういうことだ。

 たとえ黒木がどんなに正義感溢れた人間だろうと───サトウの『能力』にかかれば、根っこから別の人間にだって変えられる。そんな能力者(アウター)も、(マモル)の時には多く見た。

 

「その、そいつらは《ネクスト》って呼ばれるテロリスト集団なんですけど、今までに起こした事件といえば───」

 

 分かりやすいニュースにもなった大きな事件のことを黒木に伝える。それこそ、美南と正弦が巻き込まれた事件もそうだ。基本的に落ち着いた表情だった黒木も、《ネクスト》が美南を襲った能力者(アウター)だと知って、見るからに瞳に怒りを宿していた。

 

「私自身でも調べて、違和感からほぼほぼ私と同じ『異能』を持った者が雨宮くんや佳奈を襲ったのだろうとあたりはつけていました」

 

 故に、正弦に対して探りを入れていたのだろう。自身の『黒い花』を探していたなら尚更、常識では測れない超常が絡んでいたのだと。

 正弦の口から、どんな能力者が自分達を襲ったのかという説明がされる。それを聞いて、黒木は複雑な表情を浮かべる。

 

「……そんな状況の中、佳奈を助けてくれてありがとう、雨宮くん。亡くなった方もいるのに、おかしいかもしれないけど」

 

 気持ちはわかる。

 それほど、黒木にとって美南は大事な人なのだろう。

 

「親友なのよ、幼馴染で……あれだけ明るかったあの子が、あの姿は、見ていられない」

 

 

 

 その後、俺達から《ネクスト》の情報を渡した。もし奴らを見かけるようなことがあれば、正弦か紅子に連絡をし、自らはすぐに逃げることを言い聞かせる。

 

 最近はあいつら(ネクスト)の動きがない。だから黒木のことを奴らが観測しているのかも、そもそも仲間に引き入れようとするかもわからない。

 

「私は、別にその《ネクスト》って人達と敵対する理由がないから、もちろん逃げるわ。佳奈も、狙われるようなことはないのでしょう?」

「おそらくは。顔を見られたから口封じ……なんて考えるならとっくに行動を起こしているはずですし」

 

 美南は放置しても《ネクスト》にとってなんの問題もない存在だ。だからおそらくとは言いつつも、そこは大丈夫だろうと俺は思っている。

 

「特に銀髪の男は、呼吸をするように人を殺すし、触れられたら終わりだから本当に近付かない方がいい」

 

 紅子が念押しをしている。

 でも陶芸師(ポッター)の話が出てきて思ったけど、あいつのせいで外見の情報が当てにならないんだよな……体格までは、変えないと思うのだが……人相が変わるだけで個人の判別は難しい。

 

「まぁ怪しい奴がいたら俺に言え。斬ってやる」

 

 ふっ、と鼻を鳴らす正弦に「きる?」と、黒木は首を傾げる。この人はやっぱり大学でも変人扱いなのだろうか? 俺はぼんやりそんなことを考えた。

 

 

 

 






TIPS
真守ちゃんが性的な事に興味を持ち始めるような短編を書きたいが、ただでさえ亀進行な本編真っ只中に作者はちょっと躊躇っているらしい
そもそも真守ちゃんにはまだそんな余裕がない
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