アルセウスは邪神である   作:転音

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ワイルドエリアと出会い

 

 ホップが競争を仕掛けてこなかった。

 

 私は遊園地に遊びに来た子供の様にはしゃぎながら前をいく彼の背中を見ながら考える。

 

 記憶が正しければ、マグノリア博士の家から駅に向かうまでの道中で、より多くの種類のポケモンを捕まえた方が勝ち!みたいなイベントがあったと思う……けどまあ、現実でいきなりそんなに手持ちが増えたらお世話が大変だし、当然のことではあるけれど。

 

 その一方で、ウール―によって電車が止まり、ワイルドエリアを通ることになるのはそのまま起こった。ソニアが追いかけてきてポケモンボックスをくれるのもその通りになった。ストーリーの大筋自体がずれることはなさそうだ。

 

 というわけで、現在私はワイルドエリアをエンジンシティ目指して歩いてるところだ。運よく、天気は晴れで、比較的優しい環境と言える。

 

 ついつい、どんなポケモンと出会えるのか。まだ見ぬ世界へ飛び出していきたい気持ちにかられるが……

 

 ゲームと違って開会式が行われる日は決まっているし、ワイルドエリアの天気なんて山の天気よりも信用ならないので、さっさと抜けてしまうべきだろう。開会式に遅刻なんてしてしまっては、せっかくの推薦状もただの紙切れ。チャンピオンの推薦だからと言って、特別扱いは期待しないほうがいい。

 

 ホップもそこは分かっているのか、目を輝かせながらもさほど寄り道はせずにエンジンシティへ向かっている。ポケモンの巣穴に飛び込んだりもしていない。

 

 ……というか、ここでもホップが先行していたと思うのだけど、なんで仲良く一緒に歩いてるんだろう。ゲームでのホップは子供らしい短慮無謀が目立っていたと思うし、現実でもそういう面はあった。手持ちのポケモンも居ないのに草むらに飛び込もうとしたときには肝を冷やした覚えがある。

 

「……リ。…ウリ!」

 

 素直ないい子でもあるので、もしかしたらワイルドエリアでは一緒に行動するよう、ホップのお母さんから言われたのかもしれない。けど、私は学校ではそういう風に習った覚えはない。まあ、不都合があるわけでもないし、私も安心できるので良いか。ストーリーが微妙に違うのは気になるけど。

 

「ユウリ!!」

「っわ!?な、なに?どうかした?」

「どうかしたじゃないぞ。ワイルドエリアは危ないんだぞ。ボーっとしてたらケガするんだぞ」

「ご、ごめんごめん」

 

 いっちょ前にこちらを指さしながら注意してくるホップ。……指差すのはダメだと思うけど、それ以上に私は感動していた。

 

「……成長したねぇ」

「どういう意味!?同い年だぞ!」

 

 精神年齢的に、母親目線になってしまうのは許してほしい。

 

 その後はしっかりと周囲に気を配りつつ、ワイルドエリアを北へと歩き続けた。最初はお互いに冗談を飛ばしあいながらにぎやかに歩いていたのだが、照り付ける陽射しと比較的平坦とはいえ舗装されていない道にどんどん体力を奪われていき、気が付けば無言でひたすら歩いていた。

 

 いや、滅茶苦茶きつい。肉体的にも当然厳しいし、自然豊かだが代わり映えのしない景色も精神的にしんどい。体力もちゃんとつけてきたはずだけど、それでも10歳の女の子。時には大人もてこずるワイルドエリアは子供の身にはより一層大きな壁となる。

 

 前を歩くホップも、前まではこっちを叱咤激励していたというのに今となっては無言だ。私より……というか、同級生の中でも体力がある方であろうホップがこうなのだから、子供には厳しすぎると言わざるを得ない。

 

 ダンデさん、どうやってワイルドエリアを突破したんだろうか。同じ10歳で、私たちとは違い方向音痴という強烈なデバフがある中抜けられるとは思えないですが。リザードン(当時はヒトカゲ?)の苦労が目に浮かぶようである。

 

 スマホロトムのタイマーがなった。ホップに声をかけ、小休止。疲労についてはもちろんのこと、熱中症なども気を付けないといけない。しっかり一定時間ごとに休憩をとることにしている。

 

 水筒のぬるい水が喉を通り過ぎる。潤った感覚はない。むしろもっと飲みたい。しかし水ばかり飲んでも良くないので、塩飴を口に放り込む。かみ砕きながら、水を冷却タオルにかけ、首に巻く。これだけでもずいぶん快適になる。

 

 一応時間を確認する。午後3時だ。普通ならそろそろ暑さが和らいでくる時間……いや、そもそも普通なら4月のガラルはこんなに暑くないんだけど。その辺はワイルドエリアだからと納得するしかない。

 

 ブラッシータウンの駅から電車に乗って、ワイルドエリア前の駅についたのが大体11時くらい。そこから情報収集と食事、ワイルドエリアへ行くための準備を整えて、出発したのが12時過ぎくらい。だから大体3時間くらい歩いていることになる。現在位置は駅から約8km。不整地を小学生が3時間で8km歩いたなら頑張ったほうだろう。

 

 本日はせっかくの快晴。すごく疲れているし陽射しはつらいけど、雷雨や雪よりはよっぽど歩きやすく、距離を稼ぐにはいい天気。頑張っといた方が後々楽になるとも思う。

 

 ワイルドエリアは最南端から最北端までおよそ250kmもある。そのうちワイルドエリア駅からエンジンシティまでは直線距離にして110kmほどで、これは東京都心から富士山までよりも長い。実際には湖を迂回する必要もあるので、さらに歩く距離は伸びることになる。

 

 強と同じペース…一時間歩いて30分休憩で大体時速4kmくらいで朝8時から日の入りである夜8時まで歩いたとして、休憩時間を抜いた移動時間は8時間。実際にはお昼ごはんなどでもっと時間を食ったりするだろうし、1日に歩ける距離が30kmに届くことはないだろう。

 

 天気が変わって歩きにくくなる可能性や最後の方の疲労の蓄積なども考えると、エントリーに間に合わない可能性もある。そう考えると、やっぱり今日はまだまだ歩きたい。

 

 ああ、原作通りの流れだからとワイルドエリアに入るのを止めなかった過去の自分が憎い。ホップも、さっきは成長したと思ったが、そうでもないかもしれない。いや、精神年齢アラサーの癖にミスった私が言えることではないか。

 

「そろそろ出発するよー!」

「おー!」

「休憩は取るけど、日が沈むまでは歩くからもうしばらくがんばろ!」

「余裕だぞ!背負ってやってもいいんだぞ」

「あはは……無理はしないでね」

 

 流石元気印でおなじみホップ君。体は同じく子供のはずなのにあんまり回復してない気がする私とは大違いで、だいぶ復活していた。この調子なら今日は大丈夫そうかな。

 

 いや、私が大丈夫じゃないわ。

 

 案の定と言えば案の定なんだけど。

 

 日も沈んだし、ラストスパートと意気込んだはいいものの、結局のところ体力面ではホップに勝てない私では、休憩をかなり多めにとっているとはいえ8時まで歩くのはきつかった。それでも何とかキバ湖のほとりまでは歩き、その周囲でキャンプをすることになった。

 

 今いるうららか平原は見通しが良く、比較的平坦な地形で、キャンプはしやすい。ただあたり一面草むらなので、ポケモンとの距離が近くなってしまうという欠点がある。ポケモンたちのテリトリーを避けようと思っても避けられないのだ。

 

 それでもスクールでキャンプの遠足などをするときには大体このうららか平原で行う。その理由は簡単。ここにいるポケモンたちは比較的人間に慣れていて、弱いポケモンが多いからだ。

 

 そう。人間に慣れているポケモンが、すぐ近くに住んでいるのである。だからこういうことがわりとよく起こる。

 

 今、私の目の前には、リュックにかみついたままこちらを見つめてピクリとも動かないロコンがいた。

 

「……」

「……」

 

 いや、どうしよう。ほんとに。

 

 野生のポケモンと出会った時の対処法としては、主に三種類がある。

 

 一つは、手持ちのポケモンで戦う。無理だ。イーブイの入ったモンスターボールはリュックの中だ。携帯しとけよポケットモンスター(携帯獣)なんだからと言われたら何も言えないが、ホップも一緒だしいいかなって思っちゃったもので。

 

 一つは、ピッピ人形などを使って逃げる。これはもっている。持っているけど、逃げてどうする。リュック無かったら私の冒険はここで終わりになってしまう。大切なパートナーもいることだし、逃げるわけにいかない。

 

 一つは、静かに、背を見せたりせずにゆっくり立ち去る。上記の通り。刺激しないようにする必要はあるが、逃げるわけにはいかない。

 

 ……やっばいどうしよう。ロコンはあんまり強いポケモンではないけど、それでも人間がどうこうできる相手じゃないのは変わらない。

 

 ホップが来るのを待つのが現実的かとも思った。でもホップが来てポケモンバトル!となれば私のリュックの無事は全く保証されない。お母さんのリュックが中身ごと灰になってしまってもおかしくない。

 

 ついでに言うと、ホップの選んだ御三家はサルノリ。つまり相性不利。しっぽの本数は3。つまりまだ成長途中。ウール―と二匹がかりなら負けないとは思うけど、不安は残る。

 

 私は悩んだ。ロコンとにらみ合いながら困った。実際はあんまり睨まない方がいいんだけど、一瞬でこちらを丸焼きにできるモンスターから目をそらすのは怖すぎる。なのでじっと相手の目を見ていた。そうしたらふと、ロコンがこちらの腕の中をちらちらとみていることに気が付いた。

 

 そういえば、今私は夜ご飯のカレーを作る材料として木の実を集めてきたところだった。帰ってきたらロコンがリュックでじゃれていたのだ。……もしやこのロコンお腹がすいているのでは?

 

 違うかもしれない。けどにらみ合っててもしょうがない。私はなるべく柔らかい表情を作って、ゆっくりゆっくり細心の注意を払ってその場にしゃがみこんだ。私の姿勢が低くなるのと共に、ロコンの視線が下に下がるのがちょっとかわいい。

 

 ちゃんとすぐ立ち上がれるような形でしゃがみこんで、私はそっと腕の中の木の実をロコンの方へ差し出した。差し出したといっても距離はだいぶ離れている。近づいてくる様子もない。こちらから近づくのは怖いので、地面に転がすようにして、ロコンの元へ放った。

 

 動けなかった現状に変化があれば、食べてくれても食べずに逃げてもかまわない。嫌嘘、構う。へこむ。逃げられたら。

 

 (食べて~~~!めっちゃ食べて~~~!うちの子になって~~~!)

 

 私は冷や汗掻きながら邪知暴虐の邪神アルセウス……ではなく八百万の神々に祈った。

 

 その祈りが通じたのか、ロコンは木の実の匂いを嗅いで、しばらく考えてからパクリとかじりついた。神はいた。

 

「ふ~~~よ、良かった。良かったのかなこれ」

 

 冷静に考えるとその場で食べ始められるとちょっと困る気がするけど。あれ、八百万の神々も邪神では?上がった好感度はすぐに下がった。日本人の信仰なんてそんなものだ。

 

 小さな木の実一つ、すぐに食べ切ったロコンは、再びこちらをじっと見つめた。

 

「……もっと寄こせと?」

「こゃ~ん」

 

 はは~ん。こいつ、さては「ずぶとい」な?

 

「ほら、クラボの実だよ~」

「こん」

 

 はじき返した!?え?すっぱいの好きじゃないの?ていうか、木の実打ち返すのに前宙したけど。すご。かわいい。

 

「じゃ、じゃあチーゴの実……これもダメ!?」

 

 「なまいき」かとおもったけどそれも違うらしい。というか、要求しておいてなんてぜいたくな。可愛い。もっとあげちゃう♡

 

 この謎の攻防はしばらく続き、結局ロコンはどの味の木の実も食べた。「きまぐれ」じゃねえか。

 





 大変お待たせいたしました。感想やら評価やらいただけましたので、続きました。ありがとうございます。
 みなさんお望みの曇らせは割と先ですが、それまで見続けていただけると嬉しいです。プロットはあるんで、ほんと。応援さえいただければかけますから。

 夏休みに入りますしね。もう一つの方も含めて更新頑張りたいところです。
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