門をくぐる。コツリ、と足音が変わる。石畳を踏みしめるたびに、ようやくたどり着いたのだという実感が増す。
「ついたんだぞ……エンジンシティ!」
「疲れた……」
私は膝に手をつき、肩を落として深い息をついた。一方ホップは、着いた途端に疲れを忘れたように目を輝かせている。
ワイルドエリアに入ってから四日目の夕方、私とホップは何とか無事に開会式の行われるエンジンシティへと到着した。
幸いにも道中の天気に恵まれたおかげで、疲労から足が鈍ってもおおよそ予定通りに着くことが出来た。
「おおきいなぁ」
ゲーム上でも大きな町だったエンジンシティだが、実際にこうして足を運ぶとその大きさに圧倒される。ゲームとはやはりスケール感が段違いだ。建物はより高く、多く、人の流れがだくりゅうのように途絶えない。
前世を彷彿とさせる都会の忙しなさにどこか懐かしさを感じる一方、温泉街のように蒸気のにおいが鼻腔をくすぐる。あちこちで噴き出す白い煙はまるでテーマパークの様だ。違和感と感動が胸を満たす。これが異世界の都会か。ハロンタウンがのどかな田舎町だったこともあって、ああ、遠くまで来たんだなぁという感じがする。
「ユウリ、ひとまずポケモンセンターに行こうぜ!」
ぼーっと街を眺めていた私をホップの弾む声が現実に引き戻した。
「そうだね。いこっか、イーブイ」
「ブイ!」
イーブイに声をかけると、彼女は一足で足元から私の肩へと飛び乗った。
ポケモンセンターにはポケモンだけでなく、トレーナーも休めるような休憩スペースが用意されている。特にこのエンジンシティは、ワイルドエリアに近接していることと、毎年ジムチャレンジの開会式が行われることからトレーナー向けの設備が充実しているらしい。
ネットで目にしたおしゃれ空間に胸を高鳴らせながら、いざ門近くのポケセンに足を向けたその時――
「おおーい!」
「!!ソニア」
「ソニアさん!」
オレンジ色のサイドテールをふわふわと揺らし、輝く笑顔のソニアさんがこちらに向かって手を振っていた。
「あんたたち、無事につけたのね。安心したわ」
「な、なんとか」
「ユウリがいたからな!全然大丈夫だったぞ!」
ホップが胸を張り、私は苦笑い。
ソニアさんはうんうんと訳知り顔でうなずく。
「さすが飛び級主席合格といったところかしら」
と、ソニアさんはからかうようにウインクを飛ばす。
「や、それほどでも……」
私は帽子のつばをいじり、顔をそらした。
「さて、見事ワイルドエリアを抜けたお二人さん。ちゃんと目的は覚えているのかな?」
「勿論だぞ!ジムチャレンジの開会式、だぞ」
「さすが!因みに、開会式が行われるのは……向こうのエンジンスタジアム」
ソニアさんの指差した先を見ると、この街で一番大きな建物。エンジンスタジアムの塔が見える。
「向かうには、あちらの昇降機を使うのだ」
その下では超巨大な歯車の昇降機が低い唸りをあげながら回っている。
「じゃね!私はブティックとか行っちゃうけど、スタジアムで受付済ませておきなよ」
「はい!ありがとうございます」
「また後でだぞ」
ソニアさんは軽く手を振ると、雑踏の中に溶けていった。
「一休みしたら、スタジアムにいこっか」
「だな!」
ポケモンセンターに入ると、柔らかな音楽と清浄な空気が迎えてくれる。受付のジョーイさんに手持ちの三匹を預け、近くの休憩所に座った。
そう、三匹だ。あの後こちらについてきたロコンに加え、フシギソウをゲットしていたのだ。甘い木の実をよくたべるし、他の二匹ともあっという間に仲良くなっていたので、恐らく「むじゃき」な性格と思われる。
イーブイが先輩風を吹かせていたのがほほえましかった。
それはそれとしてロコンもフシギソウも私に対して過保護になったのは遺憾である。何を吹き込んだんだ一体。
短い休憩で足を休めた後、私とホップはスタジアムへ向かった。可能なら一秒でも早くベッドに身を投げたいところだが、最後のひと頑張りだ。
昇降機に乗るとき、ダンデさんとは合わなかった。確か「もくたん」をくれるイベントがあったと思うのだが……最初のジムのためにロコンに持たせたかったので、残念だ。……と思っていたら、ホップが兄貴からのプレゼントとして渡してくれた。それも、「もくたん」に加えて「きせきのタネ」と「しんぴのしずく」も。
「なるほど、こうなるのか」
「?」
私のつぶやきにホップが疑問符を浮かべる。
「いや、何でもない」
私はかぶりを振ってごまかした。
今回、私はイーブイがいるからか、御三家を選んでいない。どうなるかとおもっていたら、3つともくれるとは。さすがチャンピオン、太っ腹である。
やっぱりなんでもゲーム通りとはいかないらしい。とにかくもくたんは貰えたので良しとしよう。
「エンジンスタジアム……」
思ったより揺れの少ない昇降機を降りれば、目の前に一際近代的な建物が聳える。
「全世界の人が見るジムチャレンジの開会式が行われる場所だ」
「……」
「オレの心がざわつく……感動で震えているぞ!」
大げさなリアクションをとるホップの姿に頬が緩む。
中に入ると、広いエントランスとエアコンの効いた涼しい風、そしてすごい数の人の姿が飛び込んできた。
「ジムチャレンジャーばかりだぞ。こいつらみんながライバルか!」
「お、思ってた以上に多いね」
ゲームとは違い、視界を埋め尽くす人、人、人……受付カウンターにも列ができている。ただでさえ足がきついのに、並ぶのか……と億劫に思っていたその時。視界の端に、派手なピンクの服を着た少年の姿が映った。
(――彼は)
「とにかく、エントリーをすませるぞ!」
「え?あ、そうだね」
見間違いかもしれないが、このタイミングにあの色、となると間違いない。ビートだ。
ストーリーでたびたび主人公を挑発するような言動をとり、遺跡破壊をやらかす、ヒール系ライバルである。
私に対して態度が悪いのはいいとして、遺跡破壊はどうしたものか。あの遺跡に描かれていた絵画が間違った歴史のものだとしても、それでも価値があるものであることに変わりはないだろうし。
正直壊してしまうのはちょっとなぁ。と思う。かといってあのイベントが起きないとストーリーに支障が出る可能性がある。
この世界にきて早数年。どのイベントがどのイベントとつながっているかなんて、すべては覚えていない。下手をしなくてもガラルの危機となる大事件が待っている以上、やはり原作通りに進めたいのも本音だ。
「ユウリッ!」
「ハイィ!?」
顔を上げると、頬を膨らませたホップと、苦笑いでこちらを見る受付のお兄さんの姿があった。
「――っ!」
「もう!早く推薦状をだすんだぞ!」
カァっと顔が熱くなるのを感じる。ま、またやってしまった。
どうにも、考え始めると周りが見えなくなるのが私の悪い癖だ。いちいち怒鳴りつけて現実に引き戻してくれるホップには感謝してもし足りない。というか普通に小学生のホップのほうが視野が広いというのは成人として情けない。
私は大慌てでカバンの中身をかき回すのだった。
――――――――――
ハロンタウンのユウリは天才である。というのは地元の人間ならだれもが知っている。
が、その天才性の最たるものを実際に見たことのある人間は少ない。
ホップは今、目の前で繰り広げられる――いや、正直に言えば“片付けられていく”と言った方が正確な――ポケモンバトルを眺めながら、彼は改めて超えるべきライバルの壁の高さを実感していた。
――時を戻そう
大会のエントリーを済ませたホップとユウリは、ポケモンリーグ委員長・ローズが全ジムチャレンジャー用に貸し切っているというホテル・スボミーインへ案内された。入ってすぐのエントランスに鎮座する巨大なブロンズ像を眺めていたソニアからガラルの伝説を聞き、気分は最高潮。意気揚々と二階の受付へ向かった二人を待っていたのは、スタッフを取り囲み迷惑をかけている不良集団だった。
ジムチャレンジの参加には、基本的に推薦状が必要だ。そのため、チャレンジャーたるトレーナーたちはみな、その実力だけではなく人格的にも非常に優れている人であることが多い。
とはいえガラル中から多くの人たちが参加する一大イベント。こういった問題が全く起きないわけでもなかった。
ホップが「注意しなくちゃ」と前へ出ようとした瞬間、隣のユウリが一歩先に踏み出した。
「ユウリ?」
「大丈夫。ちょっと話してくるね」
ユウリからすれば、これはゲームであったイベントそのものであるし、彼らはちょっと行き過ぎたファンというだけで生粋の悪人というわけではないと知っている。
ホップのほうも心配していなかった。ユウリが平気というならそうなんだろうと任せることにした。
フロント横のガラス扉が自動で開く。
〈スボミーイン専用バトルコート〉――宿泊客が安全に腕を試せるよう、ホテルが常時開放している試合場へと続く扉だ。ユウリとエール団は視線だけで合意し、騒ぎを引きずったままコートへ足を踏み入れた。
こうして始まったのが、問題児エール団とのポケモンバトルである。
彼らの戦法が繰り出したのはジグザグマ。ここガラル地方でしか見られない、黒白縞という特殊な体色をもつ固有種のポケモンである。
対するユウリが放ったボールから現れたのは、クリーム色の体色のイーブイ。そのかわいらしい外見とは裏腹に、初陣を除けば無敗を誇るスクールの“絶対王者”だ。あまりの強さに同級生はおろか先生までもが相手にならず、ついには対戦授業そのものを免除されたほどである。
だからこそホップにとって、目の前の光景は驚きではなく“納得”だった。
「ジグザグマ!たいあたりだ!」
鋭い号令と同時に、ジグザグマが背を丸め助走の体勢をとった。
その瞬間、イーブイの「でんこうせっか」が白い軌跡を描き、ジグザグマを横から叩きつける。相手は体勢を崩し、技を放つ暇もなく二発目の「でんこうせっか」を浴びて地面に沈んだ。
沈黙。あまりにあっさりと決まった決着に、あれほど騒がしかったエール団が静まり返った。
しかしすぐに気を取り直したようで、今度は女性団員が前に出てくる。
彼女が繰り出したのはクスネ。野生ではどちらかというと戦うのではなく盗んで暮らしている、すばしっこさと隠ぺいに定評のあるきつねポケモンだ。
だが、逃げ足の速さはバトルではあまり役に立たない。
ボールから登場して早々、素早さに劣るクスネはイーブイのでんこうせっかに吹き飛ばされた。
その後も“かたき討ち”に燃えるエール団員が次々と挑みかかったが、結果は同じ。だれもかれもが技名すら口にできずに返り討ちに遭うばかり。
人数が多いし、いざとなれば助けに――と構えていたホップだったが、それは完全な杞憂だった。ユウリとイーブイの圧倒的な手際を前に、彼はただ唸るしかなかった。
こうして、ユウリによってエール団は一人残らず退治され、騒ぎはひとまず決着したのだった。
と、その時だった。コートとエントランスを仕切るガラス扉がまた開いた。
コツ、コツとヒールの低い足音。入ってきたのは、黒革のショートジャケットにやや明るめのピンクのワンピースの少女。
「みんななにしてんの?」
肩を落とすエール団の面々を一瞥した少女は、無表情のまま問いかける。
「マリィ!?こ、これは、その……」
エール団が焦ったような、情けない声で返す。
「またあたしのために騒いどったんね」
少女はそう言って、こちらを向いた。
「ゴメン!エール団はあたしの応援団なんだけど、ちょっと浮かれてるみたい」
「ほら!みんな、帰って帰って!」
マリィと名乗った少女は、どうやら自分たちと同じジムチャレンジャーであるらしいかった。彼女は改めて迷惑をかけたことを詫びると、「また開会式で」といって去っていった。
ユウリとホップはそれぞれ部屋へと案内され、ホテルが問題解決のお礼にとサービスしてくれたドリンクを飲み、長旅の疲れをいやした。
そして翌日、満員のスタジアムのフィールドに立ち、今年のガラルジムチャレンジ大会が、ストーリーが幕を開けたのだった。
6VLv16イーブイならLv9個体値0無振り無補正のジグザグマにでんこうせっかで確定2発。
同じくLv9個体値0無振り無補正のクスネには6/16で乱数1発です。
作者が実際にプレイしながら進めております。
小説の大まかな流れ自体は決まっていますが、何分ゲームをやりながらストーリー見返しながらで時間がかかりますので、今後も不定期に更新していこうと思います。
Z-Aが出るまでに完結できるのだろうか。いや、絶対無理だな。
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