実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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椎名ひよりⅢ

 

 客観的に考えたら、ハヤトくんは所謂優良物件な男の子に見えるでしょう。文武両道であり、優しく、包容力もあり、かっこいい一面もある。家事もできますからね。本人が口にしたことがあるパーフェクト執事に邁進してます。

 ですが、本当にハヤトくんが優良物件かと聞かれたら、私は疑問を呈することになります。

 単純な話です。彼は人気が高い。そして優しすぎる。仮に彼女ができたとしましょう。相当な信頼関係でないと、彼女側が不安を抱くと思うのです。彼に話しかける女子生徒が皆、彼を狙っているのではと。

 

「そんなわけでハヤトくんは彼女ができません」

 

「結論が酷くない?」

 

「筋は通っていたと思いますが」

 

「筋はね。最近恋愛系ばかり読んでるの?」

 

「影響を受けやすい小学生じゃないんですから」

 

 たしかに最近のジャンルは偏っていますけど。

 

「椎名ってそういうの好きだったっけ?」

 

「好きなジャンルとしてあげるほどではないですけど、嫌いというわけでもありません。興味は湧いています」

 

「やっぱり影響受けたんじゃないの?」

 

「違います。恋とはどういうものなのか。参考文献程度に読んでいるだけです」

 

「それはいいけど、おれで検証するのはどうかと思うよ」

 

「彼女がいてもよさそうなのに彼女がいない男の子、として女の子の間では真っ先に名前があがっていますよ」

 

「不名誉だけど事実なのが悲しい」

 

 恋愛というものはそんなに良いものなのでしょうか。違う作者で何冊も読んでみましたが、どうにもわかりませんね。一番の友達がいたらそれでいいのではないでしょうか。私にとってのハヤトくんみたいな。

 

「ハヤトくんって彼女がほしいんですか?」

 

「どうだろうね。できたらいいなーくらいの気持ち」

 

「願望というほどの熱意はないんですね」

 

「そういうこと」

 

 ほら。ハヤトくんもこう言っています。

 

「彼女ができないハヤトくんでも、私はこれまで通り変わらず接しますから」

 

「それ彼女ができても、とかで言う台詞じゃない? というか、彼女がいたことはあるよ?」

 

「…………ウソはよくないですよ」

 

「嘘じゃなくて。まぁ、中学生での付き合いをカウントするかは人によるだろうけど」

 

 ハヤトくんに? 彼女が? 

 いえ、驚きの事実ではありますが、慌てるようなことではありません。なにせ今はいないのですから。元です元。過去の話。

 

「そ、そうですか。私は、当事者が本気だったのなら、カウントしてもいいと思いますよ」

 

「そうだよね」

 

 話を聞いてみてもいいのでしょうか。別れ話が円満なものかはわかりませんし。ここは聞くべきではな……いいえ、いいえ。ハヤトくんが傷を持っているかどうか。それを知っておくのは友達として必要なこと。そのはず。そうです。ハヤトくんは、大切な友達ですから。これは必要な質問なのです。

 

「その……お話を聞いてもいいですか?」

 

「ん? 会えなくなったから別れただけだよ。喧嘩別れとかじゃないから、気持ちの整理ももうできてる」

 

「そうでしたか。それならよかったです」

 

「心配してくれたんだ?」

 

 そうですよ。ハヤトくんが傷ついているか否かは大事なことですから。ほっと安心できたのも、そういうことです。気持ちの整理もできているようですから、それなら……。それなら?

 

 ──私は何を?

 

「椎名? 悩みごと?」

 

「あ、いえ」

 

「何か抱えてるなら聞くよ」

 

「……うまく言語化できないので、今は大丈夫です」

 

「そっか。話したくなったらいつでも話して。言葉にしたら楽になることもあるから」

 

「そうですね。その時はお願いします」

 

 何か引っかかりますが、まだわかりませんね。ピースが揃いません。

 そうでした。傷つくで思い出しました。ハヤトくんとは1つ話さないといけないことがあります。

 

「佐倉さんの件は解決したんですよね?」

 

「そうだね。怪我なく終わってよかったよ。佐倉さんも安心して過ごせてるみたいだし」

 

「怪我なく? やはり何か危ないことをしました?」

 

「犯人が刃物を持ってたくらいだけど」

 

「……ハヤトくん」

 

 ハヤトくんが怪我をしていないことはもちろん見てわかります。どこかをかばうような動きもしていませんでした。彼のことですから、彼が怪我してないのなら佐倉さんも怪我をしていません。

 

「……そういう危ないことはしないでください」

 

「早期解決のためには」

「そうだとしても! それが優れた手段だとしても、怪我をしていたら元も子もないんですよ?」

 

「椎名?」

 

 珍しいでしょうね。私も驚いてます。大声を出すなんて早々ありません。こんなに感情に任せて話すこともありません。

 ですが、止まることはありません。止められません。

 

「あなたが怪我をしたらどうなることか、本当にわかってるんですか?」

 

「弁当は……レシピ渡してなんとか」

「違います! わかっていません。ハヤトくんは何もわかっていません! あなたが怪我したら……もしものことがあったら悲しむ人がいます! あなたが思っている以上に!」

 

 お弁当がなくなるから? そんなふざけた理由ではありません。ハヤトくんを慕う人がいるからです。ハヤトくんがいろんな人と仲がいいのは、ハヤトくんの人柄があってのことです。だからお弁当のシステムだってこんなに早く成立したんです。

 

「ハヤトくん。もう危ないことはしないって約束してください」

 

「椎名……」

 

 頬が濡れています。ハヤトくんの部屋の床をぽたぽたと濡らしてしまいました。

 ハヤトくんの手で頭を引き寄せられました。ハヤトくんの腕の中に包まれて、胸が暖かくなって。

 

「ごめん。考えが足りてなかった。椎名を泣かせるなんて……」

 

「許しません。……私のお願いを聞いてくれないと、許しませんから」

 

「……椎名に許されないのは、嫌だな。そのお願いって、おれにできることかな?」

 

「……はい。無理を……しないでください」

 

「え?」

 

「疲れてるって、私が判断したらちゃんと休んでください」

 

 ハヤトくんなら、また違う方法を見つけられてたはずなんです。初めて会った時に感じたあなたの器は、もっと大きかったのですから。

 

「わかった。椎名の目は確かだって、おれが誰よりも知ってるからね。椎名の判断をおれは信じるよ」

 

「ハヤトくんは、自分のことに疎いみたいですから。……では早速今日は休んでください。今休んでください。ほら」

 

「……あれ? 椎名ついさっき泣いて……あれ?」

 

「ふふっ。どうでしょうね」

 

 困惑してるハヤトくんの腕を引いて床に横になってもらいます。枕は用意しますよ。枕と言っても売ってるそれではなくて、膝枕になりますが。

 

「さすがにこれは……」

 

「ハ ヤ ト く ん ?」

 

「……」

 

 諦めさせることに成功しました。私はハヤトくんには強気に出られるようです。でも多用はしませんよ。わがままだらけの女だなんて思われたくありませんから。

 

「私はハヤトくんと2人でゆっくりする時間が好きなんです。自分をもっと大切にしてください」

 

「……そうだね」

 

 私の手でハヤトくんの目を覆います。アイマスク代わりです。そうして数分したら、ハヤトくんの寝息が聞こえてきました。ほら、やっぱりハヤトくんは疲れが溜まっていたんですよ。私にはわかるんです。

 

「合鍵は貰えませんでしたが、ハヤトくんの寝顔を見られるなら十分ですね」

 

 きっと今、だらしなく頬が緩んでいるのでしょうね。誰にも見られていませんからいいでしょう。

 

 恋愛のことはよくわかりません。

 愛ならわかりますよ。ハヤトくんや一之瀬さんは友愛がありますから。良い例が側にいると感覚的に理解しやすいです。

 ですが、恋はわかりません。誰かが誰かに恋をしているのは、それは見ててわかります。中学の時もわかりました。それなのに自分には当てはめられません。

 

 ハヤトくん。

 あなたのことは大切に思っています。誰よりも想っていると、そう思いたいです。けれどこれは恋なのでしょうか? それとも愛なのでしょうか? それとも友情なのでしょうか?

 答えは出ません。本の中に答えはありませんでした。

 

「ですから、待っててくれませんか? 私が答えを見つけられるときを」

 

 私のペースで、見つけ出してみせますから。

 

 

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