神室真澄さんは、私が信頼している駒の1つです。間違えました。友達の1人です。
最も信頼しているお友達は長洲くんですが、最初の友達は真澄さんです。彼女には身の回りのお世話をお願いしています。長洲くんにも手伝っていただくことがありますが、やはり何かと同性の方が好ましい状況もありますから。
「テスト対策は順調ですか?」
「赤点取るようなヘマはしないわ。何? 勉強会でも開く気?」
「そうしなくても皆さん点数が取れるでしょう。あまり必要性を感じません」
「そ? そういう名目で人を集めることはできるわよ? 勉強会くらいならあの長洲でも参加するでしょ」
「……どうでしょうね」
長洲くんが「あの」と言われている理由は、彼がクラスと一定の距離を保っているからです。個人間なら仲良くしている方も多いです。クラスの半数以上が長洲くんのお弁当購入者ですからね。ですが、クラス単位になると話が別になります。
たとえば、葛城くんも彼を引き込もうとしますが、決して首を縦に振りません。良き友人となれても、彼の意思はそうそう変えられないのです。
ですから、派閥としての意識がその勉強会に含まれていたら、彼は参加しません。逆に言えば、そういう意識を含まない純粋な勉強会なら参加するでしょう。一之瀬さんが誘えば、あっさりと。……相性ですかね。
「長洲くんを勉強会に誘うのはともかく、名目を作って人を集める、というのは悪くありません」
「はぁ。誰を集めてほしいのよ」
「人数が多ければ良い、というわけでもありません。そうですね。真澄さんが信用できるクラスの同性を1人か2人ほど」
「はいはい」
真澄さんは良き友人です。頼んだことをしっかりと果たしてくれる人ですから。
「坂柳さんの部屋に招いてもらえるなんて」
「ふふっ、どうか気楽にしてください」
呼んだのは私なのですから、場所を提供するのも私がすべきことでしょう。テストが近いといつもは人の少ない図書室も人が増えます。そもそもあそこで話し合いをしていれば、図書委員の方に注意されますし。長洲くんや椎名さんもあまりいい顔をしないでしょう。
他のお店でもそうです。その手の利用に寛容な場所はともかく、基本的には食事のための空間。そもそもあまり他人に聞かれたくない話に向きません。
そうやって絞れば、やはり自室が最適解となります。防音もしっかり施されていますから。
「さて、集まっていただいたのは、意見を聞きたかったからです」
真澄さんが人数分のお茶を用意して戻ってきたところで、私は話を切り出しました。私の部屋は特段珍しいものもないのですが、ちらちらと部屋を見ていたお二方もこちらに意識を戻しました。
「これは長洲くんから借りた本を読んで疑問に思ったことなのですが」
(坂柳の話ね)
(坂柳さんの話ってことかな?)
(どんな本なんだろう)
「外出の難しい方がお相手を誘う場合、どういった過ごし方が相応しいのでしょうか」
(坂柳さんの話で合ってそう)
(その本を参考にしたいんだね!)
「坂柳は誰を誘うわけ?」
「私ではありません」
「……そうね。登場人物が似てたからうっかりしてたわ」
「しっかりしてください」
(坂柳さんかわいい)
(うんうん。よく似てる登場人物だから間違うのも仕方ないよね!)
他の方のようにはできません。運動もできませんし、人気のあるボウリングも不可能。カラオケはバラードを少々歌えるだけ。遠出も難しいです。
「映画とかどうかな?」
「私もそれを考えましたが、どうやらお相手と時間を共有しているのに話ができないのはどうなのか、とも思うキャラクターのようで。関係が進めば問題ないのでしょうけど」
「そう言われたらそうだね。これから仲を深めるぞって人との映画は、たしかに向いてないかもね」
「それなら食事に誘うか、趣味が一緒ならそれもいいんじゃないかな」
食事は……今さらですね。これまでも何度か一緒にしていますし。
共通の趣味は、あるのでしょうか。考えてみたら私は彼のことをあまり知りませんね。知った気になっていただけのようです。
「私の読み込みが浅かったようですね。共通の趣味があったのかわかりません」
「そっかー。それがあったらそこが定番だと思うよ」
「……皆さんは異性と外出の経験が?」
「今聞くんだ」
「あはは。私はあっても男女数人ずつのグループかな」
「同じね」
「小学生時代は?」
「カウントしません」
「じゃあないや」
これは全滅と言ってもいいのでは?
いえ、人の意見は貴重ですから。参考にできるものを探しましょう。
「デートというものをどう捉えていますか?」
「どうって……。2人で出かけること?」
「そうなりますと、買い出しでもデートということになりませんか? 例えば文化祭のための買い出しとか」
「あー、そっか」
「はい。しかもそれですと長洲くんは複数人の女性とデートをしている浮気男になってしまいます」
「なんで長洲くん?」
「いえ、共通の知人の最たる例として出しただけです。深い意味はありません」
彼の買い出しに協力したことのある方は一定数いるようですから。そこに男女関係の意はないでしょうけど。
「んーー。長洲くんは浮気するような人じゃないと私も思うけど。この前一之瀬さんと一緒にショッピングモールにいるのは見かけたかな」
「……大方一緒に買い出しに行っていたのでしょう」
「2人で服を買ってたけど」
「……はい?」
「一之瀬さんの服を選んであげてたって」
「一之瀬さんが頼んだのであれば、彼はそうするでしょう」
「プレゼントしてあげてたって友達から聞いたけど」
「……か、彼なら……」
「どうどうその辺で。長洲の話に脱線しちゃってる」
真澄さんが切ってくれたおかげで長洲くんの話が終わりました。まさか私がここまで動揺するとは。私の目標の1つが脅かされたからでしょうか。
丸く収めるための最善策なのですから、ミッションのためにも一之瀬さんには大人しくしていてほしいですね。難題は椎名さんだけで十分です。
「私はスタート地点を確立させた方がいいと思う」
「と、言いますと?」
「女性側の気持ちの確認。その相手とやらをどう見てるのか。それ次第でこの話の充実さも増すでしょ。……坂柳からはどう見えてる? どう思う?」
「そうですね……」
私の中での彼の評価は決まっています。それはすでにご存知のはずですが……あぁ、真澄さんが聞き出したいのは評価ではないのですね。理屈ではなく感情。こちらですね。
「彼は……安心させてくれる方でしょうか。私の主義とは異なりますが、そこは問題視しません。彼は視野が広く、いろいろな方と同じ目線で立てます。多角的な視点も持っている」
「違う違う。どういうところを好んでるか教えて」
「……好みですか。誰かのために真剣になれること。その顔もいいですし、無邪気な笑顔を見せるギャップもあります。声色や手も良いですね。彼と話していると、今までにない不思議な感覚がこの胸に広がるんです。まだ語れそうですが総じて言いますと、私は彼が好きですよ」
「あー……うん」
「なんですかその反応は」
「神室さんもしかして」
「坂柳に自覚させるのは骨が折れそうだわ。対等な男友達自体が初めてみたいだし」
「何をこそこそと話しているんですか?」
「「はぁぁ」」
「……失礼ですね」
「あれ? 本の話だったのになんで声色?」
……1人だけ鈍い子がいたようです。
椎名(坂柳さんも鈍いですよ)