部屋はいつも整理整頓してるし、掃除だって毎日してる。今日はそれを念入りにチェック。埃1つない。完璧だね。
服装も確認。長洲くんと一緒に買いに行った時の服で、タグだってちゃんと外してある。恥ずかしい思いはしない。髪も梳いてあるけど、どうだろう。変なところないかな?
──prrrr
「ひゃいっ!? えっ、あっ! 長洲くんから!? うそっ!? もうこんな時間!?」
いつも以上に念入りにチェックしてたから、思ってた以上に時間がかかってたみたい。長洲くんは建物に着いたみたいで、これからエレベーターで上がってくる。
長洲くんとの短な電話が終わると、私は急いで鏡で最終確認を行った。寝癖はもちろんないし、パッと見た感じおかしなところも見当たらない。となれば、あとは準備だ。
「お、おはよう長洲くん」
「おはよう一之瀬さん」
「ささっ、入って入って」
「お邪魔します」
誰かに見られてあらぬ誤解を招いちゃうと、長洲くんに迷惑をかけちゃう。週末の真っ昼間に招いといて今さらな感じはあるけど、夜よりはいいよね。
男の子を自分の部屋に招くのは初めてで、ちゃんとチェックしたのに変なとこはないかとまた気になっちゃう。ドクンドクンって心臓の音も大きくなってる。
見られて困るようなものは下着くらいだし、それだってちゃんと収納してある。洗濯物も大丈夫。万が一は起きない。
「にゃはは、自分で招待したのに緊張しちゃうな」
「もしかして初来訪者?」
「うん。高校の友達を招いたのは長洲くんが初めてだよ。男の子としては人生初でもあるね」
「それはなんだか申し訳ないような……」
「全然そんなことないよ。長洲くんが初めてでよかった」
(……天然なんだよね)
「長洲くん?」
「ううん。一之瀬さんに見惚れてた」
「ふぇっ!?」
「それ、一緒に買った服だよね。早速着てくれてて嬉しいよ」
「ぅ、うん……」
よかった。気づいてくれた。
今日着てる服は長洲くんが選んでくれた服。やっぱり一番に見てほしかった思いもあるし、今回が絶好の機会だった。
長洲くんには部屋で寛いでもらう。今日は日頃のお礼として、お昼をご馳走する。私にできるお礼って考えたら、やっぱり料理を振る舞うことだと思う。
「エプロンを着けてたのはそういうことなんだ」
「うん。先に着てたら長洲くんも納得してくれるでしょ?」
「あはは、たしかに。でも一之瀬さんがそうするって言うなら、別に断ることもないけどね」
「どうだろ? 長洲くんなら、お礼を貰うほどじゃないって言いそう」
「……言うね」
「やっぱり」
あまり長洲くんを待たせたくもないし、すぐに料理を始めちゃおうかな。部屋に来てもらう時間もお昼に合わせてるわけだし。
今日作る料理はオムライス。作り方自体はシンプルなんだけど、卵できれいに包めるかに、腕前の差がわかりやすく出る。長洲くんならプロみたいにできそう。
「一之瀬さんって料理もできるんだね。見てて危なっかしくもないし、安心できるよ」
「慣れてない子の料理は怖いよね。私はお母さんの手伝いをしてたし、私がご飯を用意することもあったから」
「家庭的だね。将来一之瀬さんと結婚する人は幸せ者だ」
「褒め過ぎだよー。私まだ彼氏もできたことないのに」
「これから告白する人も出てくるんじゃない? 男子目線だと一之瀬さんは高嶺の花だし、相当勇気と自信が必要になるけど」
「私はそこまで大層な人間じゃないよ」
そんなに良い人じゃない。みんなも長洲くんも私のことを評価してくれるけど、それに相応しいかはわからない。
「……一之瀬さんがご飯を用意することもあるって言ってたけど、ご両親は共働きだったの?」
「ううん。母子家庭だよ。私と妹とお母さんの3人。お母さんはお仕事を頑張ってくれてたから、1人でできるようになってからは私がよく作ってたんだ」
「なるほど。それで慣れてるんだね」
誰かと話しながら料理ができるくらいにはね。長洲くんもそれを察して話を繋げてくれてる。
長洲くんは女の子の部屋をじろじろ見るような人じゃない。だけど無言だと時間を持て余すし、長洲くんも過ごし方に困る。私も逆に気が散っちゃう。呼んどいてなんだけど、私が料理に慣れてないと成立しなかったね。
「長洲くんはなんで料理を始めたの?」
「仲が良かった子に美味しく食べてもらいたかったから、かな」
「そうなんだ。自分が作った料理を美味しそうに食べてくれると嬉しいよね」
「あの時は勉強よりも優先してたなー」
「それはなんだか……その人に嫉妬しちゃうなー」
女の子だから……ううん。女の子じゃなくても、誰かに自分のことを優先してもらえるって、それはとても嬉しいことだと思う。それだけその人に大切にされてる。想ってもらえてるってことだから。
交友関係の広い長洲くんの場合は、特にそれが珍しいんじゃないかな。
「今はもう連絡も取れない相手だけどね」
「この学校の方針だもんね。あ、じゃあその人はここに入学してないんだね。地元の高校?」
「いやいや。どこにも入学してないよ」
「え……!?」
思わず手を止めて長洲くんの方を見た。長洲くんはちょっと困ったような顔をして苦笑い。どこにも入学してないってことは、定時制とか通信制でもないってことだよね。
長洲くんの料理に影響を与えた人が……。驚き過ぎて言葉も詰まっちゃうよ。だって、長洲くんと仲がいいらしい龍園くんも進学してるのに。
すごく気になる話。でも、長洲くんの反応からして軽率に踏み込んじゃいけない話だとも思う。私だって、隠してる過去はある。秘密にしたいことって誰にでもあるよね。
「一之瀬さん、包丁持ったままの余所見は危ないよ」
「ぁ、そ、そうだよね。びっくりしちゃって」
「今の時代で進学してない人ってなかなか珍しいもんね」
「ごめんね。変に思ったりはしてないよ」
「わかってる。一之瀬さんはそんな人じゃないって知ってるよ」
純粋な気持ちで言ってくれることが嬉しい。その言葉が胸に染み込んでくる。でも、ちょっと苦しさもある。信じてもらえてるのに、本当はそうじゃないんだよって後ろめたさが出てくる。
私は、どうしたらいいのかな。
「久しぶりに作ってみたけど、うまくできてよかった〜」
「作ってくれてありがとう一之瀬さん」
2人分のオムライスが作れたら、それをテーブルに運んで2人で囲う。飲み物も用意したし、ケチャップもかけといた。自信作ができたから調子に乗って長洲くんの名前にしちゃったのは、書き終わってから冷静になって反省。
私が頬をひきつってることに気づいた長洲くんが台所に来て、見られたことでさらにフリーズ。まだケチャップをかけていなかった方に、長洲くんが私の名前を書いてノックアウト。再起動まで5分はかかった。
さっきの私の台詞? ヤケクソが半分だよ。
「他人の料理を食べるのは久しぶりだなー。いただきます」
「ど、どうかな?」
私も一緒に食べるけど、それよりも長洲くんの口に合うかが気になる。私はスプーンも握らずに固唾を呑んで見届けた。
「美味しいよ」
「ほ、ほんと? 長洲くんほどうまくはできてないと思うけど……」
「そんなことないよ。一之瀬さんの家庭の味だと思うけど、おれは好きだよ」
「……っ!! よかったぁ〜〜。長洲くんに喜んでもらえて」
「そんなに緊張してたの?」
「そりゃそうだよ。お弁当販売が成立するくらい上手な人に食べてもらうんだもん。それ抜きにしても、日頃のお礼って言って作ったんだから、それで味が悪かったら嫌でしょ?」
「それもそうだね。安心して、一之瀬さんの料理は誇張抜きに美味しいから。機会があればまた食べたいくらいだよ」
「つ、作るよ! 何回でも作るからいっぱい食べて。あ、よかったら長洲くんのお弁当とか作ってあげるね!」
男の子って結構食べるよね。長洲くんのはどれくらいのボリュームがいいんだろう。
「好きな食べ物とか、食べられないものがあったら教えてほしいな」
「作ってもらえるのは嬉しいけど、これからテストがあるからね? しばらくはお弁当いらないよ」
「あ……あはは。そうだった」
でもお弁当は作りたいな〜。好きって言ってくれる人に食べてほしいもん。
長洲くんの性格だと、人から何か貰うことに抵抗があるみたいだし、それならちょっとアプローチを変えてみよ。
「テストの次の週に、一緒にお昼ご飯を食べられないかな?」
「それくらいならいいよ」
「やった! 私もお弁当用意するから、おかずの交換とかしようね!」
「ははっ、うん。楽しみにしてる」
よーし! お弁当作り頑張るぞー!
「まずはテストだからね」
「あ……」
椎名「テスト前になんとまあ、余裕の表れですか? ……怒っていませんから」