実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

15 / 32
佐倉愛里Ⅲ

 

 長洲ハヤトくん。

 私をストーカー被害から助けてくれたAクラスの人。私は人とコミュニケーションを取ることが苦手で、今でもクラスに馴染めているか怪しい。あの日の事件以降、綾小路くんとは少し話せるようになったと思う。

 反対に、長洲くんとは全然話せてない。

 

「どうしたら長洲とうまく話せるか?」

 

「うん」

 

「普通に話しかけたらいいんじゃないか?」

 

「それができないから相談してるんだよ……?」

 

 この学年で相談事と言えば、真っ先に長洲くんのことが紹介される。それくらい存在感と信頼がある人。

 だけど私はその肝心な長洲くんのことで困ってる。嫌がらせなんてされてない。むしろ、チャットだけだったけどテスト勉強も手伝ってもらった。文面だけなのに説明がわかりやすくて、私の躓いてるポイントをちゃんと解消してくれた。解けるようになったら褒めてくれた。

 

「チャットでなら話せてるのか?」

 

「返信には時間かかっちゃってるけど……」

 

 本当にこの言葉選びでよかったのかなとか。誤解されないかなとか。この時間は迷惑じゃないかなとか。変な子だと思われないかなとか。いろんなことを考えて、送信のワンプッシュにも神経を使ってる。いつもドキドキしちゃう。

 

(長洲に惚れてるのか。この手の相談をされてもな)

 

「な、長洲くんにお礼もしたいんだけど、迷惑だったりしないかな」

 

「長洲はそんな捻くれた性格じゃないだろ。気にするな、みたいなことは言うだろうが、断るような奴でもない。なんだかんだ押しに弱いみたいだからな」

 

「でも私地味だし……。長洲くん他の人といっぱい予定あるし、後回しにされるかも」 

 

「まぁ……、このタイミングだと予定は埋まってるかもな。だが行動しないと何も始まらない。佐倉が勇気をだして行動すれば、長洲は必ずそれに応えてくれる」

 

 中間テストが終われば緊張の糸も切れる。成績がギリギリの人はそうでもないかもしれないけど、ほとんどの生徒は一息つける。だから長洲くんと予定を立てる人だって出てきてもおかしくない。

 私ももっと早く相談できたら。ううん。もっと早く行動ができたら、この週末にでも予定を立てられたかも。

 予定を立てたところで、長洲くんとうまく話ができるかは別問題なんだけどね。

 

「佐倉は長洲とどう話せるようになりたいんだ?」

 

「どう?」

 

「例えば…………。櫛田のように話せるようになりたいのか?」

 

 結構迷ったよね今。

 櫛田さんはたしかに人といっぱい会話することができる。トーク力がある。長洲くんと話してたところを見かけたこともあるけど、2人とも気さくに話してた。

 凄いなって思うけど、そうなりたいかだと少し違うかも。

 

「あるいは会話量がそれほど多くなく、会話していない時間があっても、気まずく感じないようになりたいのか」

 

 椎名さんがそんな感じだったかな。

 

「私……私は……」

 

 どう話せるようになりたいのか。簡単な質問が私にとって難解な質問に変わる。考えても考えても頭の中でぐるぐる回るだけ。

 

「わかんない……わからないよ……! 長洲くんといっぱい話せるようになりたいし、一緒にいるだけでも充実するような関係も憧れるし……! 考えても……わからないの……」

 

「佐倉にわからないものが、オレにわかるわけないだろう」

 

「っ!」

 

「これはどこまでいっても佐倉個人の問題だ。オレは答えなんて持ち合わせていない。だが、1つ言えることがあるとすれば」

 

 無表情だけど、綾小路くんは真っ直ぐ見て言ってくれる。

 

「ヒントは長洲の隣にあるということだ」

 

 背中を押してくれてる。

 

「答えを得たかったら行動しろ」

 

 

 

 

 

 綾小路くんに背中を押された私は、長洲くんとの予定を立てるために電話をかける。メッセージを送るのでもよかったんだけど、言葉にしたかったから。

 

「すぅー……はぁぁ」

 

 何度目かになるかわからない深呼吸。電話するぞって意気込んでから、すでに10 分以上経過してる。

 画面はずっと長洲くんの連絡先が表示されてて、あと一度押すだけで電話がかかるのに。

 

「さ、30分。30分になったら電話しよ」

 

 もしかしたら今取り込み中かもしれないし。迷惑をかけないように時間は考えなきゃ。

 電話かけたら何を話したらいいんだろ。もちろん本題は予定を立てることなんだけど、いきなりそれでいいのかな。それだけのために電話するのはどうなんだろう。やっぱり話題は用意しないといけないよね。何がいいかな。調べてみ──

 

「あ」  

 

『もしもし佐倉さん?』

 

 押しちゃったぁぁ!! 長洲くんも出るの早いよ! 業者さんじゃないんだから!

 と、とりあえず話さなきゃ。

 

「も、もしもし長洲くん?」

 

『うん。電話って初めてだよね。どうしたの?』

 

「ご、ごめん。迷惑だったよね」

 

『いやいや全然。ご飯とシャワーも済ませてるから手は空いてたよ』

 

「そうなんだ」

 

 ほっと胸を撫で下ろして、落ち着いたら長洲くんの言葉が脳内で反芻した。……いつの間に夜になってたんだろう。

 

『佐倉さんはご飯食べた?』

 

「ううん。実はまだなんだ」

 

『ご飯はちゃんと食べなよ? ダイエットで食事を抜きがちだけど、体には良くないからね』

 

「そうだよね。ちゃんとこの後食べるね」

 

 ……あれ? 電話なら意外と話せてる。お互いの顔が見えてないからかな。長洲くんの声を聞いてると安心する。温かい気持ちでいっぱいになる。

 それもそうだよね。だって私は、長洲くんのことが好きなんだもん。

 だから言うんだ。誘うんだ。

 デ、デートに……!

 

「な、長洲くんあのね」

 

『うん?』

 

「あの……わ、私と……で、で……」

 

『?』

 

「できたら私ともっとお話してくれませんか!」

 

 私のばか……!!

 

『もちろんいいよ。週明けの放課後とか予定空いてるし』

 

「そ、それなら放課後に。ごめんね夜に電話かけちゃって」

 

『ううん。佐倉さんから電話してきてくれて嬉しかったよ』

 

「はうっ!」

 

『佐倉さん? 大丈夫?』

 

 違う意味で大丈夫じゃないよぉ! 

 

「だ、大丈夫だから。それじゃあ放課後にね。ありがとう」

 

『あ、うん。時間としてはまだ早いけど、おやすみ佐倉さん』

 

「……うん。おやすみなさい長洲くん」

 

 電話を切ってベッドに倒れ込む。そして枕を抱えてバタ足を開始。恥ずかしさと嬉しさと後悔が混ざってるから。

 長洲くんと予定を立てることはできたけど、目的の半分しか達成できてない……!

 

「ぅぅぅーー! つ、次こそ、次こそは誘ってみるもん!」

 

 後日、結果報告を聞いた綾小路くんの反応は渋かった。

 

 

 




椎名「電話も悪くないですね」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。