実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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坂柳有栖Ⅴ

 

「長洲くん。お時間をいただきますね」

 

「あ、強制なんだ」

 

 テストも終わり、通常授業へと移行してから、私は作戦を実行に移すことにしました。彼に意識してもらうためには、こちら側から距離を縮めないといけません。多少でも強引に、大胆に行動することも必要でしょう。

 周囲の認識を利用する手も有効でしょうが、これは生憎と彼には効き目が薄いです。彼に対する周囲の認識が既に固定化されていますから。「誰と一緒におかしくない」と。ここだけ切り取ると長洲くんが女誑しみたいですね。

 

「今日は予定がないと言っていましたよね?」

 

「言ったね。これから何するつもり?」

 

「デートです」

 

「え?」

 

「デートをしましょう」

 

「……わかった」

 

 なんですか怪しんで。

 私のイメージのせいなのは理解しますが、失礼に当たると思いますよ。私でなければ機嫌を損ねていたところです。

 真澄さんも真澄さんですよ。何を頭を抱えているのですか。この通りデートのお誘いを成功させましたよ私は。あなた達との会議も活かしてみせます。

 

(坂柳って恋愛絡むとポンコツに近づくんだ……。恋愛下手くそ強者をサポート……胃が痛い)

 

「それでは行きましょう、長洲くん」

 

 時間は有限です。

 

 

 

 

 何をどう考えても、私にできることは限られています。運動をすることができず、杖がなければまともに歩けない。夏場に長時間外にいることも、他の方以上に避けなければなりません。常に自身の体と相談。それが坂柳有栖です。

 私は所謂一般的なこと、普通のことが望めません。体育の授業は必ず見学。下手のことをすれば発作に繋がります。緊急時に走ることも不可能。

 

「ピクニックと行きましょう」

 

 そんな私が選んだデートプランがこれです。ピクニックです。日本でピクニックと言えば、春のお花見が代表的でしょう。しかしそれに拘る必要もありません。

 

「ピクニックの用意は?」

 

「シートは用意してあります。お弁当はありませんが、問題ないでしょう」

 

「場所は決めてるの?」

 

「妥協の形にはなりますが」

 

「わかった」

 

 私の荷物は長洲くんが持ってくれています。私は道案内も兼ねますし、まず歩くことに意識を割く必要もありますから。

 この街は人工的に作られた島の上にあります。河川敷なども望めません。であるならば、芝生のある公園が最有力候補です。次点で住居近くの芝生か学校のどこか。部屋に招くことも考えましたが、それは暑くなってからでいいでしょう。今はまだ夏が到来していません。今のうちに外でデートすべきです。

 

「まさか坂柳の口からデートって言葉が出てくるとは思わなかったよ」

 

「以前までの私なら、同じことを思っていますよ。そんなことにかまけるのかと」

 

「そんなことって……」

 

「以前までなら、ですよ。今の私は少し考え方が異なります。デートは男女間の関係において必要なプロセスです」

 

「機械的に言っちゃってるよ」

 

「客観的に分析すればこうだと思いますが」

 

「そこはそうなんだけどさ」

 

 どうにも長洲くんの反応がイマイチですね。私は容姿が整っている方だと思うのですが。

 一度長洲くんと親交のある女性を整理しますか。最有力はやはり椎名さんですね。彼女もまた容姿端麗です。行動力もあります。テスト最終日には長洲くんと手を繋いで帰宅している姿が目撃されています。教室の前で起きたことですし、私も見ました。先程も連絡を取っていましたね。彼女はよく長洲くんの部屋に行きますからそのためでしょう。

 次点で一之瀬さんですね。この学年で、いえおそらくは学校全体でもトップレベルに容姿が整っています。物腰が柔らかく、長洲くん以上に分け隔てなく接する。もちろん彼女を怒らせたら別ですが。性格も良く、天然な部分もあるようです。アイドル性を持っているため男女問わず人気を集めます。長洲くんが気にかけている人。……もし一之瀬さんにその気があるのなら、難敵ですね。

 他は知りません。最も警戒すべき人たちはこの2人でしょう。

 

「考え事は終わった?」

 

「ええ。すっきりしました」

 

「それはなにより」

 

「この手は?」

 

「坂柳さんが考え事してたから。信号とか、転びそうになったり、何かにぶつかりそうになった時にすぐに助けられるように」

 

「……そうですか。ありがとうございます」

 

 らしくなく深く考え込んでしまったようですね。いつもでしたら歩行中にここまで考えることはないのですが。長洲くんと手を繋いでいることにも気づきませんでしたし。

 

「長洲くん」

 

「なに?」

 

「私は手を離してほしいとは言っていませんよ」

 

 考え事が終わったことを確認できたから手を離したのでしょう。いかにも長洲くんらしい。ですが、それは私が頼んだことではありません。私が彼を見上げて見つめていると、長洲くんは柔らかな笑みとともにもう一度手を繋いでくれました。

 今回はデートなのですから。これくらいは良いですよね。

 

 

 目的の公園に到着しました。公園と言っても子供用の遊具などはありません。緑地公園です。程よい傾斜を見つけ、そこにシートを設置します。風に飛ばされないように、鞄を重し代わりにしました。

 

「天気もいいし、結構気持ちいいね」

 

「天気が悪ければ日付は変更しましたよ」

 

「それもそっか。今日は何でピクニック? イメージで言うと坂柳さんの場合、お茶会の方がぽいけど」

 

「お茶会は屋内でできますから。ピクニックは時期や天候に左右されます。できる時にしたかったのです」

 

「なるほどね。坂柳さんはピクニック好きなの?」

 

「好きかはわかりません。長洲くんとしたいと思ったので誘いました」

 

「あはは、ありがとう。何回か経験はあるんだ?」

 

「昔に家族で何度かは。と言ってもレクリエーションはできませんし、雑談ばかりでした。長洲くんはどうなのですか?」

 

「最後にしたのは中学の時だよ。フリスビーはよくやってたかな。ご飯食べて昼寝したり、わりと思い思いに過ごしてたよ」

 

「そうなのですね」

 

「だから坂柳さんも、今日はそういうデート(ピクニック)にしようよ」

 

「っ!」

 

 何かあると思われていたからでしょうか。私がこれを、必要なステップとして考えていたことも見抜かれましたね。

 距離を取られるでしょうか。それも仕方ありません。打算でデートに誘う人は、間違っても良い印象を持たれるわけがありませんから。

 そう分析したのに、長洲くんが私の手を離す気配がありません。

 

「……失望していないのですか?」

 

「なんで? 坂柳さんが打算100%だったらそもそも断ってるよ。それに、誘ってもらえて嬉しかったからね」

 

「……あなたという人は……本当に」

 

「?」

 

 繋いでいるのとは反対の手で長洲くんの袖を引っ張ります。私の意図を汲んでくれた彼は、一度手を離して私の背を支える。そのまま丁寧に寝かせてくれました。もちろん隣に長洲くんも寝転がってくれます。

 手は、また重ねました。

 

「この時間でお昼寝というわけにもいきませんが、横になるのは悪くないですね」

 

「でしょ? 空を見上げるのも好きなんだよね。世界の広さを再認識できる。自分1人では限界があるんだってね。真面目な話を抜きにしたら、空の色もいろんな雲の形も見るのが好きかな」

 

「……」

 

「坂柳さん?」

 

「ふふっ。いえ……悩んでいたんです。デートにお誘いするにしても、私にできることは多くありません。その中でどうやって長洲くんと過ごしたらいいのかと」

 

 映画館を省いてしまったらあとは限られる。一之瀬さんのようなお買い物も選べません。試着のためには椅子が必要ですし、時間も余計にかかります。長洲くんをハラハラさせてしまうでしょう。それでは意味がありません。

 どうすれば長洲くんに楽しんでもらえるのか。目標のことも意識してしまい、どうすれば距離を縮められるのか。

 このピクニックも、正直に白状してしまえば苦肉の策でした。シートの大きさが限られていますから、物理的に距離を縮めて意識してもらおう。そんな、我ながら稚拙な策です。

 

「こうして一緒に同じ空を眺める。それだけで良かったのだと思うとなんだか……安心してきました。私にもできることがあるのだと」

 

「……坂柳さんは1つ勘違いしてると思うよ」

 

「ぇ?」

 

「何をするのかって手段はもちろん時として重要だけど、誰とするかが一番大切なことだとおれは思ってる。それでね、おれは坂柳さんと話してる時間だって同じくらい好きだよ」

 

「……! そう、だったのですね」

 

 私は何て思い違いをしていたのでしょう。こんなに簡単だったなんて。勝手に自分で難問に仕立て上げていただけだったんですね。

 

「だからもしまた誘ってくれるなら、次からは坂柳さんの思うように誘ってほしいな。抱えてることは置いといてね。もちろんおれからも誘うよ」

 

 この人は……本当に、長洲くんはどこまで私を楽しませてくれるのですか。そんなこと言われてしまったら、もう私は遠慮しませんよ?

 あぁ、なんだか胸が苦しく……。

 

「坂柳さん? 坂柳さん!?」

 

 かれの……こえが……。

 

 




椎名「坂柳さんが? ……そうですか」
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