実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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 明日更新がなかったらごめんね。たぶん1話くらいはあると思う。めいびー。


坂柳有栖Ⅵ

 

 私の父は言いました。

 

『長洲ハヤトくん。彼なら問題ないだろう』

 

 ぼかした言い方ですが、それが何を意味しているのか私にはわかりました。私は世間一般で言うところのお嬢様に相当します。この高度育成高等学校の理事長の娘というブランドもあります。()()()は生半可な人間では務まりません。

 真っ当に考えれば、父とパイプを持つ人間の息子が相応しいでしょう。裏切りの心配なく、地力もあって任せられますから。もちろん個人の能力も重要です。私の最大の手足が無能では意味がありません。

 

 そこで目をつけられたのが長洲くんです。彼の家系は特筆するものがありません。一般層では裕福。それくらいです。失礼な話ですが、鳶が鷹を生むというやつです。

 彼に言ったら怒られそうですね。もう二度と言わないようにしましょう。

 ともかく、長洲くんは父の中で最有力候補となりました。人格、能力ともに申し分ないのは私がよく知るところです。家の地力がなくとも補って余りある個人として評価。お弁当の件も、彼に親しみを持たせるためのもの。もちろん彼だって気づいていますし、彼が気づいていることを父も気づいています。腹芸の応酬ですね。

 彼を納得させるには、彼に好かれるしかありません。それが私に課せられた目標です。

 

 

 

「先生。もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか。私は何の病気ですか?」

 

「いいですよ。よくお聞きください坂柳さん」

 

 目を覚ましたら病院にいました。駆けつけてくれた真澄さんに補助してもらいながら簡単な診査も終え、今は用意された病室で審査結果を聞かされているところです。長洲くんの姿が見えませんが、病院内にはいるとのこと。

 

「あなたは心の病を患いました」

 

「はい」

 

「恋の病です」

 

「真澄さん。セカンドオピニオンといきましょう。他の病院に行きます」

 

「どこ行っても同じでしょ」

 

「あなたまで何てことを言うのですか!?」

 

「はぁぁぁ。頭痛い」

 

「丁度よいではありませんか。あなたも頭を診てもらってください。脳に支障があるのでしょう」

 

「あなたの名前は?」

 

「神室真澄です」

 

「異常なし」

 

「そんな診断がありますか!?」

 

 何ということでしょう。国が用意した特別な学校。そこに用意された特別な病院ですよ。務めている医師も名医として知られている方が多数。この方もその1人のはずです。

 しかし現実は非道なもの。彼の栄光の数々は過去のものとなっていたようですね。

 

「重ねて確認しますが坂柳さん。入学してから体調不良はなかったのですよね?」

 

「はい。友人のサポートにも助けられて安定していました」

 

「今回は急に息苦しくなったと」

 

「そう記憶しています。発作ではないのだとしても、他に何か病があるとしか」

 

「恋だね」

 

「ふざけないでください」

 

 やれやれと医師が肩をすくめました。何がやれやれですか。真澄さんも何を頷いているのですか。私よりもこの年老いた医師の肩を持つ気ですか。もしかして相当な年上が好みなのですか。理解はできませんがあなたの幸せは応援しますよ。この医師以外なら。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

 

「まさかそんな」

 

「坂柳。あんた長洲のことをどう思っているのよ」

 

 それは最近された質問と同じですよね。真澄さん、あなたやはり検査を受けたほうがいいですよ。

 

「長洲くんのことは好いていますよ」

 

「恋だね」

 

「黙ってください。恋だなんてそのようなもの、私とは無縁です」

 

「じゃあ長洲が他の誰かと付き合ってもいいってことよね。結婚してもいいのよね」

 

「いえそれは私が」

 

「……あんたは愛のない結婚でも許容できるかもしれない。けど長洲は絶対それに賛同しないわよ。私に言われなくたって坂柳ならわかってるでしょ」

 

「そうですね。ですから長洲くんに私が好かれるように動いています」

 

「それで長洲に何て言われたのよ」

 

 今日の真澄さんは随分と強気ですね。

 長洲くんに言われたことは鮮明に覚えていますよ。当たり前じゃないですか。私の中で響いています。ずっとこの胸にあるんです。

 

「正直、他にいないならここまで言わないわよ。坂柳のペースに任せてた」

 

「……」

 

「長洲に惚れてる女子は他にもいる。坂柳が思っている以上に」

 

「ぇ……」

 

「そんな調子じゃ()()()()()。いい加減目を逸らすことはやめたら?」

 

「ですが……」

 

 これが恋だと認めてしまったら。

 

「弱くなって、しまいます」

 

 今までできていたことができなくなりそうです。私の強みが減ってしまうかもしれません。恋だと認めたら変わってしまう。

 もし、もしもそうなってしまったら。私が弱くなってしまったら、長洲くんと並べなくなってしまいます。価値が下がったなんて、思われたくない。彼の隣に、相応しくありたい。

 

「坂柳さん!」

 

「っ!? 長洲く──!?」

「よかった……! 無事でいてくれて……!」

 

「ぁ、あの……」

 

 ただでさえ揺らいでいる時に長洲くんが入ってきてしまいました。それどころか私は今彼の腕の中に包まれています。距離はもう0です。彼の体、体温、匂いまで。すべての情報が一気に脳に押し寄せました。

 顔が熱いです。火傷している気がします。心臓も煩いです。彼に聞かれてしまっているのでしょうか。

 真澄さんと医師は病室から出ていきましたし、2人だけになると余計に意識してしまいますよ。

 

「本当に、心配した……!」

 

「……、ご迷惑をおかけしました」

 

「迷惑なんかじゃない。そんなこと言わないでくれ」

 

「すみません……。ありがとうございます。心配してくださって」

 

 長洲くんの体が震えていたことに気づきました。彼は本当に、それだけ心配してくれていたのですね。思い出してみたら、目元も赤くなっていたような気がします。今は顔が見えないので確認できません。

 自分勝手な話ですが、彼に心配をかけさせた罪悪感よりも、彼にこうして包まれていることや心配してもらえたことの多幸感が勝っています。

 真澄さんの言う通りです。私は私の気持ちに蓋をしています。

 ですが、

 

「長洲くん。もし……もしもですよ? もしも私が強みをなくしたら、それでも……側にいてくれますか?」

 

 声が震えてしまいました。長洲くんにも気づかれていますよね。

 長洲くんは間髪入れずに考える素振りもなく、私の背に回している腕に力を僅かに加えました。より密着してしまって思考が止まりそうです。

 

「当たり前だろ……! 勉強ができるとか運動ができるとか、そんなのはどうでもいいんだよ。そんなことを見て友達になってるわけじゃないんだから……!」

 

「そう、ですよね。……ええ。愚かな質問でした」

 

 結局のところ、私は彼を信じ切れていなかったわけですね。沈着冷静に考えれば、それくらいわかりきっていたことなのに。

 その判断さえできなくなってしまう。些細な不安が大きなものになる。これが恋というものですか。わかったとしても、認めても、本当に困ったものです。

 

 私は長洲ハヤトくんのことが、1人の男の子として好きです。どこがと言われたら、全てと答えますね。言語化はもちろんできますが、一番は決められません。

 優しいところも、甘いところも、真剣な表情も、笑っている顔も、対等に見てくれるところも、頭が良いところも、運動ができるところも、料理が上手なところも、耳に残る声色も、心を暖かくしてくれるところも。

 それ以外もすべて含めて、私は彼が好きなのです。

 

 ですから、我儘になっても仕方ないですよね。

 

「長洲くん、少しいいですか?」

 

「あ……ごめん。許可なくこんなことして」

 

「いえ、私は長洲くんなら構いませんよ。顔が見たいだけです」

 

「……」

 

 男の子ですからね。泣いた跡の残る顔は見られたくないでしょう。女である私でも嫌です。

 それでも長洲くんは顔を見せてくれました。勝手に私に触れたことを気にしているのでしょう。想定通りです。

 両手で彼の頬に触れます。涙の跡を切るように頬を撫で、それだけ想われていることについ口元が緩みました。これは沼ですね。安易には抜け出せません。

 

「長洲くん、私はどうやら長洲くんに狂わされてしまったようです」

 

「え……。ごめん……」

 

「ですから、目を閉じてくださいますか?」

 

 素直に従ってくれました。

 思わず、自然と笑みがこぼれます。

 私は、優しい言の葉を紡ぐ彼の口を塞ぎました。時間にして5秒ほど。体感的にはその何倍も。

 そっと離れて目を開けると、少し遅れて目を開いた彼と視線が合います。戸惑いがありますね。そんな姿にも心が暖まります。

 

「責任、取ってくださいね。ハヤトくん」

 

 人生で初めて好きになった人。その人の名前は、何よりも甘美な響きをしていました。

 

 

 

 後日、真澄さんにどうやって私の気持ちに気づいたのか聞いたところ「見てればわかる」とのことでした。そうなんです。私の親友は優秀なんですよ。

 




椎名「…………坂柳さんと何かあったんですか?」
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