無人島で行われる特別試験。これは1週間のサバイバル生活となります。各クラスは300ポイントが与えられ、それで食料や簡易施設など諸々が与えられる。しかしこのポイントは試験終了時にクラスポイントになるので、どう使うかは各クラスで別れることでしょう。
うちのクラスは龍園くんの指示で豪遊をしていますが。
「見合ったポイントを獲得できるんですか?」
「じゃなきゃ遊ばせてねぇよ」
「ハヤトくんなら意図を見抜くと思いますが」
「だろうな。だがこれは通る。あいつの許容範囲にわざわざ入れてやったんだからな」
「内容は後に分かるからいいですけど、私は島に残りますよ」
「あ?」
「ポイントは完全消費。クラスのみんなも一部を除いてリタイアさせるのでしょう?」
龍園くんがこの環境で1つだけの作戦を実行するとは思えません。リーダーを当てられたらマイナス50ポイント。当てたらプラス50ポイント。ここも活用するはずです。そのためには探らないといけませんから、スパイを送りますよね。
「私がスパイ役をやりますよ。私がクラスに馴染んでいないことは、一之瀬さんもご存知ですから。適役ですよね」
「……馬鹿が」
「……?」
「スパイ役はそれなりに痛めつけて送り込む。演技だと疑われにくいレベルでな。ハヤトなら気づく上に、演技だと知ってようとうちのクラスを標的にする」
「ではスパイを送らないと?」
「そうじゃねぇ。あいつがうちのクラスを標的にする条件は、
「え……」
「島に残りたければ好きにしろ。点呼も必要ない。俺の邪魔だけはするな」
「……わかりました。では、食材がなくなる前にハヤトくんを呼んでBBQを楽しみますね」
「……強かだなァ、オイ」
島に残る口実のためにスパイ役を買って出ましたが、その必要もなく残れるのですね。それなら好きに楽しまさせてもらいます。
生活環境を考えれば、無人島での生活よりもクルーズ船での生活の方が快適です。当たり前ですね。ですがそこにはハヤトくんがいません。1週間は長いですし、どうやらハヤトくんの隣を狙っている方もいるようですからね。
無人島では各クラス離れていますが、そこは問題ではありません。Aクラスの動きはしりませんが、ハヤトくんがやりそうなことを考えれば絞れます。必ず飲み水を確保できるか確かめるでしょう。
「とっ──ん? 椎名?」
「やらないんですか? とったどーって」
「タイミングを逃したからやめとく。何してるの? こんなとこで」
「木製の銛で魚を獲ってるハヤトくんこそ」
「魚はおまけ。川の水は案外飲めそう」
上の服は脱いで川に浸かったまま。会話を続けていて体調を崩させるわけにもいきませんから、川岸にあがってもらいますか。
「クラスで行動しないんですか?」
「拠点探索組と食料確保組に別れてるんだよ。おれは飲み水の確保を優先的に考えてたから、こうやって川に来てたわけ」
「なるほど。それではお時間ありますよね。来てください」
「どこに?」
「うちのクラスは今ポイントをふんだんに使って豪遊してますから、一緒にBBQしましょう」
「行く」
ハヤトくんにしては珍しいほどの即答でした。彼だって食べ盛りの現役男子高校生ですもんね。落ち着いていて大人びた様子があっても、こういうところは年相応です。
「ふふっ」
「?」
「なんでもありません。なくなる前に行きましょう」
新たな一面を見られたことが嬉しい。わざわざ伝えることでもないので、私はそれをはぐらかしてハヤトくんの腕を掴みました。誰も見ていませんし、物理的に距離を縮めても何も問題ありません。
クラスの拠点へと戻ってみたら、まだBBQは終わっていませんでした。他クラスのハヤトくんを訝しむ人もいましたが、それを言葉にする人はいません。龍園くんと関係があることは周知の事実ですし、その龍園くんが追い出そうとしません。
「食いてぇならお前が焼けよ」
「当然」
むしろ進んでハヤトくんを参加させました。もしかしたら龍園くん、まだ食べていなかったのでしょうか。ハヤトくんが来るなら任せるのが適任です。自分たちで焼くより美味しいお肉になります。龍園くんもハヤトくんの料理が好きなんですね。
お肉は赤身に気をつけて焼けばいい。それが常識的な認識なのですが、ハヤトくんはそれでは満足しません。焼き加減をリクエストし、調味料まで使ってさながらシェフのように次々とお肉を焼いていきます。
「ハッ。焼き奉行の腕も鈍ってないようだな」
「口に合ったなら何より。はいこれ椎名の分」
「ありがとうございます」
ハヤトくんにも食べてほしいのですが、注目が集まってしまって今では順番待ちの列まで。皆さんさっきまで食べていましたよね。
龍園くんに目で訴えかけると、ハヤトくんの分のお肉は確保してくれていると教えてくれました。こうなることを見越してのこと。誰よりもハヤトくんを評価しているのは、間違いなく龍園くんです。
できればハヤトくんと一緒に食べたかったのですが、そこは残念ですね。
「半分寄越せ」
「え?」
「この量じゃ俺には足りないからな。減った分は
「ぁ……」
私のお皿から本当に半分取った龍園くんは、自分用に購入したビーチパラソルの下へ。そこに設置してある椅子に座って、小山くらいには盛られたお肉を食べ始めました。
あとで、というのは最後にということ。ハヤトくんが自分のお肉を焼く時です。……お礼は言いませんよ?
「本当にリタイアさせたんだ?」
「みたいですね。ハヤトくんはどうするんですか?」
「……どうもしないかな。まだ葛城くんと坂柳さんの牽制合戦があるし」
それで龍園くんはAクラスに仕掛けたんですね。ハヤトくんも何か起きていることは理解していますが、龍園くんがラインを超えない。まだクラスのためには動かないようですから、この特別試験は龍園くんがAクラスに仕掛けられる千載一遇のチャンスです。
逆に言えば、ハヤトくんがこの競争に混ざるようになってからが本番。坂柳さんも油断ならない相手ですし、先が思いやられますね。
「この学校、あんま好きじゃないんだよね」
後ろに手をついて、夜空を見上げながらハヤトくんはそう言いました。人工的な光のない無人島。街では見えないような綺麗な夜空を私も見上げます。
Cクラスのほぼ全員はリタイアしていますが、他のクラスはそうでもありません。坂柳さんは体調面の不安もあり不参加ですが、それ以外は全員参加しています。開始後の他のクラスの脱落者は知りません。
私はハヤトくんと一緒にAクラスの拠点に来ました。ルールがルールですからスパイを疑われましたが、「リタイアが続出した不真面目なCクラスに合わせたくない」とでっち上げたら許されました。ほとんどハヤトくんの顔を立ててもらった形ですが。
「争いごとが好きじゃないのは私も同じですよ」
膝を抱え、左手はハヤトくんの右手に乗せました。この夜空は綺麗ですが、より鮮明に見えるのは隣にいてくれる人のおかげ。
あなたがいてくれるから、私の見える世界はこんなに彩っているんですね。
「進路が確定されるAクラスは目指したいものですが、卒業後のそれよりも魅力的な収穫はありました」
「……」
「ハヤトくん。あなたに出会えたことです」
この感情の名前はまだ見つかりません。うまく表現できません。
それでも言えることはあります。伝えられる想いはあります。
「I really like you」
私がハヤトくんのことを好きだということです。
恋なのか愛なのか。
その「好き」は like なのか love なのか。
「I really like you」はとても素敵な歌の名前でもあります。おすすめ。