運命や偶然といった言葉を多用することはあまり好きではありません。そこに人の意思や意図があるのなら、それは必然へと変わっていくからです。最近は、運命の出会いなどのロマンスを感じるものには、寛容になったと思います。私自身、自分が誰かを好きになるとは思っていなかったからです。
価値観やモノの見え方の変化。驚くことに彼との出会いは私に影響を及ぼしました。
「1週間は長いですね」
無人島での特別試験は初めからリタイア。上陸すらしていません。他の生徒たちが上陸していくのをこっそりと見送っただけ。私に気づいてくれたハヤトくんだけと手を振り交わしました。
それが逆効果だったかもしれません。
「早く、帰ってきてくれないでしょうか」
会いたい。
彼の顔を見たい。声を聞きたい。触れたい。
ベッドで横になっていても虚しさが胸の中で渦巻くだけ。私は随分と弱くなってしまいました。
「ハヤトくん」
寂しさを埋めるように名前を読んでも、返ってくる言葉はありません。こんなに感情の整理ができないのは初めてのことですよ。
「坂柳さん、葛城くんのことハメた?」
「私は私の駒に指示をしただけです。それを言うなら、何もしなかったハヤトくんも同じじゃないですか?」
「そこはそうだね」
無人島での試験を終えたハヤトくんは、シャワーを浴びた後に私の部屋に訪れてくれました。来てほしいという連絡を入れていたのは私ですが。
ベッドに並んで腰掛けてもらい、彼の左腕を抱きかかえる。手は恋人繋ぎにさせてもらいました。会えなかった1週間分の気持ちは、これでも簡単には埋まりません。ふふっ、困りましたね。
「宣言通り、2学期からは私がクラスを纏めます。ハヤトくんも協力してくれますよね?」
「協力できることはね。そこは坂柳さんも理解してるでしょ?」
「そうですね。ハヤトくんは相手を貶めるやり方を好まない。ですが、それを止める気もないんですよね?」
龍園くんを放置していますし。
「度合いによるよ。罠にハメるのならまだしも、相手の心身に傷を負わせるのは見過ごせない。その場合おれは敵対する」
「では、そうならないようにラインを見極めるとしましょう。私のやり方は攻撃的ですから」
「攻撃的ね」
なんだか温かな目で見られていますね。子ども扱いされているように感じます。今の状況的に何も否定はできませんが。
「坂柳さんはこの船旅、無人島での試験で終わりだと思う?」
「
「坂柳さんって小悪魔みたいだよね。かわいいのに怖いところがある」
「美しい花にはなんとやらです。……もう一度言ってもらってもいいですか?」
「坂柳さんって怖いよね」
「そうじゃないです!」
「ごめんごめん。そういう反応とか、普段とのギャップがあってよりかわいいよ」
「……複雑です」
もっと素直に答えてくれてもよかったじゃないですか。ハヤトくんにしてはちょっと意地悪ですよね。
「坂柳さんってこの1週間をどう過ごしてたの?」
「退屈に過ごしていましたよ。Cクラスは早々に帰ってきていましたが、興味もないので話すことはありませんでした。ですので、ハヤトくんにはこのまま部屋にいてもらいます」
「寝る時には部屋に戻るからね?」
「ここで寝たらいいじゃないですか」
「それは駄目でしょ。坂柳さんは女の子なんだから」
「ハヤトくんだから許可しているのですよ? それにハヤトくんなら、イイですよ?」
「……坂柳さん。そういうのはおれ好きじゃないな」
「っ! ご、ごめんなさい。軽率な発言でした……」
明確な否定だった。声がいつもの穏やかなものではなかった。その雰囲気に私は背筋が凍り、血の気が引きました。彼に嫌われてしまったかもしれない。もしそうだったら、私は生きていけません。
「これくらいで嫌いになったりはしないよ。おれも伝えてなかったし、ごめんね」
「で、ですが」
「女の子が簡単にそういう事を言うのは、やめておいた方がいいと思うよ。とりあえず、今の発言だけで坂柳さんと距離を置いたりはしないから」
重ねている手に優しく力が込められました。先程の雰囲気はすでに霧散していて、彼の切り替えの速さに驚かされます。この話はもう引きずるべきではないのかもしれません。ですが、きちんと伝えねばならないこともあるのです。
「……誰にだって言うわけではありません。本当にハヤトくんになら、とそう思っている」
「坂柳さん」
少しハヤトくんの語気が強くなりました。
掘り返すリスクは大きいでしょう。それでも、引けない時は引けません。攻める方が私の性格に合っていますから。
「私は本気なんです!」
精一杯の速さで体を動かし、唇を重ねてそのまま押し倒します。普段の彼ならそうならずに受け止めたのでしょう。私が声を張り上げたことに驚いて反応が鈍かったのかもしれません。
10秒、20秒……どれだけ重ねていたのかはわかりません。もしかしたら、まだ足りていないかもしれません。私は口を離してハヤトくんを見つめます。
「もっと私を見てください」
目頭も熱くなってきます。
「見てるよ」
「いいえ。見ていません。病院の時くらいです。ちゃんと私を見てくれていたのは」
「そんなこと……」
「あるんですよ。女の子は男の子の視線に敏感なんです。ハヤトくん、あなたは私と話している時、常に他の人のことも気にかけていますよね。特に一之瀬さんのことを」
「……」
「あなたの性格と彼女の性格、彼女がBクラスのリーダーであり私の標的になりやすいこと。それらを考えれば理解できます。ですが心では頷けません」
心、なんて言葉が私から出ることもあるんですね。狂わされる。それもこれもあなたのせいなんです。
「私といる時は私だけを見てください。他の人のことなんて考えないでください。そんなこと……辛いんですよ?」
「っ……。そう、だよね。ごめん坂柳」
ハヤトくんの右手が背に回されて、支えられている状態で体を起こされました。座って抱き合っているような、そんな態勢です。
「おれは坂柳に真摯に向き合えてなかった。最低な男だよ」
「届いたようで嬉しいですよ。それと、私の彼は最高の人です。自分を下げないでください」
「付き合ってないでしょ」
「ええ。まだ、ね」
「あのね」
ふふっ、否定はしないんですね。それなら、可能性があると期待していいですよね。
「……ちゃんと答えを出すから」
「はい。それでは私もその時に改めて気持ちをお伝えしますね」
明確な言葉にはまだしていないですから。「好き」だと、張り裂けそうなほど膨らんでいるこの想いを伝えるんです。
「待ってますから」
「あ、今日は一緒に寝てくださいね。1人で過ごすのも寂しかったので」
「……はい」
椎名「……何か起きていますね」
龍園(巻き込まれたらハヤト殴るか)