実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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一之瀬帆波Ⅶ

 

 この学校はやることに無駄がないというか、学校側が用意したものには必ず意味を持たせてくる。この船は無人島での試験のためだけではなく、船の中でも試験を実施してるのだから。

 

「私としてはみんなで手を取り合ってポイントを分けたいんだけどね」

 

「競争だからそうもいかないでしょ。どっちのやり方も理解できるし、一之瀬さんのやり方がおれは好きだけどね」

 

「嬉しい。はぁぁ、長洲くんが同じグループにいてくれたらなー」

 

「何か変わってた?」

 

「私の選びたかった選択肢になってたよ」

 

 頬杖をつきながらパフェにスプーンを伸ばす。行儀悪いから普段ならこんなことしないんだけど、思いの外溜まるものがあるみたい。

 

「Aクラス行きを強く望む人ほど、協力はしたくないだろうね。早くポイントを手に入れて、Aになった後も手を緩めない。5月に0ポイントスタートになったDクラスは余計にね」

 

「……そうだけど」

 

 ポイントの差はそれだけ焦燥感を生み出す。無人島での試験を終えた時点でAクラスは1000ポイントを超えてた。ポイントの差が大きいC・Dクラスはこの試験を見逃したくない。Aクラスとしても、裏切られてポイントを減らされるリスクを考えたら……。

 長洲くんと話しているとその意識が薄れちゃうけど、これがこの学校での本来のやり方なんだよね。

 

「長洲くんのグループは成功してるんだよね? なんか今日も楽しくトランプで遊んでたって聞いたんだけど」

 

「楽しく大富豪で遊んでたよ。人数が多いから2グループに分けて遊んでた」

 

「いーなー。やっぱり私も長洲くんと同じグループがよかった」

 

 私のやりたいことを成功させてる。長洲くんだからできたこと。私にはできなかったこと。

 

「どうやって成功させたの?」

 

「なんも喋らないのも暇だからやりたい人で大富豪しようって誘って、だんだん参加者が増えた」

 

「にゃるほど。没収はされないんだね」

 

「先生への言い分も用意してたからね。相手のカードの切り方、仕草や思考の癖が見えるから分析に役立つって。あとポーカーで負かした」

 

「パワフルなところもあるんだね」

 

「引いた?」

 

「惹かれた」

 

 実力があって、優しさがあって。カッコイイんだから。

 

「……Dクラスが気になる?」

 

「え……」

 

「一之瀬さんも何かあったことは気づいてるんでしょ?」

 

「……うん。長洲くんも関わってるんだよね」

 

「まぁね」

 

「聞いたら教えてくれるの? 軽井沢さんや綾小路くんと何があったのか」

 

「細かいことは教えられないかな。軽井沢さんに悪いから」

 

「そっか」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()? じゃあ彼が何かやったのかな。軽井沢さんの様子はどこかおかしいというか、綾小路くんのことを気にしてた。指示があったとも考えられるけど、長洲くんが関わるのならそれだけじゃない。

 

「一之瀬さんならそれなりに真相に近づけるんじゃない?」

 

「……私の考えてることは、当たってほしくはないかな」

 

「答え合わせはしないよ。関わってはいるけど中心人物じゃないからね」

 

「うん。わかってる」

 

 本来長洲くんがこの話を振る必要もない。この特別試験で私が所属してるグループ内で起きたことを、わざわざ他のグループの、しかも他クラスの長洲くんが教える必要性はないんだ。

 それなのに話題に出してくれたのは、長洲くんなりにできる最大限の譲歩。そこから紐解いていけば、自ずと優待者も割り出せてくる。

 

「……」

 

「解答はしないんだ?」

 

「……うん。私の力でわかったことじゃないし。今回は完敗だよ」

 

 もう最終日だし、私はみんなでのゴールを目指してた。その私が他の人を裏切って解答するなんてあり得ないよ。もし私が勝てるとしたら、それは長洲くんみたいにみんなを丸め込むしかなかったんだ。

 

「自分の力不足が悔しいよ」

 

「一之瀬さんはやれるだけのことをやった。それに、他のクラスがどう動くのかを知らなかった。次からはまた変わるよ」

 

「……かな」

 

「一之瀬さんは性格も知られてるし、策を練る側からしたらやりやすい。他をハメる手段は選ばないからね。今回の要因はそこだから」

 

「それでも……私は正直不安だよ。長洲くんは私と同じ考え方なのに成功してる。その長洲くんがリーダーを任せられる人がAクラスにいるんでしょ? ……どこまで食い下がれるか」

 

 葛城くんは防御派。そういう意味では協力し合うこともできた。危険視しないでよかった。だけど、龍園くんは攻撃的思考で、綾小路くんもたぶんそう。他にもDクラスはポテンシャルを秘めてる。バラバラのクラスがもし纏まったら、それは今以上の実力を発揮することを意味してる。

 この学校のやり方。他のクラスのリーダーや実力者。それらの相性は私と悪い。冷静に分析すると先行きが不安になるね。

 席を立ってテラスの手すりに腕を置く。長洲くんは黙ってついてきてれて、隣に立ってくれた。それだけでも、救われることもある。

 

「ごめんね。この後、最後の集まりがあるのに」

 

「気にしないで。優先することじゃないから」

(集まる必要もなさそうだし)

 

「……っ!」

 

 長洲くんの胸に頭を押し当てる。その胸にすがりつくように、シャツに皺ができちゃうくらい強く掴んだ。

 

「ごめん……! ちょっとで……いいから……!」

 

 こうさせてほしかった。私が弱さを見せられる相手に、それを曝け出せる時間が欲しかった。

 

「時間なんて気にしなくていいよ。一之瀬さんは本当によく頑張ってる。おれはそこまでみんなのためには頑張れない」

 

「ぁ……」

 

 温かな手に包まれる。いつかの日みたいに、彼の手がそっと頭を撫でてくれた。それが最後のひと押しになって、私の目から静かに涙が溢れてく。

 声を殺しながら静かに流し続けて、その間ずっと長洲くんは私を包んでくれて。氷が溶かされるように抱えていたものも流れていく。

 そして涙が止まったときには、それなりにすっきりできてた。

 

「一之瀬さん無理してない?」

 

「大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

「そりゃあ目の前で泣いてる女の子がいたらね」

 

「にゃはは……、内緒にしてて」

 

「それはもちろん」

 

「私はまだ頑張れるから」

 

「頑張り過ぎないでね。体に毒だよ」

 

「うん。だから今エネルギー貰ってる」

 

 半歩距離を詰めて、長洲くんとさらに距離を縮めた。離れようとする長洲くんの手は留めさせて、この温かさを胸に染み込まさせてもらう。満たされていくのが実感できた。

 長洲くんは私の元気の源だね!

 

「あれ? 長洲くん耳が赤いような。大丈夫?」

 

「大丈夫。それより一之瀬さん、調子は戻ってきた?」

 

「うん! でも……」

 

「でも?」

 

「不安は残ったままだから。……ねぇ、わがままな質問していい?」

 

「いいよ」

 

「もし……もし私がしんどいって言ったら、助けてくれる?」

 

「当たり前じゃん」

 

「Aクラスと競ってる時でも?」

 

「おれはクラスに拘ってはいないからね。その時は一之瀬さんの味方になる。クラスを敵に回しても側で支える」

 

「……! ありがとう」

 

 安心したところで船内にアナウンスが響いていく。聞こえてくるのは自動音声で、各グループの試験が次々に終了していってる。

 私は驚き半分、納得が半分だった。長洲くんが時間を気にしてなかった理由がこれだってわかったから。こうなることを予想してたんだね。

 音声が流れている途中で、長洲くんの携帯の着信音も聞こえてきた。長洲くんはそれに出て、私が聞き耳を立てているのも許容してくれた。相手は龍園くんだ。

 

『どういうつもりだハヤト』

 

「どうもこうも、翔が先抜けって話でしょ。やるね」

 

『ふざけたこと言ってんじゃねぇよ! お前がこの試験の法則を見抜けないわけねぇだろ!』

 

「優待者が干支の順番って話?」

 

 なんのことかわかるように、私に教えるためにわざわざ長洲くんが言語化してくれてる。言われてみて思い返したら、本当にそうだった。同じクラスの子たちの優待者と、兎グループの優待者を照らし合わせたら判明する。

 これ、長洲くんはいつの段階から?

 

「いやね、今回の特別試験で思うところがあってさ」

 

『あ?』

 

「目的をどうするかって話。ともあれ、今回はCクラスの勝ちだね。2学期からは坂柳が纏めるから対抗するなら頑張れ」

 

『……チッ』

 

「切られちゃった。一之瀬さん?」

 

 じーっと見上げてたら長洲くんと視線が重なった。ちょっとドキッとしたのは置いといて、気になったことを聞かないとね。

 

「坂柳さんのこと呼び捨てなんだ?」

 

「え? ああ、うん。より仲良くなったというか……」

 

「私は仲良しじゃない?」

 

「仲良しだと思ってる」

 

「じゃあ私も呼び捨てにしてくれるよね?」

 

「え」

 

「ね?」

 

「……わかったよ一之瀬。改めてこれからもよろしくね」

 

「うん!」

 

 末永く、なんてね!

 

 それと私の話も、今度聞いてね。

 

 




椎名「ハヤトくんなら説明時点で感づいていましたよ。見ていたのでわかります」
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