状況を整理しましょう。
ハヤトくんのことに一番詳しいのは龍園くんです。ここは揺るがないですね。親友と言っても良さそうな2人ですが、2人の口からはその単語が出てきません。男の子のよくわからないプライドなのか、事情があるのかの2つです。
ハヤトくんと仲の良い人たちは多いです。各クラスにいますし、上級生の中にもいます。先生方にも、ハヤトくんと良好な関係を結べている人がいるようです。反対に警戒している先生もいるようですが。
特に仲の良い生徒は絞られてきます。というよりは、距離を自ら縮めた生徒ですね。男の子の中では見受けられませんが、女の子だと数名います。
坂柳さん、一之瀬さん、そして佐倉さん。
どの方も魅力のある方ですが、彼の隣を譲る気はありませんよ。
「……これいつまで?」
「私が満足するまでです。ハヤトくんは今、眠くはないようですから。横になって少しでも休んでください」
「……」
ベッドに腰掛けている私と、ベッドで横になっているハヤトくん。彼の頭は私の脚に載せてもらっています。膝枕というよりは、ほとんど太もも枕ですね。
定期的に言わないとハヤトくんは休んでくれません。倒れられては困りますから、こうしてゆっくりしてもらう時間を作るんです。彼が多忙なのは知っていますし、手助けできることはしていますが、私にできることも限られていますからね。
私だけが持っている特権で、こうしてハヤトくんにゆっくりしてもらうんです。他のお三方にはできないことです。
「2学期からはやることがまた増えるようですし、夏休みの間に英気を養ってください」
「おれ話してないよね?」
「龍園くんが電話していた時に私も聞いていましたから」
「なるほど」
謎解きはともかく、ハヤトくんのことは一番見ていますからね。予測を立てることも難しくはなかったです。加えて言えば、最終日は集まりに来ていませんでした。いつも指定時間より早めに来ていたハヤトくんが。そこを踏まえれば、今日なんだなと理解できます。
「2学期からの目標は立てたけど、表立って行動するわけでもないよ」
「そうなのですか?」
「うん。基本的にこれまで通りだから、椎名も部屋に来てくつろげるよ」
「っ! ふふっ、それはよかったです」
私の好きな時間はこれまで通り確保される。それだけのことがこの上なく喜ばしい。
この喜びを噛み締め続けていてもいいのですが、それはまた後にしましょうか。聞いておきたいことは早めに聞きましょう。
「軽井沢さんの件は、よかったんですか?」
「椎名も気づいてたんだ?」
「龍園くんの指示にない行動ですから、Cクラスではそれが悪目立ちするんです。ハヤトくんを敵に回したくないんでしょうね」
「めちゃめちゃ警戒されてるね。……ま、今のとこCクラスを標的にはしてないよ」
「それは何よりです。それはそうと、ハヤトくんはどうやって気づいたんですか?」
「直感」
はぐらかしているわけではないようですね。真面目に答えて内容がこちらですか。
そういえば龍園くん、あの性格なのに荒事は起こさないようにしていましたね。やっていてもおかしくない。いえ、むしろ
それもこれも、ハヤトくんが気づいて介入しないようにですか。どうにも理論だけでは納得し難い話。しかし直感とはそういうものですよね。
「真鍋さんたちは利用されただけ。翔もDクラスへの警戒を強めただろうね」
「Dクラス……、いいんですか? 軽井沢さんの件は、身内に仕向けられたという話になりますよね」
「目的は妨害したし、誘導もした。おれのスタンスも理解しただろうから、あとは友達のままでいられるか、それとも相対するかだよ」
「……話の流れから考えるに、その人に軽井沢さんを任せていますよね。もう一度聞きますよ? いいんですか?」
ハヤトくんらしくないように思えます。いつもの彼ならその状況まで至った被害者にもっと寄り添うでしょう。手を差し伸べます。
そのはずなのに今回はそうしていない。軽井沢さんはハヤトくんの中では好きになれないタイプなのでしょうか? 面識がないのでわかりませんね。
見下ろして問い詰めると、ハヤトくんは困ったように笑って体を起こしました。感じていた彼の重みが消えて寂しいです。なので距離を詰めて腕を絡めます。
「椎名の違和感で正解だよ。本来ならそうする」
「ですよね。一之瀬さんの時も、佐倉さんの時もそうでした。危険な目に遭遇することも厭わずに」
「2人の共通点はわかる?」
「胸が大きくてハヤトくん好みということでしょうか」
「あのね……」
「冗談です」
否定はしないんですね。……私も小さくはないと思うのですが。女性のタイプも聞いてみますか。
それはそうと、2人の共通点ですか。どちらも初めてハヤトくんと接触した日に私も部屋にいましたが……。ああ、なるほど。
「2人の方からハヤトくんに相談していますね」
「そういうこと。おれの中である程度ルールは決めてるんだよ。重要度でブレるけど、相手からのアクション前提で手伝うことにしてる」
「何かあれば相談を受け付けるとよく言っているのもそういうことですか」
「そうだね。昔の失敗からこういう形にしてる」
「……ハヤトくんに何があったのか、正直それはすごく聞きたいです。もっとあなたを支えられるように」
「……」
そう言っても、彼が教えてくれるわけではありません。簡単には言えないからこそ秘密。いえ、表情から読み解くに、秘密というより抱えているものです。
「私では、まだ駄目ですか?」
「っ! そういうわけじゃ……」
「……ごめんなさい。困らせてしまって」
「いや……おれの歯切れが悪いだけだよ」
ハヤトくんは何か考えたあと、ベッドから離れました。絡めていた腕は解き、目で追っていると1つの紙袋が取られます。気になってはいたものですが、中身は何なのでしょうか。
「変なタイミングになっちゃったけど、椎名にプレゼント」
「私に、ですか? 開けてみても?」
「うん」
受け取ったプレゼントの中身を確認すると、そこにはリボンが入っていました。紺色と白色のかわいらしいリボンがそれぞれ1つずつ。
「無人島試験で椎名のリボンが傷んじゃってるみたいだったから。BBQに誘ってくれたのもあるし、椎名にお礼もしたくて」
「ハヤトくん……」
「同じやつを見つけられたら良かったんだけど、見つけられなかったからできるだけ似てるやつを選んでみた」
もう、ハヤトくんときたら。
「っ!」
「…………ん。とても嬉しいです。大切に使わせていただきますね」
「う、うん。それならよかった」
こんなに嬉しいことはなかなかありません。100点満点です。思わず笑顔も満開になりますよ。
この喜びを伝えるのには言葉だけでは足りませんし、先程のだけでは足りません。プレゼントは一度テーブルに置かせていただき、両腕をハヤトくんの首に回します。
「椎名?」
「佐倉さんと……あとは坂柳さんもでしょうか」
「え……」
「もう少し身を固めていただかないと、私妬いてしまいますよ?」
「あの──」
聞きません。言い訳は不要です。ハヤトくんの優しさと甘さが引き起こしたことですから。これ以上増えられても困りますし、悠長なことも言ってられません。
慎重な判断にはなるでしょう。他人を傷つけたくない人ですから。それこそいつしかの一之瀬さんと同じです。
それならこちらから選択肢を潰してあげたらいいんです。迷わせません。目移りさせません。
「私だけを見てください」
一度口を離してそう耳元で囁き、もう一度ハヤトくんの口を塞ぎました。
熱く、深く。
私だけを意識してほしくて。
ハヤトくんに改めてお礼を言いに来た軽井沢によって中断させられましたが、私たちの関係を聞かれて答えに困っていたので良しとしましょう。
少なくとも、私のことを女性として意識してもらえるようになりましたから。