実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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佐倉愛里Ⅵ

 

 私にとって、変わるということはとても難しいこと。「雫」はいつもの自分からかけ離れていて、作ったと言ってもいい。どこか現実味がないというか、完全な仮面。

 その仮面を被らずに、佐倉愛里のまま変わることは怖い。人付き合いが苦手だからこそ、どう接したらいいのかぐるぐる考えちゃう。

 それをすんなりと解消して、真っ直ぐな道を示しめくれるのが長洲ハヤトくん。私のヒーロー。

 

「今日はいつもと違うんだ?」

 

「う、うん。どうかな?」

 

 特別試験後の夏休みの残りの期間。2学期が始まるまでに、せめて1回でも会いたいと思って誘ってみたら、ハヤトくんは快く承諾してくれた。

 学校が始まったら基本的に制服で出会う。相対的に少なくなる機会を逃さないように、私服選びは真剣に考えた。「雫」としての活動、自撮りをSNSに載せることも想定してたから、服もそれ用が多い。今回は思い切ってみてそっちの服を選んだ。

 普段の、学校での私のイメージにしては積極的な服選びだと思う。

 

「佐倉によく似合ってる。仕事の経験かな? 服選びのセンスも抜群だね」

 

「よかった……」

 

 どっちに転ぶかは賭けだった。それが良い結果に転がってくれたことにほっとして、その後に私は違和感に気づいた。

 

「あれ……? ハヤトくん今」

 

「好意を抱いてくれてる人に真剣に向きわないといけないなって思って。呼び捨てが嫌だったら戻すよ」

 

「ううん! 嫌じゃないよ! 距離が縮まった感じがして嬉しい」

 

「……うん。ただ気持ちに100%応えられるかは……」

 

「それでもいいよ」

 

「え?」

 

「ハヤトくんが真剣に考えてくれてるなら、それで出た答えならいいよ。もちろん叶わなかったら悲しいし、泣くと思うけど、でもハッキリする方がいいと私は思うから」

 

「佐倉……。ありがとう」

 

「どういたしまして。ハヤトくんが決めるまでに、選んでもらえるように頑張ってアピールしないとね」

 

「結構意欲的だね」

 

「あはは、意識が雫寄りになってるからかな。いつもより強気かも」

 

「佐倉が勇気を持ててる証だよ」

 

「……ハヤトくんはどっちの方が好き?」

 

「佐倉愛里」

 

「…………ふぇっ!?」

 

 そ、それってどういう意味なの!?

 

「雫とか佐倉とか、おれは分けて考えてないんだよね。引っ込み思案だけど、内に秘めてる思いは大きくて行動に移せる。そんな強い心のある佐倉愛里のことが好きだよ」

 

 異性としてって、女の子として好きって言ってくれたらいいのに。

 そっちで願いたいけど、まだそこまでじゃないんだよね。はやる気持ちを抑えなきゃ。ハヤトくんに好感を持ってもらえてるだけでも大収穫。

 それはともかくとして。

 

「か、買い被り過ぎだよ……。私はハヤトくんが思ってるほど強くないよ」

 

「ううん。変わりたいって思って行動できるんだから。佐倉は自分を低く見積もっちゃってる。今だって変わろうとしてる。進もうとしてる。自信を持って」

 

「ハヤトくん……」

 

 そう見てくれてるってことは、それだけ私のことに期待してくれてるってことなのかな。グラビアアイドルとしての、芸能人としての私でもなく、ありのままの私のことを。

 嬉しいけど、ハヤトくんの期待に応えられるかはわからない。私とはすごく距離のある人だもん。でも、頑張りたい。

 

「ハヤトくん」

 

「うん?」

 

「私、頑張るね!」

 

「うん。応援してる」

 

 頑張ろう。自分のことも、恋も。

 

「それじゃあコンビニに行って花火買おうか」

 

「だね」

 

 キャンプはできないけど、夏っぽいことはしたい。そんな話から、手持ち花火をやろうって話になった。処理をちゃんとしたら大丈夫だよね?

 ハヤトくんの隣を歩いて、手を繋ごうかと何度も手を伸ばして引っ込めていたら、ハヤトくんの方から握ってくれた。幸せな気持ちで胸が苦しくなって、逃したくないこの気持ちをしまいこんだ。

 

 

 

 

 実力主義で閉鎖的なこの学校では、街で行われるような季節行事に行けない。お祭りもそうだし、花火大会もそう。コンサートとかイベンドごともそう。

 だけど、だからこそこれくらいの事は楽しみが増す。好きな人とならなおさら。

 

「こんなところで会うとはな」

 

 2人きり、のはずだったんだけどなぁ。

 

「2人は何してるの?」

 

「特には何も。雑談だな。そっちは……花火か」

 

「そういうこと」

 

 人が少なそうな公園に行ってみたら、綾小路くんと軽井沢さんがいた。2人って仲良かったっけ?

 

「佐倉、悪いが少し長洲を借りるぞ」

 

「あ、うん」

 

 綾小路くんがハヤトくんを連れて離れてく。なんだか聞かれたくない話みたい。そっちが気になるところだけど、残った軽井沢さんに声をかけられて意識を切り替える。

 

「佐倉さんと長洲くんってどういう関係なの?」

 

「ど、どうって……」

 

「恋人?」

 

「こいッ!? そ、そうじゃないけど、そう見えてたの……?」

 

「あ、その反応でわかったわ。長洲くんのことが好きなのね」

 

「……っ!! う、うん……。誰にも言わないでね」

 

「言わないわよ」

 

「ほっ。軽井沢さんは、その……」

 

 綾小路くんとどういう関係なのか。それを聞きたいけど、聞いても大丈夫なのかな。

 

「付き合ってるわけじゃないから。この前ちょっと助けてもらったから少し話してただけ。まぁ、あの時は長洲くんにも助けられたけど」

 

「そうなんだ。じゃあ……2人が話してるのもその事かな?」

 

「……さあ? ……ねえ、長洲くんが誰の相談でも乗るって本当? 裏とかないの?」

 

「ないよ。ハヤトくんは真剣に相談乗ってくれて、解決するために手助けしてくれる」

 

「ふーん? 名前で呼ぶんだ?」

 

「ぁ……。だ……だって好きなんだもん……」

 

(かわいい)

 

 軽井沢さんに揶揄われてるよ……。クラスカースト上位の人に知られたのは不味かったかな。でも秘密にしてくれるって言ってたし、1学期の印象より柔らかくなってる気もする。気のせいかな? 気のせいであってほしくはないな。

 

「長洲くんは良い人みたいだし、カッコイイよね」

 

「なっ!?」

 

「狙わない狙わない。……今さら遅いよ」

 

「……」

 

 そういうのは関係ない、とは言えなかった。競争相手が増えてほしくなかったから。

 ちょっと気まずい雰囲気になって、私たちは2人が戻ってくるのを待った。

 

 

 

 

「話ってなにかな? 軽井沢さん関係?」

 

「そんなところだ」

 

「それならおれも確認したいことがあったけど、軽井沢さんをまだ利用する気?」

 

「……そうだと言ったらどうする?」

 

「綾小路くんとは友達でいられなくなるかな。今度は邪魔じゃ済まないよ」

 

(本気のようだな。オレを潰しにかかるか)

「軽井沢をオレの首輪にでもするつもりか? オレが切れば軽井沢はお前に依存するぞ。長洲の性格なら放っておけないだろ。今の関係も崩れるぞ」

 

「その時はその時だよ。ま、そうはならないだろうけどね」

 

「なぜそう言える」

 

「綾小路くんがわざわざこうやって話す場を設けてるから」

 

「……」

 

「友達としてアドバイスをあげるよ(最終通告をするよ)。軽井沢さんのことを大切にしてあげて。良い影響になるから。それと、友達の間はいつでも手を貸すよ」

 

「お前はよくわからない人間だな」

 

「そうかな? 綾小路くんの選択次第だよ」

 

「そこは理解している。……長洲、お前は何を狙っている?」

 

「……ははっ。それはまだ教えられないね。綾小路くんが敵対する可能性があるうちは。書面で契約を結ぶなら答えるけど」

 

「そうか。検討しておこう」

 

「話はこんなところかな? あまり佐倉を待たせたくないから戻るね。それか綾小路くんたちも花火する?」

 

「……軽井沢次第だ」

 

 

 話が終わってハヤトくんは戻ってきたけど、結局2人だけで花火をすることはできなかった。それでも、綾小路くんと軽井沢さんを入れて4人で遊ぶのも、私にとって掛け替えのない思い出の1つになった。




椎名「花火ですか……。先を越されましたね」
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