実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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 今年の暑さにまだ慣れてないせいで外出のたびに体調崩してます。昨日更新できなかったのはそゆこと。
 今日の更新は1話だけ。天下統一してきます。


坂柳有栖Ⅷ

 

 この街は娯楽が少ないです。生徒を遊ばせる目的で閉鎖環境に置いているわけではないので、そういったものを減らすのは実に理に適った街作りと言えます。

 これは大いに賛成できることですが、いざ自分がそちら側に回ってみると、随分と選択肢が少ないなとぼやきたくなります。私も自分勝手な人間ですね。

 

「今日はベレー帽じゃないんだね」

 

「ええ。これでも服装に合わせるくらいは意識していますから」

 

「たしかに合ってるね。制服より年頃の女の子って印象がある」

 

「……セクハラです」

 

「え……」

 

 言い方の問題ですね。裏を返せば、制服を着ているときの私は大人びて見えている、ということですか。振る舞いも踏まえるとそう見られるのも当然です。多少なりとも意識していますし。

 ハヤトくんのこの失言もどきは、私のことを意識してくれた結果だと捉えておきましょうか。……失言というほどではないですが、いつも翻弄される側は性に合いません。意趣返しです。

 

「あんまり外見を褒めるのも良くないのか……」

 

「いえ褒めてください」

 

「どっち」

 

「私は子ども扱いされたくないだけですよ。容姿が優れてない自覚はありますから」

 

「え?」

 

「……なんですか」

 

「いや……坂柳が容姿優れてないわけないじゃん」

 

 本気で言っているのでしょうか。本気なのでしょうね。冗談で言う人ではありません。

 しかし何を根拠にそんなことを言っているのでしょう。彼と距離の近い人間と言えば椎名さんと一之瀬さんです。学年のアイドルとも言える位置にいる一之瀬さんは当然ながら、椎名さんも綺麗な容姿をしています。あの人も、なんだかんだで持つものは持っていますからね。

 

「一之瀬とかそりゃあ男子からの人気も高いみたいだけど」

 

「男の子は単純ですね」

 

「遺伝子レベルの話は置いといて。坂柳だって負けず劣らず綺麗だよ」

 

「……乏しい体だとは思いますが」

 

「そういうのが決めるわけじゃないってこと。少なくともおれは坂柳のことを一之瀬と同等に綺麗な女の子だと思ってる」

 

「…………ありがとうございます」

 

 面と向かって断言されると恥ずかしいですよ。他に人がいないからよかったものの、こんなの口説かれているのと変わりませんからね? 私の発言が元になっているとはいえ、聞く人が聞けばそういう場面ですよ。

 今日は麦わら帽子にして正解でした。夏っぽさを考慮して決めましたが、この帽子ならブリム(つば)があります。緩んだ顔は見られたくないですからね。

 

「行きましょう。暑さは私の敵ですから」

 

「調子が悪くなったらすぐに言ってね」

 

「ではその時が来たらお姫様抱っこでもしていただきましょうか」

 

「するよ。その方が日陰に運ぶのに早いからね」

 

「……そういうところです」

 

 複雑ですよまったく。してもらえる喜びと、合理性による理由という残念さ。

 いえまぁ、私の体のことを考えたら、その時が来たら一大事ですからね。真剣な回答になるのも仕方ありません。それだけ想ってくれていると受け取ることにしましょうか。

 

「手を」

 

「ん」

 

「理由は聞かないんですね」

 

「理由はあってもなくても、誰かと触れ合えることは嬉しいことだからね」

 

「……誰でもいいわけではありませんよ。真澄さんには身の回りのことを助けてもらっていますが、ここまでではありません」

 

「……それもそうだね」

 

 彼が躊躇ったとき用に建前は用意していましたが、必要なかったですね。今度踏み込んでみるのも良いでしょう。彼が話そうとしない彼自身のことを。

 

 

 夏休みですから、夏にできることを共有したい。そんな平凡な願いが私にも芽生えました。しかし海も山も不可能です。学校の方針でも、私の体でも。

 プールもあるようですが、私は泳ぎが得意ではありません。プールに入ること自体慎重にならなくてはいけません。彼が望むのなら同行しますが、高校生らしい遊び方とはなりません。

 それならば残りはと考え、プラネタリウムを選びました。野外での天体観測ができなくとも、屋内なら可能ですからね。それにこれなら、彼が私の体調を常に気にかける必要もありません。楽しんでもらえるでしょう。

 

「夏の夜空と言えば、やはり天の川ですね」

 

「織姫と彦星か。七夕は1ヶ月も前だけどね」

 

「それを言うのは野暮というものですよ」

 

「ごめんごめん。坂柳は星座に興味あるの?」

 

「そこまでは。ただ、あなたと共に見られるのなら悪くはありません」

 

「ははっ、そう言われるのは嬉しいね」

 

「ハヤトくんは星座に興味が?」

 

「それなりにね。星座好きからいろいろと聞かされて、それでだんだん興味が出たんだよ」

 

「それでは今度私にも教えてください」

 

「ん?」

 

「好きな人の好きなものは、私も理解を示したいですから」

 

「……結構はっきり言うんだね」

 

「割り切ってしまえば、ね。もちろん恥ずかしさもありますが。ハヤトくん、照れてます?」

 

「どうだろうね」

 

「ふふっ、そういうことにしておきましょうか」

 

 あぁ、よかった。正反対の主義を持ち、疾患という重たいものを抱えている私でも、ハヤトくんの中に可能性としてあるんですね。

 好きな人に好感を持ってもらえている。先の見えない厄介なもの(恋愛)の中で、儚くも暖かい希望になります。

 

「ハヤトくんは織姫と彦星についてどう思いますか? 年に1回という制限にロマンを感じますか?」

 

「ロマンは感じないかな。でも、絶対会えないよりかは年に1回でも会いたいよ。気が遠くなるほど1年を長く感じて、一瞬に感じるほど1日を短く感じることになっても、会えるなら会いたい。坂柳は?」

 

「どんな手を使ってでも毎日会えるようにします」

 

「はははは! 坂柳らしいよ」

 

「そんなに笑わなくても」

 

「ははっ、いやーごめんごめん。坂柳は強いね。そういうとこ好きだよ」

 

「っ! 誰の影響だと……

 

「なんて?」

 

「何でもありません。チケットを買いますよ」

 

 わかっていませんね。私がそう言ったのは、私がハヤトくんに惚れたからですよ。愛おしく、一時も離れたくないと思うほどに恋い焦がれているからです。

 以前の私なら、相応の罰だと切り捨てたでしょう。可哀想などとも思いません。それは今も思ってはいませんが、年に1回は少なすぎると感じています。

 

「ハヤトくん。私は勝負には常に勝ちたいと思っています」

 

「負けず嫌いだもんね」

 

「はい。それは何に対しても同じです。欲しいものがあれば手に入れる。望んだ結果を引き寄せ、掴み取る。それが私、坂柳有栖です」

 

 席につき、隣に座ったハヤトくんの手を握ります。帽子は膝の上に乗せ、空いている手を彼の頬へ。視線を合わせ、彼の瞳に自分が映っているのを見ると胸が熱くなりますね。

 そっと、ついばむ程度の軽いキスをして顔を離しました。

 

「あなたの心も奪ってみせます」

 

 父の考えのためではなく。私自身の幸せのために。

 

 ……それはそうと、軽いキスでは足りませんね。

 

 




椎名「もしかしてまたキスされました?」
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