実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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今後出るかは怪しいなーって人がちらっと。


一之瀬帆波Ⅷ

 

 せっかくの高校生の最初の夏休み。学校行事でキャンプしたり船旅はしたけど、夏の遊びはまだしてない。できることは少ないけど、せっかくだからその限られた中から選んじゃえばいい。

 

「みんなでプールに行こうよ」

 

 そんな風に長洲くんに声をかけたら乗ってくれた。こういうのは2人よりもそれなりの人数のほうが楽しめる。私と長洲くんでそれぞれ何人か声をかけようってことで決まった。

 私が声をかけたのはもちろん千尋ちゃんたち3人。私を入れての4人組は所謂イツメンってやつ。

 長洲くんが呼ぶ人は、そんなに驚かないかな。椎名さんはもちろんのこと、佐倉さんも来てる。別の意味で意外だったのは、体の弱い坂柳さんも来たこと。Aクラスの神室さんは坂柳さんのサポートとして同行してる。女の子ばっかりだね。

 

「坂柳さん、体調が悪くなったらすぐに休んでね」

 

「ええ。そのつもりです。お気遣いありがとうございます一之瀬さん」

 

「ううん。一応立案者だし、来てくれた人たちには楽しんでもらいたいから」

 

「ふふっ、あなたはそういう人でしたね。それはそうと、ハヤトくんも誘ったのなら、男の子にも声をかけるべきでしたね」

 

「あはは……そうだよね。ちょっと私からは声をかけづらくて」

 

「? 気にしない方かと思っていましたが」

 

「長洲くんに、私は無防備だから気をつけろって言われて。クラスでは仲良くしてるけど、プライベートは距離を保つようにしてるんだ」

 

「なるほど。いかにも彼らしいですね」

 

 坂柳さんって、いつの間に長洲くんのことを下の名前で呼ぶようになったんだろ。

 

「あれ? か、軽井沢さん?」

 

 横を見てみると、佐倉さんが別の子に話しかけてた。どうやらその子は同じクラスの人らしくて、今日は偶然会ってるみたい。服の下には水着を着てたみたいで、服を脱ぐだけで準備が完了してる。競泳水着だ。佐倉さんはダイバーとかが着てそうなタイプ。肌の露出を抑えてる。2人とも恥ずかしがり屋なんだね。

 

「せっかくなら軽井沢さんも一緒に遊ばない?」

 

「なんで名前知ってるのよ」

 

「佐倉さんと話してるのが聞こえたから。私はBクラスの一之瀬帆波だよ。よろしくね」

 

「……よろしく」

 

「それで、どうかな?」

 

「私の連れ次第ね」

 

 軽井沢さんの彼氏さんと、もう1人Dクラスの男の子も来てるとか。今頃長洲くんと会ってるのかな。顔広いし、声をかけてそうだよね。

 

「着替え終わった人から行きましょうか。一之瀬さんも、声をかけるのはいいですがあまり遅くならないように。あなたが一番楽しみにしていたのですから」

 

「あ、そうだね。ありがとう椎名さん」

 

「礼には及びません」

 

 着替えを済ませて先に行った椎名さんは、セパレートタイプの水着を着てた。制服でわかりにくかったけど、椎名さんってスタイルいいよね。

 

「麻子ちゃんたちも先に行ってて」

 

「出入り口のとこで待っとくよ。外よりこっちの方がまだ涼しいし」

 

「ありがとう」

 

 

 着替えを済ませて4人でプールサイドに移動。プールって言っても、ウォータースライダーがあるようなプールじゃない。競泳に使われるようなちゃんとしたプールで、それが開放されてる。

 それでもみんなで遊ぶなら楽しめると思うんだけど、プールサイドに行ったら不思議な光景があった。

 

「椎名さんこれどういう状況?」

 

 把握してる人数より男の子がいるのは別にいい。貸し切りじゃないし。気になるのは、数名の男の子が正座させられてることと、長洲くんが静かに怒ってること。

 

「どうやら盗撮を企んでいたようで、それに気づいたハヤトくんが彼らを取り押さえたようですね。証拠も抑えているようです」

 

「男子ってなんでこう……」

 

「呆れて言葉も出ないね」

 

 麻子ちゃんと夢ちゃんはやれやれと首を振って、そっちを見ずに移動。千尋ちゃんにもそっちに行ってもらって、私は成り行きを椎名さんたちと見ることにした。

 犯人はDクラスの男の子たち。綾小路くんは関係ないどころか、長洲くんと一緒に犯人確保してたとか。

 

「あの頭抱えてる男の子って平田くんだよね?」

 

「そう聞いてます。軽井沢さんの言っていた彼氏のようです」

 

「そうなんだ」

 

「……はぁ。私たちも先にプールに入りましょう」

 

「え、でも」

 

「ハヤトくんが目でそう言っていました」

 

「え?」

 

 椎名さんから長洲くんに視線を変えたら、私の視線に気づいた長洲くんと目が合った。小さく手を振られて、それでようやく私も理解できた。

 長洲くんが怒ることが珍しいのは、あまり怒りたがらないから。叱るのも好きじゃないから。自分のそういう姿を見せたくないって思うのも自然なこと。

 いち早くそれに気づけるなんて、やっぱり椎名さんはすごい。

 坂柳さんは少し離れたところで、神室さんと一緒に並んで腰掛けてる。足だけ水の中に入れているのは、ゆっくり体を慣らすためだよね。温度差がある場所に急に入ると心臓が驚いちゃう。坂柳さんにとってはそれが致命的。

 

「ハヤトくんに水着を褒めてほしいのはわかりますが、今は置いておきましょう」

 

「っ! そ、そういうわけじゃ…………なくもないけど……」

 

「……あなたがそれなら構いませんが」

 

「?」

 

「言っておきましょうか。私はハヤトくんが異性として好きです」

 

「ッ」

 

 ズキッて心が痛んだ。胸が締め付けられる感覚。嬉しさで苦しくなるアレとは違う。寒くて、寂しくなるような締め付け。

 

「これからも彼の隣にいたいです。他の誰にも譲りません」

 

 最も長洲くんの近くにいるのは、否定しようがないほどに、疑う余地すらなく椎名さんだ。誰よりも早く仲良くなって、唯一無二の位置に落ち着いた。だから椎名さんの言い分は正しい。

 

「こ、これからもっていうのは」

 

「もちろん卒業後も、生涯に渡ってということです」

 

「……っ」

 

 椎名さんは凄いな。恥ずかしがることなく真っ直ぐに断言してる。それだけ真剣で、気持ちが強いんだ。

 私は……どうなんだろう。先のことは考えてなかった。目の前のことと、ちょっと先のことで手一杯。

 私は、いつまで長洲くんと一緒にいたい?

 

「私は待ちませんよ。私の歩幅で進んでいきますから、後からの文句は受け付けません」

 

 そう言って椎名さんはプールの中に静かに入っていった。波音も立てずに入る様は綺麗で、同性でも見とれちゃってた。

 

「一之瀬は入らないの?」

 

「あ、長洲くん。もう終わったの?」

 

 ちょっとぼーっとしてた間に長洲くんも来た。さっきまでいた場所を見たら、そこにはもう人が集まってない。どこにもいないし、あの人たちは帰らせたんだね。

 

「データを確認して、未遂だったから今回はスルー。次があれば出るとこに出てもらうよ」

 

「そうなんだ」

 

「それで、入らないの?」

 

「……ちょっと考え事してて」

 

「ふーん?」

 

 長洲くんに手を引かれて一段プールの中へ。両足をそこに着けると、

 

「ひゃっ!?」

 

 一気にプールの中に引き込まれた。水しぶきも上がってたと思う。焦って水中から顔を出すと、長洲くんのはにかんでた。

 

「考えても靄があるなら、1回それを忘れちゃおう。せっかく遊びに来てるんだから」

 

「……それもそうだね。でもその前に」

 

「うん?」

 

「この水着どう?」

 

「……似合ってるんだけど……。その、一之瀬って大胆なとこあるんだね」

 

「へ?」

 

 長洲くんに顔を逸らされて、改めて私は自分の水着を見下ろす。軽井沢さんや佐倉さんみたいな布面積の広い水着じゃない。千尋ちゃんたちと買いに行ってノリで選んだ水着。

 椎名さんと同じようにセパレートタイプなんだけど、椎名さんのはフリルも付いてて視覚的には布面積がある。私の水着はそういうのついてない。言っちゃえば、ビキニに近い水着なわけで。肌も露出してる。

 

「……ぁ。〜〜っ!!」

 

 選んだ時は気にならなかったのに、長洲くんがいると急に恥ずかしくなってきた。胸を両腕で隠すようにして膝を折る。プールの中に体を隠して、鼻から上だけを水面から出した。

 

「その……、似合ってるのは本当で。綺麗、でした」

 

「ハヤトくんセクハラで訴えられますよ」

 

「えっ」

 

 椎名さん連行されていく長洲くんを見送ると、こっちを見てニヤニヤしてる麻子ちゃんたちが見えた。もう、人の気も知らないで。

 

 

 

 神室さんや長洲くん。他にも近くにいる人が手助けをすることで、坂柳さんも無事に輪に入ってみんなで遊べてた。

 隣のクラス。1つ上のクラスのリーダーの一角。初めはそう見てた麻子ちゃんたちも、今ではすっかり友達として受け入れてる。「甘いですよ」って坂柳さんに忠告されてたけど、それでも関わり方は変わらない。私の親友は良い人たちなんだ。

 

「随分と女をはべらしてはしゃいでるな、長洲」

 

「……人聞きの悪い言い方だし、あなたにとやかくは言われたくないですよ南雲先輩」

 

 そうやって遊んでたら、1つ上の先輩の姿がそこにあった。南雲先輩以外にも2人先輩がいる。

 みんなの視線が南雲先輩に集まってる中、先輩は私の方に視線を向けてきて、すぐに長洲くんが私の前に移動した。背中に隠されてる状態で、大きな背中に思わず見惚れちゃう。

 

「フン。お前なら俺の言いたいことがわかるな?」

 

「エスパーじゃないんでわからないですし、わかりたくもないですね。泳ぐ気はないみたいですからさっさと帰ってくれません? あなたのこと嫌いなんですよ」

 

「ハッ。生意気な後輩だな」

 

 あの長洲くんからの明確な拒絶。以前話を聞いてた私でも目を丸くしちゃった。変わらずに南雲先輩の方を見てたのは、坂柳さんと綾小路くん、そして椎名さんの3人だけ。

 

「来た目的も、直接ひと目見ておくためとかそんなでしょ?」

 

「そうだな。お前が俺の相手になれるのかどうか」

 

「気持ち悪いなぁこの人」

 

「俺からすれば今も女と関わるお前が気色悪く思えるな」

 

「……」

 

 南雲先輩は何のことを?

 

「俺ならあんな結果にはならないが、仮にお前の立場だとしたら普通は距離を置くぜ?」

 

「うるさいな。そこは人それぞれでしょうに」

 

「それは結構。それで? お前は自分の女に伝えてんのか?」

 

「人を物みたいに言うのは嫌いだなぁ」

 

「お前が女を──あ?」

 

 後ろから突き飛ばされた南雲先輩が頭からプールの中に落ちる。あの一瞬で波を極力抑えて入水したのは、素直に拍手したくなる。

 

「ブハッ! 誰だ! ……テメェか龍園」

 

「あ、いたんですか先輩。随分と小さかったので見えませんでしたよ、器が」

 

「言ってくれるじゃねぇか」

 

 頭から足先まで、しかも私服ですっかりずぶ濡れになった南雲先輩は、水分を含んで重くなってるはずの服を、そう感じさせずにプールの外にあがった。

 一緒に来てた他の先輩たちはお腹を抱えて笑ってる。独裁状態って聞いてたけど、中にはこの人たちみたいに好きにできる人もいるんだ。南雲先輩が許してるのなら、それだけ優れてる人ってことだよね。龍園くんが椎名さんを認めてるみたいに。

 龍園くん以外にもCクラスの生徒が何人もいて、静かに南雲先輩を睨んでる。リーダーに従って標的を決めてる様子を目の当たりにできた。

 

「つまんないことしてないで、やるならこの学校のやり方でやりましょうよ。勝利だろうと何だろうと、欲しいものは実力で奪い取る」

 

「言われなくてもそのつもりだ。今年の1年は粒揃いみたいだからな」

 

 

「だそうですよハヤトくん」

 

「え? 聞いてない。坂柳を休ませる方が大事」

 

「ハヤトくん。人肌でも温まるようですよ」

 

「とりあえず元気みたいだね」

 

「はいはい。あんまり長洲を困らせない」

 

「真澄さんの手はハヤトくんより温かいですね」

 

(なんで長洲の体温を知ってるかは聞かないでいいや。坂柳の惚気が始まりそう)

 

 

「本当に生意気な後輩だな」

 

 先輩たちが帰っていくと、長洲くんは坂柳さんを神室さんに任せて龍園くんのところに移動した。他のCクラスの人たちは距離を取って、話を聞かないようにしてる。

 

「ありがとう翔。助かったよ」

 

「聞き心地の悪い話が聞こえてきたから遮っただけだ」

 

「そっか」

 

「……チッ。アレはお前に責任はねぇ」

 

「ははっ、気遣ってくれてる?」

 

「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ。沈めるぞ」

 

「あはは。……おれはそれを受け入れられない。今でも変わらないし、これからも変わらない。おれの在り方の要因だからね」

 

「ハッ。だったら好き勝手言わせてんじゃねぇよ」

 

 

 何を話してたのかは聞き取れない。興味はあったけど、さすがに人として駄目な気がしたから私も離れてた。

 龍園くんとの話が終わった長洲くんは、こっちにもう一回合流。坂柳さんが休憩中だから、今度は神室さんに離れてもらってこっちで秘密の話。坂柳さん、椎名さん、佐倉さんと私。この4人なのは、プライベートでも関わりがある、だよね?

 それとももしかして、他の人たちも椎名さんみたいに長洲くんのことを?

 

「……ハヤトくん、無理には話さなくていいですからね?」

 

「ありがとう椎名。でも、4人には話しておくべきだと思ってたから。今度日程を合わせて、おれの部屋に来てほしい」

 

 椎名さんでも知らない話。それはきっと、長洲くんが隠してきてたこと。私と同じ……かはわからないけど、秘密にしてきたことなんだ。

 それを話してくれるのは、私たちを信じてくれてるからだよね。

 

「おれの秘密にしてたことを話すよ」

 

 ……私も、長洲くんを信じたい。

 

 

 




椎名「ところでハヤトくん。私の水着どうでした?」
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