実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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 時間軸は各ルート共通ということで。
 あと明日からは不定期になると思います。


椎名ひよりⅨ

 

 本日は始業式ですので、2学期がこれから始まります。朝食を済ませ、着替えと支度も済ませて鏡の前へ。少し気になった前髪を整え、それも完了すると視線が下がって口元に。

 思い起こされるのは、先日の出来事。ハヤトくんの過去を知り、そしてハヤトくんからキスをされたこと。

 好きだと言ってもらえましたが、あれはどっちの意味だったのでしょうか。以前は「人として好きだ」と言われました。今回のはどうなのか。それを聞けていません。

 ですがあのハヤトくんからですし……、両想いということでいいのでしょうか? 付き合っていることになるのでしょうか?

 

「……切り替えないといけませんね。浮かれていては足元をすくわれます」

 

 言い聞かせるように声に出して、私は部屋を出ました。

 

 

 

 クラスが異なるので教室に行ってもハヤトくんには会えません。登校時間を合わせる手もありましたが、それは坂柳さんが取っている時間です。どこか暗黙の了解になっているので、誰もその時間を妨げようとはしません。

 ハヤトくんと付き合うことは、現実的に可能なのでしょうか。私の願望はさておき、ハヤトくんに深い傷が残った事件のはずです。アプローチに対する反応の小ささも恋愛を避けるため、とも見れます。

 気持ちと傷はまったくの別物。彼の古傷を抉るような真似はしたくない。

 

「椎名」

 

「伊吹さん? どうかされました?」

 

「どうかしてるのはあんたでしょ」

 

 ため息まじりにそう言われて周囲を見ます。特に注目されているわけではなく、クラス内の様子は普段通り。いつもと違うのは、伊吹さんに声をかけられたことと、昼休みに入っていることに気づかなかった私ですね。

 

「あんたはいっつもふわふわしてるけど、今日は度が過ぎているわね。何かあった?」

 

「……いえ、気になることがあるだけです」

 

「長洲関係ね」

 

「……」

 

「そんな拗ねた顔しないでよ」

 

「していません」

 

「まぁいいわ。気づき方は簡単よ。椎名は交流が少ないから、一番関係値の高い人間を疑うのが自然でしょ」

 

 交流が少ないことは伊吹さんも同じだと思いますが。それを言及するのはやめておきましょう。今はこの話を切る方が大切です。ハヤトくんのデリケートな話に繋がってしまいます。

 

「告白でもした?」

 

「っ!?」

 

「2人でいるところをたまに見かけるのよ。随分と楽しんでるあんたの姿も。その時の椎名を見てたらもしかしてって疑うわ」

 

「そんなわかりやすかったですか?」

 

「……本気で言ってる? クラスの人間と話している時、あんたはそこまで笑わないでしょ。フラットなまま」

 

 伊吹さんの言い分は反論の余地もありません。たしかに私はクラス内とハヤトくんといる時に差があります。

 しかし意外ですね。伊吹さんがそこまで私のことを見ていたとは。

 

「このクラスでは数少ない仲良くできる人間よ。気にかけることぐらいあるわ」

 

「それはそれは。ありがとうございます」

 

「それで? 話せる内容なの?」

 

「話せない内容ですね」

 

「そっ。それならいいわ」

 

「あぁ、ちなみに先程の質問の答えですが、告白なら既にしています」

 

「っ! ……そう。実るといいわね」

 

「ありがとうございます。私もそう願っています」

 

 伊吹さんはやっぱり良い人ですね。私が仲良くさせていただいている数少ない人の1人です。

 遅れてしまいましたが、お昼ご飯をいただくとしましょう。お弁当は作って……あら、鞄の中にありませんね。部屋に忘れてしまったのでしょうか。

 

「ひよりは今日お昼どうする?」

 

「ハヤトくん? なぜうちに?」

 

「なんでって。HRも終わったし、ひよりがお昼ご飯どうするのかなって思って」

 

「そうでしたか。私はお弁当を部屋に忘れてしまったみたいで、学食にしようかと思っています」

 

「お弁当作ったの? 今日始業式なのに?」

 

「え……」

 

 もう一度クラスを確認します。教室に残っていた人たちもいつの間にかいなくなっていて、今教室にいるのは私とハヤトくんだけ。鞄もありませんから、皆さん帰っています。

 

「もしかして調子悪い?」

 

「い、いえ……ぼーっとしていただけです。ハヤトくんはお昼どうするんですか?」

 

「部屋で何か作るか、食べに行くかだね。食べに行くならついでに食材を追加で買っておこうかと思ってる」

 

「……それでしたら食べに行きましょうか」

 

「わかった。それじゃあ行こうか」

 

「はい」

 

 始業式だけですから持ち物も少ないです。おかげで帰り支度もすぐに終わり、ハヤトくんと一緒に下校します。

 ハヤトくんにとって、買い物の優先度は低かった。本当にもののついでです。それならば、いつもなら私は部屋で食べることを選ぶのに、今回は外食を選びました。

 それは私が、今さらになって部屋に上がることに緊張を感じたからです。ハヤトくんにキスされた部屋。思い出すだけで心音が加速していって、体がほんのりと熱くなっていきます。

 

「ハ、ハヤトくん」

 

「うん?」

 

「ぁ……。その、外食するにしても何を食べますか?」

 

「? どうしようかね。モールに行って、その時の気分で決めようかな」

 

「それも、いいですね」

 

 真意を聞こうとして、言葉が喉に詰まりました。期待している自分がいて、落ち着かせようとしてもそれが膨らんでいます。それでも言葉にできないのは、その期待が悲しく散ることを避けたいから。

 しかし今は、それよりも大変なことが起きています。前ほど距離を詰められない。腕に絡むことは愚か、手を握ることすら緊張が強い。極めつけは、ハヤトくんの顔を直視できなくなっていること。目が合うことを避けてしまっています。

 理由は考えずともわかっています。きっかけも、何もかも把握しています。

 

 私は今、ハヤトくんに恋をしている。

 好きだという想いが変化して、恋愛感情になっているんです。

 

「あ、そうそう。忘れる前に渡しとくね」

 

「え? これは……」

 

「おれの部屋の合鍵。ポイントで作れたから」

 

「ふぇっ!?」

 

 




伊吹「なんで昼を一緒に食べるのが当たり前って話になってたのかツッコんじゃだめなの?」
龍園「知るか」
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