実力主義の学校に入った世話好き   作:粗茶Returnees

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佐倉愛里

 

 私は交友関係が広くない。はっきり言うと狭い。友達は……うん。

 人付き合いが苦手で、ひとりでもしんどくないからそうしてきた。これはこれで気楽なものもあるんだけど、困ったことがあった時に相談できる人がいない。学校の方針もあって、外部の人とは連絡が取れない。親にすら。

 そんな私だけど、相談できそうな人がいる。名前は長洲ハヤトくん。A クラスにいる人で、いつもお弁当を受注生産で販売してる。クラスにも何人か食べてる人がいる。平田くんとか、綾小路くんとか。

 長洲くんはとても良い人みたいで、相談にも度々乗ってくれるんだとか。あまり良い印象がないCクラスの人でも相談しに行ってる。

 だから私も相談してみたいんだけど、目立ちたくもないから行動に移せない。

 

 お手洗いに行く感じで廊下に出て、Aクラスをチラ見。長洲くんの席は、窓側だ。遠い。

 タイミングがあった時でいいかな。

 そう思って諦めてお手洗いに行って、もう一度Aクラスを軽く覗いてみたら今度はいなくなってた。忙しいのかな。

 

「おれに用事かな?」

 

「ひゃっ!?」

 

「ごめんごめん。驚かすつもりはなかったんだけど。勘違いだったらごめんね。さっき見てたみたいだし、何か話があるのかなって」

 

 長洲くんは気づいて廊下にいてくれたみたい。私が話しかけづらそうにしてたのも気づいてたんだ。Aクラスの人ってすごい。

 

「あの。相談したいことが、あって」

 

「わかった。放課後にこの場所に来てもらってもいいかな? いつ閉店してもおかしくないくらいに人が来ない喫茶店だから、話もしやすい環境だと思うよ」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 その喫茶店本当に大丈夫なのかな……。

 

「連絡先は今交換しとこうか。何かあったらすぐに伝えられるし、店の住所も送っとくね」

 

「おや。また女性の連絡先を増やしているのですね」

 

「人聞きの悪いことは言わないでほしいな坂柳さん」

 

「事実ですから。他クラスの方と懇意にし過ぎては、あなた自身の首を絞めますよ」

 

「本当にしんどくなったら、その時には生徒会長にでもなって改革するかなー」

 

「……冗談に聞こえませんね」

 

 杖をついている女の子、坂柳さんは長洲くんと同じクラスの人なのかな。白に近い薄紫の髪がきれい。

 

「……」

 

「っ!?」

 

「坂柳さん」

 

「失礼しました。観察は癖です」

 

 坂柳さんと目があったら途端に怖くなった。底しれない感覚と、何もかも見透かされてそうな感じ。絶対に勝てないって意識が刷り込まれそうだった。

 長洲くんが私の前に立ってくれたことでその感覚は消えた。たしかAクラスのリーダーは葛城さんって名前だったと思うけど。坂柳さんっていったい……。

 

「初対面の人を怖がらせちゃ駄目でしょ。メッ」

 

「子供扱いしないでください」

 

 そんな坂柳さんを軽くあしらってる長洲くんも何者なんだろ……。

 

「長洲くん。今度お時間をいただいても?」

 

「いいよ。あとで予定合わせようか」

 

「急ぎではありませんから、彼女の件を優先していただいて構いません」

 

「わかった。明日もお弁当いる?」

 

「それはぜひ」

 

 あ、胃袋を掴まれてるんだ。

 坂柳さんは杖をつきながら教室の中へ。途中までは長洲くんが付き添って、教室の入り口で他の生徒に任せて戻ってくる。

 

「ごめんね。話の途中だったのに」

 

「ううん。私の連絡先教えるね」

 

 長洲くんは慣れた様子でてきぱきと操作してて、私はあまり使わない機能にちょっと苦戦。丁寧にフォローしてもらって連絡先を交換。ちょっと嬉しい。その後に長洲くんの画面を見てちょっとショック。私の何倍も連絡先を持ってた。

 ううん。大丈夫。私はひとりでもいいから。

 

「坂柳さんのこと、あまり悪く思わないであげてね」

 

「え?」

 

「攻撃的なとこがあるけど、悪い子じゃないからさ」

 

「そう、なんだ」

 

「うん。返信が遅すぎると拗ねるくらいには普通の子だよ」

 

 え、なにそれかわいい。

 指摘したら坂柳さんにイジメられそうな話を、私は長洲くんとの秘密ということで大事に胸にしまった。

 

 

 

 

 放課後には長洲くんに教えてもらった喫茶店へ。有名人な長洲くんと一緒にいたら目立っちゃうから、時間をずらさせてもらってる。長洲くんが先で私が後。

 お店に入ると奥の席に長洲くんがいて、オーナーさんがカウンターで雑誌を読んでる。

 

「飲み物はどうする? お冷かメロンソーダかメロンソーダフロートかメロンソーダソフトクリームがあるけど」

 

「メロンソーダばっかりなんだ」

 

「今日はそういう気分なんだよ。選びな」

 

「えっと、フロートでお願いします」

 

「あいよ」

 

 他にお客さんもいないから、頼んだ飲み物はすぐに出てきた。事前に長洲くんが話をしてくれてたみたいで、オーナーさんは厨房へと戻っていってる。私の相談事を聞かないためみたい。

 

「相談というのは?」

 

「あ。……その、実は最近ストーカー被害にあってて」

 

「これまた重たい話だ。雫の熱狂的なファンかな」

 

「え……!? なんで……」

 

「髪は結ってるし眼鏡かけてるし、普段の印象とは違うけど気づく人は気づくよ。それこそストーカーだって、気づいてやってるわけだし」

(坂柳も気づいてたみたいだし)

 

 他にも気づいてる人が多いのかなって不安になったけど、長洲くん曰くそういうわけでもないみたい。交友関係が広い長洲くんに「雫」の話が届いてない。一安心はできる情報。

 

「同じクラスの人には相談してないの? 綾小路くんとか」

 

「綾小路くん? ううん。まだ誰にも相談してなくて、長洲くんがいろんな人の相談を受けてるって聞いて」

 

「そういうことね。……コーナーでも開こうかな」

 

「迷惑、だったよね」

 

「そこは全然。むしろ頼ってくれて嬉しい。佐倉さんって引っ込み思案っぽいし、よく相談できたね。偉いよ」

 

「そ、そんなこと……」

 

 褒められて嬉しくなってる。私って単純だなぁ。

 長洲くんの言葉が不思議とスッと胸に入るからかな。相談したくなる人たちの気持ちもわかってきたかも。

 

「ストーカーについては安心して。対応するから」

 

「本当にいいの?」

 

「この話を聞いて知らんぷりはできないよ。佐倉さんも策士だね〜」

 

「そんなつもりじゃ……! ただ……誰かに話を聞いてほしかったから」

 

「うん。辛かったよね。……踏み込んだ話になるけど、ストーカーの行動パターンは何か気づいてる? 曜日とか時間帯とか。場所も絞れてるならありがたいかな」

 

「う、うん」

 

 私が気づけてる範囲でのストーカーの情報を長洲くんに共有した。私はAクラスの人みたいに鋭かったりはしないけど、そんな私の情報でも役立ったみたい。

 長洲くんは真剣に考えてくれて、これからどうするかの作戦まで立ててくれた。話を聞いてくれるだけでもよかったのに。どうしてここまでしてくれるんだろう。それを正直に聞いたら、見る人を安心させる柔らかな笑顔で答えてくれた。

 

「困ってる人を放っておけないから」

 

 きっと誰にだって手を貸してくれる。それでも今は私のために真剣になってくれる。そのことが嬉しくて、胸の中がアイスクリームよりも甘くなった。

 

「ストーカーを釣るために始めますか。偽装交際」

 

 もしかしたらこの偽装期間が、私の中で一番甘い期間になるのかもしれない。

 

 

 




椎名「一之瀬さんの次は佐倉さんですか。作戦頑張ってください。……いえ、怒ってませんが?」
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