「人増えたね」
「訳ありでね」
長洲くんの部屋にお邪魔させてもらったら、長洲くんの他に女の子が2人いた。本を読んでる椎名さんと、長洲くんの側に座って気まずそうにしている女の子。
その子の名前は佐倉愛里さん。長洲くんに相談した結果、偽装交際を始めることにしたんだとか。細かい事情は伏せられたからわからない。私の時よりも重たい話だってことは推測できる。
「偽装だと簡単に気づかれないように、一緒にいる時間を増やしていると」
「そういうこと」
「ふーん?」
いつもの定位置。長洲くんのベッドの上にいる椎名さんの様子は変わらない。偽装だから特になんとも思わないってことかな。
「それで、一之瀬さんは今日はどうしたの?」
「相談事はあると言えばあるけど、もしかしてないと来ちゃ駄目だった?」
「そんなことはないよ。ここ最近相談受けることが多かったから、一之瀬さんみたいに遊びに来る人は新鮮だね」
あなたの後ろにも相談事無く来てる人いるんじゃないかなー。物申したそうな目をしてるよ。
ここは援護しておこうかな。椎名さんは私の話を聞いてたのに未だに黙ってくれてるみたいだし。その恩は返さないとね。
「椎名さんも遊びに来る人に含まれるんじゃないかな?」
「それはそうなんだけど、椎名はよく来るから」
「新鮮味に欠けてすみませんね」
「そうじゃなくて。いてくれるのが日常というか、自然な感じがあるんだよね」
「いなかったら落ち着かないってことかな?」
「そこまでじゃないけど、違和感はあるかもね」
かもって言ってるあたり、椎名さんほぼ毎日来てるんだ。そりゃあもうこの短期間で日常として溶け込んじゃうよ。
長洲くんの発言にある程度は満足できたのかな。本からあげていた顔を戻して読書を再開してる。頬が緩んでるのが見えちゃった。
「佐倉さんっていつから長洲くんと知り合ったの?」
「……この前、相談を受けてもらった時が初めてで」
「そうなんだ。そこは私と一緒だね」
「そうなんですか?」
「うん。長洲くんに彼氏役をお願いしよーって」
「え。二股?」
「違う違う。一之瀬さんのは結局その役をやる必要なかったから。本人の力で解決できたから」
「にゃはは。真剣に相談に乗ってくれたおかげだよ〜。隠れて見守ってくれてたのも心強かったよ」
佐倉さんは大人しい性格の人なんだね。椎名さんとはまた違うタイプ。椎名さんは必要な時ははっきり物申す。けど佐倉さんは押されると弱そう。ぐいぐい頼みごとをしたら断れないタイプだ。ある意味そこは私も同じか。
「佐倉さんはここに来るの何回目?」
「イベントみたいに扱ってない?」
「異性の部屋はイベントじゃないかな」
「……たしかに」
「私は今日が初めてです」
「そうなんだ。だから落ち着かない様子だったんだね。男の部屋に来るのも初めて?」
「はい……」
「わかるよ。初めて男の子の部屋に入るのは緊張するよね」
私もあの時緊張してた。椎名さんがいたからまた違った緊張感だったけど。
佐倉さんはいろいろ混ざってそうだよね。初めての異性の部屋。そこに当たり前のように溶け込んでる椎名さん。さらに私という初対面の人間。キャパオーバーになってもおかしくない。
「佐倉さん敬語じゃなくていいよ。せっかくの出会いだし、友達になれたら嬉しいな」
「……えと……よろしくね一之瀬さん」
視線を向けられた長洲くんが頷くことが、佐倉さんの後押しになったみたい。私と握手してくれて、敬語も抜きになった。
私と佐倉さんの距離が少し縮まったところで、長洲くんが人数分の飲み物とデザートを用意した。今日はプリン。これも長洲くんの自作。市販のプリンより美味しい。専門店レベル。
「おいしい〜。長洲くんの作ったものならいくらでも食べられちゃうよ」
「気持ちはわかりますが太りますよ」
「ふ、太らないもん! カロリーは気にしてるし、ちょっとオーバーしても太りにくい体質だし」
「は?」
椎名さんの目が怖くなった。な、何か怒らせちゃったかな。……あ、体質の話がよくなかった。体質は人によって違うわけだし。維持するためにすごい努力をしてる子はクラスにもいる。軽率な発言だ。
「ごめんなさい」
「謝られても嫌味に感じますが」
「えぇ!? 佐倉さんどうしたらいいかな!?」
「うぇぇ!? 急に振られても……。長洲くん」
「ノーコメント」
椎名さんの視線が私から離れて長洲くんの方へ。気づいているのに気づいてないフリをして、長洲くんはプリンを味わってる。自己採点もしてる。ストイックだなー。
「ハヤトくん」
「……。十人十色」
「都合よく解釈しても?」
「もちろん」
私と佐倉さんにはイマイチぴんと来なかったけど、人には人の良さがあるって話で結論づいたことはわかった。椎名さんも陰ながら努力してる、とかかな?
私や佐倉さんは長洲くんのことをあまりわかってない。クラスの人たちが知ってる範囲と全然変わらない。加えて言えば中学の同級生とかいないし、高校で知り合った人ばかり。
だから椎名さんみたいに、相手のことを知ってる関係性は憧れたりもする。
「椎名さんは長洲くんのことをよく知ってるんだね」
「知っているかと聞かれると、そうでもないですね。私たちはあまり身の上話もしませんし」
「お互い聞かないからね」
「え? でも今だって」
「椎名は観察力高いんだよ。頭もいいから結構勝手に意図を汲み取るよ」
「褒めても何も出ませんよ」
満更でもなさそう。
「さてと、そろそろ一之瀬さんの話も聞こうかな」
「そんな改まらなくていいのに」
ちょっとした、本当に軽い相談とお願いだけだからね。
「必要なら部屋を出ますよ」
「ううん大丈夫。椎名さんと佐倉さんにも、何か知ってることがあったら教えてほしいの」
「私たちにも?」
「うん。私生徒会に興味があるんだけど、1年生で他に入ろうとしてる子がいなくて」
「仲間探しですか」
「それと情報収集ってとこかな。おれは今のところ生徒会に入るつもりはないよ」
「私もです」
「私も」
「そっか〜。それはちょっと残念。じゃあ生徒会について何か知ってることはあるかな?」
「一之瀬さんって意外と用心深いんだね」
「うーん、長洲くんのことを知らなかったら相談せずに決めてたかな」
椎名さんと佐倉さんが長洲くんのことを見てる。佐倉さんのは憧憬かな。頼られてて凄いなって目。椎名さんは、呆れた感じかな。ジト目って言われるやつだと思う。
生徒会の情報を佐倉さんは何も持ってない。椎名さんも興味がないから、会長の名前しか覚えてない。
「……生徒会に入って”絶対にこれをやるんだ”って目標とかあるの?」
「え、ううん。興味があるだけ。みんなの力になれるならなりたいって感じかな。生徒会って何か目標がないと駄目とか?」
「それはない……少なくとも今の会長はまだ緩いし。1年生で入りたいって人がいたら、その意欲を評価して入れてくれると思う」
「何か気がかりが?」
「1つ上の学年にね」
長洲くんが真剣に考えてくれてるからか、椎名さんもそれに合わせて空気感を作ってる。佐倉さんは少し置いてけぼりかな。ごめんね。ちょっと彼氏(役)さんを借りるね。
「個人的な話がだいぶ混ざるんだけど」
「うん」
「おれ南雲先輩のこと嫌いなんだよね」
「……あー」
椎名さんは妙に納得してるみたいだけど、私にはまだあんまりわかってない。
南雲先輩というのは、今2年生の先輩のこと。Aクラスの人らしくて、トップを独走してるんだとか。龍園くんがトップになって学年を掌握してるのをイメージしたら近いみたい。長洲くんって龍園くんと友達じゃなかったっけ? そのわりには評価が酷いような……。
「事業拡大として学年の枠も超えて弁当販売しててね。それである程度は知ってるんだよ」
「生徒会の話に南雲先輩が関係するの?」
「するみたいなんだよ佐倉さん。あの人が何らかの事故で入院するか退学するかお陀仏しない限り、次の生徒会長は南雲先輩になる」
「そうなんだ」
「そうなんです。で、どう変わるかは今置いとくとして。欲しいものはどんな手を使ってでも欲しがるタイプなんだよ」
長洲くんの言いたいことを全部察した椎名さんは、静かにため息をついて読みかけの本を手に取った。ちょっと寂しそうに見えたのは、私の気のせいかな。
「一之瀬さんは超可愛い子だから、生徒会に入ると絶対南雲に目をつけられるよ」
「…………。ぇ?」
かわいい? 誰が?
横を見ても椎名さんは無言で本を読んでる。反対を見たら佐倉さんが心配そうな顔をしてる。正面を見ると長洲くんが真剣に真っ直ぐな目で私を見てる。
「私!?」
「今一之瀬さんの話してたじゃん」
「え、いやそんな……。そんなこと言われたことないよ……」
「それはこれまでの男子の目が腐ってるね」
「私から見ても、一之瀬さんはかわいいと思うよ。その、モデルとかできると思う」
「ぅぇ……。は、はずかしい……!」
「……ハヤトくんが言わないので補足しますと、胸の大きさも魅力的に映るんじゃないですか?」
言葉に棘があるよ椎名さん。
そっちの話とか耐性全然ないし、恥ずかし過ぎて長洲くんのことを真っ直ぐ見れない。ちらって見たら、長洲くんも反応に困ってるみたいで頬をかきながら目を逸らしてる。
ぅぅ、男の子の視線が下がってることあるなーとは思ってたけど、まさかそういうことだったなんて……。明日からどう学校に行けば……!
「……下心ある人とは距離を取る。それを心がけてください。一之瀬さんは無防備過ぎます」
「……はい」
「えーっと。とりあえず、一之瀬さんに強い意志がないのなら生徒会はオススメしないかな。現生徒会は堀北先輩がいるから大丈夫だけど、それも年度中には入れ替わりがあるから」
「ありがとう長洲くん。ゆっくり考えてみるね。椎名さんと佐倉さんもありがとう」
「どういたしまして」
「私は何も手伝えてないよ……」
「ううん。同性目線で客観的に見てくれたでしょ。私今まで自分のことに無頓着だったから」
自信はついた。過剰にならないようにだけ気をつけないとね。
私はBクラスのリーダーなんだから。浮かれてばかりじゃいられない。
「今日はありがとう」
「よかったら夕飯も振る舞うけど」
「クラスの子と一緒に食べる約束があるから。また今度いただいてもいいかな」
「いつでもいいよ。事前に連絡をくれると嬉しいかな」
「あはは。主夫みたいだね」
「執事がいいかな。外まで送るよ」
「ありがとう」
同じタイミングで佐倉さんも帰るのかと思ったけど、佐倉さんは長洲くんたちと夕飯を食べるんだね。
長洲くんの部屋から出て廊下へ。周りに人はいない。うん、このタイミングなら言える。にゃはは、私ドキドキしちゃってる。
「長洲くんって佐倉さんとは偽装だよね?」
「偽装だね」
「椎名さんとは」
「友達だね」
「なら大丈夫かな」
「なにが?」
彼女さんがいたらさすがに申し訳ないからね。
「長洲くん、今度の土曜日空いてるかな?」
「空いてーー、るね。日曜日は予定あるけど土曜日は大丈夫」
「私行ってみたい場所があって、1人だと心細いから一緒に行ってもらえないかなー。なんて」
「いいよ」
「やった! ありがとう長洲くん! 楽しみにしてるね!」
OKを貰えたら余計にドキドキしてきた。でも今度は苦しくない。
初めての男の子の友達とのお出かけだ。
椎名「お出かけですかそうですか。……いえついていきませんが、今度私にも付き合ってもいます」