宿屋に戻ると相棒がTS美少女化して抱けと誘ってきた   作:名もなき魔導士

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ギルド

 迷宮都市ラジット。

 迷宮の養殖をおこなっているのがこの都市だった。地中深くを流れる大きな魔力の流れの澱みにより、ここ一帯は迷宮核を育てるためにうってつけの土壌だった。

 

 迷宮核の用途としては幅広い。

 魔力の濃密な塊として、武器として加工されたり、乗り物の動力源となったり、果ては家庭用の魔道具を動かす役割を持っていたりする。

 要するに、俺たちの生活は迷宮核なしでは成り立たないのだ。

 

 ギルドは迷宮の種を植え付け、成長させたものを俺たち迷宮探索者に解放。俺たちは迷宮を踏破し、迷宮核をギルドに売ることによって、報酬をもらう。

 

 もちろん、俺たちの収益は迷宮核だけではない。迷宮の魔物から取れる魔石もギルドに売ることができる。

 ただ、迷宮内の魔物から取れる魔石はクズばかりだ。地上の魔物と違い、迷宮核によって作られた模造品だからというのが有力な説だった。魔力波長を調べると迷宮核と同じになるという話だったが、今はいい。

 

 なぜ、このクズの魔石が売れるかというと、迷宮核の売却額からそのクズ魔石の分が迷宮攻略の貢献度として差し引かれているからだった。

 あぁ、だから迷宮核を闇に流せば、当然ギルドなんかより高く売れる。だが、そんなことはみんなやらない。なぜ、みんながそれをしないかといえば、それは今の俺の目の前の光景を見ればわかるだろう。

 

「ぐは……っ、お前は……っ!?」

 

「いやぁ、怪しい人間を見つけたと思ってつけてきたけど、迷宮核の裏取引とはねっ」

 

「ち、ちくしょうっ!? 俺は超級魔導士、ハリルドルンだぞ!」

 

「ん? あぁ、超級か。もともといい噂は聞かなかったよね、君。はぁ、そんな実力があって、どうして……」

 

「硬化魔導――!」

 

「重力魔導――」

 

「ぐ、ぐあぁああ!!」

 

 この通り、超級魔導士をあっさりと相棒は制圧してみせる。

 

「ごめんごめん。待たせたね」

 

「あぁ、うん」

 

 迷宮核の密売なんかしようものなら、こうして怖いお兄さんがやってくるわけだ。今はお姉さんだけど。

 まぁ、要するに、リスクがでかすぎる。

 

 相棒は見かけた悪は滅ぼさないと気が済まない性格だった。

 魔力にめざといこいつは、迷宮核と魔導士の気配を感じ取り、魔導士から違う人間の手に迷宮核が渡る瞬間を、かなり広い範囲で感知できる。追跡もできる。

 

 俺には迷宮核や、魔導士、魔物の魔力の違いなんてわからないが、相棒にとってはかなり違うと感じられるそう。

 

「ご協力、感謝します!」

 

「あぁ、お疲れー」

 

 相棒は、連れてきたギルド兵に軽く挨拶をしていた。

 いつものアーケンハイムではなく、雰囲気の似ているお姉さんだったからか、馴染みのギルド兵の人は眉を顰めている。

 

「こいつは、アーケンハイムの妹なんです」

 

「あぁ、アーケンハイム様の。なるほど……!」

 

 俺の説明に、大きくうなづいて、ギルド兵の人は納得してくれていた。

 

「さて、私らはギルドに用事だろう? 昨日の迷宮核を売り払わないと」

 

 昨日手に入れた迷宮核をギルドに売り払おうとした道中に、こうして怪しい取引現場を感知したわけだ。

 本来の目的のために、俺たちはギルドへと足を運ぶ。ギルド兵の人は男たちを捕縛して、俺たちの向かう窓口とは別の場所に連行していった。

 

「それにしてもお前は、よくやるよな。謝礼金ぐらいもらえばいいだろう?」

 

「なぁに、ルールを乱す輩を許すとその先にあるのは秩序の崩壊さ。私は、そうあってほしくないからね」

 

「はぁ、そのルールってやつは要するに、強者である俺たちは、価値ある迷宮核を安く買い叩かれて、弱者の雑魚魔導士は大して価値のない魔石を高く売っぱらえるって、そういうことだろう? やってられないぜ」

 

「魔物を倒したら、それで迷宮攻略への貢献じゃないか」

 

「だから、俺たちは、誰の助けを借りずに迷宮攻略できるって言ってんの……お」

 

 別に俺たちは、ギルドの管理下にある迷宮なら、迷宮核をとってこれるから、魔石が売れなくとも問題ない。上級ていどの迷宮なら、俺だけでも過剰戦力だ。

 こいつとつるんでるのは、万が一のイレギュラーに対応するためでもある。魔神級をフォローできるのは魔神級だけという理由だった。

 

「万能魔導を持つような、根っからの強者であるお前にはわからない話だろうね。これは……」

 

「はいはい、その妬みは聞き飽きたよ……っと」

 

 ギルドの窓口に着いた。

 魔石の売却の窓口は混み合っているが、迷宮核の売却の窓口は閑散としていた。

 

「それじゃあ、いつもは私がやっているけど、今はこの姿だからね。お前に頼むよ?」

 

「了解了解」

 

 そうして俺は相棒に背中を向けたまま軽く手を振って、売却の窓口に足を向ける。

 迷宮核の売却は、今まであいつに任せっきりだった。なにげに初めてだ。少し緊張してくる。

 

 迷宮核を取り出して、窓口のお姉さんへと話しかける。

 

「えっと、迷宮核の売却ですね」

 

「ん……? ナターシャちゃん?」

 

「は……? え……?」

 

 俺がそう呼んだことで、彼女は凄まじく動揺をしていた。

 その動揺っぷりに、俺は全てを察する。

 

「あぁ、人違いだよ。気のせいだった。会ったことないよね」

 

「あ、はい。会ったことはありません。人違いです」

 

 これが大人の対応だろう。暴き立てていいことばかりではない。

 ちらりと、後ろにいる相棒に目をやる。らんらんとした目でこちらを見つめていた。怖すぎんだろ。

 

「それじゃ、これ、お願いね」

 

「はい、この迷宮核は……上級……いえ、超級になりかけですか……。査定に少しお時間をいただきますね」

 

「はいはい……」

 

 お姉さんは、側にあるなにかの装置をカタカタと動かして、迷宮核の査定をおこなっているようだった。

 

「そういえば、シュテルンヘルン様。向こうでこちらを見ている女性は……」

 

 作業をしながら、彼女は話しかけてくる。

 

「ん……? あぁ、あいつアーケンハイムの妹なの。みたらわかるけど、なかなか良い体だろう? あっちの方もすごく良くってさ……」

 

「妹ということは、紹介してもらったんですよね? それ、アーケンハイム様に怒られません? というかアーケンハイム様は……」

 

「あいつなら今、里帰り中だよ」

 

「そうなんですか。だからといってそんなふうにしていたら、後が怖いんじゃないですか? 知りませんけど」

 

 まぁ、あいつがアーケンハイムだから、心配することはないだろう。そもそも朝起きたときにこってり絞られてるわけだし。

 後が怖いといえば、男に戻ってしまったときだ。そうなってしまったときを想像するだけで、俺は恐怖に震えてしまう。

 

「ま、大丈夫だよ」

 

「そうですか。それじゃあ、売却額はこちらで、これが領収書です」

 

「じゃ、ありがとね」

 

 そうして、俺は機嫌良く相棒のところに戻っていく。思ったより、高く売れたからだ。

 領収書に書いてある金額より、もらった金額は少し多かったが、それは俺のポケットの中に入れておいた。別にそんな必要はないから、後で返しておこうと思う。

 

「やぁ、相棒。あの女は知り合いだったのかい? ずいぶん仲良く話していたみたいだけど」

 

 相棒が怖い。

 俺は極めて平静に努めて首を振った。

 

「いいや、初対面だな」

 

「それにしては仲がよさそうだったじゃないか?」

 

「なんだ……? 嫉妬でもしてるのか?」

 

「嫉妬……嫉妬か……。たしかに私は嫉妬しているのかもしれないね。お前がいくら下手くそでも、体を重ねた相手なわけだし……。本能的にそう感じてる部分も少なからずあるみたいだ」

 

「一言余計だぜ?」

 

 嫉妬していると思えば、途端に可愛く見えてしまう。

 嫉妬なんてできないほどに、今日も可愛いがってやろうかと、そんな気分だ。こいつの腰を抱き寄せて、自然な流れで腰のその下に俺は手を伸ばす。

 

「はぁ、お前は……人の目くらい気にしないのかい?」

 

「いいだろ? 行くぞ。今日の仕事だ」

 

「触るなら、もう少し優しくだよ」

 

「はいはい」

 

 そうしてイチャイチャしながら、俺たちはギルドの売却窓口の区間から離れていく。

 

 ちなみに、窓口にいた子はナターシャちゃんだ。それが本名でないことを俺は知っている。彼女は、昼ではギルドの窓口で働き、夜にはお触りもお持ち帰りもオーケーな店で働いているのだ。

 俺がそのお店に行ったときには楽しい会話の流れに乗っていつも抱くから、彼女とは馴染みでもある。彼女との会話は楽しいが、まぁ、体がそこまで良いわけじゃない。プロらしく、技術はそれなりだ。

 

 ギルド職員は副業禁止だった。相棒が知ったら、彼女はギルド職員の地位を失うことは間違いなしだろう。

 彼女には彼女の事情があるだろうし、俺は踏み入らない選択肢をとる。

 

 そうして、俺たちはいつもの迷宮探索の受注する区画にやってくる。

 迷宮の位置と、期限が書いてある紙がボードには貼ってある。

 

 書いてある期限は迷宮が進化する大方の目安だ。進化すれば、等級が適正なものではなくなるという理由から期限が定められていた。期限がすぎた迷宮は、しばらく進化の有無を調査して安定化を待った後に再び貼り出されることになるだろう。

 

 まぁ、迷宮はナマモノだ。昨日みたいに唐突に進化しだすこともある。それが一階級の進化だけならまだいいが、二階、三階と進化してしまう事例も稀にあるため、迷宮探索に絶対はないと言えるだろう。

 

 それに、一年を通して地脈に流れる魔力の安定する四ヶ月のみ、ここのギルドは迷宮を開けているから、最長でも、期限は今年の迷宮期の終わりまでになる。

 

「今日は超級の迷宮にでも行ってみるかい?」

 

「上級でいいだろ。俺は楽したいね」

 

 超級の迷宮を眺めると、どれも期限は今年の迷宮期一杯だった。まぁ、超級から魔神級には滅多に進化しないから、当然だろう。

 

 上級の迷宮でも、迷宮核の争奪戦には滅多にならない。魔力障壁を使いこなせて迷宮核を取れるような魔導士は、上級でも一握りだ。

 今のギルドなら超級も合わせて、両手の指の数で数えてぎり足りないくらいだろう。欲に目が眩んだやつから、相棒によって減らされていっているわけだし。

 

「よぉ、シュテルンヘルン。上級迷宮を物色してるってことは、女連れで雑魚狩りか……ぁ? いいご身分だね魔神級様は」

 

「お前は……。あ? 知らないやつだな……」

 

 まったく、これだから有名人は困る。

 

「あぁ、俺は上級魔導士のラウールだ」

 

「魔神級魔導士のシュテルンヘルンだ。知ってるとは思うが、一応ね」

 

 互いの紹介の後、俺たちは握手を交わす。

 迷宮探索なんて危険な仕事をしている以上、目の前の男は明日には死んでいるかもしれない。考えてもしかたないことだからこそ、他の魔導士とは、俺はあまり深くは関わっていなかった。

 

「それにしても……お前さん、一昨日くらいか? 見かけたときは別の女だったと思うんだが……?」

 

「あ……っ、シーシャちゃん……っ!? まず……」

 

 俺の今付き合っている相手はシーシャちゃんだった。

 けれども俺は今、隣にいる女に夢中でそれどころではなかったのだ。こいつをさしおいて、他の女と恋人なんて考えられない。ちゃんと別れないとまずいだろう。

 

「あぁ、そういえば、そんな子もいたね」

 

「あ……でも、そういえば、見ないな。たしかあの子、ここに来るまでの通り道の定食屋で働いてたと思うんだよ。いつも見かけてたのに……」

 

 頑張ってるなと、いつも見かけて、あちらから話しかけてくれたのがきっかけだった。そこからは、それなりにトントン拍子にデートしたり、付き合ったりだ。

 いつもなら見るはずなのに、今日と昨日は見なかった。

 

「じゃあ、失踪でもしたんじゃないかい? この街ではよくあることさ」

 

「そうか……ま、後で寄ってみようか」

 

 少し、彼女の安否が心配になった。

 まぁ、俺には今は新しい女がいるし、そこまで深刻になるような話ではない。

 

「かー、魔神級魔導士さまは、女もよりどりみどりってことかよ」

 

「あぁ、そうだぞ?」

 

 実際、その通りだ。女に困ったことはない。長続きはしないけど。

 

「おい、お前ら、拝んでおこうぜ? なにか御利益があるかもしれない」

 

「はは、それはねぇぜラウールさんよ! そんなクズ拝んでたら、こっちまで腐っちまう」

 

「ははっ、違いねぇな」

 

 なんというか、ひどい言われようだ。

 まぁ、クズと言われるのは慣れている。それこそ、俺は魔導学園のころから、みなにクズと言われながら過ごしてきた。

 

 魔導学園か、懐かしい……。

 

「退け……邪魔だ底辺魔導士ども」

 

「うわっと……」

 

 俺たちはとつぜん姿をあらわした男に押しのけられる。

 俺たちを退けた後に、迷宮の貼られたボードをそいつは眺める。

 

「上級迷宮に群がる底辺魔導士どもか……哀れだな……」

 

 よく見ると、男は魔導学園の制服を着ていた。だいぶん若い。

 

「聞き捨てならないな、今の言葉」

 

「相棒……」

 

 なぜか、相棒が前に出ていた。

 

「ほう……」

 

 男子学生はクールに気取ってはいるものの、相棒の胸に視線が釘付けだった。

 いい胸だもんな……わかるよ。

 

「上級迷宮に挑めるような魔導士が底辺? 違うね。魔力が少なく、術式が貧弱な……真の底辺である初級魔導士に謝ってもらおう」

 

 もう少し、なにか言い方があったのではないだろうかと、俺は思う。まぁ、相棒はその真の底辺から、努力のみで昇り詰めたわけだ。

 すごいやつだよ、ほんと。

 

「初級……? なるほど、その魔力……そういうことか。ふん、女はいいな。見た目がいいだけで、チヤホヤされて、一人前の魔導士気取りか……?」

 

「は? お前、今、なんて言った?」 

 

 とっさに声を出したのは俺だった。

 どうしても、聞き捨てならなかった。

 

「ふん、何度でも言ってやる。魔導士もどきの淫乱女め」

 

 男子学生は、相棒の胸をガン見しながらそう言った。

 

「取り消せよ……! 今の言葉!!」

 

 どうしても我慢ならない。俺は俺がクズと言われるのは別に構わないが、相棒がバカにされるのだけは許せなかった。こいつは、誰がなんと言おうとすごいやつだからだ。

 

 あと、相棒の胸を遠慮せずにガン見されて、普通に不快だ。俺はその視線から庇うように間に入る。

 

「どこの誰かはわからないが、喧嘩なら受けてやる。場所を変えようか」

 

 ところ変わって、ギルドの魔導訓練場だ。

 その名の通り、魔導を訓練する場所なのだが、俺たち以外誰もいなかった。迷宮探索者に、こんな場所で訓練をするような殊勝なやつらはいなかった。

 だいたいのやつらは少し階級の低い迷宮で試し打ちをしたりしていた。

 

 つまり、あれだ。作ってはみたものの、利用者が誰もいなかった感じのあれだ。改装も取り壊しも面倒だから、そのままになってる感じだろう。

 

「やっちまえ! 学生! そのクズ野郎の綺麗なツラをぶっ飛ばせ!!」

 

「女侍らせてるとか、ずりぃーんだよ! やられちまえ!!」

 

「その大人気ないクズ男を、存分に叩きのめしてくれたら嬉しいね」

 

 そうやって、オーディエンスは学生側からヤジを飛ばす。ちらりと俺は後ろを見るが、誰もいない。

 なぜか、みんな学生側だった。アーケンハイムもそちら側だった。なぜだろうか。俺、なんのために戦うのだろう。

 

「いいかよく聞け。俺はいずれは魔導省に務め、国家魔導士になる男だ。迷宮を探索するお前たちとは格が違う」

 

「あぁ、うん」

 

「格の違いを見せてやるさ」

 

「あぁ、うん」

 

 魔導省か。俺たちはお役所勤めって感じでもなかったからな。

 クズだなんだと言われながらも、こうして、好き勝手やってる方が性に合っていた。

 

「――火炎魔導」

 

 学生は手のひらの上に火の玉を作る。

 火炎魔導といえば、なかなかの汎用魔導だ。火を自在に操り、攻撃力にも長けている。

 

 この火炎魔導を使う一族みたいなのがあった記憶だ。俺の同級生にも、確かに一人いた。

 

「――混沌反魔導」

 

 まぁ、所詮は炎は炎だ。

 

「『火炎(フレイム)』」

 

「『氷結(フリーズ)』」

 

 冷やしてやれば、鎮火する。

 互いの魔導がぶつかり合い、相殺され、消滅する。

 

「今のは小手調べだ。なかなかにやるようだな」

 

「あぁ、うん」

 

「だが、これはどうかな? 『獄炎(インフェルノ)』」

 

 たぶん、最大出力だろう。

 学生にしてはなかなかやる。当たったら、消炭どころか溶けて消えてしまいそうな温度だ。

 人に放っていいような威力じゃない。

 

「『氷結(フリーズ)』」

 

「な……っ」

 

 まぁ、さっきと同じように相殺する。

 相性が悪かっただろう。いや、相棒に言わせてみれば、俺の混沌魔導は全ての魔導に対して相性が良いと言いそうだが、まぁ、この学生は運が悪かった。

 

「はぁ、もう終わりでいいか? 面倒になってきた」

 

「ちっ……調子に乗るな! ならば魔力量勝負だ!! 反魔導は魔力の反転にも魔力を消費する! いつまでもそんなふうに相殺はできないはずだ!! 『獄炎(インフェルノ)』ぉおお!!」

 

 そうして、学生は火炎魔導を連打してくる。

 やれやれと、俺は肩をすくめた。この学生は少し勘違いをしているみたいだ。

 

 たしかにこの学生の魔力量は俺の八割くらい。計算をすれば、反魔導を使う俺の方が先に魔力が尽きることになるだろう。

 

 だが、そうだな――、

 

「長生きがしたければ、覚えておいた方がいいことがある。たとえ同じ威力の魔法でも、その魔導によっては、魔力の効率が段違いに異なるんだ」

 

 たとえば、同じ火を起こす魔法でも、一から十まで魔力に頼って火を起こすのと、環境の熱を使うのとでは、効率が全くもって異なってくることは明白だろう。

 

 そして俺の混沌魔導は、使う魔力は最小限……要するに、自然現象を起こすのではなく、()()()()魔導ということだ。

 

「『獄炎(インフェルノ)』っ! 『獄炎(インフェルノ)』ぉ! 『獄炎(インフェルノ)』ぉおおお!」

 

「『氷結(フリーズ)』」

 

 全てが凍りつく。俺たちの周りの世界は極寒へと変わり始める。

 

「な、なぜだ……なぜ、これだけやって魔力が……!?」

 

「効率がいいんだ。格上相手に、魔力でのゴリ押しなんて考えちゃいけない。勉強になっただろ?」

 

「効率……っ!? まさか、これだけやって、まだ自然回復の範疇なのか!?」

 

「ちなみに君の魔障耐性なら、君の体内に直接俺の魔導を発生させることができる。やってみるかい?」

 

「や、やめろ……やめてくれ……」

 

 学生はすっかりと怯えて、腰が抜けて地面に崩れて泣いていた。

 

「もうやめてやれ、シュテルンヘルン」

 

「……ん?」

 

 ふと、目の前には女がいた。

 この腰のライン……覚えがある。

 

「こんなんでも私の生徒だからな……」

 

「セリティアか」

 

「どこ見て言ってんだよ。ばーかぁ」

 

 歳をとって容姿が衰えていることを除けば、学生時代と変わらない彼女がいた。

 

 彼女はそう、俺たちが学園時代に一緒によく行動していた仲間だった。三人で、バカやって過ごした学生時代だ。懐かしい。

 そういえば、教師になったんだったか。

 

「まさか、お前がその生徒の引率か?」

 

「ま、そうなる。本当なら、あんまり手を出さずに監督してろって話だったんだけど……」

 

 まぁ、うん。教師って大変だなぁ。

 俺はならなくてよかった。

 

「はっ、問題児を抱えたってわけか。大変なことで」

 

「よくいうよ元問題児。お前も似たようなものだっただろう?」

 

「失礼だな。俺はもっと実力が伴ってた」

 

「今思えば、その分厄介だったよな絶対。隣にはアーケンハイムもいたわけだし……」

 

「そうだな」

 

 俺たち二人で、教師なんて雑魚で馬鹿だと、授業をぶっ壊すのがしょっちゅうだった。すごく調子に乗っていた。

 なんというか、大人になった今では申し訳なく思う。シューエル先生は元気にしているだろうか。

 まぁ、学生なんてそんなものだろう。

 

「そういえば、アーケンハイムはどこだ? どうせ近くにいるんだろ?」

 

 アーケンハイムは、きょとんとこちらをみている。まずい。今の状況を昔馴染みにバレるのはまずすぎる。

 

「あいつなら、里帰り中だ」

 

「そうか。あいつとも久しぶりに会うのを楽しみにしてたんだが……」

 

「あぁ、俺から伝えておくよ」

 

 アーケンハイムに視線を送れば、あいつは少し不満そうな顔をしていた。久しぶりの学友だ。積もる話もあったかもしれないが、俺の精神の安定のためだ。申し訳ないが、ここは我慢してもらう。

 

 セリティアは、学生に視線を向けると、襟首を引っ張り無理やりに起こす。

 

「お前も、これに懲りたら馬鹿な真似をやめるんだよ。はぁ……」

 

「そういえば、迷宮実習か……やったなぁ、俺たちも」

 

「あれか……私は参加しなかったが……」

 

「お前が参加してたら、多分死んでたぞ。あれは……」

 

「そうか……」

 

 俺とアーケンハイムが参加をし、いろいろあって魔神級迷宮『還らずの虚』を攻略することになった地獄のような実習のことだ。

 

 あれは忘れもしない進級判定ギリギリの時期だった。確か授業を崩壊させて単位を貰えなかった俺たちが救済措置として受けさせてもらった実習になる。

 迷宮探索実習は、数日の実習で手っ取り早く単位が出る科目だ。足りない単位に、この実習に全てを賭けて臨んだ思い出だ。

 

 つまり、そうだ。

 

「お前、単位ギリギリだな?」

 

「……!? なぜ、それを……!?」

 

「魔導省とか言ってる場合じゃねぇじゃねぇか。まず卒業しないと」

 

「うぐ……っ」

 

 俺たちがそうだったから、この学生も、きっとそういう立場に違いない。簡単に想像がついた。

 

「というか、『円転の世界樹』の方じゃなくて、こっちになったんだな。迷宮実習」

 

「まぁな。あんな事故があれば、そうなる」

 

「事故……事故か……。ま、いいけど……」

 

 いろいろと、あれは作為的なものだったが、俺たちの学生時代に幕を引いた、もはや過ぎた話だろう。輝かしい学生時代の冒険も、今は色褪せた記憶の中というわけだった。

 

「それじゃ、私たちは失礼させてもらう。まだ数日はこっちにいるから、気が向いたら顔を見せるよ」

 

「あぁ、わかった」

 

 そうして俺の昔馴染みは、生徒を引きずって帰って行った。

 

 見渡せば、野次馬はみないなくなったようで、アーケンハイムだけが残っていた。

 

「それにしても、懐かしい顔だったね」

 

「あぁ、あいつも大変だな……」

 

「それに比べて、私らはあまり変わっていないからね……。置いて行かれたみたいで少し寂しいかな……」

 

「そうだな……」

 

 二人で、ノスタルジックな雰囲気になる。俺たちみたいに適当に生きている人間でなくて、あいつはしっかり働いているわけだ。

 なんというか、言葉に表せないような複雑な気分だ。

 

「それじゃ、今日はそんなに時間がないから、難易度の低めな迷宮にしようか」

 

「そうだな」

 

 あぁ、俺たちも、金を稼がなければならない。そのための迷宮探索だ。

 あの輝かしい学生時代は、遠い彼方というわけだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 俺たちは、さっくりと迷宮を攻略し、迷宮核を売り払った。

 そうして、帰路についたわけだが……俺はそこで思い出した。

 

「アーケンハイム。先、帰ってろよ」

 

「どうしたんだい?」

 

「シーシャちゃん。いるかどうか確かめてくるから」

 

「あぁ、そんな話もあったね。じゃ、先に行ってるよ」

 

 そうして俺は相棒と別れる。

 シーシャちゃんのお店に向かって、お家にも向かった。お店は無断欠席、お家はもぬけの殻。完全に失踪だろう。

 

 この街では、よくあることだ。心配しても仕方がない。

 夜逃げか、事件に巻き込まれたか。それほど彼女のことを俺が知っていたわけではない。俺には今、別の女がいるから、切り替えはすぐにできる。あぁ、大丈夫だ。大丈夫。

 

 そうして、歩いていると、店の看板が目に入る。

 

 

 ――『もふもふワンダーランド』。

 

 

 ここでは、獣人化の秘薬を飲んだ尻尾と耳がもふもふな女の子たちがもてなしてくれる素晴らしいお店だった。もちろんお触りもできるし、奥にベッドルームもある。

 

 ふらふらと、俺は足を踏み入れる。

 

「これは、シュテルンヘルン様。えーと、いつもの子ですか?」

 

「うん、ナターシャちゃんをお願いね」

 

「はい。わかりました」

 

 そうして俺はいつものように席に案内される。

 隣には、ナターシャちゃんが座ってくれる。

 

「シュテルンヘルン様。ご指名ありがとうだにゃん!」

 

 黒い猫耳に黒い猫の尻尾を持った女の子が俺の隣にはいる。そう、ナターシャちゃんだ。

 

「お金、口止め料? 返しておくよ」

 

「にゃんのことだにゃん。わかんにゃあーい。チップありがとうだにゃん」

 

 く……あざとい。あざとすぎる。でもかわいい。

 

「いやぁ、今日も大変だったんだぜ? ギルドで調子に乗った学生に絡まれるだろ? それにそれに――( )

 

 今日あった愚痴を、俺は彼女に話していく。

 ナターシャちゃんは、さすがにゃんとか、すごいにゃんとか、そんなことができるにゃあとか、そんなふうに相槌をうって、俺を褒めてくれる。聞き上手だった。

 

「そろそろ、奥、行くかにゃあ?」

 

「そうしようか」

 

 名目上部屋代の追加料金を払った俺は、奥へと案内されていく。もうすでに、今日稼いだ俺の取り分の八割が消えていった。

 

 流れるように、俺たちはベッドインする。

 

「にゃあ、にゃあ、にゃあ」

 

「そういえば、俺、あのだな……うん、下手か?」

 

「にゃ? 男なんて、みんなこんなもんだにゃ」

 

「だよなぁ」

 

 あいつに責められて、失われかけた俺の自尊心が回復する。

 

「とうかしたにゃあ?」

 

「あぁ、ちょっとな……あいつ、俺が下手だなんだって、こんな本をな……」

 

 例の本をナターシャちゃんに渡してみる。

 ナターシャちゃんは、興味深げに本をパラパラとめくった。彼女の猫耳がピクピクと動く。

 

「にゃあで試してみるのはどうかにゃ?」

 

「え……?」

 

 まぁ、あいつだと夢中になりすぎて我を失ってしまう。ナターシャちゃんくらいの容姿なら、練習にちょうどいいかもしれない。

 

「にゃん、にゃん、にゃあ」

 

 実践をして、いつもより、ナターシャちゃんの声は艶が乗っていたような気がした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 そうして俺は帰ってきた。すこぶる俺は機嫌がいい。お店の子に、受けがよかったそれを、家で待ってる女にも使いたい気分だった。

 

 帰ると相棒は、魔力の光のもと、本を読んでいた。

 

「遅かったね。彼女はいたかい?」

 

「いや、いなかった」

 

「てっきり、見つけて話し込んで、遅くなったと思ったけど……」

 

「いや、別の用事でな」

 

 相棒は、読む本を閉じて、こちらへと近づいてくる。

 鼻をひくつかせる。

 

「そうか……別の女とね……」

 

「お店の女の子だよ。浮気じゃない」

 

 とっさに弁明をした。こいつは、一度深く目を閉じて、首を振る。

 

「よくそんなことが言えるね」

 

「お店の子は別だろう? 恋人とは絶対に違う。あの子たちは、こうテクニックで楽しませてくれるわけだけど、もし恋人がどの男に仕込まれたかもわからないテクニックを使ってきたらガン萎えだろう?」

 

「最低だよ。お前」

 

 耳もとで囁かれる。その声にはいろいろな感情がこもっている気がする。

 

「それはそうと、いこうぜ? ベッドに」

 

「この会話の流れで、よく誘えるね。それに店の子を抱いてきたんだろう? それで満足しないのかい? 頭おかしいんじゃないか?」

 

「いや、だからお前とは別だって……。今はお前がいいってこと」

 

 訝しがるように、こいつは俺を見つめた。

 

「はーあ、しかたのないやつ」

 

 呆れたように、そう息を吐くと、こいつは自分の服に手をかける。

 

「……っ!!」

 

「今日こそは、乱暴したら許さないからね」

 

「任せておけ」

 

 予習してきたから大丈夫だ。とは、さすがに言える空気ではなかった。

 

「今日は私のために怒って、庇ってくれて嬉しかったよ。ありがと」

 

 

 

 ***

 

 

 

「十五点」

 

 いつもの点数だった。上がっている。確かに上がっている。予習の成果が現れていた。

 

「やったな」

 

「本当はもうちょっとあげたかったけど、言動が最低すぎたから半分にしたかな」

 

 外では別の子を抱いて、家では家の女を抱く。なんというか、男として素晴らしく満たされた気分だった。

 

「いやぁ、よかった」

 

「だいたい。私のこと褒めるにしても、ちょっと前に抱いた女を引き合いに出すとか最低じゃないか?」

 

「そうなのか?」

 

 まぁ、うん。ナターシャちゃんよりも断然に良い体だし、特になにも考えずにそういう褒め方をしていた。

 

「はーあ、どうしようもないクズだね。お前は」

 

 それにしても、どうしようか……。こんな関係を続けているわけだが、こいつは元は男だ。そして、こいつの素性を知る古い友人が来てしまっている。

 

 自分だけならば、混沌魔導でこいつは元から女だったと自分を誤魔化すことができる。混沌魔導……あ……。

 

「相棒、世界全体を魔導にかける方法ってないか?」

 

「『白銀冥界』の魔神級の迷宮核に魔導を刻むのならあるいはってとこだね。どうしてだい?」

 

「いや、忘れてくれ」

 

 流石に人の道にそれすぎだ。

 別の方法を考えることにする。






 続き……ちょうだい……。
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