宿屋に戻ると相棒がTS美少女化して抱けと誘ってきた   作:名もなき魔導士

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魔人

「だーかーらー。やめろって……」

 

「別にいいだろ……?」

 

 俺は相棒の体をペタペタと触るが、それを相棒はペシペシと払いのける。

 

「状況と場所を考えろって……ダンジョンだからね」

 

 そう、俺たちはダンジョンで野営をしていた。

 いま俺たちがいるのは超級迷宮。一日で最深部まで到達できないほどに広い迷宮だった。

 

 そして、俺たちがなぜ、ここに来ているかといえば、それはセリティアからの救援依頼があったからだ。

 

 あの馬鹿な学生が、勝手に身の丈に合わない、この超級迷宮に挑んだとか。

 セリティアも、超級魔導士だ。だから、あいつだけでなんとかできるはずであるが、タイミング悪くこの迷宮は変異が起こりかけた。

 

 セリティアはすでに迷宮の中。ギルドで、もしなにかがあったらと、あいつは俺たちに救援依頼を残していた。

 何かがあったからこそ、俺たちは追いかけてきた。

 

 とはいえ、あいつのことだから、そんなにヤバくはなってないだろう。

 

「大丈夫、大丈夫。ほら、魔物も俺の魔力に怯えてよってこないだろ?」

 

「だからってさ、野晒しなんだけど。私は嫌だよ?」

 

 天幕とか、そういう気の利いたものはない。

 このダンジョンは虫もいないし、雨が降ったりするわけでもない。気温もほどほどだ。だから、手間を考えて、そういうのは張らなかった。

 

「でも、誰か見てるってわけじゃないだろ? 部屋と変わらない」

 

「雰囲気とか、情緒がないし……はぁ、もうわかったよ……。めんどくさい」

 

「お……?」

 

 相棒は服を脱ぎ始めた。

 

「じゃあ、私が上になるよ。はぁ、できればやりたくなかったけど」

 

「おぉ……」

 

 蔑むような、相棒の目だった。

 

 相棒は簡易ベッドの上に俺を横たわらせる。さっそく俺はズボンを脱いでいる。

 相棒は、手を添えると、そのままに俺にのしかかってくる。

 

「よっと……。はぁ、んぅ……」

 

「う……っ」

 

 これは……っ!?

 

「んしょ……三、二、一……はい、おしまいっと」

 

「……っ!?!!!?」

 

「あーあ。こんなに……」

 

 相棒は、汚れたところをジュルっと舐め取り、ゴクリと飲み込む。すでに片付けに入っていた。

 

 俺は、動揺と、心地よさで動けずにいた。

 

 相棒の動きは、お店の女の子のように慣れたものではなかった。だが、的確に俺に刺激を与えてきた。耐えることはできなかった。

 

「天才ってやつか……これが」

 

「なに、ふざけたこといってるのさ。私は寝るから。見張は任せたからね」

 

「あ、うん」

 

「あ、あと……今日は零点だから」

 

「…………」

 

 当然だろう。俺はなす術がなかったのだから。今まで、順調に点を伸ばしてきただけに、少し虚しかった。

 まぁ、いいか。すごく良かったし。

 

 体を拭いた相棒は、毛布にくるまると、ベッドに座る俺にくっついて、寝る姿勢に入っていた。

 というか、夜の見張り、俺が最初か……。

 

 それはいいとしてだ。こんな迷宮探索は、なかなかいいかもしれない。

 これで相棒は奉仕精神に溢れているから、お店の子が頼んでもやってくれないことを相棒がやってくれる。点数をつけるなら、毎日満点だった。

 

 そんな相棒と一緒に迷宮探索だ。今まで、迷宮探索で、女は持っていけなかった。

 これなら無限に迷宮に潜り続けられる。もう迷宮で暮らすことも可能だろう。

 

 俺にくっついて寝ている相棒を撫でる。

 なんというか、仕草ももうすっかり女っぽい。当然、下着は女ものだ。相棒は切り替えも割り切りもなかなかに早い。

 

 唯一割り切れていないことといえば、魔力量と術式のコンプレックスだった。

 

 アーケンハイムのことは、俺はかなり詳しい。一番に長い付き合いだ。その俺から見ても、アーケンハイムは自分の性別のことに頓着していなかった。

 

「すごく、エロいよな……こいつ……」

 

 なんというか、今のアーケンハイムには抱きたくなるオーラがある。

 外で女を抱いた後でも、こいつを抱かないと一日が終われないみたいな、そんなオーラだ。

 

 それに、俺がなにしても、本気で嫌ってこないっていう安心感があるからか、近くにいて安らげる。いや、女になる前からそれはそうか……。

 

 一晩、混沌反魔導を駆使して、俺は見張りを続けた。

 脳を回復し続ければ、このくらいは簡単だった。そもそも俺の魔力で魔物は寄り付かないが、念の為の見張りはいる。

 

「ふぁあ……」

 

「起きたか……」

 

 相棒の目が覚めたのは、明け方の時間だった。相棒は目を擦る。

 

「快眠だね。って、ことは一晩中見張ってたのかい?」

 

「まあな」

 

「はぁ。私のこと、起こしてくれたら良かったのに」

 

「まあな」

 

 なんとなく、今日はそんな気分じゃなかった。ときどき、見張りで俺が一晩中という時はある。

 

「魔力感知、私が上だろう? こういうときでも、何回か起こしてくれたら、効率がいいって……変に意地張らないでさ」

 

 相棒の魔力感知は俺の遥か先をいくものだ。魔力がなくとも伸ばせる力だったからこそ、アーケンハイムはそれを伸ばしたわけだけれども、もはや魔神を超える域とさえ言えるような感知能力だった。

 

 ただ、起こしたらアーケンハイムは意地でも変わっただろう。それに、自分で起きられなかったってことは、疲れてるってことだろう。

 

「抱いていいか?」

 

「手早く済ませるんだよ?」

 

「よし」

 

 こう、サラッと頼んだら、案外いけるもんだな。

 

 脱がせて、触る。抱く前にこうして体を触っていかないと、怒られる。後で文句を言われないように、丁寧に触っていく。

 

「胸、好きだよね」

 

「まあね」

 

 それにしても、なんというか、こいつは寝て起きたばっかりだというのに、いつもより準備万端な感じがする。

 

「抱かれる夢、見たんだ」

 

「相手は誰だ?」

 

「お前しかいないじゃん」

 

 目を逸らして相棒は言った。

 グッとくる。ガッといく。もう離してやらない。

 

「欲求不満か?」

 

「ん……っ。いや、だって……お前に抱かれて一回も達したことないし……」

 

「そっか」

 

 確かに、一回もそういうそぶりをこいつは見せたことがなかった。

 もし俺が、一人の女と関係を持ち続けて、最後までできないことが続いたら、別の女にいくかもしれない。ゾッとして冷や汗をかく。

 

「はーあ。私にも性欲はあるんだよなぁ……」

 

 男のときは本当に女っ気がなかった。そしてこんなふうに持て余す相棒の姿は、長い付き合いでも見たことがない。

 

「女、抱いてたのか?」

 

「んーぅ? お前ってさ。結構、嫉妬深いよね」

 

 なんでもないように相棒は言った。

 俺は、自分のことをそんなに女に執着しない方だと思っている。ま、付き合ってる女に別の男ができたら別れたらいい。俺に近づいてくる女なんていくらでもいるし……。

 

「別に、そうでもないだろ」

 

「私が他の男のところに行ったら……」

 

「……っ」

 

「ねぇ、痛いんだけど」

 

 つい、力が入った。

 

「お前が悪いよ」

 

「今のは、そうかもね。んしょ……んぅ」

 

 悪びれずに相棒は言った。

 体勢を直すように動いて、強く抱きつき、刺激に表情を歪ませている。

 

「どうしてそんなふうに……」

 

「ちょっとしたスパイスかな? ん……、良い……」

 

 俺を抱きしめる腕も足もギュッと……キツく締まる。

 

「あ……」

 

 思考が鈍くなって、全てがどうでもよくなっていく。

 

「ん……」

 

 口づけが……吸い付く。

 絡まって……気持ちの良さを吐き出したくなる。

 

「あれ……? あ?」

 

 突然、現実に戻るかのようにアーケンハイムは声を上げた。……大切なところなのに、こいつは、俺ではないどこかに視線を向けている。

 

「なんだ? あ……」

 

 こちらを見る視線があった。物陰に隠れているが、こっちを見ている。

 

「うぇ? あ? え……」

 

 その視線の主は、見つかったからか、テンパったように声を上げる。

 

「あ、逃げた」

 

「逃げたな」

 

 そうしてどこかへ行ってしまった。

 

「見られちゃったね」

 

「お前、感知してなかったのか?」

 

「寝起きですぐだったし……抱かれている間は、お前に集中しているだろ?」

 

「それも、そうか」

 

 というか、あれだ。さっきの視線の主は、例の学生のように見えた。

 まぁ、近くにいたってなれば相棒なら追跡は一瞬だろう。

 

「それはそうと、終わらせるよ?」

 

「そうだな」

 

 ちょっとハプニングはあったが、収まったわけではない。

 そこから俺たちは、情を重ねた。最後までやるにはやったが、一度水を差されたせいで、若干気分が上がりきらなかった。

 

 

 ***

 

 

「んで、お前、見てただろ?」

 

 相棒の魔力感知能力を前に、逃げる相手を追い詰めることは簡単だった。

 

「くそ……! こんなところで盛ってるのが悪いんだぞ! 迷宮内だ!」

 

「混沌反魔導」

 

 俺は学生の頭に手を近づけていく。

 

「うわっ!? 何をする! 腕光ってるぅ!? 術式……っ!? ヤメロォおお!」

 

 ――『忘却(オブリビオン)』。

 

「よし、完璧だな」

 

 これでこいつが相棒の身体を見た記憶は消滅した。もし俺がこの魔導を使えなかったら、きっとこの学生のことを生かしてはおかなかっただろう。

 相棒の身体は、俺だけのものだ。

 

「ねぇ、シューティ。余計な記憶まで消したんじゃない? セリティアがいないだろう? 入れ違いになったか、セリティアと合流して、トラブルでこの学生だけ逃げてきたか」

 

「やべ……。おい、しっかりしろ学生。セリティアはどこだ!!」

 

 魔導を受けて意識が朦朧としていた学生の頬を叩いて気付けする。

 

「は……っ!? 俺は……何を……!! あ……っ! そうだ!! 先生が!!」

 

「セリティアがどうした?」

 

「先生が魔人に捕まったんだ!!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 魔人……人と魔物の半端者。一説には、人と魔物がまぐわった結果生まれた生命体だという主張さえある。

 

 魔人といえども、魔は魔。人に劣る知性しか持たないのが普通。だが、そう、『淫虐』のリリテイムのように、中にはその知性を開花させるものもいる。

 

 だが、魔人は人を人とは思わない。人に仇為し、己の繁栄のみを尊ぶ。人間とは決して相容れない存在だった。ゆえに、魔人は、人の姿の獣であると、扱いは知性を持たぬ魔物と同じだ。

 

「どうして、私を捕える?」

 

「ふん……お前は餌だ。わたしは、クライスト様の一のしもべ……。あやつらは、我があるじを殺した。わたしは……あいつら、殺すのだ」

 

「魔人が魔人の仇討ちか……?」

 

 違和感。

 基本的に、魔人は仲間意識を持たない。仲間意識を持てるような奴等ならば、今ごろは人間と共に歩んでいる。

 

 考える。例外として、繁殖相手と自分の子には必要以上の執着を見せる。それは知っている。しかし、主従というのは不可解だった。

 

 力で全てをまとめ上げ、恐怖で魔人を掌握する魔王がいないこともない。それでも、主人が死ねば主従はそこで終わりなのが魔人の習性だ。

 仇討ちなんて、魔人がするだろうか。死んだやつを慮る心があるなんて聞いたことがない。

 

「あぁ、クライスト様……どうして……」

 

「わからないけど、お前が死にたがりなことはわかったよ」

 

「は? 何を言う?」

 

「だってお前、魔神級でもないだろ? そんなんじゃ敵わない。そこらの子どもでもわかる」

 

 あいつらは、強い。本当に強い。

 だから、こうしてあいつらを挑発するこの魔人は、死にたがっているとしか思えなかった。

 

「くく、そのための人質だ。今、アーケンハイムのやつはいないという話じゃないか! 私もバカではない! 一人ずつ、そして……」

 

「――混沌魔導『致死(エンド)』」

 

「プギャ……!?」

 

 それは、死に至る魔法だった。

 それを受ければ、人間だろうが、魔獣だろうが、等しくその終着点へと連れていかれる。

 

「よ、セリティア。助けに来たぜ?」

 

「お前さ。もうちょっと情報を引き出すとかないのかな?」

 

「あ、やべ……俺、知らねー」

 

 物言わぬ骸となった魔人から目を逸らして、子どもみたいにそんなことを言う。

 

「相変わらずだな、シューティ。と言うか、そっちの女は? 確か、昨日もいたよな?」

 

「ん? あ……。妹だ。アークの妹だよ」

 

「……確かに、言われてみれば面影があるな」

 

 似ている。それに仕草……死んだ魔物から魔石を取り出す手際なんてそのまんまだ。

 

「あ、私はちょっと用事を思い出したから。重量魔導『異空(ホール)』」

 

「え……?」

 

 高度な転移魔導をアーケンハイムの妹は使っていなくなった。魔導の精度で言えば、間違いなく私よりは上だろう。

 あいつの妹にそんな魔導師がいたなんて、聞いたことがない。

 

「にしても、迷宮核の守護の魔物と合体してたのか。おかげで、迷宮核はもう手に入ったけど、なんだかなぁ……」

 

「それだけじゃない。迷宮を刺激して暴走させてたみたいだ」

 

「暴走ね……」

 

「誘き出して、お前を殺すって言ってたぞ?」

 

 魔人にしては知恵が回る。ただ、浅知恵だろう。そもそも、人質に迷宮を利用した程度であんな魔人がシュテルンヘルンに勝てるわけがない。

 

「んじゃ、帰ろうか」

 

「そう言えば、私の生徒いただろう?」

 

「あぁ、待たせてるから。行こうか」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

「お前、変わったよな」

 

 ベッドの上で、セリティアは言った。

 あれから、旧交を温めつつ、お酒を酌み交わして、いい感じの雰囲気になって、抱いた。

 

「別に、そんな変わってないぞ、俺たち。むしろお前の方が……な。ちゃんと教師やってるみたいだし。俺たちよりずっと前にいる」

 

 アーケンハイムとバカやって、それは学生の頃と変わらない。大人になっても、俺たちは学生の頃と変わらない気分で来ている。それと比べれば、セリティアはすごいよな。

 

「そうか? お前たちは、ずっとすごかったからな。魔神級魔導士だ。私からすれば、お前たちはずっと先にいる。私だけは教師っていう無難な道を選んで、立ち止まった」

 

 驚きがあった。セリティアがそんなふうに俺たちのことを思っていたなんて知らなかった。ただ、バカたちがバカなことをやっていると思われていると思っていた。

 

「いや、でも……お前はお前で立派に仕事してるだろ。俺なんて、楽に稼いで遊ぶだけだしな」

 

 迷宮攻略は俺たちからすれば危険のない仕事だった。だから、俺たちからしてみれば、かなり割りがいい。他人が命をかけるだけの報酬を鼻歌まじりに受け取れるわけだ。

 

「お前たちのおかげで、迷宮での死者はだいぶ減ったって聞くし……お前たちの活躍のおかげで、家庭用の魔導具の迷宮核はだいぶ安くなった。すごいことだよ」

 

「それも……まぁ、そうか」

 

 今ひとつ、釈然としない。アーケンハイムの高説に従って、特に意識せずにやってきたことだった。そんなに褒められることでもないだろう。

 

「それにそう、お前は女の抱き方も変わったし」

 

 セリティアとは、学生時代付き合っていた時期があった。というか、初めての相手だった。まぁ、例に漏れず三ヶ月で別れたけど。思えばあれが始まりだったのかもしれない。

 付き合っている期間以外にも、たびたび相手がいなくなった時期には、抱くこともあった。それでも恋人ではなく友人だった。

 

「そんなに変わったか……?」

 

「まぁな。なんというか、気遣って動けるようになったというか……良かったよ」

 

「……そうか」

 

 なにか、理由はわからないが、今ひとつ釈然としない。なぜだろうか。

 

「それに昔なら、こんな話に付き合わないで、寝てただろお前」

 

「それは……そうだろうけど」

 

 あいつのことを抱いて、少し癖になってきた。抱く前には丁寧に触れだとか、抱いた後はちゃんと会話をしろだとか、そういうのも求めてくるが、俺はなんとか応じていた。

 

「ちょっと、感動した」

 

 そこまで言うだろうか。ここで俺は、釈然としなかった理由を、ようやく理解する。

 

「というか、そうだ。抱いたら、いっつも、気持ちいいだとか……満足したとか……お前はそう言ってたよな?」

 

 そう、そうだ。思い出した。あんなことを言っておきながら、今更なんだって話だよ。

 

「それは男を喜ばせるためだよ」

 

「でも……ほら……達する達しないだとかは……」

 

「あんなの演技に決まってるだろ」

 

「…………」

 

 ちょっと、泣きそうだった。

 俺の学生時代はなんだったのかと思う。肌を重ねた相手に、こんなふうに騙されているなんて、今になってもショックが大きい。

 

「私はそれで良かったんだよ。あの頃は……まぁ、お前たちがそばにいて、お前たちのおかげで周りに優越感を感じていた。私はそんな女だった。抱かれて気持ち良いとか、そういうのは別によかったんだ」

 

 一人満足したようにセリティアは言った。

 

「俺は気持ちよかったから抱いてたんだけど……」

 

 そのセリティアの言葉は、よくわからない。

 

「わかってるよ。だから別れたんだし」

 

 セリティアは背中を向ける。なにか、まずいことを言ったかもしれないが、理由がわからない。

 

「おーい。振られたとき、普通に落ち込んだぞ? お前と別れてから、どれだけ……」

 

「アークに慰めてもらっただろ? それで、じゅうぶんじゃないか」

 

「その言い方だと、ちょっと誤解されそうだな」

 

 俺は言い回しに敏感だった。今のあいつと俺の状況を考えれば当然だろう。特に、セリティアにはバレたくない。

 

 慰めてもらったのは事実だ。食べて元気出せよと、もらったチーズケーキの味は忘れないと思う。よく作り方知ってるよな。

 

「にしても、いいのか? アークの妹だったか。あいつ、今、お前の女だろ?」

 

「あ……あぁ……。別に、あぁ、いいんだ」

 

 少し、しどろもどろになるのは後ろめたいことがあるからだ。あれが、女になったアーケンハイムだとバレるわけにはいかなかった。

 

「よくないんだな」

 

「あのな、あいつ、面倒でな。痛いだとか、気持ちよくないだとか、気遣いがないとか、下手くそとか、そういうこと、ズケズケ言ってきやがる」

 

 話題を変えようとした。そんな俺に、セリティアはくすりと笑う。

 

「やっぱり、お前はそういう相手がお似合いだな」

 

「お似合いって……」

 

「昔と違ってずいぶん人間らしいよ」

 

「昔の話は嫌なんだけどな……ぁ」

 

 まぁ、あれだ。

 俺には他人を下に見てた時期があった。いや、そもそも同じ生き物として見ていなかったのだと思う。言ってしまえば若かったんだ。

 

 そんな俺が他人を認められたのは、きっかけはいろいろあるだろうけど、そうだな、入学初日にアーケンハイムにぶん殴られたことが一番だったと思う。

 

 あいつは、情に厚く、義を尊び、仁を尽くすことに生き甲斐を感じるような人間だ。俺をぶん殴る理由はいくらでもあっただろう。

 学生時代が懐かしい。

 

「今日のこと、アーケンハイムには、内緒にしてあげるさ」

 

 セリティアは囁く。一瞬、あいつのことがバレているのかと思い、びくりとする。

 だが、違う。妹と付き合ってるのに浮気とか……って意味だろう。

 

「あぁ、頼むぜ」

 

 すぐバレるだろうとは思う。あいつは店に行った後なら、すぐに気がつくし、俺がどう頑張っても隠すのは無理だ。

 

 にしても、あいつ、急にいなくなったけど、今なにやってんだか。

 

 

 ***

 

 

 

「アランジェがやられた」

 

「奴は、我ら八魔王の中でも新参……ゆえに最弱……。今は亡き先代に拘る愚か者だ。ゆえに、この結末は必定……」

 

 円卓を取り囲む八つの椅子。そして、その中央には、ことの顛末を映す水鏡があった。

 

 魔王総意の作戦ではあった。この作戦に名乗りを挙げたのが、他でもない、アランジェという新参の魔王だった。

 

「ガルシア……この結果は見えているということだったか……」

 

 欠席の椅子を睨みつける。この魔王は、今回の作戦には、乗り気ではなかった。今回の会合も、欠席している。

 

 シュテルンヘルン単独ならば、人質を取ればいけるという算段だった。だが、結果はこれだ。

 

「おのれ……シュテルンヘルン……!!」

 

 ここにいる魔王たちは、あの二人の登場により、隠遁せざるを得なくなった者たちばかりだ。

 人間を滅ぼし、魔人の世をもたらすというのが、彼ら魔王の悲願であったが、訪れそうにないというのが現状だった。

 

「やはり、今回の作戦は皆で攻めるべきだったのだ!!」

 

「それで、全滅したらどうする? 今はおらんが、ガルシアのやつもそう言っていたぞ?」

 

「そも、人間の街に潜伏などできんだろ。アランジェの魔導ゆえにできたことだ」

 

「…………」

 

 だが、アランジェのやつの替えならいくらでもきく。あるいは、あやつらの支配地域を分割し、八魔王が七魔王になるだろうが、大勢に影響はない。

 

 前魔王のクライストが死んだ時点で、奴らは終わった種族となった。それだけだった。

 

「では、次はどうする……」

 

「とはいえど、シュテルンヘルンが健在な以上、こちらは動けん……」

 

「おのれシュテルンヘルン!!」

 

「なーに、奴らは人間よ。寿命で死ぬのを気長に待てばよい」

 

 とはいえどだ。寿命で死んだ後に、シュテルンヘルン並みの魔導士が人間に誕生するという可能性もある。もしくは、それ以上である可能性すらあった。

 

 ただ、シュテルンヘルンを殺せない以上、これは考えても無駄なことか。

 

「では、機が巡るまで各々潜伏ということだな。今回はこれで解散か」

 

 方針をまとめて、解散ということになる。次の招集は何年後か。

 

「あー、ちょっと待ってくれないかい?」

 

 不意に、そんな声が聞こえる。目の前には、女が、いた。

 円卓の上にいつの間に立ち、円卓の周りに腰をかける魔王たちを見下ろす女がいる。

 

「なに奴!!」

 

 女は、円卓の淵を歩く。

 

「『巨岩』のグラル。『不朽』のヒルベール。『執拗』のアラウネル。『潰崩』のクレマンティ。『圧壊』のザールベルト。『彼岸』のグラフィケル」

 

 一人ずつ、名前を呼び、円卓の淵を一周する。

 

「貴様……何者!!」

 

 得体がしれない。

 おそらくは、空間転移の魔導で現れたのだろう。唐突に現れたということだけではない。なにより奇妙なのは、その魔力の少なさ。並の人間と同じ量……これでは魔導もまともに使えない。

 そのはずであるが、余裕然とするその態度が、あまりにも奇怪。

 

 ここにいる魔王全員が、動揺を隠せずにいる。

 

「来ないのかい?」

 

 その言葉で、我に帰る。一斉に、魔導を放つ。

 

「破砕――」

「遮蔽――」

「圧縮――」

「粘着――」

「崩壊――」

「腐食――」

 

「――重力魔導」

 

 ――押し潰される。

 

 放った魔導ごと、術式が……押し潰される。地面に身体が張り付けられる。例外はなかった。

 

「……貴様! もしや!!」

 

「所詮は寄せ集めか……。魔神級はいないし……ハズレだったかな……」

 

「アーケンハイム!! 卑怯なっ!!」

 

 姿は違えど、こんな芸当ができるのは一人しかいない。

 その魔力の少なさを侮った者で、生きて帰った者はいない。現れた時点で、立ち向かわず、全力で逃げるべきだった。

 

「あんまりいい魔石はないかな……」

 

「ぐあぁああぁああっ!!」

 

 気がついたところで、時すでに遅し。魔王と自らを名乗る愚か者たちは、潰されて、みな、死んだ。

 

 アーケンハイムは一息つく。そして、目を向ける。

 

「それで、相変わらずかな……こんなふうにちょっかいかけて、飽きないね? この寄せ集めの魔物たちも君の仕業かい?」

 

「あぁ、そりゃ気がつくか」

 

 女だった。女が、部屋の隅にいつの間にか姿を見せる。

 

「人間の真似事かな? 女ってね。弱者のフリかい?」

 

「いいや、アーケンハイム。お前と仔を作ろうと思ったんだが……なかなかに気が合う」

 

 この女は人ではない。

 

 魔神龍……『翡翠』のオルガイア――原色の龍の一体にして最強の魔神。

 今でこそ、迷宮、魔物、人間に魔神級と称することになってはいるが、それはかつて、この龍が自らを魔の神と称したことから始まっていた。

 

 魔神級の中で誰が一番に強いか……そう尋ねられれば真っ先に皆が思い浮かべるのが、伝説のこの龍の名だ。

 

「あぁ、あぁ……! ゾクゾクする!! そうだ! 我はお前が欲しい!! 世界中を私とお前の仔で埋め尽くそう!」

 

「今日こそは、殺しきってあげようか……」

 

 だが、アーケンハイムは、この原色の龍と三度戦い、三度勝利していた。

 

「重力魔導!!」

 

「『星骸(ホロー)』!!」

 

 ――『星骸(ホロー)』。

 この『翡翠』の龍に術式はない。魔の根源に近しい原色の龍は術式を持たないからだ。なら、なぜこの龍が最強なのか。その所以は、常軌を逸した魔力の支配力にある。

 

 通常、人間は自らの体内にある魔力のみを扱うことが可能だった。使えばなくなり、休めば回復する……そんな魔力をやりくりし、魔導を扱っている。

 

 だが、この龍が扱えるのは、自らの魔力だけではない。この龍の魔力の支配は、周囲の空間……さらには、他の生物の保有する魔力にすら及んでいた。

 

 ゆえに、魔導士殺し。『星骸(ホロー)』により、『翡翠』の龍オルガイアに、周囲の魔力の全て吸収される。そして、この『星骸(ホロー)』を受けた場合、魔力を失うだけではない。急激な魔力の剥離により、体内にある魔力が多ければ多いほど、体の内部が傷つけられる。

 シュテルンヘルンは、このカラクリにより、この龍と三度戦い、三度負けていた。

 

「まぁ、私の魔力は大したことがないからね……」

 

 アーケンハイムの体内の魔力の量では、無論、ダメージにはならない。そして、アーケンハイムが扱う魔力は、自らで生成することが可能。

 

「さぁ、第二段階だ!」

 

 ――『星域(コスモスフィア)』。

 

 オルガイアが十分な魔力を吸収した際に、移行する第二段階。普通ならば、『星骸(ホロー)』を何度か繰り返さなければ移行はしないが、周囲には魔王たちの亡骸がある。そういうことだろう。

 

 煌々と魔力が輝く。『翡翠』の龍が支配する、魔力の濃度が高まったその空間は、魔導の発動を完全に拒絶する。それは魔力同士の干渉により起こる事象だった。

 

 対策は簡単だ。

 

「『異空(ホール)』」

 

 発動した魔導が弾かれるわけではない。空間を歪めて、魔導を直接叩き込んでやればいい。

 

 ――重力魔導『崩壊(ノヴァ)』。

 

 捻りのない最大火力。重力により、押しつぶす。

 

「ははっ、やっぱりな!! 魔の究みは、特別な術式なんかじゃない! 魔力だ! 魔力をどれだけ巧みに操れるかだ! アーケンハイム! 我はお前が好きだぞ!!」

 

「黙って死んでろ! このトカゲ」

 

「『星凝(サテライト)』」

 

 第三段階。

 吸収、循環、そして放出。掌ほどの大きさに、極限までに圧縮された魔力の塊が、舞う。

 これが開放されれば、あたり一体は消し飛ぶだろう。魔導での防御は不可能……これは魔力の塊という性質によるものだった。

 

「『異界(グローム)』」

 

 だが、それは攻略済み。

 空間を捻り、隔離し、押し込む。魔力の爆発を封じ込め、やり過ごす。

 

 ここまでのやりとりは、今まで行ってきた三度の戦いの焼き直しでしかない。

 

「ふは、さすがだな! あれから我も技を磨いた! これがさらなる力だ!! 我を見よ!」

 

「……あるのか……? 先が」

 

 さらなる魔力の高まり。まだ見たことのない、龍のその先がある。今日初めて、アーケンハイムに緊張が走る。

 

 それゆえだった――、

 

 ――誘淫魔導。

 

「……ふえ?」

 

「はぁ……しかたないか……」

 

 条件を満たしたゆえの発動だった。この『翡翠』の龍はアーケンハイムに惚れている。

 

 つまりそうだ。

 

「へへ、へへへへ。あはははは」

 

 全ての命令を聞く傀儡が出来上がった。目がうつろに、幸せそうにだらしなく笑う口もと……もう正気はないように見える。

 

「へぇ……こうなるのか。意志の強弱は設定できるか。ていうか……これ……やっぱり……はぁ」

 

 この龍には術式がない。誘淫魔導は条件次第では、他人の術式を我が物にすることができた。魔石で取り込んだ術式は、元から持つ術式と比べて器用ではない。使用にも厳しい条件があった。そう何度も使えない。

 

 シュテルンヘルンを惚れさせて術式を共有するという計画も頓挫ということだろう。

 だが、アーケンハイムは負ける可能性を潰すために、この魔導を使う選択肢を選んだ。

 

「こいつ、殺そうか……いや……」

 

 せっかく、混沌魔導を犠牲にしたんだ。有効活用しなきゃ、損だろう。

 

「あー、使いたかったなぁ。万能魔導」

 

 またとない機会をフイにしてしまった。使わずとも、この龍は倒せたかもしれないが、万が一もある。これが正解だったのだと、アーケンハイムは自分に言い聞かせる。

 

 

 

 ***

 

 

「なぁ、相棒」

 

「あ、帰ってきたのか。なんだい?」

 

「入口のとこにいる女ってなんだ?」

 

 靴箱の隣で、三角座りで丸まっている虚ろな目の女がいた。

 

「あぁ、ちょっとね? 彼女には、まぁ、いろいろ手伝ってもらおうと思って」

 

「なんか厄介ごとか?」

 

 アーケンハイムは、その情に厚い性格から、厄介事を拾ってくることがややあった。その度に俺にも少しばかり負担はかかるが、そこら辺はお互い様だろう。

 

「まあね。『翡翠』のオルガイア、覚えてるかい?」

 

「ん? あぁ、あの時は助けられたよな。覚えてるけど、どうした?」

 

 純粋に相性が悪い相手だった。あんなふうに他人の魔力を奪うのは卑怯だろう。魔導士殺しと言われるだけある。

 毎秒ごとに回復する魔力を効率よく使うことで、なんとか勝負にはなったが、俺だけでは勝てなかった。

 

 まぁ、相棒の倒せない敵を俺が倒したりもしてるから、そこらへんはおあいこだろう。魔力量差で問答無用に発動する術式とかには、相棒は弱いわけだし。

 

「いや、やっぱりなんでもないさ」

 

 そう言って、アーケンハイムは首を振った。

 

「ふーん」

 

 ま、なんでもいいか。

 学園卒業手前の最後の魔神決戦で襲われてから、オルガイアのやつも見ないし、きっと諦めたのだろう。

 

 あれだけの役者を揃えられても、俺たちは乗り越えて見せた。だから、もう、魔人の奴らは俺たちへのちょっかいを無駄だと判断してるはずだ。

 

 手を出してくるのは、今日みたいな雑魚しかいない。

 

「さてと……」

 

 さりげなく、その豊かな胸に手を伸ばす。

 

「セリティア、抱いてきただろ?」

 

 触れる直前、掴まれる。そりゃ、気付かれている。

 

「あぁ、うん。昔よりも、ハリとか、なかったかな。胸とか、前と比べたらだけど重力に負けてきてたし。やっぱ年って取るもんなんだな」

 

「うわーぁ。最低」

 

 相棒は顔を顰めて、罵倒してくる。本人もいないし、別にこのくらい言ってもいいだろ。

 

「そこまで言うほどかよ……」

 

「お前も最低だけど、セリティアもだね。あいつは、他人の男に手を出すのも変わらないよな、ほんと……」

 

 セリティアも昔からあんな感じだった。俺も別れた後は、そういう女としての距離感だったかもしれない。たとえばそう、ナターシャちゃんみたいな。

 

「なんだ? 嫉妬してるのか? 今日も抱いてやるぞ?」

 

「うわ……っ」

 

 最悪なものを見るような目でこっちを見てくる。なんだかんだで、抱かれるのがこいつだったが、少し今は会話して感触が悪い。

 

「なんかちょっと機嫌悪い?」

 

「まーね。嫌なことがあったんだ。ちょっとね」

 

「なんだよ。そんなにセリティアのこと抱いてきたのが嫌なのかよ……」

 

「……っ。はぁ、お前さぁ。ほんとに……」

 

 呆れているようだった。苛立ちも滲んでいるように見える。

 この隙に、抱きしめてみる。

 

「すれば、たいていのことはどうでもよくなるだろ?」

 

 不完全燃焼に終わった今朝の続きがしたかった。

 

「はーあ。クズ。丁寧にしろよ?」

 

 やったぜ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「イったよな?」

 

「まあね」

 

 終わった後、アーケンハイムはいつもより、ちょっと息が荒いように感じる。

 今日はいつもよりも反応を見て、楽しませてやれたと思う。

 

「イったよな?」

 

「それ、何回聞く?」

 

 うんざりしたようにアーケンハイムは言った。今は、抱き終わった後だが、なんなら、抱いてる最中にも聞いていた。

 

「えっと……演技じゃないよな? セリティアみたいに」

 

「こっちは初めて達して気分良いんだよ。他の女の名前出すな」

 

「あ……うん」

 

 確かに、こういうので嘘をつくやつではない。だが、こうして何度も聞くのはセリティアに騙されていたという傷が疼いていたせいだった。

 

 でも、思い出す。初めて快楽の頂点に来てからの、こいつの余裕のない表情。なんというか、初めて抱いたときに、自分のものになったという感じがしたが、それが今ではずっと強い。

 

「二十五点」

 

「え?」

 

「今日は二十五点だ」

 

 今のところ、最高得点だった。それでも、異義がある。

 

「百点じゃないのか……!?」

 

「あのさ。達する達しないは……まぁ、重要だろうとは思うけどさ。はぁ、それが全てじゃないだろう? それだけなら、自分でするんでもできるだろうし」

 

「……相手がいなきゃ虚しいもんな」

 

 迷宮で野営して、相手がいなかったときは、まぁ、虚しい。胸とか尻触ったりだとか、そういうのも大切だった。

 

「そろそろ真面目に考えなきゃだよなぁ……」

 

 ふと、相棒が漏らす。嫌な予感がした。

 

「考えなきゃって、なんだよ……」

 

「生理とか来るだろうし、このままずるずるってわけにはいかないだろう?」

 

 チラチラとこっちを見ながら相棒は言う。何か言葉を期待しているようにも見える。

 

「大丈夫だ。俺の混沌魔導の避妊は百パーセントだ」

 

「おまえさ……いや、まぁ、こればっかりはそうか……でも……」

 

 俺は混沌魔導で、常に体から放出する前に殺し尽くしていた。つまり、そういうことだ。

 

「……さらには、病原体も殺し尽くしてるから、病気の心配もなしだ!」

 

「知ってるよ、それは。にしても……ん……魔石……。あの手を使えば……まだチャンスはあるか……? 時間さえあればか……よし……」

 

 なにか、相棒は小声で呟いていた。

 

「どうした?」

 

「なんでもない。うん、しばらくはこのままで行こう」

 

「このままって、女のままか?」

 

「はぁ……ちょっと試したいことがあってね。それが終わるまではかな」

 

 どんなプレイを相棒は試したいのかと俺は身構える。

 こいつが、女になったのは、女としての快楽を試すため。つまりは、そういうことだ。

 

「あぁ、わかった」

 

 だが、これはチャンスでもある。

 俺は、全力でこいつを男に戻りたくなくせばいい。そのためには……やるしかないだろう。

 

「たぶん、なんにもわかってないよ……」

 





某人気少年漫画の二次創作を書いていたせいで遅れました。
誰か……続きを……。
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