少し時は遡る
時の流れにより、ある程度動いても不審に思われない程に成長した。
テレビや会話から情報を得ることで、何となく現状は把握していた。
テレビでキラやそれに関連することについて一切情報が無いことから、キラがいない世界だと予想はできた。カレンダーに書かれた年も僕が死ぬ少し前だったこともその予想の裏付けとなっていた。
ただそれが単純にキラがいないのか、全く別の世界なのかは最初はわからなかった。
所謂ゴールデンタイムと呼ばれる時間に放映されるバラエティ番組を見ていたが、そこに映るのは見たことない顔ばかり。
この時間はある程度知名度の高い人が出ているにも関わらず、知っている人は誰1人としていなかった。
(今は20XX年…。前世ではとうの昔にテニスの全国大会で優勝した後。ネットが見れれば優勝者の名前を確認できるはず。そこで僕の存在を確認できる。…いや、そもそもそんな回りくどいことせずに、あの有名な流河旱樹の名前を調べればいいか…)
確かめる方法は分かった。
ただ幼児ということもあり自由に行動はできない。
僕は夜に動くことを決意した。
――
世界が静まり返った時間、僕は動き出した。
リビングに向かうため起き上がると、周囲の異変に気づく。
(兄さんと姉さんがいない…。それにリビングから何か声が聞こえる)
母さんは隣にいる。
恐らく、ミヤコさんか社長だろうと思っていたが、予想が裏切られる。
そこには、暗がりの中、スマートフォンを操作する姉の姿とそれを見る兄の姿であった。
聞き耳を立てると、およそ赤ん坊とは思えない流暢な発音で喋っていた。
(こいつら、まさか僕と同じ転生者か…!)
(ここで、声を掛けるべきか…?しかし、現状を把握できていない以上、余り情報を開示すべきでは…)
そう思い後退ろうとしたところ、足音が鳴ってしまう。
「ねえ、そこに誰かいるの…?」
姉の声らしきものが聞こえた。
(…クソっ。こうなったらあくまでも自然に…)
「声が聞こえたから来てみたら、兄さんと姉さんも…、僕と同じなのか…?」
「今来たのが、僕だったからいいものの、他の人にバレると不味いから声量落とした方がいいよ」
「えー!ライトもなの!?3人とも転生者じゃん!」
「おい…、今声量落とせって言われたばっかりだろ」
「あっ、ごめん…」
「…それで、話を戻すけど、僕たち3人は同じって事でいいいかい?」
「ああ、俺もさっき知ったんだけど。」
「こいつ、…えっとルビーがスマホで、母さんのアンチとリプ合戦をしている所に遭遇したのが知ったきっかけ」
「…私は日課のリプ合戦をしてたら、いきなり喋る赤ん坊に話しかけられて、びっくりしてたところ!」
(喋る赤ん坊なのはお互いだろ)
「ああ、何となく状況はわかった。」
「まさか、3人とも転生者とはね。」
「ちょっと秘密の共有も含めて、少し話したいんだけど…、っとその前に、姉さんスマホを少し貸してくれないか?」
「『姉さん』ってなんかいい響き!いいよ!お姉ちゃんだから、弟の頼み事は快く聞いてあげないとねっ!…はいっ」
「ありがとう、姉さん」
「で、何するのー?リプ合戦ならやり方教えてあげるっ!」
「おい、ルビー。もしかしたら前世含めると年上かもしれないんだから、あんまり調子に乗るなって…」
「…ちょっと調べたいことがあってね。僕は気にしてないよ、姉さん」
「ほらー、気にしてないじゃん!ライトは愛嬌があっていいね♪…それに比べてアクアは…」
「赤ん坊が愛嬌とかいうな」
そんなやりとりをしながら僕は受け取ったスマホを操作する。調べる内容が気になるのか2人は視線を寄せてくる。
(たかが、芸能人の名前…見られても問題ないか)
僕は隠そうとせず、自然に操作する。
拙い指の動きで検索をする。
…ただ、検索したのだが、『流河旱樹』というワードは一件もヒットしない。
それならと、前世の名前『夜神月』を検索する。
これはヒットしたものの、月が映った写真しか出てこない。
(やはり、ここは僕がいた世界とは別の世界…。日本であるといった点は同じだが、ありとあらゆるものが違う…これは一体…)
(こうなったら、少しでも情報を手に入れるため、2人にも聞くか…?所詮は赤ん坊。この2人に対してなら身の危険も無いだろうし、ある程度こちらの情報を公開してもいいか…)
「ありがとう、姉さん。調べ終わったから返すね」
「御目当ての情報は手に入ったか?」
僕はアクアからの問いかけに首を振る
「転生は転生でも、どうやら僕は違う世界から来たみたいだ。兄さんたちは母さんの仕事を知っていたような言動をしているってことは、前世もこの世界だろ?」
言い終わろうとしたところルビーが被せて声を上げた。
「…異世界転生きたーー!」
「ねぇ、ライトはどんな世界から来たの?魔法の世界?それとも科学が発達した世界?違う世界の話が聞けるなんて楽しみー!」
「ははは。期待に応えられず申し訳ないけど、そこまで異世界じゃないよ。今いる世界と人やモノは名前が変わってたりするけど、大きくは社会の仕組みなんかは変わらないかな」
「なぁんだ…。せっかく違う世界の話聞けると思ったのに」
「で、君たちのことについても少し教えて欲しいんだけど…。」
そう言ったが、アクアからは『言い出したお前が先に話せ』とも読み取れるような気怠そうな視線が僕に向けられていた。
「はぁ…。勿論、言い出した僕が先に話すよ。」
「じゃあ簡単に自己紹介でいいかな。」
「前世での名前は夜神月。夜の神に月と書いて夜神月。実は前世も今世も名前が同じなんだ」
「前世では23歳。自慢じゃないんだけど、日本で1番の大学に首席で入学してる。」
「…首席やば」
「大学3年の時に司法試験合格。卒業後は大学院に通いながら、警察庁に入庁したんだけど、捜査の途中で死んじゃって、今に至るって感じかな」
「超エリートじゃん!もっと他にエリートエピソードないの!?」
「ははっ、そうだな…、中学ではテニスの全国大会で2度優勝していることとか、全国模試では1位しかとったことないっていうのもあるけど、エピソードとしてはその程度かな」
「いや凄すぎでしょ(だろ)」
「そんなことないよ。必死に努力をしたからできただけさ」
一通り話した僕はアクアに次を促すように視線を向ける。
「僕は…、まあ名前調べられると困るし、いいだろ。」
「前世では宮崎県の病院で、産科医として働いていた。前世でもアイのファンだったから、今では推しの子として赤ちゃんライフを満喫している。医学の知識は一通りあるから困った時は言ってくれ」
「死因は、まあ…足を滑らせて転落死ってところだな」
(変なところは無さそうだが、死因に少し言い淀んだな。何か隠してそうだが、まあ…今はいいだろう)
「じゃあ最後は私っ!」
「名前は『天童寺さりな』!ママを愛し、ママに愛された女の子!いやー、推しの子に生まれて良かった!よろしく2人とも!」
僕にとってはなんて事はない自己紹介だったが、
どうやら横にいる兄さんにとっては衝撃的な事だったようだ。