(兄さんの反応、妙だな。名前に反応したところを見ると、前世の知り合いか…?いや、ただの知り合いにしては、反応が大きすぎる。)
(もっと近い関係性か……。兄さんと姉さんは共通して、知名度の高くない母さんのファンだった。宮崎県の医者が東京の弱小アイドルを知るタイミングなんてあるか?)
(勿論、根っからのアイドル好きならあり得るかもしれないが、この場合は患者や友人からの紹介の方が確率は高い。)
(…まあ、自分の兄になる人が、未成年のアイドルを能動的に漁ってる、というのは余り想像したく無いしな…)
そんな予想を立てていると、アクアが口を開く。
「ル…ルビー…もしかしてお前…いや君は…」
ルビーは次を促すように視線を向けるが、アクアは沈黙してしまった。
恐らく、今後、関係性を構築していく上で、次の言葉が障害にならないか、という点で悩んでいるのだろう。
(研修医を終えて、専門医になってるなら、僕より年上のはず。…まったく兄さんには困ったもんだ。どうせ、そこまで口を開いたんだから、続きを言わないと姉さんも困るだろ)
(はあ…、仕方ない。もう少し聞きたかったが、邪魔者は消えて、当人だけにしてあげるか)
「聞きたいことが聞けたし、そろそろ僕は寝るよ」
「ッ―!じゃあ俺もっ」
(甘いな、兄さん。折角僕が譲歩したんだから、そうはさせないよ)
「兄さん。姉さんに聞きたいことがあるんじゃないか?さっきの反応を見ると、知り合いとか、かな?中々こういう機会無いんだし、ハッキリさせとかないと」
「ほら、姉さんを見てみなよ。質問受ける気満々みたいだよ」
そうだ、ルビーだって、アクアの質問によっては、自分の置かれた環境を知ることができる。
「…はあ。わかった。間違ってると恥ずかしいから、ライトが寝たら聞くよ」
「じゃあ、そういうことだから、寝るね。」
「あと、ちゃんと聞いたかは、明日姉さんに聞くから。…おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみ!また明日!」
(よし。思わぬところで情報が手に入った。まさか知り合い同士とはな…。それにしても3人中2人が知り合いって、そんな事があるのか…?)
(いや、そもそも転生者自体、普通はあり得ないんだから今更か。こうなると、何らかの意思を感じるな…)
そう思いながら、僕はリビングを後にし、寝室に入る。
いくら赤ん坊の柔軟な脳であっても、流石に今日は脳が疲れたらしい。布団に入ると、睡魔に抗えなくなった。
(兄さんは最後の一歩が踏み出せない意気地なしだし、姉さんはちょっと、いや結構…危なっかしいな…。僕がしっかりサポートしな…けれ…ば……)
――
翌朝、母さんの声で目覚める。
「あれ…?こんな順番で寝てたっけ…?」
そう聞いた僕が布団を見ると、端に寝ていた筈の姉さんは、兄さんと母さんの間に寝ていた。
また、布団で隠れてはいるが、姉さんは兄さんに抱きつく形で寝ているようにも見える。
(ああ、予想通り、ただの知り合いじゃなかったか。これは質問し甲斐があるな)
ふと、姉さんの顔を見てみると泣き跡があった。
ただ、それは赤ん坊がお腹を空かせて泣いた時の顔でもなく、哀しみから苦悶の表情を浮かべている訳でも無い。
まるで、ドラマや映画で見るような、二度と逢うことが叶わない最愛の相手と奇跡の再会を果たしたかの様な、幸せそうな顔をしていた。