ミヤコに神を名乗った事件からはや一年。
星野アイはモデルにラジオアシスタント、ドラマ出演と順調に駆け上がってきた。
三つ子の活動も怪しまれない程度までに成長し、アイドルの子供という誰もが羨むような人生を謳歌していた。
「ああ、そういえば兄さん。この前僕が行かなかった現場で監督に気に入られて、映画のオファーがきたんだって?さっきミヤコさんから聞いたよ」
「ああ、そうだよ。僕が出ればアイを出してくれるって言うから…。ライトもあの時来ればよかったのに。アイが『親離れだぁ…』って言って悲しがってたぞ」
「あの時は悪かったよ。ちょっと調べたいことがあってね」
「お前まだ調べてるのかよ。そろそろ前世との違いなんて出尽くしただろ」
「いや、それについては調べ終わったよ。今全国模試を受けても一位程度、簡単に取る自信があるかな」
一通りのことを調べ終わったライトであった。
一位を取る、というのも決して虚言ではなく、前世の知識と上手く照らし合わせる事で、知識の置き換えに成功していた。
最近はもっぱら、Lやニア、そしてキラに類似する人物がいないか調査している。ただ、Lであれば解決しそうな難事件が未解決のまま残っていたり、心臓麻痺やその他死因による大量殺人と思われるものも起きていないようだった。
「一位程度って……。全国の受験生とルビーに謝れ」
「なんで私も!?私は別によくない?」
「ああ、そうだね。姉さん、弟の方が賢くてごめん」
「確かに…。最近姉として威厳がなかったのはそういうことか!あーあ、最初はライト、可愛げがあったのに本性出てからは結構辛辣だよね」
「そうかな?僕としては当たり前のことを言ってるつもりだったんだけど。あっ、賢さについてだったら兄さんにも謝った方がよかったかな?」
「「いや、そういうところっ!?」」
転生者達は前世の記憶に引っ張られることなく、今世は今世として、流れる月日の中で家族の仲を深めていった。
ライト自身も時々辛辣なことを言うが、内容のラインは守っているため、会話の中でいいアクセントになっていた。
むしろ、アクアやルビーからは若干ギャグ担当として扱われそうになっていた。
――
晴れて苺プロ所属となった星野アクアは、今日の映画撮影で記念すべき子役デビューを果たそうとしていた。
「いいか、早熟ベイビー共、キャスティングってのは上の方で粗方決まってるもんなんだよ。金が掛かってる企画はコケるわけにはいかねぇから、確実に客が呼べる役者を押さえていくってわけだ」
「……まあ最近じゃ、キャストが良くても爆死することがあるがな。はははっ!」
「で、キャスティング権があるのは、極々一部の超大物監督か、超低予算でやってる小規模映画の監督くらいだ」
「さぁ、俺はどっちに見える?」
「超大物かんと……「超低予算の監督ですよね?兄さん、そんなところで監督をヨイショしなくていいって」」
「今日を迎えるにあたって、不躾かもしれませんが事前に監督のことは調べさせていただきました。実力はあるみたいですが、正直なところあまり名前が売れていません。大物なら多少なりともTVへの露出がある筈。それがないというのは小規模映画を作る監督ってことですよね?」
「正解だ。おれは超低予算の監督だ。それにしても、お前ガキのくせに、俺が気にしてること平気で突いてくるな。いやガキだから遠慮ないのか…?まあ、確かに売れてないが……」
「こんなにキャラ濃いなら、お前にもオファー出しとくべきだったか?名前は?」
「月と書いてライトって言います。オファーはありがたいですが、俳優には興味ないので先にお断りさせていただきます」
「また変わった名前だな。そうか、気が向いたらそこの早熟ベイビー1号を通して連絡してくれ」
「おい、1号。10時から撮影に入るから準備してくれ。場所は……おーい、こいつらを控室まで連れてってやってくれ!」
――
控室までやってきた三つ子とミヤコであったが、先程から寝ていたルビーが起きたところ、アイがいないことを知ったことでルビーは大泣きし始めた。
「ママぁああああああ!ママのどごがえりだい!なんでママいないの!!」
「アイとは撮影日が違うんだよ」
「早く帰ってバブりたい!!私をオギャバブランドに返してー!」
「オギャバブランドなら、さっきまでミヤコさんのところにあったじゃないか。ぶっちゃけ、母さんより大きいんじゃないか?」
スッと泣き止むルビー。
なにやら手の動きが何かを掴む、いや揉むような動きをしていた。
「た、確かに…!いつもよりフカフカだったかも…!!」
「遠くのおっぱいより、近くのおっぱいって言うもんね……!」
「バンッ!」
その時、後ろから何かを叩くような大きな音が聞こえた。
「ここはプロの現場なんだけど!遊びに来てるなら帰りなさい!」
「私は有馬かな。共演者よ!」
「あー、この子あれじゃない」
「重曹を舐める天才子役…?」
「違うよ姉さん」
それに対して、ライトとかなはほぼ同時に答える
「10秒で泣ける天才子役、ですよね?」
「10秒で泣ける天才子役よ!!」
「あら、あなた良く知ってるじゃない。」
「当然です。まさか僕みたいなのが、今人気の女優さんとお会いできるとは思ってませんでした。テレビで見るよりお綺麗なんですね。」
わざとらしく誉めたつもりのライトであったが、子役ではなく女優と言われたこと、可愛いではなく綺麗と言われたことが、背伸びをしたいお年頃に響いたらしく満更でもないようであった。
「…ふ、ふんっ。そこの2人より礼儀がなってるみたいね!特別に仲良くしてあげてもいいわよ!」
このやりとりを見ていた、アクアとルビーは共にライトのことを、またか、といった目で見ていた。
「私もう行くけど、せいぜい下手くそな演技をして足を引っ張らないことね」
「そしてそこのあなた、かなの鞄を持つために着いてきなさい。えっと名前は…」
「星野ライト。堅苦しいの苦手だからそろそろ普通に話していいかな、かなちゃん?」
「いいわよ。その代わり今日は一日私の相手しなさい!」
そう言ったかなの後ろをライトが着いていく。
去り際に残された2人に対してウインクをしていった。
2人は台風が過ぎ去ったことに安堵していた一方、その台風の目のことを心配していた。
「あの有馬かなってやつ、見事に騙されてたな。普通はライトの心配をしないと変だけど、…まあライトだしな。分かっててわざとやってるだろ。」
「幼稚園でもそうだったけど、またライトの毒牙にかかる子が出るとはねー。前にアクアが言ってた通り、いつか刺されそうだよね」
「そこまで計算して、だろ……」
「「ははは…。はぁ…」」
――
撮影は成功。
途中一悶着あったが、今日の有馬かな係のライトが上手く慰めたため、大きな騒ぎにはならなかった。
「早熟1号。弟2号のコミュ力どうなってんだ?ありゃあ、前世詐欺師とかそのレベルだぞ。スタッフも『ライト君がいて助かった』って言ってたし、何よりあの有馬かなを短時間ながら、手懐けてるしな」
「あいつは幼稚園でもモテモテだよ。何なら、保護者とか先生にも人気がある」
「最近のガキはやべぇな。」
「あそこまでとは言わねぇが…、役者にとってコミュ力って大事でな。役者個人の密着ドキュメンタリーでもない限り、共演する演者ってのはいっぱい居るし、それを支えるスタッフだっていっぱい居る。」
「芸能界ってのはな、田舎にある村社会みたいなもんで、良い行いも悪い行いも速攻噂が広まるんだ。」
「子役の頃から大御所気取りだと、よっぽどのことがない限り軌道修正なんてできねぇ。成長すれば使いにくい、…というか使いたくない俳優の出来上がりだ。」
「じゃあ今日俺と共演させたのは、あの子にお灸をすえたかったの?」
「そこまでは考えちゃいねぇが。…ただまあ、今回のことで栄養になればと思ってた訳だ。ただ幸か不幸か、2号が手助けしちまったからなぁ。最後まで面倒見てくれればいいが…」
「ライトなら、その辺考えてるだろうから大丈夫でしょ。…でも一応念のため言っておくよ」
「で、お前の話だが、俺の想像通りの演技でよかったぞ。わざわざ伝えなくても演出と脚本、キャスティングから監督の意図を汲み最適な解を探す。これができるのは大人でも中々いない。役者ってのは総じて我が強いからな。」
「俺みたいな立場からすると、すごい演技より想像通りぴったりの演技をする奴の方が欲しい。その点で言えば、今日のお前は100点だ。」
「お前はこのままぴったりの演技ができる役者になれ」
「いや、役者になるかわからないし……」
照れ臭そうなアクアであったが、監督からの評価を受け別の思いもあった。
(俺が俳優か…。ルビーが言ってた芸能一家っての夢物語じゃないかもな)
アクアは芸能界に片足を突っ込んだ。
――
こうして2年の年月が経過する。アイが20歳になり、大きく飛躍する年の話だ。