神の子   作:しろ0322

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誤字報告ありがとうございます!
それだけ真剣に見ていただけているということなので大変有難いです。


天命

 待ちに待った、東京ドーム公演当日であったが、前日から降り続いた雨は未だ止む気配を見せず、空は暗雲が立ち込めていた。

 

「あれー?おかしいな。私晴れ女なんだけど、全然雨止みそうにないなぁ」

 

「きっと地方から遠征にきたファンに雨男雨女が沢山いて打ち消されてるんだろ」

 

「流石の私でも1対多は分が悪いかぁ」

 

アイの顔はまるで、「修行すれば勝てますけど」といった、例え相手が大人数であっても負けるつもりはないような表情をしていた。

 

元々今日はどんな天気であろうと、会場までは社長の運転する車で向かうため、迎えに待っているところであった。ただ社長が前祝いで酒を飲みすぎて寝坊をしたのかは分からないが、中々来ない。事務所からここまで然程離れているわけではないため、きっと雨のせいで道路が混んでいるのだろう。

 

 

しばらくすると、来訪を告げるチャイムが鳴る。

待ちきれなくなっていたルビーは、アイより先に出迎えようとする。

 

「ママはそこで待ってて!私が開けてくる!」

 

「しょうがないな、俺も行くよ。転ぶから走るなよ!」

 

以前にも増してアクアとルビーは仲が良く、最近では過保護とも言っていいほどアクアは世話を焼いている。

 

「アクアとルビーは仲が良いなぁ。なんか娘を嫁に出したみたいで嫉妬しちゃう!でもいずれ、兄離れ、妹離れしちゃうのかなぁ」

 

「ははは。あの2人は離れることは無さそうだけどね。それより、母さんが子供離れできるかの方が心配じゃないか?」

 

「私は子離れしません!アクアとルビー、それにライトも大事だから一生離したりはしないよ☆」

 

そんな事を話していると、玄関から物音と叫び声が聞こえる。2人は顔を見合わせた。

 

「妙だな…。母さん、社長ってここの鍵持ってたよね?じゃあチャイムを鳴らす必要はない筈……」

 

ようやく異変に気づいたアイとライトはドアの隙間から玄関を窺う。

そこから見えたのは、横たわるルビーと必死にルビーを守ろうとするアクア、そしてナイフのようなものをもったフードを被った怪しい男の姿。

 

「…アクアっ、ルビーっ!」

 

悲鳴を上げそうになるアイだったが、ライトが手を握ることでなんとか踏みとどまる。

今まで以上に真剣な眼差しでライトはアイに伝える。

 

「…時間がないから手短に話す。母さんは何も言わずただ頷いてくれ。」

「あの見た目、ストーカーだろう。十中八九、狙いは母さんだ。母さんが行けばあのナイフで刺される。…希望的観測だけど、僕みたいな子供なら、残り少ない良心が邪魔をして刺されるまではいかないと思う。」

「…僕がなんとか時間を稼いでくるから、その間に警察を呼んでくれ。」

 

「…でもライトみたいな子供じゃ…」

 

話しながらもライトは昨日アイがミヤコさんと電話していたのを思い出す。ライトはアイの手を先ほどより強く握りしめながら続ける。

 

「いいか?警察は110番。ミヤコさんへの連絡は着信履歴の一番上から電話を掛けるんだ」

 

ライトはアイの返事を待たずに玄関に向かおうとする。

その姿をまるで今生の別れのような表情でアイが見つめる。

 

「大丈夫。これでも僕は母さんより頭が良いんだ。心配しないでくれ」

「あと使い物になるか分からないけど、これ借りてくね」

 

そう言って手に取ったのは、偶々すぐそばにあったフローリングワイパーだった。

 

(…まったく、僕も運がないな。ああは言ったものの4歳児の身体で何ができる。兄さんも姉さんもこんな時まで僕に頼って、偶にはかっこいい所見せてくれよ)

(…ただ運がないとは言ったものの、前世でも今世でも家族には恵まれたかもな)

 

「じゃあね、母さん」

 

そうこうしている内にアクアとルビーは抵抗する体力が無くなったのか、はたまた気絶しているのか動かなくなっていた。

 

(よし、血は出ていない。後は頭さえ打っていなければ…)

 

「兄さんと姉さんは無事だろうな」

 

「なんだ、双子だと聞いていたがもう一人いたか。まあいい…。抵抗するならお前もこうなるぞ!」

 

「…些か情報が古いね、僕たちは三つ子だ。『双子だと聞いていた』ってことは誰か情報提供者がいるのかな?」

 

「くっ…!今はそんな事はどうでもいいだろ!さっさとそこを退けっ」

 

「関係なくないよ。もし君が母さんを殺したら、僕たちは復讐しなくちゃいけない。それなら仇の事はなんでも知っておきたいだろ?それにどうせなら、僕たちに一生意識される方が君の自尊心にとってもいいんじゃないか?」

 

「……」

 

「で、情報提供者について教えてくれないのか?」

 

「…そういって、警察来るまで時間稼ごうとしてるんじゃないだろうな」

 

「……あはは、バレたか。見た目の割に頭回るんだな」

 

挑発するかのようにライトは言う。

こういう輩が挑発されると得意げに話し始めるのをよく知っていた。

 

「…!!ああっ、そんなに知りたいなら教えてやるよ!」

「俺には昔から協力してくれる人がいてな。あの人はいつも俺の味方をしてくれてた!今日だって、アイに復讐したいって言ったららすぐマンションの場所を教えてくれたよ!」

「そういえば昔、俺のことを捕まえようとした馬鹿な医者が崖から落ちてたなっ!確かアイの主治医だったか?アイの出産を隠すなんて子供を勝手に産んだアイと同罪だ!ああいう医者みたいなエリートが呆気なく死ぬのを見て興奮したよ。あの時俺はあいつより上だと実感したっ!」

 

(…こいつ思った以上にベラベラ喋るな。それにしてもつくづく、クズの考えることは理解できないな)

…興奮していた男であったが、どうやら思った以上に周りを気にしていたようで、近づいてくるサイレンに気づいてしまった。

 

「…ッチ!お前のせいで騒がしくなってきたな。流石にあまり時間がないか。アイを殺して捕まるなら、一人や二人殺しても同じだ!お前を殺して奥にいるアイも殺すっ!」

 

そう言って、男はナイフを握りしめライトの方の近づいてきた。

 

(!?流石にもうダメか…?あと少し時間が稼げればきっと…)

 

4歳児の持つフローリングワイパーを脅威とは思わない男は少しずつ歩み寄る。

 

 

その時、何処からか神の悪戯のように一枚のノートの切れ端が宙を舞い男の顔を覆う。

男にとってそれがただの紙であったのなら良かったが、その後の反応を見るに、違ったみたいだった。

 

「なんだっ!この紙は!子供騙しもいい加減にしろっ!」

 

紙を払い除け再び歩み出す男だったが、目の前には2mを越す真っ黒な異形の姿。

 

「お…お前ぇ!そこの黒いの。い…いつからそこにいたっ!」

 

人間の根源にある恐怖を刺激するかのようなその姿に、男は恐れ慄き、ナイフを振り回しながら後退る。

恐怖に対する抵抗のためナイフを振っていた男であったが、人ならざる者には当たらず、空を切る。

 

『おっ!そういえばバスジャックをした男も同じように俺を攻撃しようとしたなぁ!あん時は弾を全弾打ち切った挙句、勢い余って外に出て交通事故!全くライトの考えることはいつも面白いぜ!…クククッ。まあ今はノートもノートの記憶もないただの4歳児だがな。クククッ』

 

「…ああ!?なんだバスジャックって?それにノート!?訳わからないことを言うんじゃねぇ!!」

 

(バスジャックとノートだと!?…確かあの時後から聞いた話だと、麻薬の常習犯だったバスジャックの犯人は、幻覚を見て銃を発砲したらしい。ただあの男が言っていた幻覚がもし麻薬による者ではなく、死神のことだったのなら、ここにいるのは死神……!)

 

『あ、そろそろじゃねぇか?』

 

「なんだそろそろって…?ま、まさか俺の寿命か!?クソっクソっクソっ!せっかくの計画がお前たちのせい台無しだ!!挙句の果てに化け物が俺の寿命なんて予知しやがって!お前みたいな変なやつに決められるくらいなら俺の意志でーーーっ」

 

そう言いながら唐突に男は玄関、いやその先の通路の手すりを飛び越え、真下に落ちていった。

 

『あっ、落ちちまったか。まあ確かに寿命はそろそろだったが、俺が言ったのは警察がそろそろくるって事なのになぁ』

 

外から聞こえる大人数の足音とリビングからの小さな足音を聞いたライトは急ぎ目の前に落ちている紙を拾いポケットの中に隠す。

 

刹那、背後に気配を感じたが、一言呟いたあと、不審に思われないように自然体、いや怯えた子供のように振る舞った。

 

「死神。後で話がある」

 

『はいよっ』

 

玄関と背後のドアが同時に開く。

 

「大丈夫ですか!!要救助者はどこにっ」

 

「ライトっ!それにアクアとルビーっ!」

 

「僕は大丈夫だ。男はもういないから大丈夫だ。先に兄さんと姉さんを救急の人に引き渡してくれ」

 

アイは涙を堪えて、目の前のことに取り掛かる。

アクアとルビーを撫でる姿はまるで聖母マリアのようであったが、我が子の惨状を見るその瞳には影がかかり、心を蝕もうとしていた。

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