〇〇の日のこと…   作:バニルの弟子:ショーヘイ

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このすばが末長く続きますように…
七夕なのでw


交わした日のこと…

 踊り子コンテストが終幕して暫くの月日が経った。

 国中から選抜された踊り子が集結したあの大会で有終の美を飾ったアクセルハーツは、ただでさえ広まっていたその名を更に世界へと轟かせた。

 お陰様で全国から申請される演舞の依頼は後を立たず、今では東奔西走して過ごす毎日。

 自然、プロデューサーである俺も付きっきりで各劇場のオーナーとの交渉や接待などに明け暮れている。

 そして今日も今日とて、次回の舞台の打ち合わせをすべく、馴染みの小劇場で会合を開いていた。

「とまあ、来週エルロードでやる公演の流れはこんな感じだ。なんか質問あるか?」

 依頼書から顔をあげ三人に投げかける。

 しばし間を置いてからエーリカがスッと手を上げた。

「カズマ、ちょっといい? この舞台の照明なんだけど、アタシ達の上から照らす事ってできないのかしら?」

「それはちょっと難しいだろうな。基本的に照明の位置などの移動は出来ないって言われてるし」

「やっぱそうようね。うーん、Cutie Starの時は上から光を照らしてもらった方が映えるんだけどなあ」

 顎に人差し指を当て困り果てた様子を見せるエーリカ。

 踊り子たっての要望だ、なんとかしてやりたい所なのだが、こればかりは公演先に交渉するしか……。

「おっ、これなら使えるかもしれないぞ」

「えっ、どれどれ?」

 横から手元を覗き込んできたエーリカ以外にも見えるよう、机の上に舞台の図面を広げある一点を指差した。

「この客席側の天井に照明がついてるだろ。ここから光を出してもらえばそれらしく見えるんじゃないか?」

「でも舞台袖の席に座るお客さんから見たら、光が真っ直ぐ降りてるように見えないから同じなんじゃないですか?」

 シエロの呈する疑問を、しかし俺は余裕の表情で受け止める。

「むしろそれがいいんだよ。エーリカが表現したいのはお前達の頑張りを見届ける星々の煌めき。そして星を見上げる時って大概真上じゃなくて斜めの方だろ。だから願掛けをする星の光は、斜め上からにした方が自然なはずだ」

 どうやら俺の力説に共感してもらえたらしい。

 シエロとエーリカが目を輝かせて首をコクコクと縦に振った。

「カズマさんの言う通りですね。初めは天からの調べみたいな感じの方がいいのかなと思ってたけど、むしろそっちの方が歌の趣旨に合ってます」

「星の輝きを身に纏ったエーリカちゃん、そんなの可愛いに決まってるじゃない! やるわねカズマ、流石はアタシ達のプロデューサー!」

「ふっ、俺にかかればこんなもんさ」

 サッと前髪を払う俺の肩をご満悦なエーリカがバンバンと叩いてくる。

 地味に痛いのだが、頼りにされてる感があるので悪い気はしない。

 やはり俺は商人や管理職の才能があるのだろうか。

 これは本格的に冒険者引退を考えてもいいかもな。

「あー、それでリアはどうなんだ? エーリカとシエロは問題なさそうだけど……どうかしたか?」

 リアの意見も聞こうと顔を向けてみると、なぜか視線がリアとバッチリとあった。

 するとリアは少々取り繕ったように手を横に振り、

「あっ、いや、なんでもない。照明の話だったよね。私もカズマが上げてくれた案で賛成だ。いつもいい案をありがとう」

「お、おう。それほどでもあるけど」

 戸惑う俺をよそにリアは席から立ち上がり、手をパンっと叩いた。

「よし、打ち合わせはこの辺りにして今日は解散しようか。私は新曲作りのために早く帰りたいから先に行くよ」

 言うが早いか俺達に背を向けたリアは、足早に舞台部屋から出て行ってしまった。

 そんなリアの後ろ姿を呆然と眺めていると、

「カズマさん、リアちゃんと何かあったんですか?」

 シエロが心配と疑念の混ざった顔で尋ねてきた。

 隣にいるエーリカからも物言いたげな視線を感じる。

「何かって何だよ」

「何かは何かです。最近のリアちゃん、カズマさんへの態度が素っ気ないじゃないですか。さっきだって、早々に話を切り上げて帰っちゃいましたし」

「それに時々、ぼんやりとカズマを見てるのよね。でもリアに聞いても、何でもないとしか言ってくれなくて。カズマなら何か知ってるかと思ったんだけど」

 こいつらの心配は最もだ。

 共に仕事をする人間同士が仲違いをすれば雰囲気が悪くなり、果ては踊り子としての活動に支障をきたす可能性がある。

 それ以前に、こいつらにとってリアは大事な仲間なのだ。

 その仲間の一大事ともなれば平静ではいられないのだろう。

 だけど。

「そんなの俺の方が聞きてえよー」

「「え?」」

 机にグダーっと頭を倒した俺の態度に、二人は思わず目をぱちくりとさせる。

「俺だってリアの行動の意味が分かんなくて戸惑ってんだよ! こないだの踊り子コンテストの頃は割といい感じだと思ってたのに、それが終わった途端に淡白な対応しかしてくれなくなってよ。かと言って、こっちから何かリアの気に触るようなことをした覚えは全くないし。あいつ、マジで何考えてんだよ」

 項垂れる俺に唖然とするエーリカとシエロはそっと顔を見合わせ、

「自然な流れでセクハラしたとかじゃなくて?」

「無意識のうちにパンツをスティールしたとかでもなくてですか?」

「してねえから! リアにはまだしてねえから!」

 失礼極まる二人の発言を反射的に否定する。

 にもかかわらず二人は軽く引くような視線を向けてきた。

「冗談のつもりだったのにムキになるのが返って怪しいですね」

「リアに‘は’まだって、これからはするって意味かしら」

「お前らな」

 こいつらが普段俺のことをどう思っているかがよく分かった。

 この恩知らず達め、今言われたことをこいつら相手にやってやろうか。

 一瞬そんな考えが頭をよぎるが、日頃の行いと言いたげな視線を感じ、口を噤むしかなかった。

 そんな俺の様子が面白かったからなのか、二人はクスッと笑みをこぼし、

「とりあえず、カズマも知らないって事は分かったわ。となるとあの手しかないわね」

「エーリカちゃん?」

 何かを決意したエーリカにシエロが不安げな声をあげる。

 するとエーリカはギュッと拳を握り、

「決まってるじゃない、無理矢理にでも聞き出してやるのよ。何でもかんでも自分一人で抱えようとするあの頑固者からね!」

 力強い口調でそう言い切った。

 結局そこに行き着くのかと呆れもしたが、かと言って他の妙案があるのかと聞かれると黙るしかないのも事実。

 やはり最終的には話し合いで解決するしかないのだ。

「そうだよね、ボク達が真摯に尋ねたらリアちゃんだってきっと話してくれるよね」

 エーリカからの発案があまりに普通の回答だったので安堵したシエロが、首を力強く縦に振り賛同する。

 その反応にエーリカも満足したようで、俺の肩にポンッと手を置き、

「まあ、そう言う訳だから後の事はアタシ達に任せなさい。安心して、アンタの悪いようにはしないから」

「お、おう」

 片目を閉じて随分と自信満々なエーリカに含みを感じながらも、俺は曖昧に返事を返すのだった。

 

 

 

 あれから一週間ほど経過した。

 今日は久しぶりにアクセルハーツ関連の活動がオフの日。

 日頃から忙しく働いているのだから、今日ぐらいはゆっくりと羽を伸ばすよう三人には伝えている。

 かくいう俺も前回まとまった自由時間を取れたのは随分と前だ。

 なのでのんびりと屋敷でダラダラしようと決めていた。

 それなのに……。

「なんで買い物なんかに付き合わないといけないんだよ」

 両手に紙袋を持ったままため息混じりに不平を溢す。

「すいません、ボク一人だと手が足りなくなるかもと思いまして」

 俺の横を歩くシエロが決まり悪そうに謝罪してくる。

 因みにその両手には何も持っていない。

 つまり、この買い物に俺は必要なかったという訳だ。

「だったら半分ぐらい持ってくれよ。お前の方が俺よりも力あるんだからさ」

「それはそうですけど、これでもボクは女の子なんですから、荷物ぐらい男性であるカズマさんが持ってくれてもいいじゃないですか」

 妙にソワソワしながらもしっかり不満は漏らしてくるシエロ。

 さらっと俺よりも力があることを認めていることに思う所がなくはないが、そこを深掘りすると自分が傷つきそうなので止めておく。

「俺は真の男女平等を願う者。都合のいい時だけ女であることを主張するのは許さない人間だ。力仕事は力のある方がする、こう言うのは適材適所でやるべきなんだよ」

「あの、自分で言ってて悲しくないですか?」

「ほっとけ」

 哀れみの目を浮かべるシエロからそっと目をそらす。

 結局自分で傷つけてしまったことに若干の敗北感を感じていると、シエロが急に立ち止まり小さくあっと声を漏らした。

「どうした?」

 足並みを揃えようと俺もその場に立ち止まる。

 するとシエロは右側の通りを指差した。

「あれ、リアちゃんじゃないですか?」

 つられて見てみれば、通りを二人並んで歩く男女の後ろ姿があった。

 少女の方は白色のTシャツに肩口からは黒のストラップを覗かせ、その上に青色のジャケットを羽織っている。

 下は茶色のショートパンツ。

 靴もスニーカーのようなものを履いており、随分とスポーティーな格好だ。

 見慣れない服装だし顔は見えないが、まず間違いなくリアだろう。

 分からないのは男の方だ。

 こちらの服装は、淡い青緑色をした薄手のジャケットにズボンは黒色のチノパンツ。

 腕にはツーリングの腕輪をしており、なんというか、ものすごく鼻持ちならないイケメン臭がした。

「シエロ、あいつ誰か分かるか?」

「い、いえ、この距離だと流石に分からないですけど……」

「どうしたんだよ?」

 戸惑った様子のシエロに、視線はリア達から切らずに尋ねる。

 するとシエロは声を押し殺して、

「どうしてボク達、物陰に隠れてるんですか?」

 言われて自分の行動を顧みてみる

 そこには、通りの角の店に隠れるようにしてリア達を観察する自分がいた。

 周囲の人間からの痛々しい視線も飛んできている。

 完全に無意識の行動だ。

 むしろ俺も、なんでと思っている。

 だがそんな状況にも関わらず、俺の視線は二人に固定されて離れなかった。

「これはあれだ、俺はあくまでプロデューサーとして、踊り子が不純異性交遊をしていないかを確認する為にだな」

「いくらプロデューサーでもそれは過干渉が過ぎますよ」

 正論すぎて何も言い返せねえ。

 こいつらは別に恋愛禁止のアイドルではない。

 プライベート時にどこで誰と会おうが問題はないはずなのだ。

 はずなのだが……。

 なんだろう、なんかすごいモヤモヤする。

「で、でもお前だって気になるだろ。リアが人知れずコソコソと相引きしてるあいつが誰なのかさ」

「あ、相引き⁉️ ま、まあ気にならないと言えば嘘になりますが、でもこれ以上追いかけるのはリアちゃんに悪いですし」

「そうよね、いくらユニットでもプライバシーは尊重するべきだわ。全く、これだからカズマは無神経って言われるのよ」

「……そう言うお前は何やってんだよ」

 聞き馴染みのある声が聞こえたと思い振り返る。

 そこにいたのは、大きめの赤縁サングラスにピンク色のキャペリンを被り、俺達同様リアがいる通りを一心不乱に覗き見るエーリカだった。

「見れば分かるでしょ、尾行よ尾行」

「いくらユニットでもプライバシーは尊重すべきだったんじゃなかったのか?」

「アタシは純粋にリアの事が心配だったから見守っているだけよ。他意はないわ」

 こいつ、完全に開き直ってやがる。

 だがとりあえずは放置でいいだろう。

 今はそれどころではないのだ。

「っ! あいつら角を曲がりやがったぞ」

「急ぎましょう。このままだと見失っちゃうわ」

「ちょっと二人とも⁉️ もう」

 リア達が入って行った曲がり角まで忍足で駆け寄る。

 物陰に隠れて様子を伺ってみると、この街でも指折りの高級な装備品が売られている店の前で二人は立ち止まっていた。

 リアの横顔は見えるようになったのだが、男の方は相変わらず背中を向けたまま。

 口元を読む限り、どうやら中に入るか迷っているらしい。

「クソ、男の顔が全然見えねえ。さっさとこっちに顔を向けろってんだ」

「全くよね。軽く変装しているとはいえ、こんなにも可愛いエーリカちゃんが後ろにいるんだから普通気がつくものじゃないかしら」

 こいつ、尾行がどういう物なのか分かっているのだろうか。

 不服らしいエーリカに内心呆れている俺にシエロがおどおどした様子で、

「あのカズマさん、そろそろ止めませんか? ボク、なんだかリアちゃんに申し訳なくなってきたんですけど」

「……いや、せめて相手の男が誰かは確認しておかないと」

「そうは言いますが、カズマさんだって自分の素性を知らない間に調査されるとなれば嫌だと思うでしょ? もしこの事がリアちゃんにバレたら、それこそ今後の運営に響いてきますよ」

 先ほどよりも強い口調で嗜めてくるシエロ。

 その言葉に俺は押し黙った。

 シエロの言い分は的を射過ぎており反論の余地がない。

 そもそも俺はそこまで人の恋愛に興味なかったはずだ。

 それなのにどうしてここまで足が鈍るのだろうか。

 正体不明の心情に揺さぶられている俺とは対照的に、エーリカは熱り立って抗議していた。

「シエロってば何を言っているの? ここまできて相手の顔を拝まず帰るだなんて考えられないわよ。それに、もしリアに相応しくない相手なら一言文句言ってやらないと」

「でも、こういうのは本人同士が決める事だし」

「なによ、シエロってば、リアが変な男に引っかかってもいいっていうの?」

「それはボクも嫌だけど、そういう事じゃなくて」

 正しいことを言っているのはシエロのはずなのに、いつの間にかエーリカに押され気味になっている。

 というか流石にちょっと五月蝿くなってきた。

 これは早々に止めておかねば尾行どころではなくなるだろう。

「おい、お前らその辺で……」

「待って! 二人が中に入りそうよ」

 俺が仲裁をしようとしたその時、エーリカの鋭い声が耳に刺さる。

 慌てて振り返ると、扉を開いた男に促されるまま笑顔のリアが店へと入店していた。

 リアが横切るのを穏やかな表情で見守る男。

 ていうか、あいつは……。

「あれはミツルギじゃない。あの二人ってそんな関係だったの?」

「うーん、特にそういう話は聞かなかったけど」

「でも、あの人なら心配いらないんじゃない? ちょっとウザいけど、周囲からの人望はあるみたいだし。ちょっとウザいけど」

「悪い噂は全然聞きませんし、紳士的な上イケメンだって女の子達からも人気だしね。ちょっとウザいですけど」

 えっ、なんでミツルギのやつがリアと一緒にいるんだ?

 顔見知りではあったが、そこまで仲良くしている素振りは全くなかったのに。

 第一、ミツルギの本命はアクアだろ。

 どこがいいのかさっぱり理解できないが、あいつはアクアの事を心底心酔していたはずだ。

 それなのになんでリアと。

 リアもリアで、あんな楽しそうに笑うとか。

 まさか、本気でミツルギのことを……。

「ともあれ、これで相手が誰かは分かった訳だし、そろそろ帰ろっか」

「それがいいよ。そもそもこういうのはどうかと思ってたし」

 そう結論付けて撤収しようとするエーリカとシエロ。

 さっさと来た道を引き返そうとするが、しかし俺が付いて来ていない事に気がついた。

「カズマさん、どうしたんですか? もう帰りましょうよ」

「あ、ああ、そうだな。いい加減帰んないとな……」

 立ち上がり帰路に着こうと足を踏み出す。

 しかし、次の一歩を踏み出せない。

 何でかは分からない。

 だが、今はこの場所を無性に離れたくなかった。

「……ねえシエロ、やっぱりもうちょっとだけ見ていかない?」

「……へ?」

 と、さっきまで帰ろうとしていたはずのエーリカが真逆の意見を提案して来た。

「……そ、そうだね。ミツルギさんって前に周囲の目を気にせず、リアちゃんに告白したことがあるらしいからちょっと心配だし」

「はあ?」

 あれだけ頑なだったシエロまでもがそんな事を言い出す。

 いきなりどうしたんだこいつら。

 なんでさっきまでと意見が真逆になってるんだ?

 あまりの急展開に戸惑う俺に、

「そういう訳で、アタシ達はもうしばらくリアを見守っていようかと思うけど、カズマはどうする?」

「どうしますか、カズマさん?」

 茶目っ気を込めた口調で、だけどどことなく真剣な目をして尋ねて来た。

 俺は……。

 ……………………。

「……しょうがねえな。お前らだけじゃまともな尾行なんか出来ないもんな。それに、カブラギの野郎が何かしでかすかもしれないし。ここは魔王軍幹部達をも翻弄してきたこのカズマさんが同行してやるよ!」

 胸を張り堂々と言い放った俺の言葉に、二人はふっと頬を緩めた。

 

 

 

「あの、カズマさん?」

「なんだよシエロ、集中してるんだから声をかけてくるな」

 今は丁度リアとミツルギが小道具屋でショッピングをしている所だ。

 武器屋の次に入るのが小道具屋とは、一体どういった神経でデートプランを練ったのだろうか。

 色気の欠片も感じられない。

「ねえ、カズマ?」

「だから黙ってろって、気付かれるかもしれないだろ」

 これを考えたのはミツルギの奴か?

 だとしたらアイツ、モテるようでいて女のエスコートには慣れてないんだな。

 俺だったらもっとスマートに女の子が喜びそうな所に連れて行ってやるのに。

 ……いやまあ、実際にやったことはないけど。

「た、確かに尾行に誘ったのはボク達ですけど。でも……」

「さっきからなんなんだよお前ら?」

 一旦、リア達から視線を切り後ろに振り返る。

 そこでは顔を引き攣らせたシエロと頭を抱えたエーリカが物言いた気に立ち尽くしていた。

「なんだじゃないわよ! あんたは自分が何やってるか分かってるの⁉️」

「何って尾行に決まってるだろ。それ以外の何に見えるってんだよ」

 俺が即答すると二人はますます表情をげっそりとさせ、

「どこの世界に、狙撃できる態勢で尾行する奴がいるのよ!」

 矢を弓に番えていつでも準備万端の俺に指摘して来た。

「別に二人を襲おうとかそういうんじゃないぞ。カツラギのやつがいつリアにちょっかい出すか分からないだろ。そんな時いつでもリアを助けてやれるように念の為準備してるだけだって」

「そんな目が座った顔で言われても説得力ないですよ」

 押し殺していたつもりだったが、どうやら感情が表に出ていたようだ。

 だが俺としては、本当にどうこうするつもりなどない。

 あくまでこれはリア達をマネージメントする立場として純粋に心配しているだけで……。

 あっ、アイツ人とぶつかりそうだからってリアの肩を掴んで引き寄せやがった。

 そんでもって大丈夫かと言った感じで爽やかな笑顔浮かべやがって。

「……『狙撃』」

「っ⁉️ ちょっ、本当に打たないでくださいよ!」

「あんた、何考えてるのよ⁉︎ リアに当たったらどうするつもり?」

 狙いは寸分違わずミツルギの足元に直撃する。

 いきなりの奇襲は流石のソードマスター様も対応できないようで、無様にもすっ転んでいた。

 様子を確認した俺は振り返るとにこりと笑い、

「大丈夫だって、ちゃんと矢の先は丸めてるから。それに俺の幸運値なら万一にも狙いが外れることはないし、現に狙い通りだったからさ」

「あ、あんたって人は……」

「カズマさん……」

 おっと、二人ともドン引きですね。

 だが、これぐらいの事なら誰だってやるはずだ。

 日本では芸能人が彼氏彼女を作った際、それとなく別れるようマネージャーが相手方に交渉するのはよくある話だし。

 むしろ、俺がやっていることなんか可愛い部類だろう。

「っと、アイツら移動するつもりだな。こっちも場所を変えるぞ」

 手早く弓を背負い登っていた丘から駆け降りる。

 そんな俺の背中をシエロとエーリカが渋々といった調子で着いて来た。

「ねえエーリカちゃん、やっぱりカズマさんは誘わない方が良かったんじゃ?」

「アタシもそんな気がして来たわ」

 後ろで何か言っているようだが気にせず、リア達を見失わないよう千里眼を駆使して後を追った。

 

 

 

 それからというもの、リアとミツルギは色々な所へ立ち寄った。

 本屋だの服屋だのカフェだの。

 アクセルでデート出来そうな場所は軒並み回っていたのではないだろうか。

 お陰で俺達も散々歩き回された。

 その時々でミツルギが余計なことをしていたので、それを止めるべく狙撃で物を当てたりトイレの紙を回収したりコーヒーに塩を入れたり。

 様々な嫌がらせ、もとい対策をしていき。

 時刻は夕暮れ時へと差し掛かった。

「ねえ、いい加減帰りましょ。エーリカちゃんの可愛い脚が悲鳴をあげてるわ」

「散々邪魔しておいて今更ですが、ミツルギさんも悪い人じゃないでしょうし、きっと大丈夫ですよ」

 リア達の後方200m程を歩く道すがら、二人からそんな提案が出される。

「何言ってんだよ、むしろここからが一番警戒しないといけない部分だろ」

「えっ、どうしてですか? もうすぐデートも終わるでしょうし、なにも警戒することなんて」

 これだから箱入りのお嬢様は。

「いいか、夜に女子と二人きりになるシチュエーション、これを逃す男はこの世に存在しない。なんとか女子をその場に留めて夜まで引っ張り、そのまま一夜の夢を見るまでが鉄板なんだよ」

「い、一夜の夢ってっ!」

 顔を真っ赤にして口元を抑えるシエロ。

 貴族にしては意外にもすごくピュアな反応だな。

 ……いや、ダクネスとクレアが例外なだけか。

「とにかく、今ここで離れる訳には……」

「ちょっ、カズマ! あれ、あれ見て!」

 と、逼迫した様子でエーリカが俺の服の裾を引っ張って来た。

 慌てて視線を移すと、リアの肩を引き寄せてるミツルギの姿が。

 二人の顔は徐々に接近しそのまま唇を……。

「ち、ちょっと待ったあああぁ!」

 それは無意識の行動だった。

「「へ?」」

 俺の叫びに動きを止め心底驚いた表情を浮かべる二人。

「……あ」

 やってしまった。

 これまではちょっとした嫌がらせだけで押し止まっていたのに、事ここに至っては手よりも先に声が出てしまった。

 俺としたことが飛んだ失態だ。

 どうしよう、今までの工作は物証もないし無理やり誤魔化せるが、今回はあまりにもタイミングが良すぎる。

 これはもう言い逃れが出来ないぞ。

「さ、佐藤和真?」

「……ど、どうしてここに」

 当然の質問だ。

 マズイマズイ、これは一体どう説明したもんか。

 ずっとお前のことを見守っていたとか言ったらキモすぎるし。

 かと言ってミツルギが粗相をしないよう見張っていたと言ったところで同じこと。

 なにか……なにか良い言い訳は。

「カズマは今日一日中、ずっと二人のことをつけてたのよ。そいつがリアに変なことしないかどうかを確かめる為にね」

「ちょっ⁉︎」

「多少……ううん、大分やりすぎだし過剰だとは思うけど。それでもカズマさんのリアちゃんを心配していたって気持ちに嘘はないと思うよ」

「シエロまで!」

 名案が浮かぶより先に、木の影に隠れていたエーリカとシエロが姿を表しそんな余計なことを言い出した。

 こいつら、なんて事を暴露してくれてんだ。

 そんな事を大っぴらに言われたら、側から見て俺は明らかな不審人物になってしまうではないか。

 ……いやまあ、実際やってることはタダのストーカーだし、俺自身こんなのどうかとは思ったけれども。

 それでも、もっとこうオブラートに包むとか逃げ道を残すとか色々と方法はあるだろうになんでそこまで直球なやり方を選んだ?

「……カズマ」

「っは、はい!」

 ボソリと、しかしよく通る声で、顔を俯かせたリアが俺の名前を読んでくる。

 表情は見えない。

 だからこそ不気味さが天井値を越え、反射的に敬語で返事を返してしまった。

「今の話は本当なのか?」

「そそ、そんな訳ないだろ! 何が悲しくて俺がそんなタチの悪いストーカーみたいな事をしないといけないんだ。俺は今偶々通りかかっただけで、エーリカやシエロが言ってることは真っ赤な嘘で……」

 慌てて言い訳を述べる俺の口が自然と止まった。

 だって仕方ないのだ。

 右手をぎゅっと胸元で握りしめたリアが、そのアクアブルーの瞳に憂いを含ませ問い正してくる。

 そんな瞳に不思議と吸い込まれるような感触を覚えてしまったのだから。

「……ああ、本当だ」

 ぽつりと言葉が漏れた。

「どうしてそんな事を? あくまでプロデューサーとして、私達の恋愛状況を把握するため。そういう理由なのか?」

 糾弾するかのような口調のリアは、上唇を上げたまま上目遣いで詰問する。

 俺がここまでリア達を追いかけた理由。

 それは−−

「いや、そうじゃない」

 俺の言葉にリアは答えず、こちらを見定めるかのようにじっと見つめて来た。

「初めはそのつもりだった。……いや、今考えたらそれすら言い訳だったのかもな。今日お前がミツルギとデートしているのを見かけた時、すげえ胸の奥がずっしり来た。なんでそんな奴といるんだよ、なんでそんな楽しそうにしてんだよって。バカみたいだよな。文句言う筋合いなんか全然ないくせに、一丁前に傷ついてんだからよ」

 自分を客観的に見てみると、なるほどこれは中々に痛いな。

 こんなキモいやつ、さっさとこの場を退場すべきだろう。

「今日は一日邪魔して悪かったな。ミツルギ、お前のことは気に食わないが俺が口出しする事でもないからもう引き下がるよ。ただ、ウチの踊り子にあんまり変なことすんじゃねえぞ」

 言って俺は後を託すべく片手を上げた。

 ここまで俺の様子を口を半開きにして傍聴していたミツルギは顎に手を当て、

「君は何か勘違いしているみたいだけど、別に僕達はお付き合いなどしてはいないよ」

 はっきりとそんな事を言って……は?

「……付き合って、ないのか?」

 ぼそっと呟く俺の言葉に二人はこくりと頷く。

「ああ、確かにリアさんは魅力的な女性だけど、残念ながら付き合ってはいないよ」

 ど、どう言う事だ?

 頭の理解が追いつかない。

「じゃ、じゃあなんで今日一日デートなんかしてたんだよ?」

「それはリアさんが」

「ちょ、ミツルギそれ以上は……!」

 頬を火照らせ慌てて中断してくるリアだったが既に遅かった。

「気になる人をデートに誘いたいけど、ぶっつけ本番でやるのは不安だから練習として付き合って欲しいと頼んできたからだよ」

 腕を伸ばしていたリアの動きが止まった。

 その顔は見る見るうちに赤くなり。

 しまいには両手で覆ってその場に座り込んでしまった。

 えーっと、これはつまり。

「俺の勘違い……てこと?」

「そういうことになるだろうね」

 あぁ、要するに俺は早合点していたと。

 なるほどなるほど。

 そのせいで一日中こいつらの邪魔をしていたと。

「本当にすいませんでしたっ!」

 自分でも驚くほどのスピードで俺は頭を下げた。

 いくら相手が気に食わない奴だとしても今回の俺は明らかにやりすぎだ。

 普段ならもっと別の手段をとっていただろう。

 しかし、何故か今回に限っては歯止めが効かなかったのだ。

 そんなダサい言い訳を一通り聞いた後にミツルギはふっと笑い、

「頭を上げてくれ。誰にだって勘違いはあるさ。確かに今日は一日中散々な目に遭わされたけど、こうしてちゃんと謝ってくれた以上とやかく言うつもりはないよ。薄々君が実行犯なんじゃないかとも疑っていたしね」

「ミツ、ルギ……」

「ほら、仲直りの握手だ。これで全部水に流そう」

 伸ばして来たミツルギの手に俺は手を伸ばし、

「やっぱお前のことは嫌いだ」

 思いっきり払いのけてやった。

「なっ! 君ってやつは、ここまで妥協してやってるのに何が不服なんだい? 僕の何が悪いと言うんだ」

「そういう所作がいちいち鼻につくんだよ! これだから待ってるだけでなんでも思い通りに行く爽やかイケメンは」

「君は何に対して怒っているんだ?」

 こめかみをピクピクさせて当たり散らしてくるミツルギ。

 そんな奴に対応しようとこちらも手を前に構えた。

 一触即発の状況下。

 どうやって仕掛けようかとお互い睨み合っていたその時。

「はい、そこまで! いつまでもあんた達のコントに付き合うほど暇じゃないのよ」

 両腕を広げたエーリカが仲裁に入って来た。

「とりあえずミツルギ、今日のところはもう帰ってちょうだい」

「い、いやしかしまだリアさんとの約束が」

 口答えするミツルギの背中をエーリカは問答無用で押し付け、

「それはもう十分果たしてくれたからいいの。ほら早く帰って!」

「わ、分かった分かったよ。それじゃあリアさん、また何かありましたらいつでも僕に相談をし」

「早く行けって言ってるでしょ!」

 琴線にでも触れたのか、ちんたら挨拶していたミツルギの尻をエーリカが蹴っ飛ばす。

 不意打ちで強烈な蹴りをもらったミツルギは尻を抑え、なんでだと叫びながらも駆け出して行った。

 ちょっとだけミツルギが哀れだな。

「なにボケっとしてるのよカズマ、ここからが本題よ」

 と、戻って来たエーリカがジト目を向けて来た。

 ていうか本題?

「ほらリアちゃん、そろそろ立ち上がって」

「うぅ、どうしてこんなことに」

 リアは先ほどのダメージをいまだに引き摺っているらしい。

 シエロに支えられながらこちらに歩いてくるその姿は随分と憔悴しているように見えた。

 しかしなんと言うか、非常に気まずい。

 先ほどまでストーキングしていた対象と同じ場所に留まるこの状況は、なんとも心が落ち着かないものだ。

 リアのやつも全然視線を合わせてくれないし。

 まあ当然なんだろうけど。

「そ、それで本題ってなんだよ?」

 居た堪れなくなる前に俺はエーリカに話を促した。

 するとエーリカはそんな事も分からないのかこいつは見たいな呆れた目をして、

「さっき聞いたでしょ。今日リアがミツルギとデートしてたのは、好きな人とデートする為の練習だって」

「す、好きな人じゃなくて気になる人なんだけど」

「同じようなものじゃない」

 ぼそっと否定するリアの言葉をエーリカが一刀両断にする。

「それがなんだよ」

「カズマさんは気にならないんですか? リアちゃんが好きな人が誰なのかを」

「だ、だから好きな人じゃなくて……」

 シエロとエーリカの真剣な眼差しが俺に集中する。

 なおも訂正しようとするリアだったが今度は完全に黙殺された。

 気になるか気にならないかと聞かれれば、当然気になる。

 だけど、それを当の本人を前にして聞けるほど俺は神経図太くないし、そもそも聞く権利すら俺にはない。

 なんせ俺とリアは単なる仕事仲間、よくて普通の友人と言う関係。

 おまけについさっきあれだけの事をしたのだ。

 これ以上掘り下げられる訳が……。

 …………。

「ああ、気になる」

 俺の言葉にリアが小さくえっと声を漏らす。

「お前が誰を好きなのか、すげえ気になる」

 自分でも頬が熱くなっているのを嫌と言うほど感じる。

 正直今すぐにでも逃げ出したい。

 だけど俺はなけなしの根性を奮い立たせなんとかその場に踏みとどまった。

「別に、誰でもいいじゃないか」

「いや、よくない」

 どこか投げやりなリアに間を置かず返答する。

「……どうして、そんなに気になるんだ?」

 視線を泳がせながらも、上目遣いでチラチラっとこちらを伺うリア。

 そんなリアの様子がなんだか面白くて、一つ笑みを溢してから口を開いた。

「俺、中学3年の頃不登校になってさ。家から出ずに四六時中ネットゲームに入り浸って、勉強とか将来のことなんか考えないようにしてたんだ。受験だけは親に無理やり受けさせられたけど、高校に行く気なんかサラサラなかった」

 いきなりの独白に三人はキョトンとした顔をする。

 特にシエロとエーリカには意味の分からない話だろう。

 だがそんなことは気にせず、俺は話を続けた。

「だけど中学の卒業式が終わったくらいの時期になんとなく、本当になんとなく秋葉原まで出かけたんだ。そこで見かけたんだよ、周囲の目なんか気にせず一心不乱に踊りの練習をする女の子をさ」

 同じパートを何度も何度も繰り返しなぞり、幾度となく動画を見返す少女。

 その後にやった一本通しは、それまで練習していたことがしっかりと反映され明らかに上手くなっていた。

 当時、全てを卑下し見下していた俺だったが。

 直向きに努力を重ねる彼女の姿はとても綺麗だと。

 素直にそう思えたのだ。

「その子のお陰で俺は、自分も高校へ行ってみようって気になれた。有体に言っちまえば、その子にすごい憧れたんだ。だからええっと、何が言いたいかって言うと……」

 くそ、いざ口に出そうとするとこんなにも緊張するものなのか。

 世の中の連中はなんでこんなことを当たり前のようにできんだよ。

 今更ながらに、明らか両思いな数多のラノベ主人公が思いを告げるのに躊躇する理由が実感できた。

 頭をガリガリと掻いた俺は一度大きく呼吸をし、

「その子のことが俺もすごい気になってんだよ。だから、もしよければお前が誰のことを好きなのか教えて欲しい……です」

 傍目に見たら全く文脈が繋がっていない言葉。

 だけどすいません、今の俺にはこれが限界です。

 これ以上はガチで心臓が口から出て来そうなんです。

 沈黙が当たりを支配する。

 無言の重圧が問答無用で俺に襲いかかってくる。

 気が気じゃない時間が永遠に続くような、そんな錯覚に陥った。

「……私の気になってる人はね」

 誰に言うでもなく、小さくリアの言葉が紡がれた。

「周囲からは鬼畜だのクズだの言われているけど、本当は面倒見が良くて周囲の人のことを気遣うことができるんだ。そして、私が一番辛い時にいつも側に寄り添ってくれて、不貞腐れながらも励ましてくれる、そんな不器用な人だよ」

 言って、リアは頬を指で掻きながらはにかんだ。

 これは……自惚れじゃないよな。

 そう言う意味でとっていいんだよな。

 ああクソ、童貞にも分かるようもっとハッキリと言って欲しいんだが。

「なあ、それってつまりは……」

「なあああああっ、もうまどろっこしいわね! お互いにそこまで言ってて何で最後の一言が言えないのよ?」

 俺が再度問いかけるのに被せてエーリカが絶叫をあげた。

 シエロも顔に手を当てはあっと大きくため息をついている。

「ほら、ここは男の子なんだしカズマがサクッと告っちゃいなさいよ」

「そうですよカズマさん、バシッと決めちゃってください」

 そう言ってせっついてくる二人。

「そ、そんなこと急に言われても。ていうか、こう言うところで男のくせにとか言うのは男女平等主義を掲げる俺としては」

「「いいから言え」」

「……はい」

 ドスの効いた声で脅迫され思わず返事をしてしまう。

 くそ、もうどうにでもなれだ。

「そうだよ、俺はリアが好きだっ! これで文句あるか!」

「む、ムードもへったくれもないですね」

 う、うっさい。

「こんな小っ恥ずかしい事まともに言えるかってんだ。大体、ムードって言うんならお前らが側にいる時点でムード値なんか皆無なんだよ。まともな告白をさせたいんならまずはお前らがどっか行けよ、見せもんじゃねえぞ!」

「開き直ったわね、この恩知らず! あんたらの為にアタシとシエロがどれだけ骨を折ってやったと思ってるのよ。そこら辺のことをちゃんと理解した上で言いなさいよね」

「んなもんお前らに頼んだ覚えはねえよ! 俺が依頼したならいざ知らず勝手にやった事に対して感謝しろだとか的外れなんじゃないですかね?」

「ちょ、ちょっと二人とも一旦落ち着いて」

 睨み合う俺とエーリカの間でオロオロとするシエロ。

 だが今更引き下がる訳にも。

「っふふふ、あはははは!」

 唐突に上がった笑い声に俺達の視線がリアに集まる。

 目尻に溜まった涙をリアは指で拭いながら、

「いや、ごめんごめん。みんながあまりにもいつも通りだったからつい。そうだよな、いくらなんでも遠回りが過ぎたな、反省するよ」

 ぺこっと頭を下げたリアは恥ずかしそうにしながらもハッキリと。

「私もカズマのことが好きだ。もしよければ、私と付き合ってくれないか?」

 その瞳に一抹の不安と大きな期待を込めて。

 対して俺の答えは決まってる−−

「喜んで」

 その言葉にリアは普段はあまり見せない、年相応の可愛らしい笑顔を見せた。

 

 

 

「ごめん、リハの確認で遅くなった!」

「いや、俺も今来たところだから」

 弾んだ呼吸を整えたリアがニヤリと笑う。

「それ、絶対今来たところじゃないだろ」

「い、いいだろ、一度言ってみたかったんだよ。にしても……」

 横目に今日のリアの服装を眺める。

 淡い水色のワンピースに鍔広の帽子と、随分と女の子らしい出立ちだ。

 と、リアはすっと視線を外し前で束ねている髪を指先でくるくるといじり始めた。

「あ、あまりじっと見ないでくれるか? 私も似合ってないことは分かっている。でも、シエロとエーリカが着ていけって煩くて」

「そそ、そんなことないぞ! 普段とのギャップもあって、その、可愛いと思います」

 畜生、やっぱこう言うくさいセリフを言うのはすげえ小っ恥ずかしい。

 穴があったら入りたくなってくる。

「そ、そうか? ふーん、そうなんだ。まあ、ありがとう」

 素っ気ない態度で返答をするリア。

 なんなんだ、このいいとも悪いとも取れる対応は。

 この返答じゃダメだったのだろうか?

「と、とりあえず行こうか。あんまり遅いと演劇が始まっちゃうし」

「そ、そうだな、行くか」

 俺の方には振り返らず、リアはさっさと歩き出してしまった。

 仕方ないのでその後を急いで追いかける。

 本当に、女っていうのは分からねえ。

 うちのパーティーメンバーだったら単純だから分かりやすいんだけど。

 はあ、世の中がもっと女の正しい扱い方とか言った書籍を出してくれたらな。

 人知れず俺が切望していると、不意に左手に温かみを感じた。

 慌ててみてみれば、白くて細い指が俺の手に絡まって来ていて。

「リア?」

「っ! べ、別にいいだろこれぐらい」

 そう言うリアは相変わらず俺の顔をみてはくれない。

 だが、後ろから見える耳は真っ赤になっていて。

 ……ほんと、女って分かんねえ。

「今日の舞台はどんな演目だっけ?」

 リアの隣まで来た俺はなんでもない口調で尋ねた。

 するとリアもふっと笑い、

「確か暴れん坊ロードっていうお話だったはずだ。ゆんゆんに聞いたんだけど、これは実話を元にした小説が原作らしくて−−」

 二人並んで、なんでもない会話を続けた。




ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
恐らく、このすば二次創作初のカズリアストーリーでしたが、お楽しみいただけたでしょうか?
ご感想、コメント、高評価お待ちしていますw

またのお越しを!

P.S.
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