ああ、なんでこんなことになってしまったんだろう
久しぶりの休暇、旧友との再会、酒も入ってくるとなれば、多少気が大きくなるのも当然か。
"昔みたいに星でも見に行こうぜ"なんて、言うもんだから。
得も言われぬ郷愁に駆られた俺は、二つ返事で了承し、相変わらず見た目だけはまともに走るかも疑わしいオンボロビークルに乗り込んでしまった。
いくら郊外といえど、こんなに曇ってちゃあ星なんて見えるわけないのにな。
ましてやここはナイトシティ、ただでさえ星空なんて見なくなって久しい。
いやだからこそ、昔のような軽い足取りで動いてみたくなったんだろうか。
いざ郊外まで車を走らせてみれば、星なんて見えるわけもなく、道中からわかっていたくせに"ちくしょう、見えねえな"なんて笑ってた。
つられて笑いながら、取り出したビール片手に昔話に花を咲かせた。
星も見えないのに、オンボロに腰掛けながら話す時間は本当に楽しかった。
思えば、昔は何をするときも隣にいた気がする。
イタズラし過ぎて近所で有名な雷ババアに一緒に叱られたし、俺が初めてできた彼女に別れを告げられたときはうじうじするなって励ましてくれた。
お互いそこそこに飲んで、缶も2つ、3つと開けたころ、そいつらはやってきた。
話に夢中になっていた俺達は、それが近づくまで気づきもしなかったのが、今は悔やまれる。
重低音を響かせながら、土煙とともに坂の中腹を駆け上がってくる、物々しいオフロード仕様のビークルが3台。
先頭車両の窓から体を乗り出した一人を見て、一気に酔いが冷めた。
体のあちこちにテックをつけ、特に顔面をモノアイのような視覚強化機器に変えるほどのテック狂いは、ナイトシティにおいても異質の存在。
極悪非道のメイルストロームだ。
慌てて隣に顔を向けると、やつも事態を正しく理解していたようで、俺等はビールの中身が溢れてズボンを汚すのもお構いなしに、オンボロに乗り込んでエンジンをかける。
だが、ジジジっと点火プラグの音がするばかりで、一向にエンジンがかかろうともしない。
次第に緊張感が増していく車内では、急かす俺の声と点いてくれとオンボロに祈りながらエンジンをかけようとする旧友。
寒空のはずなのに、緊張感で包まれた車内が暑く感じ、背中にジトッとした汗をかき始めたとき、終いには、ボンネットから黒煙が上がり始めた。
ハンドルに腕を叩きつけ項垂れた旧友が、徐ろにグローブボックスをあさり始めた。
何してんだと問うと、手を止め取り出したのは1丁の拳銃。
リボルバータイプのそれを取り出して、シリンダーを確認し始める。
何をする気だと問う俺を無視して、グローブボックスの中から弾薬を取り出し、シリンダーに込め始める。
緊張しているのだろう、シートの隙間に銃弾を落としながらも、手を止めないのを見て、俺は言葉が出なかった。
何をする気かなどと、聞かずともわかっていた。
そう、抗う気なのだ
街外れの郊外、夜の帳が下りきって、すっかり暗闇に飲まれたこの瞬間。
なんとまあ、この時分にあって、酷く冷静な自身を俯瞰してみているような、どこか他人事のように見えた。
ああ、こいつも俺もきっと死ぬんだなと、ストンと腑に落ちた。
ただ死ぬのではない、恐らく尊厳も自由も何もなく、踏み潰される蟻のように殺される。
ああ、どうしようもないかも知れない。
これはもう本当にどうしようもないかも知れない。
だけど、眼の前の今なお必死に弾を込めるこいつを見て、覚悟が決まった。
長く感じた時間の経過が、近づいてくるエンジンの重低音で現実へと引き戻される。
一瞬で、理解してしまった。
中腹を走っていたやつらの車列は、もうすでにすぐそこまで来てしまっているのだと。
弾を込め終えて、汗ばんだ手で必死に掴まえている。
まるで自分を、自身の命そのものを必死で握っているようなそんな面持ちだ。
俺は、そっと銃を握りしめ一点を見つめるこいつの手に自らの手のひらを重ねた。
「貸せ。俺がやる。」
何を、とは問わなかった。
そんなことは思いもよらなかったなんて顔をして、目を泳がせているのを見て、思わず笑った。
いつだって、俺が先に手を出すんだ。
近所のガキ大将を相手にするようなもんだ、そう笑って重ねた手のひらからそいつを受け取った。
そうして、息を殺しながらその時を待った。
あわよくば何も起きず、何も失わず、そうあってほしいと心から思った。
お前の慌てようと言ったら、なんて笑いながらもう一度すっかり温いビールを開ける。
そんな先夜の夢が見たかった。
だが、どうやら俺達はついてないようだ。
先頭を掛けていた物々しいビークルがこちらに近づき、停止した。
続いて、やや後方に一台、俺達の前方に陣取るように一台続けざまに停止した。
俺等はついていないと思ってはいたが、どうにもこれはおかしい。
まるで狙いすましたように、ここが目的地であるように、奴らはここへ来た。
何も近づかず、何も見えず、何もいない、この場所に。
いや、一つ、二つ、ここにはあった。
俺達だ。
俺達がここにはいる。
いや、違う、こいつだ。こいつがここにいる。
ああ、そうか、そうだったのだ。
それまでお互いの時間が重なることがなかった旧友が、ここに来て再会し、昔を懐かしみ、共に酒を食らった。
昔はこまめに手入れをして、ボロい割に走りだけはしっかりしていたはずのビークルはここ一番にあって動かず、弾を込めるのもおぼつかないこいつが、情けなくも震えてばかりのこいつが、銃なんかもっていやがる。
ただただ、理解してしまった。
理解していしまったのだ。
それ故に、自らの命が風前の灯であるのも、先程までの情けない覚悟も、すべて忘れて呆然とした。
「お前・・・」
呆然と、しかし確信を持って声をかけた俺に答えたのは眼前の悪友ではなく、窓を突き破り迫る男の拳だった。
本当に、ついてない。
お久しぶりです。
私も最近ついていません。