ご都合主義のキリノ推しヴァルキューレ生 作:りっくらっくろっく
早朝の公安局 事務所
「カンナ局長、お疲れ様です!」
「あ、あの...キョウタロウさんのことなんですけど.....」
「ご苦労。...あいつはまだ資料保管室に籠ったままか?」
「はい...もう1週間は出てきてません。食事を摂った様子も全然なくて心配なんです。」
「全く....」
呆れながらカンナ自身も資料室へ足を運ぶ
「キョウタロウ、入るぞ。」
「あ、お疲れ様です局長。」
中には机一面に乱雑に積まれたファイルひとつひとつに丁寧に目を通すキョウタロウの姿があった
返事も上の空で目のクマもくっきり浮き出ている
「お前寝ていないだろ、いい加減休め。下の者もかなり心配してるぞ。」
「もちろん休みますよ。資料全部読み終えてから。」
音もなく背後に寄り腕を捻り上げる
痛みにより反射的にカンナと目を合わせる
「いっ...!局長、離してください。」
「私は片手だ。お前ならこのくらい、容易く振り解けるはずだが、それが出来ないほどに今のお前は衰弱している。そのことを自覚しろ。」
バツが悪そうに視線視線を逸らすがそのまま言葉を続ける
「今日は帰れ。」
たった一言だが、確かな威圧感が含まれている
「片付けは私がやっておく。お前は一刻も早く寝ろ。」
「手間かけさせてすいません。では失礼します。」
退室しようとドアノブに手を掛けた瞬間、全身の力が抜けその場で意識を手放してしまう
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「.....ん?」
「あ!目が覚めたのですね!ここは休憩室ですよ。」
畳の敷き詰められた一室で目を覚ます
隣には心配そうに顔を覗き込むキリノがいた
「キョウタロウが倒れた、とカンナ局長から連絡があって非番の私が看病を頼まれたんです。」
「そうか、せっかくの休みに迷惑かけてごめんな。」
「コレくらいどうって事ありません。それよりも局長から聞きましたよ、この1週間様子がおかしかったと。」
「1週間も資料室に籠ってたら流石にそう思われるか...」
「何か思い詰めているのなら、1人で悩まずに吐き出してください。私はもちろん、フブキやカンナ局長、先生も!力を貸してくれる人は沢山いますから!」
力強くも優しさの籠った声に心が安らいでいくのを実感するが、それでも迷いが完全に振り切れることは無い
「頼りになるな。あとは射撃の腕があればなあ〜。」
「あ、あれは銃に問題があるはずです!きっと!.....それで、1週間も何を調べていたんですか?」
「ドクロの校章の学園が存在してるのかを調べてたんだよ。」
「ドクロですか、私には心当たりがありません。1人で悩むなと言った手前、力になれず申し訳ありません。でもなぜそんな事を?」
「気にしなくて良いさ。ただ引っかかるモノがあっただけで気のせいかもしれないし。」
「はい....そういえば、資料室に居る間、全く食べてないそうじゃないですか。目のクマもだいぶ良くなってますし、何か食べに行きましょう!」
「なら風呂に入ってくるよ。1週間も籠ってたら、な?」
「は、はい...」
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シャワーを済ませ外へ出ると空は真っ暗になっていた
「もう夜だったのか....確か倒れたのが朝だから、本当にキリノには迷惑かけたな。」
「気にしないでください。それより、安全局の向かいのレストランで追加されたメニューがずっと前から気になっていたんです。」
「今は、20時半か...あそこのラストオーダーに間に合うか?」
「えーと、あそこのラストオーダーは9時でしたっけ?」
「そうだったと思うぞ?」
「....急ぎましょう!!!」
足早にレストランへと向かい目の前までやってくる
「見えてきました。今は...8時45分。間に合いそうです。」
「そうか、良かった...」
息を切らし歩く速度も段々遅くなっていく
「すいません、病み上がりなのに無理をさせてしまって。」
「気にしなくて良いさ。中にはいr
ドカーーーーーーーン
「「へ?」」
目の前で目当てのレストランが突如大爆発を起こす
店内から立ち込める煙の中からスケバンの生徒が飛び出してくる
そのまま2人とは反対方向に逃げていくが、過労により状況が飲み込めず立ち尽くす
「あ、えっと...お、追いかけますよ!?」
突如として始まった逃走劇は時間だけを浪費し、トリニティ自治区の目の前で終わりを告げる
「な、なんとか取り押さえましたね...」
「食い逃げのために店を爆破なんてバカだろ。」
(眩暈がする......力が入らない......)
「いつのまにかトリニティに出てきたみたいです。」
周りは近代的なビルから、仰々しい小店が建ち並ぶ景色へと変わっていた
「この時間じゃ、どの飲食店も閉まってるだろうな。」
「ですよね.....あ!あのお店、中に6人程人がいましたよ!行きましょう。」
「ちょっと、肩貸してくれ。」
「あ!すいません、ゆっくりで構いませんから。」
キリノに支えられて入店する
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか。」
「はい。2人でお願いします。」
"あれ?キョウタロウにキリノじゃん!こっちこっち。"
テーブル席から聞き慣れた声に促され相席となる
「1週間ぶりですね。」
「お久しぶりです。キョウタロウさん。」
"久しぶり、こんな時間にトリニティに来て何かあった?"
「違反者を追っていたら気付かぬ内に入ってたんです。」
"やっぱ警察って大変だね。何か食べな?お金なら出すよ。"
「ありがとうございます。」
「私もお腹ペコペコです。何にしましょうか?」
「....ホットケーキタワー....コレでいこう。」
「では、私もそれで。すいませーん。」
キリノが注文を伝えている間、目の前の小柄な生徒と目が合う
「どうした?」
「ア、アンタって前に学園総出で迎撃しようとした奴よね?」
「あれは流石に気の毒でしたね。」
「ハスミ先輩はこの人のこと知ってるんですか?」
「ええ。サンクトゥムタワー奪還の際に協力してくれた警察官の方です。その節はありがとうございました。」
「そういう事。だからお前が思ってるような極悪人じゃない。」
「誰も極悪人なんて言ってないじゃない!」
「目がそう言ってんだよ。目は口ほどに物を言うって知ってっか?」
「それくらい知ってるわよ!」
2人の会話が騒がしくなってきたタイミングでハスミの携帯が鳴る
「失礼します。どうしまたしかイチカ。」
『ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして。今どちらに?』
「問題.....?詳しく聞かせていただけますか?」
ある程度話し込んだ後、険しい面持ちで通話を切る
「ゲヘナの美食研究会というテロ集団がアクアリウムを襲撃し、ゴールドマグロなる物を盗んだようです。突然のことですみませんが、みなさんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」
「条約を目前にしてゲヘナと衝突なんて洒落にならねえな。」
「ええ、ですから補習授業部とシャーレが一緒に解決してくださる、そういう構図が望ましいのです。先生、お願いできますでしょうか.....?」
"うん任せて。じゃあ補習授業部一同出発!"
「キリノ、俺たちも行こう。」
「はい!でも無茶はしないでくださいね!」
現場へ向かおうとする足をハスミが制止しようとする
「待ってください。貴方が我々の問題に干渉することは....」
「何か不都合が起きれば俺のせいにすれば良い。それならダメージも少なく済むだろ?早く行くぞ。」
ハスミの声を一蹴し急行する
店を出てしばらくするとトラックに乗り暴走する集団が見える
「アイツらが美食研究会か...止まれ!!」
すかさずマグナムを構えるがそれより早く金髪の生徒の掃射が届く
回避を試みるが数発、直撃してしまう
「うーん、どうやら囲まれてしまったようですね★どうしましょう?」
「ゲヘナの奴がトリニティに押し入ってまで盗むモノがマグロってなんなんだよ...お前ら何が目的だ。」
問いに対し帽子をかぶった生徒が意気揚々と答える
「ふふ。あの伝説のマグロを、ただ観賞用として扱うだなんて......そんなこと、美食に対する礼儀がなっていないというものですわ。ただ見せ物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、このゴールドマグロさんも望んでいないはず。私たちはただ、その声に共鳴しただけ!大海原で磨き抜かれたゴールドマグロさんの味はきっと絶世の美食をもたらしてくれるに違いありませんわ!」
「.......そんなに?」
マグロの魅力を熱心に説かれ心が揺らぐ
「貴方も興味がおありならご一緒にいかがかしら。」
空腹も重なり、その誘い文句はより甘美なものにも聞こえたまらずマグナムを下す
葛藤するキョウタロウをハスミとキリノが引き戻す
「何を迷うことがあるというのですか!」
「そうですよ!警察官として目の前の犯罪を助長するようなことはダメです!」
「悪かったって!揺らすな、気分が悪くなる。」
2人に肩を揺すられ、気を引き締める
再びマグナムを構え戦闘体勢に移る姿を見るや否や肩を落とす
「貴方なら賛同してくださると思ったのですが、仕方ありません。私たちが歩む孤高の道に立ち塞がるなら、打ち砕くのみですわ!」
宣戦布告とも取れる言葉を皮切りに銃撃戦が始まる
周りの建築物に気を遣いながら銃撃を行う正義実現委員会に対して、そんなことは見境なしに乱射する美食研究会
美食研究会の掃射を掻い潜り、キョウタロウがトラックの上へ乗り出す
金髪の生徒がいち早く反応して銃口を向けるがそれを見越したように捻じ曲げマグナムを突き付ける
「観念しろ美食研究会!」
「甘いです。グラブジャムンのように甘いですよ★」
不敵な笑みを浮かべ銃身の下に付けられたもう一つのトリガーを引く
スポンと小気味の良い音とともに強烈な衝撃が身体を襲い黒煙が視界を埋め尽くす
「やったわハルナ!今のうちに車出して!早く逃げるわよ!」
呼び掛けに応えるようにアクセルを踏み込むが車が進む気配は無い
「おかしいですね....」
「まさかこのタイミングで故障ですかーー!」
「そんなわけ.....えぇぇえーーーーー!」
赤毛の生徒が車の後方へ目をやるとぐったりと倒れているキョウタロウが片方のホイールを鷲掴みにし回転を止めていた
「どうした?悔しかったら前輪動かしてみろよ。」
そのまま掴んだタイヤを引きちぎる
辺りの煙が晴れていくにつれ赤毛の生徒の顔に焦りが表れる
「どうしたら.....はっ!バラバラに逃げたら生存率上がるんじゃない!?」
「なるほど、良いアイデアですねジュンコさん★では足の速さ次第ですが、弱肉強食ということで♪」
「ふふふ、そうですわね。運任せとなりそうですが、それもまたスパイスのようなもの!それでは!」
「ええっ!?ちょ、ちょっと!待って!私だけ置いていかないでー!?」
「くつ、小癪な.....!各自、分かれて追撃を!貴方は休んでいてください。」
現状を正義実現委員会に任せゆっくり体を起こすと先生達が駆け寄ってくる
しかしキョウタロウの視線はある箇所に吸い寄せられる
先生の隣に立つ長い白髪の生徒の胸元と肩のワッペンに施された意匠
下顎が無く薔薇を携えたドクロの横顔、その下に確認出来る"arius"の文字
「至近距離からのグレネードを受けていたが目立った怪我も無いようだ。ん?ボーッとしてどうした?」
件の生徒からの心配の声にハッとする
「いや、なんでも無い。疲れてるだけだ。」
"先生は大事な生徒が過労で倒れないか、ホントに心配だよぉぉ...."
(一度マジで倒れたとは言えないな...)
安堵の声を漏らす一同のもとへハスミもやってくる
「美食研究会一同は全員確保されたようです。先生方、補習授業部の方々、そしてヴァルキューレのお2人もご協力感謝します。」
"お安いごよ....なんかトラック、揺れてない?"
皆が一斉にトラックに視線を移すが確かに小さく揺れていた
キョウタロウが中を確認すると縄で完全に拘束された上に猿轡を嚙まされ今にも泣き出しそうな目でこちらを見つめる生徒が横にされていた
トラックから生徒を下ろし縄と轡を解く
「キョウタロウ、その生徒は?」
「状況から見て人質...なのかな。」
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。本当に...ありがとうございます...」
これで本当に一段落つき美食研究会の処遇についての段階になった
「美食研究会の身柄はゲヘナの風紀委員会に託そうかと。ですので、風紀委員会への引き渡し、この部分を先生にお願いできませんでしょうか。」
"任せてよ!"
「これで一件落着だな。ほっとしたら空腹が蘇ってきやがった....」
(....あのマグロ、グレネードの爆破でいい感じに焼けてんな)
「キョウタロウ?何を見て......絶対にダメですよ?お腹壊しますよ?」
「何も言ってないだろ!」
2人のやりとりをハスミの咳払いが遮る
「お2人とも、改めてご協力感謝します。」
「いえいえ、これも警察官としての役目ですから。」
「副委員長さん、謝礼と言っちゃなんだけどひとつ頼まれてくれないか?」
「......条約には干渉しない内容であれば可能かと。」
「簡単なことだよ、ちょいと調べたいことがあるんだ。そのためにトリニティの図書館を使えるようにして欲しい。」
「なぜトリニティに拘るのですか?」
「キヴォトスで1番大きい図書館なら大抵のことは知れるんじゃないかと思っただけだよ。」
「そうですか....わかりました。ですが図書館以外には出入りを制限しますがよろしいですね?」
「もともと図書館以外には用はないから構わないさ。」
「では、失礼します。」
ハスミ後始末を終えた正実の面々とともに現場を去っていくのを見送る
(アリウス....公安局の資料には無かった名だが、もう存在しないはずの自治区なんだから当然か。そして調印式の会場にミサイルを飛ばしたのもそいつらだが.....)
胸の引っかかりの正体を掴むと同時にまた新たな疑問が浮かび上がる
調印式襲撃を嗾けたのは何者なのか、僅かなしこりを残し真夜中の大騒動は幕を閉じる