ご都合主義のキリノ推しヴァルキューレ生   作:りっくらっくろっく

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一瞬で変わる空

 

 

 

『今この動画をご覧の皆さん、こんにちは!クロノススクール報道部のアイドルレポーター、川流シノンです!本日はついに締結される、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の「エデン条約」の調印式。その現場に来ております!』

 

 

先生を除く補習授業部御一行とキョウタロウが喫茶店で集まりを開いていた

 

店内のテレビではエデン条約に関する話題で持ち切りで、周りの生徒のスマホからも調印式でのネット中継ばかりが流れる

 

「....騒がしいな。」

 

「今日はついに、あのエデン条約が締結される日ですからね!特別に学校も休日扱いですし、街も人でいっぱいで、クロノス放送の方もさっきいましたし、何だかお祭りっぽいですね!」

 

「そうですね。せっかくのお祭り騒ぎなので、先生も一緒だったら良かったのですが....どうやら条約の方でお忙しそうです、仕方ありませんね。」

 

「うん......で、どうして私はここに呼ばれてるわけ?」

 

「コハルはともかく何で俺まで?」

 

「それはもちろん、私たちはまだ補習授業部の仲間だからですよ、コハルちゃん♡それにキョウタロウちゃんも、共に熱い夜を過ごしたじゃないですか♡」

 

「コハル、今の言い回しは?」

 

「エッチに決まってるわよ!!死刑ッ!!!」

 

「まあまあ、実質的に補習授業部の卒業パーティーも兼ねてるんですから、2人とも、もう少し付き合ってくれません?」

 

「べ、別に嫌とは言ってないじゃん!み、みんなで頑張って、乗り越えたわけだし....」

 

「一応の確認だけど、ドッキリはもう無いよな?な?」

 

「こんなに人の多いお店である訳ないじゃない。」

 

「あはは...あのドッキリ、相当効いたみたいですね。」

 

「体育館では勇猛果敢に立ち向かう一方で怯える姿は年相応、俗に言うギャップ萌えですかね♡」

 

「掘り返すな忘れてくれ.....」

 

 

それから合格のために邁進した自分たちを讃えあったり、趣味や映画の話題に花を咲かせたり、これから起こる惨劇は夢なんじゃないかと思わせるような和やかな空気に満ちている

 

(確か、ゲヘナとトリニティの代表が登壇するタイミングでミサイルが飛んでくるはず。今から向かえば余裕で間に合うな。)

 

 

放送ではいまだに長々と開会式が執り行われていた

 

「悪いみんな、公安局から呼び出しが掛かったから俺はここらで。」

 

「もう行っちゃうんですか!?警察官も大変ですね...」

 

「ならまた今度、皆でゆっくりご飯を食べよう。」

 

「それも良いかもな。えっと支払いは.....財布置いてくから、皆の分もこれで払ってくれ。」

 

「いやいや、流石に悪いわよ!」

 

「遠慮すんなって、俺からの卒業祝いだと思ってくれ。」

 

「あ、えっと、ありがとうございます。明日にでもお返ししますね。」

 

「じゃ、また今度な。」

 

 

店を出て古聖堂までバイクを走らせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここら辺でいいか。」

 

 

報道陣の目に付かぬよう古聖堂の裏へと回り込み、そこから屋根へと登る

 

「ふぅ、良い眺め...まさか登攀訓練がこんな所で役立つなんてな。」

 

 

眼前に広がる空は、どこまでも見渡せそうなほどに清く澄んでいる

 

「ん?迎撃準備は整ったけど、ミサイルが飛んで来る方角がわからねぇ....いや!辺りを更地にする程のミサイルだ、飛んで来る時の音で判断出来るはずだ。」

 

 

致命的な盲点に気付くも冷静になって目を閉じ、耳を澄ませ極限まで集中する

 

しばらくして会場からの拍手が鳴り響くが、それとは全く異なる音が耳を劈く

 

(来た!方角は...真正面!)

 

 

目前に迫る鉄塊を最大出力のレーザーで迎え撃つ

 

直撃の瞬間、熱気と閃光を放ち周囲一帯を包み込む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(はぁ....撃った直後からの記憶が曖昧だ....ランチャーもどっかに飛ばされてるし....どれぐらい寝てたんだ?)

 

 

灰と煙の匂いで目を覚まして周囲を確認する

 

空は仄暗い灰色と煙に染められ雨が降り、辺りには瓦礫が散乱し古聖堂の残骸や骨組みだった物が数百メートル離れた場所から自分のいる場所まで広い範囲で確認できる

 

(直撃避けてもこの有様かよ....ったく、修繕工事くらいしっかりやれっての....ッ!)

 

 

立ち上がろうと身体に力を入れた瞬間に激痛が走り体勢を崩す

 

自身の身体に目線を落とすと、原因はあっさりと判明する

 

右太腿と左脇腹にそれぞれ一本の鉄骨が貫通し、それだけでなくミサイルを迎撃した際に放出された熱気を吸い込んだ為か、喉と肺が爛れ呼吸も発声もままならない

 

古聖堂の方角からは怒号や銃声、誰かが誰かに呼び掛ける声も聞こえ、その中に先生の声もする

 

(瓦礫の大半は爆風でこっちに飛ばされてるみたいだし、先生が圧し潰されるって最悪のシチュエーションは回避出来たみたいだな。あとは銃声か、トリニティとゲヘナがやってんのか?頼むから先生だけは撃たなぇでくれよ。)

 

 

怒号に混じる銃声に一抹の不安が過ぎる

 

(にしてもこの怪我、局長たちにはどう誤魔化したモンかね.....)

 

 

呑気にこれからのことを考えていると、煙で塞がれた視界の向こう側から声がする

 

「リーダーどうする?あの場で1番厄介なヒナとツルギは無傷で先生にも近づけない。」

 

「うう....あんなに頑張ったのにこうも上手くいかないなんて、どうしましょう.....」

 

「何も変わらない。私達はマダムの命令通り、あの男を探すだけだ。」

 

(マダム....?)

 

 

やがて煙の奥から声の持ち主が姿を現す

 

「ヒェッ!なんですかこの人!凄く痛くて辛そうです....で、ても彼女の言ってた男子生徒ってこの人ですかね?」

 

「十中八九目の前の男だろうな。」

 

 

そう言うと、さも当然かのようにアサルトライフルを向ける

 

「お前に恨みはないが殺せと命令が下っている。その上これ以上計画を妨害されるわけにはいかない。」

 

「怪我人に銃と人差し指は向けちゃいけませんって教わらなかったか?」

 

「黙れ。ミサイルを破壊したのはお前だな。」

 

「そんなことを聞くってことは、実行犯はお前らで間違いないな?」

 

 

怪我を押しながら立ち上がり挑発気味に聞き返す

 

「あのミサイルは本来なら古聖堂に着弾し、中の奴らを仕留めるはずだったがそうはならず着弾の前に炸裂した。そんなことを出来るのは、事前に計画を把握していたお前以外あり得ない。」

 

「ペラペラとどうも。で、なんでお前らは条約をぶち壊すような計画を実行したんだ?」

 

 

その問いに答えることはせずにライフルを撃つ

 

いつものように腕を盾代わりにするが、弾が命中した箇所から激痛と熱さを伴う血が吹き出す

 

これ以上の被弾を避ける為、反射的に瓦礫の背後へ飛び込み状況の把握を急ぐ

 

(これ....そうか、ミサイルの衝撃か。ヘイローは大丈夫でも、身体の方が限界なのか。)

 

「ミサキ、ヒヨリ。」

 

「「了解。」」

 

 

こちらの状況などお構いなしに合図と共に瓦礫に向かって砲弾が発射される

 

瓦礫諸共キョウタロウを吹き飛ばし、追い打ちの如くスナイパーライフルの一撃が放たれる

 

眉間を正確に狙った弾丸を躱そうと身を捻るが、回避も空しく左耳を裂かれる形で被弾してしまうが平静を保つ

 

(ミサキにヒヨリ.....そうか、なら他の2人がサオリにアツコ。記憶が合ってりゃ先生が死にかけた直接の原因の連中だ。全部思い出したせいで尚更イモ引くわけにはいかなくなったな...)

 

 

意を決してゆっくりと煙の中から近づいてくる影に目掛け蹴りを入れる

 

普段と比べれば格段に弱い威力ではあるが、人ひとりを怯ませるには充分であり怯んだ隙にサオリの首を捉える

 

「テロリスト共、覚悟は出来てんだろうなぁ?先生のとこには絶対向かわせねえ。」

(今の状態じゃ、ミサキの砲撃が1番厄介だな....)

 

「ぐ......っ!」

 

「サ、サオリ姉さん!!」

 

 

ヒヨリがすかさず狙撃する

 

命中はしたもののサオリごと無理矢理体をずらして致命傷を避け、ミサキの砲撃で瓦礫が退かされた場所からランチャーを発見する

 

半分瓦礫に埋もれていたランチャーを拾い上げ、倒れたサオリへと振り下ろし近接戦闘となる

 

その間にもヒヨリの狙撃とアツコのドローンによる射撃に加え、サオリのゼロ距離の射撃が身体を削っていくがそれでも距離を離さず殴りかかる

 

「ヒィッ!!なんでそんな状態で立ってられるんですか!?苦しくないんですか!?辛くないんですか!?」

 

「体に穴空いたぐらいで倒れるかよ。それにテロリストでも流石に仲間は撃てねぇようだな。」

 

 

ヒヨリの隣には照準こそ合わせているものの、苦しい表情を浮かべるミサキが引き鉄を引けずにいた

 

「お前らの裏にいる大人についてもじっくり話してもらうぞ?」

 

「お前に時間を掛けていられるほど暇はない。」

 

「なら手っ取り早く殺せる道具でも持ってくるんだな。例えば"ヘイローを破壊する爆弾"とかな。」

 

「お前、どこまで....」

 

「んな事はどうでも良いんだよ。どんな大義名分ありゃミサイル撃ち込んで良いってなんだよ。え?」

 

「お前には分かるまい。アリウスが受けた仕打ちも私達の憎しみも苦しみも。」

 

 

一変して諭すような口調でキョウタロウが返す

 

「.........ゲヘナが憎いか?トリニティが許せないか?この作戦が成功したってお前らがそうだったように、いずれ第2、第3のアリウスが生まれることになるぞ。」

 

「ッ.....!?知ったような口を聞くな!お前に私達の何が分かる!」

 

「分からねえよ!でもな、痛みや恐怖で子供を従わせるような奴の下で、お前らの未来や命が確約されると本気で思ってんのか?」

 

「.....っ黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!」

 

 

左脚に連射されたライフルの弾丸が肉を抉り骨を削り、膝から下を完全に破壊するが、執念で痛みを堪えサオリを瓦礫へ押し付ける

 

「ッ......!現実逃避も大概にしろよ、ゲヘナやトリニティが消えてもトップがその女にすげ替わるだけでお前らは何ひとつ変わりはしない。お前が1番よく分かってるはずだろ....」

 

「それでも....この道以外に私の選択肢など無かった.....殺すか、殺されるかだ。」

 

 

サオリがハンドガンを突きつけそのまま撃つ

 

なんとか躱すがそれと同時に、ヒヨリ達とは正反対の方向からの銃撃で首と肩を貫かれる

 

 

(な、なんだ!?スクワッドはこの場の4人だけのはず....)

 

その方向の目をやれば淡く怪しい光を放つ純黒の礼装のユスティナ聖徒会の姿が数人、さらには5人を取り囲むように何もない場所から次々と湧いてくる

 

「ミサキ!私ごと撃てッ!!!」

 

「ああぁ!もうッ!知らないよ!!」

 

(しまった.....!)

 

 

大量に湧いてくるユスティナに気を取られている間にサオリが行動に出る

 

砲弾が直撃する寸前、反射的にサオリを蹴り飛ばしキョウタロウのみが吹き飛ばされる

 

(な、何故、あいつは私を...)

 

「まだ死んでないとか、頑丈すぎ....」

 

 

全身から止めどなく血を流しながらも立ち上がろうとするキョウタロウへミサキが追撃を図る

 

(まずい....避けられない....)

 

 

せめてもの抵抗として顔を伏せ衝撃に耐える為全身を丸めて力を入れる

 

その姿を嘲るように放たれた砲弾が直撃する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(...生きてる、のか.....)

 

 

爆発の衝撃は確かに感じた、だが体はその場から動いていない

 

「今度は間に合って良かったよ。ホントに...」

 

 

霞む視界を無理矢理上げると、よく見慣れた桜色の長髪が映る

 

その他にも4人、キョウタロウを守るように囲んでいた

 

「ホシ、ノ....それに他のみんなも...」

 

「久しぶり、なんて言ってる状態じゃないよね。シロコちゃん、向こうの方にゲヘナの救急医学部の子がいるはずだから、運んでもらえる?」

 

「任せて。」

 

「アンタねえ、そんなになるまで無茶して!ちゃんと帰れたら説教よ!!」

 

「お手柔らかに....それより先生は無事なのか?」

 

「先生なら風紀委員や正義実現委員の方々とガスマスクを着けた生徒を相手取っています。」

 

「先生の方は両学園の主力がいますからきっと大丈夫です。シロコちゃん、キョウタロウちゃんの呼吸も段々浅くなってます。急いで連れて行ってあげてください。」

 

「うん。絶対に死なせたりしないから。」

 

 

キョウタロウを背負うと同時に立ち込める煙を突っ切りその場を走り去っていく

 

その様子はスクワッドの面々にもしっかりと見られていた

 

「リーダー、あの男逃げてくよ?」

 

「追う必要はない、あの状態では当分動けないはずだ。今のうちに古聖堂の地下に向かうぞ。」

 

 

煙が晴れる頃には対策委員会の前から4人は姿を消していた

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(キョウタロウ...服越しでも分かるくらい冷たい....)

 

 

走り続けるシロコの側へ一台の緊急車両が停止する

 

停止の直後に中から先生と運転手であろう生徒が飛び出してくる

 

"シロコちゃん!無事で良かった。"

 

「うん。でもキョウタロウが死にかけてる。急いで治療しないと!」

 

 

背負われたキョウタロウの目は虚でヘイローも消えかかっていた

 

"セナちゃん、お願い!"

 

「ええ、今すぐにストレッチャーへ。トリニティへ運びます。」

 

 

すぐさまストレッチャーに載せられ先生と共に車内へとのりこむ

 

"なんでこんな....せめてこれだけでも....."

 

 

体を貫通する鉄骨に手をかけ引き抜こうとする先生をセナが止める

 

「ダメです先生。引き抜けば更に出血してしまいます。恐らく、その方もそれを分かっていてわざと抜かなかったのでしょう。」

 

 

簡易的な止血を施しトリニティへ直行する

 

車内では祈るように手を握る先生に現実を突きつけるが如く、ストレッチャーから滴り落ちる血の音が鳴るばかり

 

時々感じる揺れと寒さの中、先生を視界の隅で見つめたままゆっくりと意識を落としていく

 

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