ご都合主義のキリノ推しヴァルキューレ生   作:りっくらっくろっく

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それぞれに出来ること

 

 

 

「いやぁぁ、とんでもない治癒力ですねぇ。もう補助なしでも問題無く歩ける段階です。しかし、依然として激しい運動や足に負担をかけることはいけません。身体中の傷もまだ塞がってませんので、松葉杖は持っていて下さい。」

 

「....そうですか。」

 

「完璧に退院できるのは5日後を目安にしていますので、それまでは安静にお願いします。では、私はこれで。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

昼過ぎの検診を終え、医者と入れ替わりでキリノとフブキがやってくる

 

「こんにちは!お体の具合はいかがてすか?」

 

「問題ないらしい。もう普通に歩けるよ。」

 

「耳もしっかり繋がってきていますね!」

 

「相変わらず頑丈だねぇ、この間まで昏睡状態だった人には見えないよ。」

 

「そりゃどうも。そっちは変わりないか?」

 

「う〜ん、ちょっと治安が悪くなっちゃったかな。」

 

「そうですね、キョウタロウの入院を聞きつけた不良生徒たちが活気付いてしまっています。でもそこは私達が何とかしてみせます!今は治療に専念してください!」

 

「先生が忙しくしてんのに、俺だけ休むのもなぁ...」

 

「公安局なんて、まともな休み取りづらいんだからこんな時ぐらいゆっくりしな?はいこれ、お見舞いのドーナツ。」

 

「今回の件で先生は色々とバタバタしていますが、だからこそ今は安静にして、いち早く復帰できるようにしましょう。」

 

「そうだな。リハビリがてら散歩でもしてくるよ。」

 

「予報だともうじき雨が降りますから気をつけて下さいね。」

 

「いってら〜。」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

しばらく外を歩いているとキリノの言う通りに雨が降る

 

次第に雨は強まり、空も分厚い雲に覆われたちまち真っ暗になる

 

「すっげえ雨、近くに東屋があって助かった.....」

 

 

見かけとは裏腹に心を落ち着かせるような音を生み出す雨の中、思考を巡らせる

 

古聖堂の一件以来、消息を絶ったアリウススクワッドの面々

 

アリウスを裏から操っていたであろう大人

 

そして日々止めどなく舞い降りる事件や事案

 

「問題ばかりが増えて、本質的なものは全然解決してねえ。かと言ってこれ以上先生に負担かけるのも忍びないしなぁ.....お前もそう思うだろ?サオリ。」

 

「.....ッ!?」

 

 

振り返ることはせずそのまま言葉を続ける

 

「トリニティの病院にまで忍び込んで何の用だ?」

 

「………」

 

「黙りかよ、撃つつもりならとっとと撃たないとな。」

 

 

松葉杖を投擲しサオリの持つライフルを弾き落とす

 

「他の奴らはどうした、手負の相手なら自分1人で充分って...

 

「頼む!...アツコを助けてくれ...!」

 

「....は?」

 

蹲るように地面に両手を突き、嘆くよう言葉を発する

 

「アツコが....連れて行かれた。何日も逃げ続けて、他の仲間もアリウスの襲撃に遭って、散り散りに...生死も不明だ....」

 

「逃げる寸前、お前を連れて来ればアツコも他の2人も助けてやると彼女は言っていた。」

 

「なんで、俺を狙うんだ?」

 

「彼女はお前に目を付けていた。アリウスの生徒以外で唯一、事前に計画を知っていたからだ。お前さえ連れて来れば命は保証すると。」

 

「"命は"ねぇ...いい加減学んだらどうだ?そんな奴の言う事聞いたって、最後は捨て駒にされて終わりだぞ。」

 

「そんなこと分かってる...でも私では彼女を止められなかった。このままではアツコは...姫は、死んでしまう....ほんの少しの可能性でも縋るしかなかった。」

 

「なんで、アツコの死は確定してんだよ。」

 

「私の話など信じられないだろうが、明日の夜明けには儀式の生贄にされてしまう。」

 

「姫の運命を変えたいなら、彼女の命令に従えと... そうすれば、姫だけでなく他の仲間も助けてやると。」

 

「でも、お前たちは悉くを失敗した。条約の乗っ取りもトリニティとゲヘナの侵略も。」

 

「...私の力が及ばず、仲間を助けることすら叶わなかった。」

 

 

サオリの言葉から覇気が無くなっていく

 

「今の私は落伍者だ。トリニティにも、ゲヘナにも、同じアリウスにだって助けを求めることなどできない。」

 

「だから、最後の最後で殺そうとした相手に助けを乞うのか。随分と面の皮の厚い奴だなぁ。」

 

「手前勝手なのは百も承知だ。頼む!どんな指示だろうと従う。どうかアツコを、姫を.....助けてくれ.....。ヘイローを破壊する爆弾、これも、預ける。私の命を握ってもらって構わない。」

 

 

嗚咽混じりに捻り出された声には古聖堂の時の冷徹さは一切感じ取れなかった

 

「ひとつ良いか?お前にとって、スクワッドの奴らはどんな存在なんだ?」

 

「....家族にも等しい、ずっと一緒だった。」

 

「そうか....."たとえどんな状況でもどんな時代でも人は人を愛することができるはず"ってのは本当なんだな。」

 

「何が、言いたいんだ?」

 

 

蹲るサオリの前に寄り目線を合わせる

 

「殺そうとした相手に頭を下げるなんてそうそう出来やしない。それが出来たのは、きっとお前の心に嘘が無いからなんだろうな。お前の心意気に免じて協力してやる。」

 

「本当に....力を貸してくれるのか?」

 

「ああ。但し条件がある。」

 

「どんなものだろうと、受け入れる。」

 

「事が全部片付いたら、スクワッド全員で罪を償え。お前らは被害者かもしれんが、犯した罪は消えないんだからな。」

 

「....感謝する。」

 

「あ、それと爆弾はお前が待ってろ。」

 

「何故だ....」

 

「爆弾とか砲弾に良い思い出ないんだよ。それは"彼女"とやらに喰らわせてやりゃ良い。」

 

「そ、そうか...」

 

 

最後の一言を皮切りに互いに緊張感が抜けていき、誰かの足音が近づくのが分かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キョウタロウーー!大丈夫ですかー!」

 

 

2人のもとへ傘を持ったキリノが小走りで駆け寄る

 

「どうかしたか?」

 

「ずっと戻らないから心配したんです。ずぶ濡れじゃないですか....って、そちらの方は?」

 

「わ、私は....

 

「コイツはブラックマーケットのチームの奴だよ。見舞いに来たはいいが迷子になって力尽きたみたいでな。」

 

「そうでしたか。このままだと風邪をひいてしまいますよ。早く中に戻りましょう。」

 

「それもそうだな。ほら早く立て、いくぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「フブキはどこだ?」

 

「フブキならお手洗いに。私はタオルを借りてくるので待ってて下さい。」

 

 

病室に戻るとキリノが再び退室し2人きりとなる

 

室内は雨音だけが響く中、先に口を開いたのはサオリだった

 

「お前は、私の事をあっさり信じたな。お前の命を奪おうとしたのに、どうしてそんな簡単に信用したのかいまだに理解できない。」

 

「殺そうとした相手に泣いて縋る人間を切り捨てるほど腐っちゃないさ。」

 

「......ますます分からない。涙なんて、ただの芝居かもしれないんだぞ。」

 

「お前がそんな器用な人間には見えない。それに、涙が嘘か本当かはどうでも良い。本当に泣くべき時に泣けるかどうかだ。それよりお前らに指示を出した大人のこと、知ってる限り教えてくれ。」

 

「あ....ああ。彼女はアリウス自治区の代表であり、アリウス分校の主人。私たちは"彼女"と呼んでいるが、他の生徒からは"マダム"とも呼ばれている。」

 

「そいつって真っ赤な肌で白いドレス着てるか?」

 

「その通りだ。名をベアトリーチェ。私よりも、姫がよく彼女と会っていた。」

 

(そうそう。そんな名前だったな。)

「アツコの居場所は見当付いてんのか?」

 

「アリウス自治区にあるアリウス・バシリカ。その地下に彼女が用意した秘密の至聖所がある。おそらくそこだろう。だが私も詳細までは分からない。以前から姫のために準備された場所としか知らされていなかった。」

 

「大まかな場所が分かるなら上々だろ。あとは他のスクワッドの所在か、無事に生き残ってりゃ良いけど...」

 

「なあ....ひとつ教えてくれ。」

 

 

会話を斬るようにサオリが唐突に問いかける

 

「何故、そこまで親身になれる....」

 

「ったく、お前もしつこいな...お前らに対して思うところも文句も山ほどあるさ。だけど死んで欲しいわけじゃないんだよ。」

 

「お前は、どうしようもなくお人好しだな....」

 

 

2人の会話が続くことはなく、やがてキリノとフブキが戻る

 

「うお....何この空気感。しかもキョウタロウが密室に女連れ込んでる...」

 

「誤解を招く言い方はやめろ。」

 

「すいません、薬を貰っていたら思いの外時間がかかってしまいました。どうぞ、タオルです。」

 

「ありがとな。でもなんで?」

 

「2人とも寒い中随分と濡れていましたからね。予防は大事ですよ!」

 

「何から何まで、すまない。」

 

「....なにやら浮かない顔をしていますね。悩みがあるなら良ければ聞かせてもらえませんか?」

 

 

案じ顔を浮かべながらも古聖堂の一件から現状に至る全てを打ち明ける

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な〜んかうまく飲み込めないかな〜〜...」

 

「え!?でも貴方はブラックマーケットで!......?でも実はキョウタロウが入院した原因で!....?...!?!?」

 

「落ち着けって....とりあえず、明日の朝までに何とかしないとコイツの仲間が確実に1人死ぬ。」

 

「だから病院を抜け出して1人で助けに行くんですか!?」

 

「流石に無茶でしょ!局長とか先生にワケ話して協力してもらった方が良いって!」

 

「いや、俺が勝手に首突っ込んだことだ。ただでさえ多忙な2人の手を煩わせる訳にはいかない。」

 

「なら、せめて私たちだけでも...

 

「駄目だ!相手は殺しだって厭わない連中なんだ、危険すぎる。」

 

「警察官である以上、そんなことは覚悟の上です!それに....私はただ、キョウタロウ1人に背負わせたくないんです。」

 

「別に俺は....

 

「平気なんて言わせませんよ!肝心なときに仲間の力になれない程、キョウタロウの目には私たちが頼りなく映っているのですか....?」

 

「....言葉足らずだったな。頼りなくなんかない....俺が迷わずアリウスに乗り込もうと思えたのは、間違いなくキリノ達がいるからだよ。先生やキリノ達が居るから行けるんだ。」

 

「そ、それは...もしや?」

 

「頼りにしてるよ。タイムリミットは夜明けまで。今から向かうけど、先生達にはうまい具合に誤魔化しといてくれ。」

 

「待ってください!」

 

 

病院を出る寸前に呼び止められあるものを渡させる

 

キリノが持つ2丁の拳銃のうちの1丁だった

 

「キョウタロウは借りた物は絶対に返してくれますから。無事に帰ってきて下さいね!」

 

「当然だ。そっちは任せたぞ。」

 

 

 

 

 

 

そのままサオリとキョウタロウは病院を発って行く

 

 

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