ご都合主義のキリノ推しヴァルキューレ生 作:りっくらっくろっく
〜D.U.某拘留所〜
「こ、こんな感じでしょうか....?」
"そうそうその調子だよキリノ。ゆっくり焦らず。"
「ちょっと力み過ぎじゃない?」
「頼んどいてアレだけど、危なっかしくて見てらんねぇよ....」
「ここ病棟なんだし怪我したって平気でしょ?」
「そうだろうけどさ、なんでフブキはここに居んだ?」
「そりゃ勿論、キョウタロウのお見舞いを口実にサボるために決まってんじゃん。」
「義理堅いのか究極のサボり魔なのか分からん奴だな。」
ニヤニヤと微笑みを浮かべるフブキの横でキリノが声を上げる
「おお、やりました!しっかり剥けましたよ!少しガタガタですけど....」
そう言うキリノの手には皮を取り払われたリンゴがひとつ
「にしてもキョウちゃ〜ん、リンゴの皮剥き頼むなんてベタだねぇ〜。」
「別に良いだろ?推しにこんな事して貰える機会なんてそうそう無いんだから。.....うま。」
「このくらいなら、いつでも頼んで貰っても構いませんからね。」
「マジ!?」
「うわっ、そんなキラキラした笑顔初めて見た。」
「思いの外、元気そうでなによりだ。」
「あ!お疲れ様です!公安局長!」
"やっほ〜お疲れ様、カンナ。"
談笑に興じる4人のもとへカンナが訪れるが
「ほ、ホントに元気そうですね。」
「あの子が私たちを助けてくれた子なんだね。」
「その通りだ。」
カンナに加えスクワッドの面々も一緒だった
「.....なんで私らじゃなくてアンタが牢屋にいるワケ?」
「俺を強制的に療養させるためだとよ。お前こそ、1人だけ治療が長引いたらしいけど平気なのか?」
「別に....そこまで心配される事でもないし。」
「ミサキさんと違ってそっちは辛そうですね。命懸けで戦った後に檻の中なんて....」
「おい待て鉄格子に触ったら...
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃびばばばばばばばばばば」
電撃が流れるって言うつもりだったんだけど...。」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!なんで触っただけでこうならなきゃいけないんですか!?やっぱり私の人生なんて苦痛だらけなんですぅぅぅ!!」
「直前に説明されていただろ...」
「こんな機能まで使われるなんて、アンタ相当な問題児だね。」
“ミサイルブッ飛ばすような奴らには負けるよ„の言葉を喉から出る直前で抑え付け、会話を仕切り直す
「はいはい、んなことより余りにも珍しい組合せですけど何かあったんですか?」
「その事だが、4人の処分が決まった。端的に言えばアリウススクワッドとお前とで分遣隊を編成する事になった。」
「スクワッドの件はトリニティの方で処理するんじゃなかったんですか?」
「そのトリニティからだ。公安局、何よりお前の側に置いておけば暴走を防ぎ更生にも繋がるだろうと、正式な要請を受けた。」
(そこに俺の意志は含まれてないのか...)
「そして当然ながら、分遣隊の指揮及び管理はお前に一任するつもりだ。」
(マジかぁ....)
「お前の下に付く以上、以前のような失態は繰り返さないし、お前との約束も果たしてみせる。どうか私達をよろしく頼む。」
「よろしくね。」
アツコは小さく手を振り、サオリは深々と頭を下げる
「しかし、お前が復帰するまではスクワッドは正義実現委員会の預かりになる。今は治療に専念しろ。」
「そうですか。そう言う局長もしっかり休んでください。目のクマが酷い。」
「誰のせいだと.....ともかく、病棟を抜け出そうなんて考えるんじゃないぞ。」
"安心してよ。私がしっかり見張ってるから。"
「そうですか、お手数おかけします。くれぐれも迷惑の無いように。」
「そんなに睨む事ないじゃないですか。もう抜け出す理由もありませんから安心して下さい。」
カンナは懐疑的な視線を送りながらも安堵の籠ったため息を吐く
「通達事項はそれだけだ。私はこれで失礼する。」
「私たちも行きましょう。フブキ。」
「え〜ちょっと早くない?もう少しゆっくりしてこうよ。」
「キョウタロウのいない間の平和は私たちが守ると決めたじゃないですか。善は急げです!そうと決まれば早速周辺のパトロールに向かいますよ!」
「あぁ!そんな引っ張らなくても行くから。」
「それでは失礼しました。お大事にしてください!」
"またね〜。"
「じゃあな。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
皆が帰り、牢屋には先生とキョウタロウのみが残った
退屈そうにスマホを弄るキョウタロウと、手元の端末で仕事を進める先生が唯々静かに過ごしていたが
「とても静かで良い場所ですね。檻の中という一点を除けば。」
"...アンタは....!"
いつかに聞いた声により、静寂は緊張へと変わる
「今度は何の用だ?落書き野郎。」
檻の中に唐突に現れた2人へ素早く銃を向ける
「おっと、私は戦いに来たわけではありません。本日は以前に話しそびれてしまった貴方の事について説明に参りました。」
「そういうこった!」
「ですので、銃を納めてくれると幸いです。」
"...敵意は無いみたい。"
「.....わかりました。少しでも怪しいと判断したら撃つ。」
銃を下ろした事を確認するとゴルコンダがゆっくりと話し始める
「まず、あなた方は
"知ってるよ。思考実験のひとつでしょ。"
「おっしゃる通り。ある男が沼地に訪れた際に、運悪く落雷が直撃し男は死亡してしまう。しかし、ほぼ同時にもう一つの雷が沼に向かって落ち、雷の高圧電流と沼の汚泥が化学反応を起こし、その男を構成していた要素全てが寸分違わぬ同一の生命体“沼男„が誕生しました。」
「その話が今の俺となんの関係があるってんだよ。」
「バシリカでの貴方の身体がまさにそれに近しい状態だったのです。」
「そういうこった!」
「貴方と怪物となったベアトリーチェが接敵した時でしょう。その時に貴方は一度、死んでしまいました。」
「........は....?」
"あんまり変な冗談ばかり言ってると、本当に許さないよ。"
椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がる先生を窘めるように切り返す
「嘘でも冗談でもありません。至聖所でのベアトリーチェの行動、常軌を逸しているとは思いませんでしたか?」
"....今思えば、確かにそうだけど..."
「お前はその原因が説明出来るってのか?」
「ええ。ベアトリーチェと共に爆発に呑まれた貴方は度重なる負傷により、とうとう限界を迎えてしまいました。」
「そしてマダムは貴方の意識が消えた身体に入り込んだのですが、本来の持ち主を失った器の崩壊を止める事は出来ず、貴方の残滓を用いて肉体の複製を試みました。」
「しかし実行された複製は貴方と秤アツコさんの神秘、マダムの権能も混ざり合い、結果としてモザイクやノイズを纏う歪で不安定な存在となってしまったのです。」
「最終的に貴方の強すぎる自我が戻ったことにより修復された事で許容量の定まった器では耐えきれず、マダムだけを弾き出したのです。」
"じゃあ、今のキョウタロウは余計なものが無くなったから、見た目が元に戻ったってこと?"
「ご名答。ですが、今の貴方はとても精巧に造られた“貴方自身のレプリカ„でもあるのです。」
「そういうこった!」
キョウタロウは何も言わず、取り乱す訳でもなくじっと自身の掌を見つめ続ける
「随分と落ち着いたご様子ですね。」
「まぁな、さっきまでは事実を呑み込むだけで精一杯だったけど、別にそこまで悩むような事でもないって思っただけだ。」
「お前が何と言おうと、俺の目は俺の目。俺の耳は俺の耳。この身体で感じる全ては間違い無く俺のもんだ。」
「.....そうですか。その屈強な精神、羨ましいものですね。」
その言葉を最後にゴルコンダとデカルコマニーは霧のように消えていく
2人が消えた後に煮え切らない様子で先生も口を開く
"キョウタロウ、本当に大丈夫?"
「何がです?」
"いや、その...自分が一回死んだってこと。私がもっと早く助けに行けたてたらこんな事にはならなかった筈だから。"
「先生が負い目を感じる必要はありませんよ。全部俺が勝手にやった事ですから。」
"キョウタロウは今の話、みんなに話すつもりでいるの?"
「まっさか。墓まで持っていくつもりですし、なにより俺はこうして生きてますから。」
"私がその立場になったら、そんな気丈にいられないよ。"
「その感覚、忘れず大事にしてください。」
(俺はとっくの昔に忘れちまった感覚を先生には大事にして欲しいからな。)
「さ!辛気臭い話はお開きにして、早めの晩御飯でも食べましょう。」
"それもそうだね。"
先生ベッド傍に何故か添えられていたメニュー表を手にとる
"色々あるね。カツ丼、天丼、海鮮丼、牛丼、ビビンバ丼.....丼ものしかないね!?"
「これがヴァルキューレクオリティなんです。」