拝啓、父上母上。
…目が覚めたら俺は砂漠のど真ん中にいました。
…いやいやいや。妄想癖とかそんなんじゃない。完全な砂地である。地面から伝わるじりじりとした完璧に過ごしづらい最悪な立地である。一面見渡しても…砂、砂、砂…。広大に広がるという言葉では表現することが不可能な、そんな大砂漠である。
手足の感覚がないのが唯一の奇跡か。触覚がないからまだ歩けるし、まだ過ごせる。…しかし、何故、手足の感覚がない?腕を伸ばそうという意識はあるが、肝心の伸びる腕がない。いやいや、達磨状態で動いているとでも言うのか?
そうなれば神様は意地悪だが…と、ここでいくつか問題が発生。一つは衣食住が全く整っていないこと。幸いか、先ほどから喉の渇きなど感じちゃいないが、一応、水分がないといつ倒れてもおかしくない。住処は取り敢えずの日影が欲しい。最低限の準備が整った上で服はいいだろう。こんなところで変態だ…などと言われる筋合いもなしに。
と、まるで這いずり回るかのように探索を続けていると…こりゃついてる。大きな木が群生し、真ん中には水辺がある。…オアシスだ。取り敢えず熱った体を冷まそう。
ん?水辺に何か…映った気が。
まぁ、俺自身しかここにいないし、俺の姿であることは間違い無いのだが…。映ってる姿が問題なのである。あれだ…確か…。
チュチュだ。あの目玉があるスライム的な…やつ。
OK。確認しよう。目が覚めたら砂漠にいて?水分補給しようとオアシスに行けば、自分の身体がチュチュになっていた…と。
……は?
しかも、何が面白いかというと、俺の記憶にあるチュチュに紫色は居なかったはずである。青色は居た。…てか、それがベーシックなはず。…変わったものだなぁ。
流動体的な動きに慣れてしまえば、割と苦痛じゃ無い。チュチュゼリーの集合体ゆえにスライムとは一概には言えないだろうが…。さて、本当は手足が欲しいところだ。今の俺では猫の手も借りたいどころの騒ぎじゃない。物理的な手が欲しい。足が欲しい。
…ともあれ、自身の体の研究を急ぐのが先か。まず一つ、近くにあるメロンを丸呑みしてみると…案の定か味がしない。この身体には人間でいう味蕾が無いわけで…あれだ。ウツボカズラ的な。食べたらゆっくり消化していく的な?
次に水を飲んでみるため、オアシスへダイブ。此方も冷たさや濡れる感触は味わえず、虚無。…うーむ。これは難儀か。ふと見れば、体の堆積が少し大きくなった気がする。まぁ、元から水の集合体みたいなもんだ。そこに水を足せば増えるのは当たり前だ。
厳密に言うとチュチュとスライムは違うだろうから、どっかの転生したら…的な展開は期待できない可能性がある分、ショックか。勿論、声を出すにも声帯がないから声も出ないし。意思疎通が課題か。…そもそも、魔物と話せる気概の人間などいるのか?
ん〜。…お。あの、真っ赤な体のチビ鬼は。
ボコブリンくんではありませんか。いやはや、魔物仲間とは嬉しいやら悲しいやら。折角だ。交流を………は?
待って。奴さん、棍棒を振り回して迫ってくるのですが。
おいっ!!這いずることと跳ねること以外できないこの身体で、少なからず、四肢を持つボコブリンに勝てと?ハードゲームすぎやしませんの。助けて。
……勝ったわ。
いや、まさか、上から被さって窒息させるだけのちょっと息苦しい作戦が通用するとは思わなかった。ゴブリン君にも窒息という概念があるのね…まぁ、あれか。水に飛び込んで自殺するタイプのゴブリン君だったのかもしれないわ。
と、ここで発見。
このゴブリン君、人を襲っていたことがあるそうで、なんとこの私、紫チュチュくんは、そのゴブリン君からの記憶から、なんと人型を再現するという能力を持っていることが判明。やったぜ。
取り敢えず、紫色ながらも念願の手足を獲得。更に、ボコブリンくんからのギフトはこれだけじゃない。ボコブリン君の持っている視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚を確認。ただこのボコブリン君、温度を感じる器官が人間よりも鈍感なようで。砂漠なのに暖かい程度だ。それだけならいい。
しかし、その他の五感も人間より少し鈍感なようだ。例えば、風の音は若干吹いてるな程度なのに視覚的情報は砂嵐が起こってるし、メロンを食べれば味は若干、甘めの水。…それでも味が感じられるのは進歩か。嗅覚も鼻が詰まった感覚だし、視覚もチュチュの時の方がチュチュゴブリンになった今より見えてたと思うくらい。…今更だが、チュチュゴブリンって何?
…人間をそのまま吸収したらどうなるのか。捕食は…したくないなぁ。記憶を辿って形成することが出来るのならば、ちょっと想像するのがキツいが、頭かなんかから直接記憶をたどれればいけるか?
この能力を知った時に自分の前の姿を想像してみたが、霞がかって無理だった。前世は普通に日本で男子高校生していた…気がする。前世の記憶って実際には分かりにくいもんだなぁ…と。うーん、せめて意思疎通はできたほうが…。
「なんだ!?紫のボコブリン!?」
おっと。
これはこれは魔物ハンターの方ではありませんか。剣なんて物騒なもの持ってまぁ…。こっちは棒切れですよ。あのボコブリン君から奪った。
錆びてるとはいえ、鉄に木が勝てるわけが…あったわ。
まさか、1発ノックアウト、適当に振ってただけで当たったし。下で伸びてるし…。あら、結構可愛い。男の方が楽だけど…まぁ、体型もスレンダーな方だし、お姿を拝借いたしますか。
頭に手を翳して見るとこりゃびっくり。
紫のボコブリンはやっとこさ人間の姿を手に入れたっ!!
…ここまで長く厳しい戦いは…してねえな。うん。
「あー、あー、あー。」
声が出るっていいね。ただ、高いから違和感。綺麗な声ではある。…そんでもって、全裸なのはどうかと思う。流石に細胞以外の部分は再現できなかったか。じりじりと肌に照りつける陽光が痛いほど。あー、こう思うと裸着欲しいなぁ。…まぁ、なんか布落ちてるし…多分、旗とかそういう感じの布。それをただ結びつけるだけ。…まぁ無いよりマシ程度かしら。
…あー、やっぱ人間っていいわ。若干、チュチュの時のカラーリングのせいで髪が紫がかっているがな。まぁ、誤差誤差。誤差の範疇だわ。うん。
五感は全部機能しているし…食べ物の味がわかるっていいね。メロン食べながら涙を流した人間は俺が初だろう。
「…って。なんじゃありゃ。」
おいおいおい。
誰ですか、この砂漠に超ドデカ古代兵器を戯的においた阿呆は。明らかに暴走しておるやないですか。怖えよ。おバカ。跋扈しておるやないですか。
って、おいおい。…さっきからこれしか言ってないけど。これはおいおい案件でしょうがな。なんか女の子と…アザラシがぶっ倒れてるんだが?古代兵器くんの足下で。…あれが去るまで待つしか無いだろうが…うーむ。
ええいっ。知るか、助けるっ!!