…ゲルドの街の兵隊訓練場。
ゲルドの武器とはとても軽く使いやすい。両手剣までなるとそうはならないんだけど。
「その刀を振ってみろ。族長様もお目見えだ。生ぬるいことはするなよ。」
と、チーク隊長からのお達しである。
何故、こうなってるかって?
ルージュがビューラさんに俺を自身の左腕として迎えたいと言ったからだよ。それで貴君の強さを見せてみよッ!!…的な。師匠に対して弟子が喰らう理不尽的なアレ。まぁ、良いんだけどさ。
ルージュもそんな余興みたいな…いや、余興か。みんなにチュチュ筋を見せるチャンスか。と、握った金の意匠の施されたナイフを斜めがけに訓練の人形に振るう。
「ふんッ!!」
…あらまびっくり、真っ二つ。
いやぁ、びっくりびっくり。ただただ斜めに切り裂いたら真っ二つになるなんて…。あれ?剣先、どこいった?
「どういうことだ…。ゲルドの武器が一撃で折れるなんて…。しかも、ただ振っただけだぞ!?」
と、チーク隊長。ふと見れば、下に剣先が落ちていた。いやぁ、不思議なこともあるもんだなぁ…。
ルージュの方を振り向けば、ルージュは額に手をおき、ため息をついていた。やれやれと言った様子。え?俺言われた通りにやったよ?
「お前、ハイリア人の形をしたゴロン族じゃないだろうなッ!?」
「違います。」
チーク隊長、いくら目の前の現状が意味不明だとしてもそれは。そりゃ、ルージュとパトリシアちゃん抱えていけるほどの筋力はあるけどさ。あれは、そんなに…ん?後ろから殺気。
「族長様、如何しました?」
「…いや。」
…体重は女性には御法度。別に重くなかったけどさ。
なんか、すっごい形相で睨んでくるんですが…ルージュ様。不敬ではない。
「…とにかく、これならルージュ様のお側でも使えるな。」
とおっしゃるのは隣のルージュの異変を知らざるビューラさん。意外に天然混じってんのかしら。
と…まぁ、実力は認められてラッキーって感じなんだけど。何故か、ルージュの給仕係までやらされている。ビューラさんはナボリス対策に忙しい…とかなんとか。本当はルージュに着いていたいが、ビューラさんとチーク隊長で会議のため、俺が勝手出た。
まぁ、例の一件でビューラさんからの信頼も勝ち取れてるし?ルージュも族長としての仕事があるし?…俺がやるしかないわなと。
まぁ、簡単なものだ。
人参とキノコのサラダ…山海焼き(ルージュでも噛み切れるように柔らかくしてある)に、デザートとしてプリンを用意。これでチュチュ人間特性お子様セットの出来上がりっ!!
「ルージュ〜?出来ましたよぉ〜?」
………返事がない。
まぁ、あの子ったらっ。こんな時まで執務活動かしら。全く、お仕事熱心ねぇ。持ってってあげましょっ。
「ルージュ?入るぞ。」
「おぉ〜…。」
…力無い。
こういう時は寝ぼけてるか、何かに熱中している時である…とビューラさんから聞いている。ジャストミートっ。机の上に資料を広げ、何か書いていた。
「…ふふっ。美味しそうな匂いがするじゃないか。」
と、此方に振り返り、笑いながら言うルージュ。
あたぼうよっ!!この世界に来てから最初に学んだのが、料理だったからなぁ。腹が減っては戦はできぬっていうし。これがチュチュ筋の源なのです。
「そう言うなら資料を片付けてくれ。…それとも、あーんしてやろうか?」
「あ、あーん?なんじゃ、それは。」
「食べさせてやろうかつってんの。」
「…無礼じゃぞ。貴様。まぁ、待て。すぐ片付ける。」
…あーんも知らないとは。この子、ヴォーイハントちゃんと出来るのかしら。お兄ちゃん、心配だわぁ…。ほら、世界には悪い男がいるって言うし?男子禁制なのに、街中で裸になったり?特権を利用して女の子の前で裸になったり?盗撮したり?
…嫌だわっ、ルージュの目が腐っちゃう。…なにやってんだ。俺は。
「ほら、片付けたぞ。」
そう言うルージュの声でやぁっと素に戻った。…まぁ、取り敢えず机の上に盆をおく。
「嫌いなもんは知らんから、先に言っておいてくれよ。」
「んまぁ、特には。…それじゃ、頂くぞ。」
…ほう。この歳の子供が野菜に最初に食らいつくとは。親御さんのしっかりとした教育が伺えますな。若くして亡くなったとはいえ、お袋の味くらいは覚えてるもんだろう。
「…んむっ。文句なしじゃ。美味しい。」
「お褒めに預かり光栄です。…っておいおい。」
ハンカチ持ってきて正解だった。ルージュ様?お口元がお汚れですわよ?…んな、キョトンとした顔しない。あぁ、くそ、可愛いなぁ…んもうっ。拭き拭きしてやるから、ちょっと止まってなさいな。山海焼きのタレだな?これ。
「サークサーク。」
「俺以外の前ではそんなことすんなよ?」
「なにがじゃ?…お前以外にここにヴォーイは入って来れんぞ?まぁ、お前をヴォーイだと言って信じる者は此処には誰1人居なそうだが。…うんっ。この山海焼き、美味いぞ?ほれ。」
あぁ、これはおおきに。…何故、関西弁?
味見してなかったから、ルージュの箸から一口もらう。おぉ。我ながら完璧。おにぎりだけで済ますんじゃなかった。…って、ん?
「…ルージュさん?今何を?」
「…ほえ?一口やっただけじゃが?」
……何が悪いのみたいな目で見ないで…どうせ俺の心は腐ってますよ。あーんしてくれちゃったよ。この褐色ロリ族長。
「ルージュさん、汚いからお箸変えてあげますね。」
「汚いとはなんじゃ。妾はこれでいい。変えてもどうせ、食べてるんじゃから汚れるじゃろ?」
と、食べ進める族長様。
…あえて何も言うまい。あとでそれとなく教えてあげよう。これも大人の階段を登るってやつだ。あぁ、神様…幼気な幼女を弄ぶ私をお許しください。心の中で拝んどこ。
「ところでじゃ。…妾は名乗ったのにお前は名前を言わなかったな?」
「ん?…あぁ。チュチュの身体になってから記憶が曖昧でさぁ。性別と向こうの口調ぐらいしか覚えてないんだわ。」
ラノベとかならこのあと覇権を握りますね。
転生したらハーレムだったっ!!…とか。私、そんな器用なことできない。うん。
「ほう。名無しか…。うーむ。それではビューラ達に怪しまれるぞ。先の一件で信頼されたとはいえ、スパイだと疑われては…。」
怖いこと言わないでください。そんな素面で。
てか、真剣に考えてくれてるんだなぁ。ルージュ様。やだ、好きになっちゃう。
…ずっと砂漠で1人だったらこんな精神状態になるよ。みんな。
「そうじゃ、妾がつけてやろう。」
「………え?」
「…なんか嫌そうだな。」
むすっとするルージュを他所に、1人考える。
…だって、データがパトリシアちゃんなんだもの。男の子としては不安よ?…しかし、族長様の好奇心は止められぬ。
「じゃあ…チュチュ丸っ!!」
「…ルージュ、それはない。それは。」
「可愛いじゃないかっ。それにお前の要素もちゃんと入ってるぞ?…むむむっ。じゃあ…ボルドー…はどうじゃ。」
…おぉ。私歓喜。ルージュからまともな名前が出たわっ。
…ボルドーね。ちょっと男っぽいけど。まぁ、ルージュが一生懸命考えてくれたしね。それで行こうか。
「…じゃあ、それで。」
「うむ。…宜しくな。ボルドー。」
…ルージュ様、その笑顔はとてもずるいと思います。
ほら、お兄さん、顔から火が出てますから…。