いくら、ゲルドの街に拠点を敷いているからと言って、元の狩猟生活は抜けられない。今日も砂漠を飛び回る鳥ちゃんを狩猟中。…今日はシチューかなぁ。確か、牛乳はあったような。
ほら、アザラシを食用で食べるところもあるけど、スナザラシなんて食べ始めた暁にはルージュが泣き出しちゃうから。泣いてるルージュちゃん、可愛い、ぐへへ…と言う野郎にはチュチュパワーで鉄拳制裁ですわっ。…だけど、流砂の中を泳ぐほどだから筋肉しかないよなぁ。パトリシアちゃん、南無三(食べやしない)。
そういえば、パトリシアちゃん用にメロンを取ってくる約束だったな。というか、懐かしや懐かしや。わい氏がこのゲルド砂漠に降り立った時に、喉の渇きと腹を満たしてくれたのがこのひんやりメロン君なのです。ルージュが天使なら、この物は神様と呼びましょう。神獣ナボリスなんざ、知らない知らない。
…そういやぁ、ゲルド砂漠の砂岩壁登って上のゲルド高知ら辺まで行くとイチゴとかあるんだっけなぁ。…ルージュの為に持ってってやるかな。パトリシアちゃんもバナナとメロンばかりじゃ飽きるだろうし。…てか、バナナか。
バナナといえば、あの変態集団、まだ雷鳴の兜狙ってんだっけな。風の噂で聞いた。…あのぴっちり隊服でよくもまぁ、この過酷なゲルド砂漠を生きられるな、アイツら。なんだ?エアコンの術とか持ってるのか?
てか、鳥の姿はいいなあ。
砂嵐にさえあわなければ、死にやしな…。
…ゲルドの街の方向がちと騒がしいみたい。いつもの活気よりも荒々しい。門番がいないのもおかしい。王宮てっぺんの屋上に着陸し、人に戻る。聴覚だけ、チュチュパワーで活性化。…ふむ。やっぱり。
門番がいない、兵士もいない。街中は大絶叫。…変態集団イーガ団が大勢率いてやってきやがったな。王宮に取り敢えず降りていく。
迎え撃つゲルド族の兵士はビューラさんとチーク隊長が率いている。ただし、ゲルドの戦士の攻撃に、イーガ団が順応しているからか、力づくの攻撃は消える奴らを捉えることはできない。それどころか、アイツら妙な術をしてきやがるな…。
「どこへ行っていたッ!!ボルドーッ!!」
と、イーガ団のガチムチ幹部と戦うビューラさんからの怒号。
その声で俺に気づいたガチムチ幹部はビューラさんをよそに此方に白刃を構え、此方に振ってきた。
ただーしッ!!なめるでないわっ!!
ゲルドの剣を腰から引き抜き、そのまま白刃をアッパーカットで上に打ち上げる。
「ぐっ…!?」
「よそ見をするなッ!!」
そして、そのままビューラさんからの攻撃を背後からくらい、ガチムチは退散。…ルージュは奥か。
「ビューラさん、族長様は。」
「…この王宮の族長の部屋だ。雷鳴の兜をその身にお抱えになり、逃げ場は無くともあそこは強固。誰も入れやしない。」
…あの、コーガとかいうやつが狙ってんだったら少し用心すべきだろうが。ふむ。…俺がルージュを守れば良いか。
「族長様の下へは俺がいく。アイツらは強いが、バカだ。なんとかなるだろう。」
「なんとか…って。…おいっ!?」
…ビューラさんの言葉を無視して、上へと走る。誇り高いゲルドの戦士とはいえ、ルージュに戦う力はない。ゲルドの防御を突破して、実力行使でイーガ団がくるわけねえとは思うが、あの変態集団、悪知恵だけは働く。その首領となれば、狡猾さもマックスだ。…と、階段を踏破して、上へと駆け上ったが…。
「その雷鳴の兜は俺サマがもらうッ!!返してもらおうかッ!!」
「これはゲルドの宝具、貴様ら賊に渡すわけにはいかぬッ!!」
…嫌な予感は覿面…ってか。
ルージュとコーガ様が雷鳴の兜を取り合ってる。…うーむ。取り敢えず、しばいとくか。
「…お背中、削ぎますねぇ。」
「なにっ!?」
地面を蹴ってロケットスタート。体を捻って、そのままの勢いでコーガ様の背中へと剣を振り下ろす…が、流石にやれはしないか。やれやれ。…違うぞ?これはやれとやれやれをかけた高等なジョークじゃあ…。
「ボルドー…。」
「やや、お前はッ!?」
コーガ様とルージュの間に俺は入る。
よかった。ルージュ×コーガ様の同人系の何かが生み出されるところだった。で、貴重なルージュ様の弱々しい声が聞けたところで…。
「麗し…いやッ!!忌々しいハイリアの女めッ!!ここであったが、100年目、この俺様がぶっ倒してやるッ!!」
「良いだろう。…安心しろ。ルージュ。お前は俺が守る。」
この街の兵士の責務だ。
動けないビューラさんに変わり、俺がやるしかないわいな。後ろでルージュが「えっ…」と声を漏らし、呆然としているが、関係ない関係ない。
ここはそこまでの大きさがない。ルージュの寝床がぶっ壊れちまうのが難点か。だが、コーガ様のあのクソデカ棘鉄球は使えないはずだ。
つまり、コーガ様にはなすすべなし。
「くっ。いくらオレ様がハンサムだからってッ!!しつこいぞっ!?ハイリアのお嬢さんッ!!」
と、何故か意味不明な言葉でキレられながら、コーガ様は円形の刀を振り下ろしてくる。
その一撃をゲルドの剣の峰で受け止め、跳ね上げる。
「おっとっとっ!?」
「真っ二つになりなッ!!」
そのまま姿勢を崩したコーガ様に俺はゲルドの剣を振り下ろす。火花と風に煽られ、砂が舞い、コーガ様を包み込んだ。
「くっ!?…流石の実力。その細身に似合わぬ剛力ッ!!やはり美しい。俺様の嫁になるに相応しいッ!!必ず、お前も雷鳴の兜もッ!!奪ってやるからなぁッ!!」
と言って消えていった。
…なんだ。嵐のような野郎だな…。妻にって…俺は男のチュチュだってのに。
…そうだ。ルージュ。
「大丈夫か?」
「…ほ…へ?」
呆然として、足を開きながら床にヘタレこんでいるルージュ。俺が近づいて目線を合わせるまでぽかんとしていた。鳩が豆鉄砲を食ったような顔しやがって。
「…終わったよ。」
「あ、あぁ…。わかってる。…しかし、お前が来なければ妾は…。」
まーた、そんな自分を卑下してらっしゃるのかね。うちの族長さんは。
「お前が1人で頑張ったから、雷鳴の兜、守れただろ?俺は外に出てたし、ビューラさん達はゲルドの街で戦ってた。ここで頑張ってたのはお前だけだ。」
「…。」
…呆気に取られたような顔で俺の顔と自身の胸に抱く雷鳴の兜を見比べるルージュ。安心したのか、ほっと胸を撫で下ろし、ふっと微笑んだ。
「…助かった。ボルドー。礼を言う。」
「はいはい。…っと。」
腰が抜けたのか、立てないルージュの手をぎゅっと握り、立ち上がらせる。外の騒がしさがなくなった。団長であるコーガ様がいなくなって、イーガ団自体が撤退をきしたのだろう。
「…皆に感謝せねばならぬな。妾はここで雷鳴の兜と死なば諸共だった。」
「…おい。」
…何故、ルージュ様。私の腕を抱きしめているのですか…?
雷鳴の兜を右手に持ちながら。小さいけど…一応当たってますよ…?あれ、これ…殺されるやつでは…?
「ふふっ。…感謝しておるぞ?」
大人っぽく笑うルージュに、少し動揺した自分に驚いた。いくら美形とはいえ、相手は子ども。…待て?ここなら子どもでも良いのか?いや、ゲルドの族長…ふーむ。
「…ルージュ、飯、何食いたい?」
「任せよう。パトリシアちゃんの世話もせねば。…その前に戦った兵士たちを労ってやらないと。」
そうだな。
…取り敢えず、変な気は無くして…。腹減ったから飯だなぁ。