青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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幕間で開花させておいて散らすな


第二章:純白ヴィジョナリー
①散華フリージア


 四月末のGW前というスゲぇビミョーな時期に転校生が来た、ということで一年の、高松のクラスの担任が少しバタバタとしていた。なんでも中学は生徒会長までやっていた品行方正そうな女子らしい。

 ──いやいや、生徒会長が品行方正って等式は成り立たねぇだろ特にウチは。先代生徒会長はバカヒナだからな。

 

「……あのん……ちゃん」

「そんな名前だったな」

千早(ちはや)、愛音」

「……えっと、千早が名字か?」

 

 頷かれ、へぇと声を出した。

 千早愛音でフルネームか、ファーストネームみてぇな名字ってのはままあるもんだが、それにしたって珍しい。

 経歴とかはオレに詳しい情報はねぇ、そりゃ閲覧しようと思えば出来るだろうけど。GW前ってのが気になるところだしな──いや詮索しても意味はねぇ。関わる可能性は今んところねぇに等しいし。

 

「うしろの……席で、あか、るい……?」

「明るいか、まぁ仲良くなれるといいな」

「……ん」

 

 どうやら高松の中で千早の印象はそう悪いもんじゃないらしい。クラスメイトのことも憎くは思ってなさそうだしな。

 だが結局は自分の殻に閉じこもってしまう。噂大好き上原ひまりリークによるとガールズバンドに誘われたことがありつつもそれには首を振ったから興味がねぇんじゃねぇかって位置づけになってるとか。ついにオレの周囲にガールズバンドとは関係のねぇヤツが来てくれたかと何故か嬉しくなっちまった。

 

「せんせ……」

「ん?」

「……これ」

「石?」

「キレイ……だから」

「確かに、自分で磨いてんのかこれ」

「……せんせに、あげる」

「ありがとな」

 

 つるりとした手触りの丸っこい石をもらった。好感度が一定以上の報酬か、と頭の中で浮かべてから振り払う。高松自身はというとそれで満足したのか、また自分の世界に戻っていった。きっと高松はこういうところがかわいがられる要因であって、変わらねぇ要因でもあるんだろうな。たとえ外向的になろうと、変わらねぇ根本なんだろうとオレは判断した。

 

「じゃあ、いつも通り頼むな」

「……ん」

 

 あんまり二人で居るのはよくねぇと判断しオレは屋上でのんびりさせてもらうとする。一段上がるごとに、屋上の扉を開けて定位置について火を点ければ、教師からクズ教師へと変わっていく。

 そろそろまた梅雨が来て、そうしたら相棒を吸う場所がなくなっちまうな。そんなことを考えつつ空を眺めていた。

 

「……いい音だな」

 

 ピアノの音、吹奏楽部は今日休みだったはずだが去年までは聞かねぇ滑るようなピアノの音が屋上へと流れてくる。別に耳がいいわけじゃねぇし音楽に一家言あるわけでもねぇから正確にどう凄い、いいかってのは言えねぇけど、静謐で激情を抑え込むようなグランドピアノの音に浸らせてもらっていた。

 だがそれもたった数分もしねぇで、スマホの震えに邪魔される。

 

「……もしもし」

『あ、どうもっす清瀬センセ、透子だけど』

「おう桐ヶ谷、なんだ急に」

 

 電話を掛けてきたのは桐ヶ谷透子、お嬢様学校月ノ森に通う家柄チートギャル。どこぞの卒業した世話焼きハイスペックギャルとは違い本当に頭が悪そうなところが特徴だが、成績とか学力云々よりもコイツは家柄と能力がチート系なのが特徴だ。まぁコイツのことは割愛してもいいだろう。

 

『シロのやつにあたしとななみがセンセと連絡先交換してんのバレてさ』

「バレて、倉田がなんだって?」

『拗ねてイジケてたんだけど、センセってヤリチンだし身持ち硬かったら近づけなくねってテキトーにアドバイスした』

「否定出来ねぇけどせめて女誑しで言葉を留めてくれねぇかな」

『あはは』

 

 あははじゃねぇよウケねぇわ。

 テキトーにアドバイスした中身が最悪過ぎて洒落にならん。その無駄にでかい声のトーンでしゃべって噂になったらどうする。最悪の場合は事実確認で職質からの青い制服のお兄さんに囲まれるハーレムエンドだぞこの野郎。

 

『んで、処女のシロには無理っしょって言っといたんだけどさ』

「けど?」

『さっきふーすけに聞いたらもう帰ったって言うから、もしかしたら羽丘(そっち)行ったかも』

「つまりはお前のせいだな」

『えー、けどセンセだってちゅーとハンパだったじゃん、シロは思い込み強いんだからちゃんと言っといた方がいいよ!』

「……正論で誤魔化せると思うなよ」

 

 中途半端だったのは認める。結局何度か流されて個別に関わらせてもらったからな。だが倉田からは一時期の紗夜のもっとひどいバージョンの盲目さを感じる。それこそ桐ヶ谷が言っていたような思い込みが強いからな。

 ──決して黄昏のヒトは魔法使いだったかもしれねぇけどお前の運命のヒトにはなれねぇんだってことを泣かせてでも突きつけねぇとな。

 

「おやおや〜、問題はっせー、ですな〜」

「モカ、今月の休日のストーキングを許可してやるから協力しろ」

「ふっふっふ〜、それだけじゃ〜足りませんな〜」

「パン一日分とデート、泊まり可」

「乗った〜」

 

 チョロ、欲望に正直すぎるだろ。

 ストーカーにして最近では有り余った能力で情報収集も担当してくれる優秀で困ったヤンデレ悪魔は何やらスマホを高速で弄り倒している。筆不精の癖にこういう時だけは動きが素早いな。

 

「……羽丘の校門前、ちょっと前に着いたみたい」

「どういう動きで倉田の動きを追ったのか問い詰めてぇけど助かった」

「ひーちゃんとつぐに連絡しといたから、つぐんちで待ち合わせね」

「サンキュ、やっぱお前は頼りになる」

 

 満足気な頭に手を乗せて、オレは屋上から階段を駆け下りて車に乗り込む。家の駐車場に停めてから歩けばそこはすぐに待ち合わせ場所に指定させてもらった羽沢珈琲店だ。

 そこに大人しく座っていた倉田は、オレを見つけると少しだけ立ち上がった。

 

「先生」

「……いつもので頼む」

「はい!」

「あの……私」

「とりあえず座れ、話なら聞いてやる」

 

 あくまで大人として上から接することを意識する。その雰囲気が意外だったのか倉田は少しだけ困った顔をしてから再び座ってくれた。

 基本的にココで遭遇するからなコイツとは、だからオレとしてもオフの姿なわけで、きっと甘い顔してたんだろうなぁと倉田の反応を見て思い知らされる。中途半端に甘い顔をするから火傷をするんだ、流されやすいクズとしては何度もしてきた失敗なんだよな。

 

「……で、オレに用があって羽丘に来たってことに間違いはねぇんだな」

「は……はい」

「どうして急に思い立った?」

「と、透子ちゃんと……七深ちゃんが……清瀬、先生の連絡先を知ってて」

「おう」

「も、もうすぐ一年……くらいなのに、私は偶々会うしか出来なくて……こころさんみたいに気軽に、会いにもいけないし」

 

 オレがコイツに連絡先を渡さねぇのは距離感がバグってるからだ。桐ヶ谷や広町、羽沢や上原のようなメンバーは必要な時にしか連絡はしてこねぇ。前の二人から連絡が来ることはほぼねぇし、後ろ二人はクラスのことや蘭やモカ、その他オレと特別な関係のあるヤツのことを教えてくれるがそれ以上はねぇ。

 ヒナを始めとするバカどもだけだ、他愛のねぇことを送ってきて、声が聞きてぇとか言って電話掛けてきて、返事をしねぇと怒るヤツらは。でもオレはそれでいいと認めてるヤツらだけだ。

 

「オレはお前の友だちでも、担任でもねぇし部活の顧問でもねぇ……他校の教師で、他人だ」

「……そ、そうかも、しれないけど……でも」

「助けたのはこころの仲介があったからだ。でももう解決して半年になる、いい加減アフターケアも必要ねぇだろ」

 

 こういうのは酷い言い方なのかもな。けど倉田ましろはアイツらとは違う。アイツらが会いてぇのに気軽に会えねぇって言うんなら手を尽くす。リサのように、オレから時間を作って僅かな暇でも唇を重ねるくれぇには構ってやる。

 けどそれを倉田は本質的に必要としてねぇ。ただ甘えられる、()()()()()大人がココにいると味を占めてる。そんな甘い蜜を吸うためにオレの気を惹こうとしてるだけだ。

 

「……でも、でも、先生は……私の、せんせ、してくれてた……」

「お前の前で教師だって言ったことはねぇよ」

「……そんな」

 

 大人だってのは何度も言ったさ。倉田を生徒として見てたことは一度もねぇんだ。まぁ蘭にはこれ以上生徒増やしてどうすんのってキレられたが、増やしてねぇってちゃんと否定してるし、相変わらず節操ないのねとスマイルを浮かべていた千聖にもお前らとは違うんだって否定した。

 

「なぁ倉田、オレがお前の出逢ってきた中で最も悪い大人だってのは前々から言ってあるだろ?」

「そんなこと……」

「千聖に言われたろ? ヒナにも、モカにも」

「先生なのに……女子高生に、手を出しちゃう、女誑し……」

「そうだ、そんなクズにお前はカラダまで差し出してどうすんだよ飽きたら捨てられておしまいだ」

「……先生は、そんなこと、しない」

 

 しねぇと思うだろ? これがするんだよ、飽きたなんて嘘吐いてでもな。

 オレは蘭とモカ、そしてこころが卒業した時にはきっちり正しい方向に進もうと思ってる。それが誰か一人を選ぶのか、それとも結局は全員突き放すのかはわからねぇけど、どっちにしろほとんどのヤツにとって今だけの関係ってことになる。

 その結末の中に倉田を選ぶ可能性はねぇ。それを選ぶくれぇなら今までオレを教師として立ち直らせてくれた愛すべき生徒達の誰かを選ぶさ。

 

「オレはお前を、倉田ましろを愛してはやれねぇ。その特別だけは、アイツら以外の誰かであっちゃいけねぇんだよ」

「……私、だって……!」

「なんだ」

「もっと早く、会ってれば……先生が月ノ森の先生だったら、私だって、助けてあげられた……たぶん」

「そうかもな」

「……だっ、だったら……!」

「けど現実として倉田と知り合ったのは去年で、オレが教師として立ち直ったのはその更に前の年の秋だ、それは覆らねぇ」

 

 現実において「IF(もしも)」は観測出来ねぇ。由美子の死がきっかけでぶっ壊れて、レナを見送りきれずに腐って、ヒナに出逢って蘭に見つかって、そこからアイツらがオレの幸せなんつうあるかどうかもわからねぇもんを探してくれてるからオレは教壇に立っていられる。それは教員免許と学校に雇われてるだけじゃ手に入られねぇ「教師」であるという証になる。

 

「大人はまだ信用できねぇか」

「……無理だよ」

「オレだって大人なんだけどな」

「先生は、トクベツだもん……だから私は、先生が……先生になら、え、えっちなことされても……いいって」

「……難儀なヤツだな」

 

 ふと、アイツらに流されてカラダの関係に発展した経緯が頭の中に思い浮かぶ。ヒナは愛されたいという欲求、蘭はオレが前の男とは違うと信じたくて、モカはヤンデレ拗らせて、千聖は興味とありのままの自分が欲しくて、紗夜もまた愛と安らぎを求めていた。

 リサは純粋に恋人のような触れ合いを求めた結果だが、前述の五人はお世辞にもいい始まりとは言えなかった。少なくとも蘭のような失敗はもうさせたくねぇんだよな。

 

「抱かれることを手段にすんなよ、後悔で泣くことになる」

「そんな、そ、そんなこと……」

「そう言い切れるか? お前は性欲を抱いた大人が嫌いでしょうがねぇんじゃないのかよ」

 

 ビクリと肩が上がり、強張ったのがすぐにわかった。ほら見ろ、やっぱり怖いんじゃねぇか。

 倉田が大人を信用できねぇ理由がそういうことなんだろう。オレも詳しく知ってるわけじゃねぇが怖がり方、特に最初期のオレへの怖がり方は蘭を思い出すもんだった。

 

「オレだって、美人はそういう目で見る。さわり心地が良さそうとかな」

「……っ!」

「そうじゃなきゃ、退廃的な関係は結んでねぇし、堂々と生徒を誑し込んで家に連れ込むこともしねぇだろ」

「私は……」

「性的な目で見てるよ。お前のこともな」

 

 再び肩が上がる。当たらずとも遠からずってところだろうな。

 倉田の容姿とスタイルは男から見れば御しやすく感じるもんだろう。小柄であどけない、言葉を恐れなければロリっぽい雰囲気がありつつも出るとこは出てる。押せばヤレそう、チョロそうだし甘い顔しちまえばこっちのもんって思っちまいそうだよな。

 じっと視線を合わせると倉田はみるみるうちに眼に涙が溜まっていく。視線が右へ左へと移動し、そのうちオレから逃げていく。

 

「残念だったな、アテが外れて」

「……あ」

「じゃあな、今後は悪い大人なんかやめて同年代を頼れ──気をつけろよ」

「せ、先生……!」

「今着いてきたらマジで()()()()()だって判断するからな」

 

 オレが立ち上がり、今度こそ突き放す。流されやすいクズ的にはちょっとばかり罪悪感があるが、だからってここで甘い顔したところで倉田を言葉通り甘やかすだけだ。

 期待させるだけさせておいてその気がねぇってのが一番、悪い大人だ。それならオレはガキを嘘で脅す最低な大人で充分だ。それ以上倉田に踏み込ませることも、オレに踏み込まれることもねぇ。だからこれで終わりだ。

 

「さて、帰ってタバコでも吸うかな……と思ったが、まぁそうだよな」

 

 いつもの流れだったらオレが一人で窓際で吸ってたところだろうが、もう放っておいてくれるヤツなんていねぇんだよな。

 モカから事情を聞いたとリサが連絡を寄越してくれて、オレは胸ポケットから手を離し、行き先を部屋から駐車場、車で練習スタジオまでに変更する。

 これ以上、オレの被害者を増やすことはしたくねぇ、既に泣かせてる時点でこの決断は遅いのかもしれねぇけど、流されてヤッて後悔するよりかはずっとかマシだ。

 ──倉田ですら、こんだけ大変なのにオレはこれをアイツらに突きつけなきゃならんのか。本当に、なんてめんどくせぇ役回りを担っちまったんだろうな。

 

 




お気づきでしょうが、大きな流れとしては
SEASON2の尻拭いであるましろの後始末と絶賛アニメ放送中の燈を見守り少し上から目線で説教臭く口を出す役割です。
その中で、既存の五人+二人との関わりとその決着を見つけるというのが大きなコンセプトとなっています。
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