青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3 作:黒マメファナ
コトのあらましをリサに伝えたところ、助手席に座っていた彼女はため息と一緒に端的な感想を述べてくれた。
曰く──らしくないなぁ、だと。うるせぇな、らしくねぇのは嘘つきだからな。
そもそも倉田はオレの生徒じゃねぇし、大人として説教ばっかりだった。正直なところ肩が凝るんだよな、ああいうの。
「そもそも一成ってあんまり大人とか子どもとか関係ないって言うタイプじゃん?」
「そうだな、そういう意味でもらしくねぇのかもな」
「あはは、ましろが
「それが解るのはお前らだけでいいんだよ」
倉田はそれがわからなくていい。前までなら解ってくれるヤツなんていらねぇとカッコつけてたところだが、知られちまってるしな。
どんな盲目にオレの良さを、好きになる理由を並べたところで現実として女誑しのクズ教師なのは動かねぇ。あの倉田が求めてる黄昏の、その夕日を浴びて影を伸ばすのはアイツだけなんだ。それはオレじゃねぇ。
「そうやって独りで傷つこうとしてるから、ヒナ達がいつまでも放っておいてくれないんじゃない?」
「……リサもな」
「うん、アタシに独りで傷つくなって説教した一成が同じことしようとしたら、止めるよ」
「それでいい」
オレには困った逃げグセがあるからな。それで追いかけれねぇようにしてきたのが今までのオレであって、今はそこまでする必要があるのかって思ってる。第一、どんなに策を弄そうと追いかけてきそうなのが何人かいるんだよな。ストーカーとメンヘラと魔法使いなんだけど。
「好きでしかねぇならいっそ嫌いになってほしいと思っちまうんだよ」
「そういうところ、優しいクズだよ一成って」
「徹頭徹尾、惚れた女には甘いんだよ」
倉田はそういうわけじゃねぇと言い訳みたいなことをしておく。アレは傷つきやすい、壊れ物の匂いを感じ取ったからだ。
覆水盆に還らず、粉々に割れたグラスが水を蓄えることは二度とねぇように、オレが不用意に触れて壊すとアイツの世界そのものまで壊れちまう。そうなったらオレは倉田だけじゃなくて桐ヶ谷やファンにまで恨まれることになっちまうからな。
「倉田には今ある光を失わねぇことが大事なんだよ。せっかく月ノ森に勇気を持って居場所を作って色彩鮮やかな世界になったんだ、わざわざ灰色にするなんてシュミはねぇな」
「カッコつけるねぇ」
「うるせぇ、こうじゃねぇと言葉が出ねぇんだよ」
「ダッサ」
「素直になれねぇお前には言われたくねぇ」
「……好きだよ」
「──っ、ばっか、リサてめぇ、運転中だこちとら」
耳許で素直で直球な愛を囁かれてしまい動揺する。幸い事故にはならず次の赤信号で止まることが出来て気持ちをリセットしておける時間はあった。
まるで恋する乙女のように、派手な見た目とはギャップのありすぎるたった一言の愛の囁きを自分からしておいて顔を真っ赤にしてるリサを見ていたら、怒る気力も失せる。
「……ましろはさ、きっとアタシよりもまっすぐだよ」
「メンタル弱いけどな」
「でも、一成に甘えたいと思ったらすごく大胆でしょ?」
「そうだな」
「ああいうところ、アタシは羨ましいって思うし、ましろは自力でセンセーの意図に気づけると思う」
「そりゃ困るな」
「後、ましろは嘘には敏感だよ……アタシの勘だけど」
リサの勘は当たりそうだな。外れてほしいと思う反面、お前のプロファイリングは千聖と並んで信用してる。人間関係での相談は基本的にリサか千聖、どうしようもねぇ時はこころって決まってるからな。
倉田は嘘に敏感、か。アイツは大概は妄想癖、自分の世界を形成するってマイナスめいた言葉で自分を表現するが違うと考えている。むしろ、マイナスなんかじゃ補いきれねぇプラスだってな。
「どういうこと?」
「ヒナの抽象表現、わかるか?」
「まぁ……うん」
「あれはある種の、感覚の拡張なんじゃねぇかって……これはあのオヤジの受け売りだが」
心理的な勉強もしてる精神科医曰く、人間の五感は連携出来るんだとか。ピンとこねぇ言い回しだが身近にヒナよりわかりやすいヤツがいる──香織だ。
あのいい性格してる後輩はしばしばヒトやモノを「星」に置き換える。星を感じる、一番星、それも似たようなもんなんだと。
「アタシらを華に、とか?」
「オレの話か」
「詩的でいいと思うよ」
「その話は逸れるからやめろ」
「まぁ一成の言いたいことは解ったよ。ましろは確かに音や空気を別物に感じてる表現の仕方するよね」
真夏の空を海に見立てていたり、バンドの音を景色で捉えていたり、倉田の世界は色彩豊かで賑やかなもんだ。それが中学時代は抑圧されていただけで、モニカっつう居場所を見つけて華が開いた──あれが本来の倉田の世界なんだと言わんばかりだ。
まぁなんだ、つまりアイツは天才的に耳と鼻が利くんだよ。
「天才、か」
「まぁ音楽に関していえばオレからするとどいつもこいつも天才ちゃんだけどな」
「フォローしてくれるんだ?」
「惚れてるからな」
「……ばか」
惚気じみたやりとりはさておき、こころから「黄昏の太陽のように暖かい素敵な魔法使い」っつう紹介されたにも関わらず一目でオレをそうだと言い当てたことからも解る通り、一般的には変人だとか妄想癖だとされるような鋭敏すぎる感覚を無自覚ながら持ってんだよ倉田は。感覚の同期と拡張──「
「嘘って声の震えとかちょっとした仕草でどうしてもホントのこと言ってる時とは異なるだろ」
「そうだね」
「それを読み取れるほど倉田は鋭敏だってことだな」
トラウマと語調でゴリ押したから逃げ出せたものの、二度は通用しねぇ。できればこのままオレのことなんて忘れてほしいところだ。
──そう思っていても無駄なことくれぇ、助手席を見れば解る。
それにリサは確実に文句を言うだろうな。
「アタシに対して忘れてなんてやるかって口説いたの、一成でしょ?」
「ああ」
「自分で言ったことは責任持ちなよ──好きなヒトに忘れてほしいなんて言われるの、きっと辛いよ」
「……辛いだろうな」
「うん、テキトーな嘘つかれて、さよならも言えずにフラれて、泣きたくても泣けないし、本当の気持ちも言わせてもらえない、追いかけさせてすらもらえない……ずるい別れ方だよ」
「わかった、リサの気持ちは充分伝わったからこれ以上オレを抉らねぇでくれ……泣きなくなってきた」
「その話、詳しく」
「やなこった」
「一成の先生の話?」
「違う、別の女」
昔のことを思い出したんだよ。大学時代の後悔の一つだ。由美子のこと思い出してりゃもしかしたら、なんて思う程度にはオレにとっては眩しいヤツだったし純粋に愛してくれてたし──オレも愛してた女のことだ。
それに、あのクズ教師は最期の最期まできっと忘れてほしいだなんて言う女じゃねぇ。気にせずに幸せになってほしいとかカッコつけてきただろうけど、一緒にいてぇ、結婚してぇって泣きじゃくるタイプのメンヘラだったからな。
「会いに行ったりしないの?」
「……カレシいるんだとよ、オレが教師になる前から」
「……ごめん」
「いいさ、オレが酷いこと言ったのにちゃんと幸せになってくれそうだからな……それでいい」
「いいって顔してない」
してなくても、いいんだよ。今でもアイツがオレを呼ぶ声は耳にこびりついてる。まぁもういいか、リサには話してやろうとオレは家で飯を一緒に食いながらとある新入生を一ヶ月未満で誑し込んだ二つ上の悪い男子大学生の話を聞かせてやった。
語ると、幸せだったことがすぐに思い出せる。なんで疑ったんだってくらいにまっすぐな女だったよ。
「渾名の付け方が特殊でな、香織いるだろ?」
「荻原先生?」
「そう、りーちゃんって呼んでたんだよ、そいつのこと」
「えっと、名前の最後をわざわざ取ったの?」
「変だろ?」
「一成のことは?」
──
なんせ半同棲状態だったからな、眼を閉じればこの部屋での思い出が蘇るよ。オレがなんだかんだと教師として遅刻することなくいられるのはそん時の習慣のせいだ。いや、アイツのおかげだな。
「なっくん……特殊だね」
「ああ、呼ばれ方は色々あるけど……アイツだけだったよ、そんな呼び方すんのは」
「大好きだったんだ」
「じゃなきゃ、半同棲状態で一年以上も一緒にいられねぇよ」
皿が空になってオレの足の間に収まったリサより多少は小柄だったかなと考えてしまってすぐに後悔する。
こういうのはよくねぇ、バッドコミュニケーションだ。だが普段なら怒ってくるであろうリサは少しだけオレを見上げてから見ないふりをしてくれた。思い出させたから大目に見てくれるってか。
「我慢、しなくていいんだぞ」
「……いいの? 暴れるよ?」
「暴れんのはナシにしてくれ」
「掘り起こしたのはアタシだけど、アタシのことを見て欲しい……他の子のこと、考えてほしくない」
「ああ……悪かった」
「許した」
随分軽い許した、だったな。
だがオレへの気持ちが軽いってわけじゃねぇんだろうってことはわざわざ確認を取るほどのことじゃねぇ。
オレがどんなに浮気者で、後悔した恋愛の思い出とその時の女の笑顔を額縁に飾って大切にしている最低のクズだろうが
「オレはお前が千聖並みに弱いと思ってたよ」
「弱いと思うケド」
「いいや、リサは決めたことに関しては誰よりも強ぇよ。なんせもうオレを信じてくれるんだからな」
「……信じてる、というより。アタシはアタシの幸せのために、全部を懸けていいんだって教えてくれた優しくてクズなセンセーがいたからかな」
「いい教師だな」
「ふふ、ばーか……自分は出来てない癖にね」
「だな」
自分の幸せのために全てを懸けていい。ガキにそう説教しといて自分はオレの幸せなんてこんなもんだってカッコつけて諦めて、勝手に罪を背負って罰を受けてる気分に浸ってた。バカだって言われてもしょうがねぇよなこんなの。
誰を傷つけてようと、愛した女との約束が守れなかろうとオレはオレの幸せのために生きてもいいんだってリサと触れ合うとガラにもなくそいつを求めちまうな。
「いいよ、それでいいから……アタシにそれ、ちょうだい……ッ!」
「……ああ」
リサは元々欲深い方だ。世話焼き、慈善のため、他者への施しの精神から抑圧されるが幼馴染と音楽をするために真っ赤なベースを抱え、そんな幼馴染がバンドを募集していることを知ったらそれまで気に入っていたネイルを全部剥がしてまで傍にいることを選び、誰になんと言われようと「Roselia」のベーシストであることは譲らなかった。頑固で強欲な女、それが今井リサだ。
「アタシが強欲……あはは、じゃあみんな悪魔だ♪」
「七つの大罪か」
「そ、燐子がそんなこと言ってたよ」
誰がどれだか、当てはまりそうなもんだな。ちょうどこころ含めて七人だからか。
ただオレからすればまだ蘭やモカはその片鱗を見せてねぇんだよな。アイツらも卒業したら大罪を背負う悪魔になると思うとぞっとする。モカに至っては現状ただでさえストーカーでヤンデレの悪魔なんだからな。
「卒業生とこころは当てはまるってこと?」
「お前らとこころは最近なりふり構ってねぇからな」
「あはは、たしかにね」
笑い事じゃねぇ、おかげでどんどんとオレの計画が砂山で棒倒しするように削られていってるんだからな。根幹である棒を誰が倒すのかいっそ楽しみですらあるんだよ。
そう言うとリサはオレの腕の中でじゃあ、と今日一番の微笑みを見せてきた。
「アタシが倒してあげる、そうしたら……アタシとずっと一緒にいてくれる?」
「……悪魔かよ」
「ふっふっふ……一成を幸せにするためなら天使でも悪魔でも、なんにだってなれるからね♪」
ここに来て
けど、お前はそれでいいよリサ。わがままになって、甘えたがってそうやって傍にいてくれる方がオレも嬉しいからな。
七つの大罪云々の話は
その中で後悔における大罪が否定系なのはリサとこころのみ。今回はコンプしなくて済みそうだね☆
次回はまたましろのお話です。というかましろの間にリサが挟まってきただけ