青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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④多忙ティーチャー

 倉田と一悶着あって比較的すぐ、桐ヶ谷から連絡が来ていた。リサには敢えて言わなかったが、すげぇ怒ってた。ウチのシロを傷つけた上に泣かせてどうたらって、モンペかよと思わず心の中で突っ込んでしまったがオレはそれが事実だからしょうがないだろのゴリ押しで黙らせた。クレーム処理としては0点もいいとこだが知ったこっちゃねぇ。これで終わりでいいんだよ。

 

「よくないよ」

「モンスターペアレント怒らせると〜、ロクなことにならないよ〜」

「知ってる」

「その返しもよくないと思うな〜」

 

 話振ってきたのそっちだろ。

 なぜだか蘭が偶には泊まりたいと若干、無茶振りの甘えを見せてきてモカはいつもの状態だ。流石に今日はくっついてはこねぇが呑気に暖かくなった屋上にあった椅子と机を挟んで雑談していた。

 

「……倉田?」

「あれ〜、せんせーって連絡先持ってないんじゃなかったっけ〜」

「教えてねぇはずだけど……こころか」

「こころが何も言わずに教えるって想像できないけど」

 

 そこには同意する。だが逆を返すとこころは必要とあればそういうことをするヤツで、つまりは倉田に連絡先を教える必要があったってことになる。オレとしてはもう終わってくれて、モニカのモンペに恨まれてもいいからあんな小動物を開放してやりたかったんだがな。どうもそうはいかねぇらしい。

 

「……なんて?」

「せんせーともう一回会って話したいから〜、明日の放課後につぐんちで待ち合わせたい〜って」

「……時折、お前のそれはエスパーなんじゃねぇかと思うよ」

「んふふ〜、ちゃんとわかった〜って返事しちゃうせんせーがわかりやすからかな〜?」

「いや、ましろのメッセージを一成の表情から読むのはまた別でしょ」

 

 とか言いつつオレが教えねぇと思ってモカに訊ねた蘭も蘭だし、それをあっさり読んで教えるモカも大概だよ。

 まぁだがこのエスパーちゃんの言う通り、倉田から明日の放課後に会ってもう一回だけ話がしてぇって連絡が来たから、オレはそれにわかったと返した。高松に明日は部活ナシでって言っておかねぇとな。

 

「そういうところ、真面目だよね。全然一緒に活動なんてしてないのに」

「あのな、顧問ナシで万が一なんかあってみろ、何処で何してたのか問われるんだぞ」

「そこで〜、つぐんちでコーヒーブレイクしてました〜って言ったら、アウトだよね〜」

「そういうことだ」

 

 一応顧問だから責任はあるわけで、高校生なんだからいいだとと思わなくはねぇがそれこそ部活中の事故で怪我したってのに顧問はその時間喫茶店で呑気にコーヒーすすってましたなんて言ったら親御さんからクレームもんだ。モンペじゃなくても怒って当たり前の内容だ。仮に高松の親が許してくれてもその噂を他の親が聞きつけてクレームなんてのも考えられるしな。

 

「それもそうだけど、無視してもいいところじゃない? 酷いフリ方したなら、ちゃんと話し合えってあたしは思うけど」

「……別にオレは倉田のことが嫌いなわけじゃねぇからな」

「だけど」

「オレはアイツの盲目なところをなんとかしてほしかっただけだしな」

「まぁ〜、そーだよね〜」

 

 苦手かどうかで言えば苦手だ。別に今囲ってる女が全員得意ってわけでもねぇしな、モカ。

 あのままオレが流されれば、倉田の中にある「女誑しの噂がある淫行教師」ってイメージまんまになっちまうんだよな。いや事実なんだけど、そんなヤツにカラダを許してハッピーエンドが来るわけねぇだろ。ガキに真っ当な道を示すのも教師としての努めだしな。

 

「教師じゃねぇとか言っといて」

「じゃあ教師であり大人って訂正しとくか」

「クズだね〜」

 

 とにかく倉田が求めてるのは「特別な何か」だ。他者とは違う、他人よりも突出してる、そんな劣等感の塊のような感情であって、オレに求めていたのは「他の大人とは違う特別」だ。悪いがオレは大人とは言えねぇクズだし、そんなキラキラした眼で見られても行き先は海の底なんだよなぁってことを教えてやっただけだ。

 

「普通にいるだろ、倉田のことを他者とは違うって認めるヤツなんて、特に今じゃ月ノ森から生まれた伝説的バンドのボーカルだ。自己顕示欲も承認欲求も、腐るくれぇに満たされるだろうよ」

「言い方〜」

「そういうこと言うから、アンタはクズなんだよ」

「そうだな」

 

 そもそも、倉田が求める「特別な何か」をオレに期待するほうが間違ってる。それを与えようと手にぶら下げる男、特に年上はまぁ間違いなくロクでもねぇからな。期待するだけ無駄ってもんだ。

 ああいう無知で顔とカラダだけがいい女ってのはどうあっても男からすりゃ食い物でしかねぇんだよな。

 

「勿体ないとか思ってそうな言い方してる」

「してねぇ、承認欲求強すぎて秘密の関係を強制するには手がかかりすぎるだろ」

「たしかに〜」

「モカ、同意しないで」

「リスクなかったらさ〜、抱いてた〜?」

「なかったらわかんなかったな」

 

 けどそりゃムリってもんだ。この場合のリスクは倉田ましろという根本に関わる問題だし、そもそもオレが言うリスクってのはホイホイ生徒に手を出した結果、殺されるおそれがあるって意味だ。誰に、とか今更問いかけるやつもいねぇだろうよ。

 ──もう一度話し合ってもなぁ、倉田がたった数日で何が変わったのかもわからねぇ以上、オレができることはせいぜい約束を守ってやることくれぇだ。

 

「あたしにはわかんないことがあるんだけど」

「どうした」

「なんていうか、あたしらが怒るからって以上にましろを拒絶してる気がする。いつもの一成なら、抱くことはしなくてもなんとなく優しくしてるのに」

「……必要だからだよ」

「せんせー、ちゃんと蘭に教えてあげてよ〜」

「お前にも教えたつもりはねぇ」

 

 諭すような口調のモカに対して文句を言ってやるとエスパーだからとでも言いたげな表情で笑ってくる。隠し事くらいさせてくれ、お前のその超能力には本当に困ってんだから。

 そしてオレとモカのやり取りで何かがあると察したらしい蘭は少し考える。ここで教えてと答えをせびらねぇところが蘭の成長だよな。ちゃんと自分の足で立って、歩いて、それどころかもう走り出してる。

 

「……蘭、あのね」

「モカ、やめろ」

「……うん」

 

 何かを言いかけた、答えを教えようとしたモカを遮る。昔の、オレと出会ったばかりの頃の蘭ならここでオレやモカに縋り、答え合わせを放棄したのかもしれねぇし、モカがそれを求めてたのは承知してる。

 だけどもう蘭は走り出してる。止まって、なんてモカが縋ってももう振り返れねぇくらい前に進んでるんだよ。

 

「ましろは、昔何か……嫌な思いをしてきた?」

「ああ、直接オレが訊いたわけじゃねぇし予想の範囲だが、リアクション的にはそうだと思ってる」

「……なら、一成が必要だって言う意味もわかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?」

「そうだな、満点だ」

 

 蘭は、かつてレイプされかけた経験があって根本ではその体験がトラウマとして脳裏に焼き付いていた。それなのにオレがうっかり流されちまったせいで、処女を淫行教師(オレ)に奪われたことでフラッシュバックしちまった。梅雨の前だったからちょうど丸二年前の出来事だし、オレの沢山ある失敗の中でも真っ先に思いつくもんだ。

 ──もっと詳しく言えば、倉田の圧に流されて抱けば同じことを二度起こすことになる。ガキを抱いて、そのせいで傷つける。ただでさえ未成年淫行は最低最悪の犯罪だってのにそれで泣かせたらもう自首しなきゃならんレベルだな。

 

「蘭が今こうして傍に居てくれるのは、言っちまえば結果論だ」

「……あたしだけを抱いてたら、ダメだったかもね」

「女誑しが功を奏したってか、笑えねぇ」

 

 今の状況を成功体験、だなんて胸を張る気なんてハナからねぇ。オレと蘭の出会いが教師と生徒っつう体裁をちゃんと保っていて、過去を明かした結果で流されるように抱きしめて、モカやヒナがいたから成り立った綱渡りだ。

 言わばフラグを何一つ踏んでねぇ状態なのになぜか好感度だけが上がっちまったのが今の倉田だからな、ヤった瞬間バッドエンド直行だろう。

 

「でも呼び出したってことは、何か変わったことがあるってことだと思う」

「……とりあえず、明日になんなきゃわかんねぇことだな」

「明日、か」

 

 果たして明日はどうなるんだろうか。倉田が何を考えて話し合いをしたいのかもわからねぇ以上、予想の立てようもない。

 蘭とモカを家の近くまで送り、久々に暇人かと息を吐き出したところで助手席のドアがひとりでに開いた。こういうのもよくあることでこんなことしてくるのは三人のうちの誰かだ。

 

「記者につけられてたら大変なことになるぞ、アイドル」

「そうね、あなたが守ってくれたらいいのだけれど」

「無茶言うなよ」

 

 オレはただのクズ教師だ。アイドル様を守れるような根性もコネもねぇよ。

 そんな言葉やリスクなど意に介さず、白鷺千聖はオレの脚を撫でてくる。まだ発進してねぇから本当に誰かに撮られてたらえらいことになるんだけどな。

 

「なら、さっさと発進してしまえばいいのよ」

「……どちらまで?」

「あなたに愛してもらえるところまで」

 

 サングラスを持ち上げ、マスクから口許を開放してみせた千聖はツクリモノだとは到底思えねぇ少女の顔でそう言った。

 高校を卒業してもお前は本当に変わらねぇな。もっとも背徳的で、もっとも隠し事が得意で、もっとも大人(オレ)に近い嘘つきのクセに、子どもみたいに笑うんだから。子どものような恋を夢見るお姫様なんだよな。

 

「オレはねずみでも、ましてやアッシーでもねぇよ」

「そうね、あなたは狼だわ……私を呑み込んでしまう、狼」

「その言い方じゃまるで羊を追いかける群狼ってよりは、月と太陽、神様すら呑み込んじまう魔狼だな」

「あら、神話も通じるなんて……燐子ちゃんのご主人様が嫉妬するわけだわ」

「その情報は知らねぇんだが、白金のカレシがなんだって?」

 

 神話に詳しいんじゃなくて、詳しいやつが知り合いにいたの。民俗学も倫理も宗教もからっきしだったしな。

 確かに白金はその手の話に詳しいが、あいつじゃねぇよ。妹の方の宇田川でもねぇ、かつてバカトリオと呼ばれた一人が大学卒業したらそっち方面に舵を切るくれぇ好きだったってだけで。

 

「それで、私は三つのうちのどれかしら」

「どっちかというと魔王様だな」

「そんな言い方はひどいわ、あなたを前にしたらこんなにかわいくなってしまうのに」

「自分で言うなよ、自己申告はよくねぇな」

「──なら、私はかわいくないの?」

 

 なんなんだ今日のお前は。なんかあったのか、それとも単純に今月二人きりになんのが初めてだからはっちゃけてんのかどっちだ。

 珍しく、誤魔化してもはぐらかしても、嘘を吐いて話を切ろうとしても食い下がってくる。こんな千聖を見るのはぶっちゃけると初めてかもしれねぇな。普段は一歩引いていた千聖がこんなにも焦っている感覚すらあるなんて。

 

「……ねぇ、焦らさないで教えて」

「美人だよ、初めて会った時からずっとそう言ってんだろ」

「そう……そうだったわね」

「なんだ、珍しくエゴサでブサイクとでも言われたか?」

 

 茶化してみるが、千聖は首を横に振るだけ。

 そしてその瞬間にオレは全てを察した。オレにはどうしてもコイツらと関わっている限り凪いだ教師生活なんて送れるわけねぇんだなって。去年もそうだ、今年だってまだ一ヶ月の間にリサの話、倉田の話に加えてこうして千聖が黄色信号だなんて。

 

「松原には連絡したか?」

「……そうね、忘れていたわ」

「やっぱ行き先変更、松原にオレの分の飯も頼んでくれ」

「ええ」

 

 な、これでもう一人増やそうだなんて絶対にムリだ。モカやヒナに認められたとしても倉田をこの輪の中に入れるとオレがパンクする。特に愛されることに飢えてるやつらばっかりだからな。

 だけどちょっとは大人になったんじゃねぇかな。言いたいこと言わなくて、そのクセ傲慢にも今の関係を続けられるってどっかで思ってんだ。明日はオレが一番信じられてねぇ、最後のトラウマだってのに。

 

「えっと、お泊りはいいんですけど……その、あんまり激しくしないでほしいです」

「ふざけんな、泊まらずに帰るに決まってんだろ」

「ふえぇ……は、早とちりしちゃってました……」

「落ち着いて花音、彩ちゃんみたいになってるわよ」

「う、うん……ごめんね」

「それは丸山に失礼すぎねぇか?」

 

 つか誰だ松原にいらん知識教え込んだの。いや間違いなく千聖だし、その千聖とオレが何やってるのかを見守ってきてもう三年目になるんだもんな、そりゃそうなるよ。

 あんまりピュアだとカレシが困るだろ、と笑うと千聖に冗談でもそういうこと言わないでと怒られた。怖いけど、なんだ知らなかったのか。

 

「……なにがよ」

「あ、えっと……先生、それは……内緒で」

「千聖にも内緒にしてんのか」

「は、はい……まだ、カレシ、じゃないから」

「花音?」

 

 リサがな、幼馴染で小さい頃のベース仲間がまだバンドしてること知って花音と二人で聴きに行ったらガチ恋したって騒いでたよ。お互い初対面で意気投合っつうかなんかいい雰囲気だってのもオレは聞かされていた、リサから。

 ただそれを知らない千聖は結局、その事で頭がいっぱいになり、飯の後にオレについてオレんちに泊まることになったわけだが。松原優先なのやめとけよ。そういうところが損するって言ってんだよコッチは。

 




千聖も色々あって、ましろが色々あって、なにやら蘭モカもちょっと不穏で、
リサが解決してもクズ教師の奔走は続くのです。ざまぁみなさい。

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