青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3 作:黒マメファナ
来る翌日、倉田との約束の日の朝、車内で最後までキスをねだってくるキャラ変というか、素から戻れなくなってる千聖を駅まで送っていき流されるままに唇を重ねていく。何が不安なのかこいつは口にはしない。ただただ、オレからもらう愛とやらがいつか消えてしまうかもしれないという恐怖心を抑えつける、あるいは杞憂だと笑い飛ばすための甘えなんだろう。
「千聖」
「……なにかしら?」
「今はお前から訊き出す時間がねぇのは、本当に悪いと思ってる。ここで逃げるお前を追いかけて言い争いでもなんでもして、説教して、絆してやりてぇ」
「必要ないわ、だって……私は」
「お前は大人じゃねぇよ、大人びてはいるが」
「……ええ」
「だから何時終わろうが関係ねぇ、終わったらお前んち行くから」
「一成さん……ありがとう」
そう言って、助手席のドアを開け振り返った千聖はいつもの千聖だった。鉄面皮、いつだって崩さねぇ魔王の微笑、あの一瞬で取り繕えちまうんだからやっぱりお前は天才だよ。
最後に待ってるわねと微笑みのまま去っていったのを見送り、オレは車を走らせる。オレも教師としての顔をちゃんと作っとかねぇと、一応担任なんでね。
「忙しそうですね、先生」
「羽沢ほどじゃねぇよ」
「わたしはまだまだ大丈夫ですよ!」
「バイタリティ溢れるのはいいことだが、ちゃんとあいつらも頼ってやれよ」
「……はい!」
担任としての仕事が回ってるのは問題児から一転、羽丘の伝説と噂される「Afterglow」だ。いや羽沢は前々から問題児じゃなかったけどな。一年ながら生徒会庶務として仕事をこなし、二年は
「そういえば、天文部の新しい子なんですけど」
「高松がどうかしたか?」
「バンドしてるみたいですよ」
「バンド? あいつが?」
「はい、同じクラスの千早愛音ちゃんと、ポピパとの合同主催ライブに急遽出てくれることになって」
はぁ、高松はバンドガールじゃなさそうだなんて思っていたが全然、そんなことなかったな。そして転校生の千早とか。まだ転校してきて日が浅いが随分仲良くなったんだな。そういや高松の口からも話題に出てたし、友達だって言ってたな。
羽沢と歩きながら急展開に頭を回していると、つぐみ先輩! と声を掛けられて同時に振り返った。
「あ、清瀬先生、こんにちは!」
「おう」
「六花ちゃん、どうしたの?」
新しい生徒会メンバーの朝日六花、普段はのほほんとしたゆるふわ系の彼女もまたバンドガール、というか羽丘は本当にバンドしてるやつが多くなった。流行だし青春っぽいしコッチとしちゃ文句のつけようはねぇけどさ、いいよな、機材とか買う金があるって。苦学生だったわけじゃねぇけど基本的に高校生ん時はまぁ置いといて大学の時はロクでもねぇ使い方しかしてこなかった。後半は色々考えて貯蓄したい時期だったから無駄遣いしねぇって決めてたか。
「それじゃあ先生」
「おう、忙しいのもほどほどにな」
「大丈夫です!」
手を挙げて去っていく羽沢とちょっとだけ慌てたように頭を下げてから後を追う朝日をオレはちょっとだけ立ち止まって見送ってから屋上へと歩みを進めていく。
──生徒会に家の手伝いにバンド、一日何時間あるんだよって言いたくなるな。つかあの幼馴染組はみんなそうだ。
蘭は家のこと、バイト、バンドに合間を作ってオレのところに来る。モカはよくわかんねぇけど、私が一番暇人なんですよ〜と皮肉っぽく言ってた上原だって部活では副部長として、バイトもしてバンドのリーダーまで。今しかねぇ青春ってのをちゃんと楽しんでるってことなんだろう。
「あ、清瀬先生」
「今日は部活休みだぞ」
「え〜、じゃあ燈ちゃんどこ言ったんだろ?」
天文部の部室前と通るとそこには件の転校生、千早愛音がいた。どうやら燈とのコミュケーションは教室ではなく天文部の部室でしているらしく、千早も天文部に入り浸っていることは知っていた。
まぁ蘭やらモカやら、果ては他校の生徒まで招いていたオレが言うことじゃねぇが入り浸るんなら入部してくれ。そっちのが助かる。
「ん〜、あ〜、考えときます」
「……そうかよ、まぁそれも千早の自由だけどな」
「先生、また屋上〜?」
「ついてくんな、高松なら多分石探してるかもう帰って練習しに行ってんじゃねぇの、知らんけど」
ぞんざいに扱う。オレは傾向的にああいうタイプの生徒は苦手だ。よくも悪くも裏表のねぇかもしくはそういうのを隠すのが上手な生徒ばっかりが周囲にいたからってのもあるし、オレが不良教師になる前、くだらねぇ理想を無理に掲げていた頃の最後の担任の時にいた
「へぇ、カズくんにも苦手な女の子とかいたんだ」
「……どっから出てきやがったクソ悪魔」
「フツーに、部室から!」
「今日は部活ねぇの、つか一報寄越してからこいバカヒナ」
「屋上行くんでしょ、ほらほら〜」
「ヒトの話を聞け!」
ぬるりと視界に登場したせいで影から出現したのかと思って結構驚いてんだよコッチは。
そんな這い寄るクソ悪魔、氷川日菜はいつも通りオレの話なんざ聴いちゃいないようで、オレを屋上へと手招いてくる。あれだな、お前が先に行く時は機嫌が良い時かめちゃくちゃ悪い時って相場決まってんだけどな。
「カズくん、ライター」
「……懐かしいやり取りだな、オレはライターじゃねぇ」
「じゃあアレしてくれるの?」
「ほらよ」
「つまんな〜い」
つまらなくて結構、卒業生だけどお前はハタチ未満だろうが。
だがすっかり、馴染んだかのような仕草で加えたそいつに火を点けていく。いやもうコイツは高二の寸前から吸ってやがるからな。頻度は決して高くねぇが、屋上でこうして並んで吸った回数は数えてられるほどじゃねぇ。
「大学じゃ吸ってねぇだろうな」
「勿論、カズくんと一緒じゃない時に吸うならちゃんと買えるようになってからって決めてるから」
「そりゃツッコミどころのある倫理観で」
「あたしに求めちゃう?」
「自分で言うな、お前にねぇことなんてずっと前から知ってるっての」
ヒトのタバコねだって高校生のクセに吸う、教師を誘って押し倒してヤっちまう、挙げ句にはナカに射精されると本当に気持ちいいのかな、とか言う純粋な興味からあの手この手でナマを強要してくる。ダメなら避妊具に穴を開ける、隠す、捨てるとまさしくヤリたい放題のメンヘラクソ悪魔だからなお前は。
「今でも興味あるかな」
「勘弁してくれ、最悪モカか蘭辺りに刺される」
「あはは、その時はあたしが守ってあげるよ♪」
「イケメン発言ありがとう、てめぇが原因になるけどな」
「でもそっか、カズくんはそう答えるんだ……ふふっ♪」
なんだよ気持ち悪い。横顔を見ようと視線をずらすとヒナはじっとこっちを見てきて、オレとキスをした後のような頬を僅かに染めた情欲を瞳の奥に宿したような、誘惑の笑みを浮かべていた。
日暮れに咲いた向日葵、こころはヒナをそう表現していた。黄昏のようになりてぇとカッコつけたオレをじっと見つめるヒナはまさしくその言葉がピッタリなのかもな。
「ヒナ」
「なに?」
「何も言わずにここに来たってことは、倉田の件知ってるのか」
「うん、こころちゃんと七深ちゃんから」
「──ってことは」
「あたしはましろちゃんの側ってことだね」
「オレも弁護士立ててぇなぁ……」
つまり実質こころ&ヒナが相手ってことか、勝てるわけねぇだろバカじゃねぇの。
こんなことならリサ辺りに泣きついておくんだった。紗夜もオレの味方はしちゃくれねぇだろうし千聖は絶賛使い物にならねぇ、蘭とモカは忙しいから頑張ってと投げられてる。味方がいねぇ、いや元々生徒達も味方というよりはこういう時揃って叩いてくる側だったわ忘れてた。
「見返りは何がいい?」
「わぁ、買収? やっぱカズくんってクズだね!」
「言ってろ」
「ん〜、えっち……だったら誘えばすぐシテくれるからなぁ」
「それもどうかと思うってツッコミがオレの良心から」
だが悲しきかなそれは事実だ。ヒナに誘われて堪えられるのなら今こんな風にとっかえひっかえ女誑しな生活を送ってはいねぇ。
つか報酬次第では考えてくれるんだな、さすがオレの
「あ、遊園地の脱出ゲーム!」
「一度断っただろ、四人って後三人誰を誘うんだよ」
「モカちゃんと、千聖ちゃんと、こころちゃん」
「最強、オレいらねぇから紗夜かリサを推薦させてもらう」
運動能力に難はあるが名探偵の千聖、運動能力と観察力共にNo.1のこころ、やる気出せばエスパーになるし運動もやる気になれば少しはできるモカ、最強では。そこに妹特攻の紗夜か司令塔として活躍できるリサを入れればヒナが考えた脱出ゲームとやらも攻略できるだろう。
「おねーちゃんには相談してるからなぁ」
「つか初日の抽選とやらはどうした」
「……主催者あたしだよ?」
「怖、どうにでもできるでしょみたいな顔やめろ」
「あたしのウェディング衣装だよ〜、カズくんとツーショット欲しいんだもん!」
「お前が撮りたいのはよくわかった」
遊園地に作った脱出ゲーム、ヒナがプロデュースしたらしくもう今週末だったかに始まる予定だ。普段は違うが初日だけオープン記念として特別にヒナ本人が囚われの姫役をするらしく一度に入れる三組の中で最も早く脱出できたチームには豪華特典として花嫁衣装のヒナと写真が撮れるらしい。これは全部ヒナ本人からプレゼンされた内容だ。だから来て、と言われて一度断ってる。めんどくせぇ。
「ヒナ推しのオタクのためにとっとけよその枠」
「カレシ枠は外せなくない?」
「お前のカレシになった覚えはねぇ」
「じゃあ、ウェディングだから新郎さん?」
「それこそ最悪の可能性だろ」
そんな未来はお前が別の男と関係を持った時にオレが血迷って嫉妬と独占欲剥き出した挙げ句に勢いで付き合いださねぇ限りないな。しかもそんなことしてもオレにはまだまだ抱える問題が多いから本当にそんな未来に向かうのかも謎だが。
カレシ枠とかいうアイドルから出ちゃいけない爆弾に巻き込まれるだろう二組のオタクが可哀想だからな、やっぱり断らせてもらう。
「それに」
「それに?」
「後でヤキモチ妬いてくるだろ、ウェディングツーショットでモカがくっついてくるだろ? 千聖がそれを羨ましそうに見て、後で何を愚痴ってくるか家までついてくる。んでそれを知ったお前が衣装勝手に持ち出してえっちしよとか抜かしてくるまで未来予知できるからな」
「……えへへ、さすがカズくんだ」
「バカヒナ、オレだってお前の行動予測くらいちょっとは出来るようになってるっての」
そりゃあ読み切るのは不可能だ。この天才ちゃんの脳内を理解するのはきっと誰にだって不可能だろう。
だが紗夜がお前の行動をある程度予測できるように、経験値があればどうにかなるもんだ。当然、そのためには膨大な量の会話と観察が必要になるんだが。観察は得意な方なんだ、これでも教師なんでね。
「さてと、来たってことは時間いっぱいまで構ってもらおうってハラだろ?」
「うん!」
「元気よく返事するとこじゃねぇよ……ほら」
「あっ、やった♪」
咥えていたタバコを手に持つ、そうすりゃコイツが制服着てた頃となんも変わりゃしねぇ。嬉しそうな顔も、無駄にプロポーションのいい、抱き心地のいい腰も唇の感触も。教師として欠片も尊敬してねぇオレを呼ぶ声だって。
卒業したってのに、ヒナはオレに会いに来る。千聖も、紗夜も、リサも、オレが声を掛けると嬉しそうな顔で近寄ってくる。
そんな卒業生からの贅沢を味わっているとダメだと思いつつも、どうしても思わずにはいられねぇんだよな。一人だけのこの屋上をずっと賑やかにしていてほしいってな。
「どうしたの?」
「いや……倉田の件が落着しても、まだまだ騒がしそうだなと思ってな」
「カズくんの周りはいっつもそうでしょ?」
「お前らのせいでな、主にお前」
けどまぁ、最近じゃそっちのがやりがいがあると思うオレがいる。ガキどもの青春に巻き込まれて、恋愛に巻き込まれて、その中で一人一人が泣いて怒って、笑って──誰かを愛して、誰かに愛される。
そんな青春群像劇の登場人物になれて光栄だと今なら言えるよ。本当はもっと端役でもよかったんだがな。
「……行くか」
「うん」
「ありがとなヒナ」
「あたしはカズくんが大好きだからね!」
「はいはい」
まもなく黄昏の時間がやってくる。夕日に照らされる空を背景にオレとヒナは、いつもの如く車に乗り込み羽沢珈琲店へと向かうことにする。
とか言って、今から倉田と話す時にコイツはオレをボコボコにしてくるに決まってるんだが。やっぱり悪魔じゃねぇか。