青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3 作:黒マメファナ
──面倒な連中に絡まれて困ってる。夏前に倉田ましろとかいう第三の学校からの刺客がやってきてしばらく、その倉田に何故か懐かれてしまったことが全ての始まりだった。
正直、コッチは五人の相手で手一杯だってのに、自主的にもう一人増えようとしてくるとか予想外にも程がある。
「一成が大体悪いでしょ」
「そんなこと……ねぇよ」
「消え入りそうな声で言われても」
倉田だけならまだいいんだよ。あしらってるだけでなんとかなるからな。
問題はそのお友達──そう
何故かオレの周辺はバンドガールが非常に集まってくる。というか最初に手を出した相手がバンドガールだったからそれが別のバンドガールを呼び寄せ、あれよあれよという間にガールズバンド関係者に囲まれてる形だ。当然、倉田もその例には漏れてねぇんだよな。
「つまり……あたしに対しての昔のモカみたいな?」
「その通り、まぁなんだ……あいつよりヤバいのは金輪際現れそうもねぇけどさ」
倉田がボーカルをしているバンド「Morfonica」だったか、そいつのメンバーがどっかからオレの噂を聞きつけて「シロを護る」というオタサーのオタクもびっくりのナイト様になってコッチに敵意を向けてくるようになった。しかも二人も。桐ヶ谷透子と広町七深、だったか。どっちも倉田と同じ月ノ森の一年生だ。
「その二人はなんて?」
「女誑しのクズ男がシロにちょっかい出すなって感じのやつ」
「ちょっかい出してるの?」
「出すわけねぇだろ、忙しいんだよオレも」
幸いなのは文化祭が生徒主体のイベントだってことだ。教師がやる仕事なんてたかが知れてる。だが浮かれたバカがいねぇかと目を光らせるのも、今年は大変なんだよ。花咲川と合同だからな。教師を交換するとかいう素っ頓狂なイベントが去年なかったらオレもお相手も今の倍は大変だっただろうよ。
「一成が女誑しのクズ男なのは正解だけどさ」
「……おう、大げさに否定はしねぇよ」
「否定できないから、なんとかした方がいいと思う、早めに」
「具体的にはどうすりゃいいのかサッパリわかんねぇよ」
なんせ否定できねぇからな。蘭の言いたいこともわかる、わかるしオレも内心ではそう思ってる。
初対面ではなんとか桐ヶ谷と関わりのある紗夜と広町と関わりがあるのかどうか知らんがヒナが止めてくれたから、通報されるなんて面倒は起きなかったが。
「あー、ぜってぇ一段落したらタバコ吸う、やってられん」
「気持ちはわかるけど……日菜さんからの一件以来、一人で抱え込みすぎじゃない?」
「……そうかな、今までと変わんねぇよ」
「そうだったね、アンタはそういうヤツだった」
「なんだよ」
珍しく蘭からオレに寄り添ってくれる。バレそうなところじゃ絶対にくっついてこないコイツがこんなことをするってことは、相当甘やかしが足らないのとオレに余裕がねぇってことなんだろう。実際に、色々積み重なりすぎてて全部ぶっ壊したくなる時もある。
だけど、蘭はそれを許さねぇとでも言うように一人で考えることをさせてくれない。
「……そうだ」
「なんだ、いい案でも浮かんだのか?」
「いい案って程じゃないけど……結構力業で、一成好みの解決方法がある」
「焦らすなよ」
千聖じゃねぇが回りくどいのはそんなに好きじゃねぇんだよ。完全にブーメラン投げてる自覚はあるが、前から言ってる通り回りくどい話し方をするやつは苦手なんだ。もっと簡潔なコミュニケーションがほしい。肉体言語以外で。
「紗夜さん」
「紗夜?」
「どこかで似てるシチュエーションだと思ってたんだ、紗夜さんって最初は一成に敵意剝き出しだったよね」
「……確かに、もう今となっちゃ懐かしく感じるな」
それが軟化したのは確か──そう、丁度一年前くらい、夏休みのアレだ。
なるほどな、蘭が何言いてぇのかわかった気がする。オレ好みの解決法、確かにそうだ。
──後は知らん、自分で考えろ、大人が常に答えを教えてくれると思うなよ。これだな、我ながら最低の解決方法だ。
「流石は蘭だ、スマートな解決方法を示してくれる」
「スマート……じゃないと思うけど」
「よし、そうすりゃその日までモンペは放置だ放置、氷川姉妹になんとかしてもらう」
「いや、日菜さん生徒会で忙しいと思うけど」
「ヒナがそんなんで音を上げるかよ、あのヒナだぞ」
という信頼というより暴論で蘭を納得させてオレはこころを呼び出した。今年度のアイツは呼び出す度に告白してくるからかなり頼りたくなかったが仕方ねぇ。そもそもオレが約束したのは五人とオレとのことに関わるなってだけ、五人に入ってなきゃ約束の外だしな。
「呼び出しということは、ロマンチックな答えを期待してもいいのかしら!」
「倉田の件で相談がある、って文面が読めなかったか」
「それはそれとして、よ!」
「主題がソレだよ、それ以上の用事もなんもねぇ」
つうことで、弦巻こころを羽丘まで呼び出した。場所は天文学部室、おそらく屋上の次くらいに安全な隠れスポットだ。なんの、とは明言を避けさせてもらうが。
久しぶりにオレから連絡をしたが、この金ぴか太陽サマは相変わらずのお日様スマイルだ。羨ましいくらいに眩しい。
「──ってことで、見返りは用意するから、こころの力を貸してほしい」
「それは、あたしの力というより弦巻こころの力よね?」
「……そうとも言うな」
あらかた説明し、オレは助力を願ったがこころから返ってきたのは予想の数倍は冷たい声だった。精神部分の成長性がAを軽々と越えるためしばらく会わない間に、また大人になったような気がするな。
言いたいことはわかった。オレが借りたいのはこころ個人の力じゃなくていわば
「見返り、先生の見返りはきっとあたしとデートしてくれるとか、そういうものよね?」
「そうだな」
「見返りで強制しても、先生がお腹の底から笑ってくれなくちゃ意味ないわ」
「……悪い、それも軽率だった」
まずいな、思ってるより怒ってる。頭のどっかでこころを便利キャラとして扱いすぎた報いだな、アイツの好きって気持ちを無視しといてオレが頼んだ時には助けてくれるのが当然だなんて都合がよすぎる。そんなんじゃ、結局誰も笑顔になんてならねぇんだ。
「一成は一度関わってしまったのだから、ましろだけじゃないわ、透子も七深も、みーんなまとめて、笑顔にしなくちゃ!」
「……それが、
「ええ! 勿論、一成も笑顔にならないと意味はないけれど」
「なら……見返りなんて用意できねぇかもしれねぇ、でも、今オレは困ってるんだ。このままじゃ蘭や、オレの生徒たちにも問題が波及しかねねぇ……だから、こころに助けてほしい、なんとか策を考えてほしい」
打算とか、そういうのはコイツの前じゃ意味はない。忘れてて本当に申し訳ねぇ気持ちでいっぱいだ。
必要なのは徹頭徹尾「笑顔」ってそれだけだ。生徒の、そしてオレの笑顔のためにと頼まれれば、このスーパーヒーローは口許にめいっぱいの笑みを浮かべて、目をキラキラと輝かせてくれる。
「任せて! あたしと一成で、みーんなを笑顔にするわよ!」
「……おう」
「そして、ご褒美にデートしてもらうの!」
「ああ、夏休みにな」
「楽しみね!」
──ぶっちゃけた話、これで結果は変わらない。結局こころが出す策は蘭が言った作戦と同じであって、オレがこころに提案したもんと全く同じだ。
だけど笑顔ってのはその過程にこそ咲く花だ。現に今、こころの顔には満開の花が咲いている。名前も知らない、黄金に輝く花がそこにはあった。
「三人とも来てくれることになったわ!」
「紗夜の時に引き続き、どういう魔法使ったんだ?」
「それは内緒よ! あたしにしか使えないもの!」
「そりゃ、納得だ」
去年紗夜が絆されるきっかけになったイベントと全く同じもの──即ち、こころが誘う夏のバカンスだ。船で貸し切りの無人島で海を堪能する大きなイベント、まさか二年連続で行くハメになるとは思いもしなかったが。
「また多人数になっちまって、引率が大変だな」
「あはは、引率だって!」
「そういう体裁も大事なのよ日菜」
「そうよ日菜ちゃん、一成さんの足掻きを笑っちゃダメよ?」
「お前らなぁ」
メンバーは主催者こころ、いつもの五人と去年は用事で来れなかったリサに加えて問題のお嬢様三人衆だった。
無事に警戒心マックスの桐ヶ谷と広町は倉田をオレから常に隠すような動きをしている。お前ら、今からこのオレと同じ宿泊施設で泊まるんだからな?
「……夜這いだ~」
「──っ!」
「モカさん?」
「な~に~?」
「みろ、約三名の目がすごい顔してるんだよ」
「ほんとだ~、せんせー、なにしたの~?」
とまぁ、本人曰く「いなくなればいいよ」と敵意を隠しつつも向けていたモカの余計な茶々も入りつつ、だがバカンスは穏やかに過ぎていった。
去年の通り、いや更にパワーアップした生徒たちに振り回され、搾り取られ、なんなら途中から三人のことなんて気にする余裕もなくなるくらいに、楽しんだ。
「リサも来れてよかったよ、去年はいなかったからな」
「そだね……あの時は、イロイロあってさ」
「来年は……って、来年は卒業してるよな」
「あはは、もうアタシもヒナも、三年だからね」
「紗夜も、千聖も……今年が最後なんだよな」
夕日を眺めながら、リサとゆっくり、陽が完全に落ちるまで話す。リサたちにとっては今年が高校最後の夏ってやつだ。その時は大した意味を持たないクセに、後になって大事だったとか、もっと充実させられたなと後悔しがちな季節、それが高校最後の夏だ。
「進路はどうだ?」
「まだ正直、未定……今は、FWF本選のことに集中してて」
「そうか……去年は進学だったか?」
「よく覚えてるね」
「だろ、チラっと聞いただけだったが……勉強に関してはあんまり心配してねぇけど」
──その先、バンドとして「FWF本選で演奏する」という目標を叶えた後のことを訊こうと思ったが、結局言葉には出さなかった。
オレはあくまで学校教師、バンドの進退や本人の進路に必要以上の口出しや誘導はオレの教師としての主義に反する。目標が叶って解散という選択を湊が取らない保証はない。それはリサも考えてることだろうしな。そこはリサの知り合いとして気になっているところではある。
「プロ入りって選択は、友希那はしない気がしてる」
「……リサ」
「だって、友希那のお父さんは、それが音楽をやめるきっかけだったんだからさ」
「そうか」
湊が「FWF」という舞台に拘る理由、そのモチベーションの源は父親が折れてしまったことへの復讐だったって話はリサも紗夜も言っていた。
同じ路を辿ることへの危機感、トラウマは当然あるだろうな。オレだったら間違いなく同じ轍は踏まねぇとか言って逃げるだろう。だけど、そうなりゃきっといずれは解散することになる。結果次第だけどな。
「まぁ、オレはそこまで口出ししねぇ……話を聞いてやるだけだ」
「先生だもんね」
「ああ、バンドなんて部活でもねぇし勝手にやってくれってそのくらいの距離感でいいだろ」
そもそもオレ自身は音楽を聴くことはあっても演奏することはねぇしな。バンドを組んだ経験もねぇ、そんなズブの素人に大人だからってアレコレ口を出されるのはムカつくだろうし、反発したくもなる。ズブの素人でもそういうのに口出していいのは保護者だけだ。
「アタシとしてはぶっちゃけ、監督者も口出すべきだと思うんだケド」
「随分大人っぽい考え方だが、オレは子ども側なんでね」
「うわー、普段は大人で教師とか言うクセに」
「んじゃ訂正、
「ズルい大人だ」
「誉め言葉だな」
──それからリサは色々あったみたいだが迷いを振り切ったように大学へ行くことも「Roselia」のベーシストとしても全部全力で取り組んでいくようになった。
紗夜も、ヒナも、千聖も進路の話を一応はしたがみんな迷いはなかった。強いよ、本当にお前らは。
「まぁ、あたしらはもうシロをどうとか口出ししないけど、泣かせたらまた凸るんで!」
「はいはい、泣かせるようなことしねぇから安心
「……は、はい!」
「ん? ああいやそういう意味じゃなくてな」
「も、もう一回……シロって呼んでほしい」
「呼んでねぇ、一度たりとも」
問題だった三人、特に桐ヶ谷と広町はほぼほぼ放置したが、どうやら生徒たちがなんとかしてくれたらしく、帰る頃にはトゲトゲしさがなくなっていた。作戦大成功だ、今度蘭とこころにはちゃんとお礼をしとかねぇとな。
この後はまたバタバタと問題あり、メンヘラのめんどくさいのあり、魔王様のメンブレがありと続いていくが、平穏に夏を過ごしていった。
「それで今や生徒で野球の監督をすることになるんですね、先輩は」
「一人足りねぇ──じゃなくてしねぇよ」
「ぜひコーチには私を呼んでくださいね」
「話を聴け!」
「野球に関しては素人ですが」
「いらねぇ、じゃなくてしねぇっての」
それから年度が代わり、ようやくましろの件が片付いたものの、やはりというか間が悪いことに居合わせた
素人がコーチングしてもロクな結果になりゃしねぇんだよ。まぁタチの悪い冗談はさておき、香織はニコニコ笑顔のままオレに言葉を続ける。
「──では是非、運動経験者で、野球のルールも理解している子なんてどうでしょう?」
「くどい、つかカレシいるのに会えるかバカ」
「未練があるからですか? 気まずいし、ぶり返すし、逃げた手前どの面下げて会えばいいのかわからないから、ですか?」
「……そうだよ」
無理やりでも会わせようと思えば会わせられるのに一応、オレが拒否する限りは会わせようとしないだけまだ優しいんだろうな。
昔、あれだけ「幸せを見守る係」と自称してたんだ。強引な手に出ることも覚悟してるし、そういうことをする性格のヤツだ。
「けれどもうそろそろ……先輩の傷は癒えたと判断して揺さぶっていますから」
「
「そうです、日菜ちゃんは……どうやら劇薬だったようですけど」
「良薬は口に苦しってか」
劇薬どころの騒ぎじゃねぇよあのメンヘラクソ悪魔は。
けど、気持ちの整理はついているが感情の面ではそうはいかない。顔を思い出すだけで眉間に皺が寄るくらいに苦くて、できれば忘れたい過去なんだからな。
夏休み編ではクズのトラウマその2に触れてやろうと思います。