青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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第三章:青春コンフロント
①青春ガールズロック


 ましろの一件が終わり、オレにも平和な時間が訪れた。もうこの際、ガキに言い寄られたり流されてヤったりすんのは平和と言っていいはずだ。

 昼休みに天文部室の前を通ると高松の他に千早の声と、ギターの音が聴こえた。本当にバンドやってんだな、と感心するのと同時に入り浸るならいっそ天文部入ってくれねぇかなと少し思ってしまう。まぁ千早からしたら、星なんざ興味の欠片もねぇんだろうけど。

 

「それで、天文部の活動もなくて暇なんですか」

「まぁな、つか生徒会の仕事もあるのに悪いな」

「いえ、Afterglowは大忙しなので!」

 

 仕事もひと段落して職員室で伸びをして肩を回していると羽沢がやってきてノートを持ってきてくれた。上原に任せたつもりだったが、どうやらポピパと合同でのライブが近いらしく、生徒会ついでの羽沢が提出してくれた。

 

「復活最初の大きなライブですから、気合入ってますよ!」

「そっか」

「あ、先生もよかったらどうですか?」

「……オレがか?」

 

 どうやら用意していたらしいチケットを机の上に置かれる。どうして、と思ったがどうやら高松がボーカルをしているバンドの初ライブのチケットでもあると改めて補足された。

 千早もいて、他には「RiNG」でアルバイトをしてる戸山や山吹の後輩や、そこに時折出没する野良猫のようなヤツが所属しているらしい。なんだそりゃ、と思ったが高松がボーカル、というのは少し気になった。

 

「……高松がねぇ」

「燈ちゃんのこと、知る機会なんじゃないですか?」

「けどなぁ」

「とっかかりがない、って前に羽沢珈琲店で愚痴ってましたよね?」

「……まぁ、確かにな」

 

 知ってなんになる、とは思う気持ちもあるが、そりゃ顧問として生徒と関わった以上、上から目線で口を出したくなるのがオレの性ってヤツだ。それに、妙に色々と抱えてそうだったな。ただ自分のことをべらべらと話すタイプじゃないしな。

 けど、ヒナの後輩というポジションに収まった高松がいつかそのOGと気軽に話してほしいっつう自分勝手な考えだ。

 

「行くかどうかは当日の気分……でもいいか?」

「はい! お待ちしてますね!」

「……おう」

 

 おっと思ったより笑顔の圧が強いな。これは行かないとヤバそうだな、それもそのはずだろう。オレは「Afterglow」の騒動をスルーしてるんだよな。

 蘭やモカが少しぎくしゃくしているのを察してはいたが、あのままオレが介入しても面倒になると思って上原や羽沢をそれとなく構っているに留めていた。

 それが実は解散騒動だったとは流石に気づかなかったが、多分オレがそれを知っても特に止めたり説教したりはしなかっただろう。とはいえ再結成すらスルーするといよいよ蘭やモカにも怒られるだろう。

 

「それで、行かないんですか?」

「行く、行くからココで時間潰してんだろうが」

「先生の家からそのRiNGって近いんじゃなかったんですか?」

「そうだな」

 

 そして来るライブ当日、羽沢珈琲店に立ち寄るとバイトをしていた二葉がそんなことを言いながらオレの前に紅茶を置いた。

 確かに、オレの新居の方がココよりもライブハウスに近いな。けど、一旦家に帰ってめんどくなったらどうしてくれるんだよ。

 

「……スーツで行くのは、ちょっと遠慮した方がいいんじゃないですか?」

「そうか、浮くか」

「はい、とても」

「着替えた方がいいのか」

「行きたくないんですね」

 

 二葉にジト目をされてオレは情けなく縮こまる。だって、オレの主目的が高松のことを知るためだなんてバレたら、いやモカには確実にバレるからそうなったらネチネチと蘭から言われるに決まってる。あたしたちのライブには絶対観に来なかったクセにって。ついでにリサあたりからも圧が飛んでくるだろう。

 

「……そのうちきっと、ましろちゃんからも来ますよ」

「オレは、別に音楽鑑賞はCDでいい派だよ、ライブとかのノリも嫌いじゃねぇけど……客層がな」

「言い訳しない!」

「……はい」

 

 まさか二葉に語調を強くされるとは思いもせず、縮こまって謝罪するハメになった。ダサい、今のオレは非常にダサすぎて後輩に見せられる状態じゃねぇ、ここで香織とか来られたら更にみっともなく逃げ出すだろう。

 

「先生ってカッコ悪い時はとことんカッコ悪いですよね」

「カッコつけてもカッコつかねぇのにな」

「じゃあもうずっとじゃないですか」

「オレをカッコいいって思ったことあんなら違うな」

「じゃあずっとですね」

「……お前、随分言うようになったな」

「もうバイトし始めて結構経ちますからね」

 

 そうだよな、二葉ともこうしてすっかり話す仲になった。最初は月ノ森のお嬢様とか一生話すことなんてねぇとすら思ってたのに、広町はこころと一緒の時にファミレスで会うし、桐ヶ谷はなんか知らんうちに紗夜と知り合いになってたからその繋がりもあるし、なんか年が進んでいくごとにバンド女子の知り合いが増えてくな。

 

「先生が元々、バンドやってる人ばっかりと仲良くしてますよね?」

「そうなんだよ、まずそこがおかしいんだよな」

 

 ヒナとリサ、蘭とモカって繋がりから広がっていっても、どっかでバンドやってない生徒と知り合って仲良くなるかと思いきや、思ってた以上にみんなバンドやってる。特に今の羽丘ではバンドやってない生徒の方が稀有まであるだろう。やってねぇと思ってた高松も、結局千早とバンド組んでるしな。

 

「そもそも、オレが行くことに意味があるのか?」

「バンドって意味とか特別な理由がないと聴きに行っちゃダメなんですか?」

「……今日の二葉、なんか強いな」

「え?」

 

 どうやら最後のは純粋な疑問だったらしくきょとんとされた。そうだよな、二葉は去年の「CiRCLE」に行った理由なんてないもんな。

 でもそこでコイツの人生は大きく変わったんだろう。その特別な理由のない行動がココでバイトしてるという結果を生んでるんだから。

 

「意味とかねぇだろうけど、とりあえず行ってみるよ」

「多分ましろちゃんも行ってると思うんで、よろしくお願いしますね」

「会ったらな」

 

 そういやポピパのファンだったなましろは、と思いつつ家で着替える。

 この新居も年度末からこころによって計画を立てられていたもので、ついこの間引っ越してきたばかりだ。まだ開けてねぇダンボールからは本やら、後回しの荷物が顔を覗かせていた。

 

「……貰ってばっかだな、オレは」

 

 あのまま羽丘の不良教師やってるだけじゃ絶対に無理だっただろう新居は高層マンションの最上階、セレブみたいな間取りもやっと見慣れ始めてきたところだ。今はまだ誰も来たことはねぇけど、そのうち引っ越し祝いとかなんとかでアイツらが押し寄せてきて、それからも入り浸るバカが出始めるんだろうな。

 そう考えると、やっぱりオレってやつは貰ってばっかなんだな。

 

「先生!」

「……ましろ」

「えへへ、来るって聞いたから待ってたんだ」

「どうも」

「朝日もか」

「私もポピパさんのファンですから!」

 

 RiNGの入口に向かうとそこには朝日とましろが待ち構えていた。いやどっちかというと待ってたのはましろの方だけか。

 オレは客観的に見るとよく若い女を侍らせる悪い男だが、特にこの二人はどっちかというと小柄だし、本人に言ったら間違いなく怒られるだろうが二人ともちょっと実年齢より下っぽさがある。身長だけがイメージを形成するわけじゃねぇんだなっていうのは千聖を相手にしてるから思うことでもあった。あいつ、普段はヒールとかで気付きにくいがかなり身長低いんだよな。

 

「出演バンドの中には入ってないですね」

「あーなんか羽沢が急遽空いた穴を埋めてくれたって言ってたからな」

「じゃあ、いつなのか解らないね」

「まぁのんびり後方で聴かせてもらうよ」

 

 羽沢から色々情報は得た、それによると一曲だけっぽいからどっかの合間なんだろう。こんなんで高松のことが理解できるかって言ったら多分無理なんだろうが、既に二人に捕まったこともあり、大人しく初めてガールズバンドをライブハウスで聴くという体験をすることになった。

 ──オレは音楽の良し悪しってのは専門家じゃねぇし、よく判らんってのが素直な感想だ。だがそんな素人でもちょっとした上手い下手くらいの区別はつく。少なくとも客演してるバンドはどのグループも個性があって、固定ファンっぽいのもいて、盛り上がってる。いいバンドなんだろう。

 

「ふふ、デートだ」

「あのな、朝日のこと忘れるなよ」

「じゃあ、ダブル……でもないから、さんぴー?」

「それはちゃうと思う」

「ワードチョイスがひどすぎねぇか」

 

 次のバンドが入ってくるまでの隙間で腕と腕が触れ合うくらいの密着感を楽しんでいたましろの言葉にオレと朝日のツッコミが重なる。あれ以来、ましろの激情ともいえる行動は鳴りを潜めたが、こうして会うとまさしく恋する少女のように些細なことに微笑むピュアな姿を見せてくれる。これがきっと、倉田ましろが本来持つ笑顔なんだろう。

 

「けどまぁ、立ちっぱは中々つらい」

「おじさんや……」

「当たり前だろ、オレはもう三十路を通り越してんだよ」

 

 高松のバンドも、本命である蘭たちの出番もまだのため、オレは一旦休憩として外でペットボトルの水を飲みほした。

 運動不足は最近解消されつつあるんだけどなぁと言いつつ立ち上がった拍子にちょっとフラついてしまい通りがかったヤツと少し接触してしまう。

 

「あ、悪い」

「いえ……」

「……(さき)?」

「行きますわよ」

「……今の」

「知り合い?」

 

 ウェーブのかかったツインテール、目鼻立ちの整った、立ち振る舞いはまさしくお嬢様のそれだ。

 そんなお嬢様然としたソイツは一瞬だけオレの顔をじっと見てから何かに気付いたように友人と共にそのまま去っていく。

 その僅かな視線の交錯に気付いたようでましろが首を傾げた。

 

「あ、あぁ、羽丘(ウチ)の生徒だったから」

「月ノ森生みたいだった」

「オレも初対面の時にそう思ったよ」

「羽丘、一年生ですか?」

「ああ、B組の豊川(とがわ)……なんだったけな」

 

 授業で一年を見ることはあるが名前をそんな積極的に呼ばねぇし、しゃべってるところを見たこともねぇからな。そんなヤツでもライブハウスまでわざわざバンド聴きに来るんだな、と妙な感心をしながら戻ると、どうやら既に高松たちがステージに上がっているようだった。五人組のバンド、ギターには本当に千早もいた。

 だが、客の入りはまばらで、まぁ予定にねぇし新人だしで興味がないヤツがほとんどだろう。この後がポピパだから休憩時間にはもってこいだ。

 

「……っ」

 

 ましろがオレの手を握ってきて、横を見ると何かを堪えるような顔をしていた。それもそのはずで、ボーカルの、高松の声が全然でてねぇからだ。掠れた声、緊張してるんだろう。苦しそうなツラでそれでも懸命に絞り出す姿に、同じくボーカルで上手く声が出なかった過去を持つましろは感情移入しやすいんだろうな。

 ──だが、何かが変わったのかサビに入ると声が届き始めてきた。そのまま一曲って話だったが、高松の語りから二曲目が始まった。初ライブとは思えないその曲の完成度か、演奏技術か演出が刺さったのか、どんどん外にいた客が集まってきていた。

 

「……心の叫び、か」

 

 普段は言葉が多い方じゃねぇ高松は、きっとその内側にたくさんの言葉を、伝えたいはずの音を溜め込んでるんだろう。それを自己表現できるのが、歌ということ。蘭やましろもどっちかといえばそういうタイプだよな、本人以上に歌詞は雄弁で、自分のありのままを伝えようとしてくれる。

 ──オレは、それが怖かったのかもな。蘭の胸の裡が、叫びを、直接聴きたくなくて目を逸らしてたのかもしれねぇと思うと、高松の中身見たさにライブに来たことを少しだけ後悔した。

 

「先生……?」

「ましろのこと、全然言えねぇよな……オレは、ずっと逃げてばっかりだ」

 

 生徒に流されて、クズ教師なんてやってんのも逃げの手段の一つで、それが立ち行かなくなれば大人であることを理由に避けようとする。

 Afterglowに何かがあって、解散するというところまで来たのにオレは見てみぬふりをした。

 それだけじゃねぇ、本当はオレだって解っているのに、一歩引いてアイツらの問題を大人だから教師だからと見てみぬふりをし続けている。

 プロとして色んな壁にぶち当たっている紗夜やリサの悩みも、隣にいるましろや朝日が抱えているもんも、ヒナや千聖も、あのこころですらだ。

 由美子から逃げ出したあの頃、みみに嘘を吐いたあの頃、オレは大人になってもなんにも変わってねぇんだな。

 

「だから、ライブなんて来るの嫌だったんだよ」

 

 この小さなハコに逃げ場はねぇ、真正面から全方位から青春の輝きを、アイツらのロックを聴かされるんだから。

 アイツらがちょっとずつでも前に進んでる。だったらそれを見守る教師のオレも、踏み出さなくちゃいけないことがあるってことを、変わらねぇとダメなのはオレのほうだってことを否が応でも突き付けられちまうんだからな。

 




クズ「この小さなハコに――」(二曲目にじんわりとポエミー浸り中)

~同時刻~

??「なんで春日影やったの!!!!!」

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