青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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②黄昏コンフロント

 その後のポピパもアフグロも大盛り上がり、ライブは大盛況のまま幕を下ろした。

 ましろと朝日は興奮冷めやらぬまま、ポピパの楽屋に行くと言い出し、オレは引きずられるようにしてそのままアフグロの楽屋の前にいた。

 楽屋だから衣装の着替えとか、色々とあるだろうと部屋の前で待つことにした。担任してるクラスの生徒とラッキースケベとかシャレにならんし、なんか連絡しなくてもエスパーが読み取ってくれるだろうという信頼を込めて。

 

「やーやー、いらっしゃいませ~」

「ちょっとモカぁ! 」

「……せ、先生……!」

「モカ……!」

 

 ──と、思っていたのだが青葉モカというヤツはバカなので敢えて最悪のタイミングを選んで開けてくる。

 視界にはモカ含めた全員が大なり小なり下着姿で、オレは長い溜息を吐き出した。特に視界の最初に飛び込んできたのは上原の大きく実った胸だった。しかもブラを外したところ。本当になんてタイミングでドア開けてんだコイツは。

 

「なにしてんだバカ」

「サービスショットを~」

「ホントになにしてんのモカ! っていうか先生も目くらい逸らしてください!」

「ああ、悪い」

「……冷静だなぁ」

「いや巴も隠しなよ」

 

 冷静なのはそうだろ、女子校教師だぞこちとら。いちいちそんなんで真っ赤になったり反応したらそっちのが変態っぽいだろ、そもそもガードが緩めなのが多いからパンツやらブラやらなんて見慣れてんだよ。まぁ唯一言うとするなら蘭の赤下着はクるものがあるな。

 

「ってせんせーが」

「──っ死ね!」

 

 ありがたく罵倒をいただき、着替えが終わるまで今度こそ待たされることになった。

 二度目にドアが開くことには耳まで真っ赤になった上原で、信用に値するとオレは中に入れてもらうことになった。

 まぁ雰囲気は最悪に近いが。当たり前だろうけど、オレは故意じゃねぇうえに体育だからと教室で着替えてる横を通ることもザラにあるしな。

 

「だからって目を逸らさないのはダメですからね!?」

「ひ、ひまりちゃん……声大きいよ」

「つぐも巴だって下着ガッツリ見られてるんだから、もっと抗議しようよ!」

「先生だしな」

「その先生、生徒に手を出してるタイプの先生だよ!?」

「否定できねぇ」

 

 否定できねぇがいい加減その話題から離れた方がいいだろ。どうやら羽沢と宇田川も同じ意見のようで更に蘭が「後でシメとくから」と言ったことで上原をなんとかトーンダウンさせることに成功した。

 まぁ、その蘭から射殺すような視線を向けられてるわけだが。

 

「それにしても、まさか清瀬先生が来てくれるとは思わなかったです」

「つぐがかなりごーいんに~」

「……そうだったんだ」

「先生、いつもチケット渡そうとしても断るから……ちょっとね」

「なんで今日は?」

 

 まぁ当然訊かれるよな、モカ、頼むから黙っててくれよ。ここで高松のことがあるから来たなんて言ったら間違いなく蘭が不機嫌になるんだからな。視線を向けるとどうやら解ってくれたようでモカは目くばせをしてきた。

 

「正直、直前までバックレようと思ってたんだけど……なんつうか、教師とか大人を言い訳にして逃げてたんだよ、今までも」

「それは知ってる」

「だろうな……でも、オレも向き合わなきゃいけねぇと思ったんだよ。お前らの青春に、大人とか教師とかじゃなくて、オレ自身として」

 

 羽丘の教師で、クラス担任ってだけじゃこんなライブなんて観に来て、楽屋まで行く必要なんてねぇ。ここはもう学校外の活動であって、オレの預かり知らねぇ自由にしていい時間なんだからな。でも、そうやって教師と生徒で括るにはオレは関り過ぎてる。それが蘭とモカだけならまだしも、全員がそうなんだからな。

 

「Afterglowの解散だって、お前らだけの問題だからって……異変に気付いてたクセにスルーしてた。特にモカなんて大分ヘルプコールしてくれてたのにな」

「……あたしは、そういうせんせーの気持ちも、わかってたから」

「いや、オレからちゃんと話しかけに行くべきだったんだよ、それがオレの教師観でもあるんだからな」

 

 ウザいくらいに関わってくる、教師と生徒の垣根なんて飛び越えて、そんな関りの中でも大人として信頼されて、教師として認められて、卒業しても時折、遊びに来た際に声を掛けてくれたり近況を報告してくれたりする。

 それがオレの理想だ、多分クズ教師(アイツ)がやろうとして叶えられなかった、だからオレに託された教師像だ。

 ──それから逃げた理由は、それが()()()大人の在り方じゃ絶対にねぇってことだ。ヒナとの関わり方を間違えたからオレはその正しさで修正しようとしてた。でも今年だけでもこころやリサ、ましろとの関係を深めていく中でそんな正しさなんて今更通用しねぇんだってことを突き付けられた。

 

「……高松のバンドの……アイツの歌を聴いてたらさ、間違ってても、正しくなくてもそのままでいいから、前を向けって言われたような気がしたんだよな」

「高松……天文部の」

「ほら、あのバンドだよ! 急遽穴埋めで来てくれた!」

 

 オレはバンドやってるヤツばっかりと関わっちまう呪いに掛かってる。だからか、関わるヤツみんながロックなところがあるって思うんだよな。初めは蘭の、他にも色んなヤツのロックな部分があったんだけど、高松の叫び(うた)はまた違う感覚だった。

 なんつうか、向き合わされる。目の前にドデカい鏡を置かれた気分になって──苦しくなったよ。

 

「だから、って言ったらお前らが怒るだろうけど……今日は来てよかった」

「怒る!」

「なんだよ」

Afterglow(わたしたち)のロック聴きにきたのにそれはダメです!」

「だから前置きしたろ」

 

 上原が頬を膨らませて怒ってますアピールをしてくるのを宇田川と羽沢が同時に笑う。それでますます頬を膨らませたところでモカに「かーびー」と言われて爆発した。思ったけど言うなよ。

 

「じゃあ、その高松って子のバンドが一番だった?」

「まさか……最高のロックだったよ、蘭の歌」

「じゃあいい」

 

 蘭の笑みにオレも端的に答えた。そりゃそうだ、美竹蘭のロックに魅せられてオレは教師で居続けようって決めたんだ。それは生徒と肉体関係があろうが、なし崩し的にハーレムを築いていようが、関係ねぇ。

 オレにとって最高のロックは常に、お前から奏でられるもんだって決まってんだからな。

 

「つうわけで、オレは蘭お持ち帰りしてぇんだけど」

「どうぞどうぞ、ごゆっくり!」

「……巴」

「え~! モカちゃんも~」

「お前は打ち上げの時にでも呼んでくれ、送り狼にでもなってやるよ」

「わかった~」

「変わり身はやっ!」

「あはは……」

「待ってるから、準備出来たら連絡してくれ」

「うん」

 

 ──まぁ多分、最初から決めてたような気がする。新居に、最初に泊めるなら誰かって言ったら蘭なんだろうって。

 貰ってばっかりのオレが、それでも最初に誰かのために教師として向き合う一歩をくれたヤツ。その称号は今後何があっても、誰にも代わることのねぇ特別な生徒だからだ。

 

「よう、高松」

「あ……せんせ……」

「どうした?」

 

 そのすぐ後のこと、久々に昼休みの天文部に顔を出すと、そこには高松が一人でいた。千早は、と思ったが荷物はあるのでどうやらトイレだろうか。

 その高松だが、何かを訊きたげだったため少し待っているとゆっくりと言葉が続いていく。

 

「……せんせ、ライブ」

「ああ、知ってたのか」

「ん……祥ちゃんも」

「……ん?」

「B組の豊川祥子ちゃん、先生知らないんですか?」

「ああ、下の名前……あれサキコって読むのか」

 

 ずっとショウコだと思ってた。いやライブん時は下の名前すら出なかったんだが。口ぶりからすると知り合いらしい。

 昼休みではそれ以上の情報は出てこずに、その後オレが職員室で仕事をしていると千早がやってきた。

 

「どうした、わからんところでも……あるわけねぇか」

「……私のこと、知ってるんですか」

「生徒のプライバシーは守るけどな、教師間じゃそんなに守られねぇもんだよ」

 

 そうじゃなくてもGW直前というめちゃくちゃ中途半端な状況での転入だ、ワケアリと思われるのが当然だろ。特にオレの担当教科は千早の事情にダイレクトで関係のあるものだから当然、話の流れでリークされるもんだろ。

 

「そんなこと訊きにきたんじゃねぇだろ」

「まぁ……祥子ちゃんと、燈ちゃん、前にバンドを組んでたらしくて」

「へぇ」

「あれ、キョーミない感じですか?」

「いや、続けていいぞ」

 

 千早は何を思ったのかオレにあの日、つまりライブの日だな。バンド内であったいざこざとその原因となるであろう解散したバンドの話をリークし始める。

 オレは聞き流しつつだが、どうやらその「CRYCHIC(クライシック)」という高松と豊川が前に組んでいたバンドで、その二人が作った曲があのライブで演奏された二曲目だった。予定にねぇそのサプライズが原因でバンドメンバーの一人が突如ブチ切れた、ということらしい。

 

「んで、なんでその話をオレに?」

「いや……なんでだろ」

「お前が知らなきゃ、オレも知らん」

「お前って……はぁ、先生ってかなりテキトーですよね、そのくせ燈ちゃんと私が気になってライブ来るし」

「お前ら目当てじゃなくて、クラスの生徒目当てだ、勘違いすんな」

 

 くだらねぇやりとりをしつつ、続きを促すとどうやらキレたメンバーと連絡が取れなくなったらしい。そりゃ、嫌になったんだろ、とは流石に言わなかったが。

 話によるとソイツも前のバンドの関係者で、豊川がなんでショックを受けたのかわからんが、それが似たようなもんだと思い出が忘れられねぇんだろ。

 

「それで……燈ちゃん、また自分のせいだって思ってるみたいで」

「自分のせい?」

「自分のせいで、バンドがダメになったんだって」

 

 千早には前のバンドがどうしてダメになったのかざっくりとした話はそのキレた、と繰り返すとくどいから名前を訊ねておいて──その長崎そよってヤツから聞いてはいるらしい。もっとも、そいつも豊川が急に辞めると言い出した理由は解っていないらしいが。

 

「……特待生だったか、あいつ」

「ん、何か知ってるんですか?」

「いや、なんでもねぇよ」

 

 羽丘(ウチ)は近隣三つの女子校の中で最も新しくて進学校でもある。成績優秀者には特待生として学費免除の措置が与えられて、オレの記憶違いじゃなきゃ豊川はその特待生制度を使ってウチに来てるはずだ。まぁ月ノ森はバカみたいに学費掛かるって二葉がチラっと言ってたような気がするし。

 お嬢様然としてたのも、元月ノ森生という情報があれば納得だ。

 

「とにかく、オレに言われてもなんもしらねぇからな、豊川のことも」

「でも先生、燈ちゃんのこと気にしてるじゃん」

「そりゃそうだろ、オレは顧問で、天文部の先輩から頼まれてんだよ」

「燈ちゃんのことを? 誰なんですか?」

「お前に教える義理はねぇ、ほら用がねぇなら出てけ」

 

 ──もし来年、新しい子が天文部に来たらさ、その子もきっと変な子だもん、カズくんがちゃんと面倒見てあげてね! じゃないとあたしも遊びに来れなくなっちゃうからね! 

 なんて、厄介な卒業の言葉を残してくれた卒業生(バカ)がいるからな。アイツがマトモなこと言った時くらいは素直に応じてやろうと決めてんだよ、コッチは。

 

「じゃあ、そよさんと連絡は?」

「知るか、せめて学内の探し人でアテにしろ」

 

 これに至ってはオレが関係してることじゃねぇ、というかもう二度と他校のガキとは関わらねぇって決めてるんだよ。ロクな目に遭ってねぇからな、こころから始まって、千聖、紗夜、ましろと。せめて羽丘内で完結しててくれ。

 

「はぁ……羽沢珈琲店(いつもんとこ)でゆっくりしてから帰るか」

 

 バンドメンバーと連絡が取れなくなったことで、また天文部に千早も入り浸っているらしい。今日も近くを通るとアンプを通してねぇギターの音と明るい話し声が聞こえてくる。

 一応、ノックをしてから開けると案の定、高松は活動日誌を書いてくれていて、千早はギターの練習をしてるのか、手持ち無沙汰なのかと言った雰囲気だった。

 

「高松」

「あ……せんせ」

「真面目に活動してくれてて助かるよ、オレもう帰るから鍵よろしくな」

「先生って残ってなくていいんですか~?」

「うるせぇ、つか入部届出せ」

「え~、入部は……ちょっと」

 

 高松の活動日誌は誰かさんと違ってすごく簡潔に纏められているし、ちゃんと星のことをやってくれているので実際物凄く助かっている。結構な頻度でプラネタリウムも行ってるらしくそのことも活動としてオレが認めてるからそのことも日誌に書き記されていた。

 入り浸ってるから入部しなきゃダメってルールは別にねぇけどな。そんなこと言ったら入部しなきゃならんのがオレが知ってる中にも二人ほどいるからな。

 

「OGがな、パスパレの氷川日菜でさ、時々遊びに来るんだよな」

「えっ……入ろうかな」

「やっぱお前ってかなりミーハーだよな」

「う……っ、カマかけました~?」

「ひかわ……?」

「去年の生徒会長でアイドル」

「もしかして燈ちゃん、パスパレも知らない!?」

「……ん」

 

 まぁそれじゃあいい意味で仲良くなれると思うよ、ヒナとは。

 ただまぁ今紹介してもバカヒナがマシンガンを浴びせかけて終わりそうだからな。まだしばらくは秘匿しておこうと思う。まぁそうじゃなくても羽沢から伝わってるだろうし、そのうちその会話劇は繰り広げられるだろうな。

 

「それじゃ、戸締りよろしく……高松」

「……?」

「……いや、頑張れよ」

 

 オレは気には掛けるが、あくまで教師だからな。そりゃこれが千聖や紗夜だったらガンガン踏み荒らすだろう。蘭とモカは「Afterglow」内の問題だったから逃げてスルーしただけで、生徒の中でも特別なヤツとそうじゃねぇヤツの線引きはちゃんとしてるつもりだ。その線を越えるかどうかは、今となっちゃ生徒側の裁量に任せてるしな。

 

 

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