青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3 作:黒マメファナ
高松はどっかのバカと違ってオレを振り回すことはねぇが積極的に話しかけてくることもねぇ。
だから一応何かあったり相談があったら連絡しろよと連絡先は渡しておいたが、ちゃんとスマホ使えるのかという疑問すら感じていた。まぁ、大丈夫だろう。
「……あ、せ、せんせ……」
「おう高松、何やってんだ」
「……え、あ……」
結局、色んなことがあって去年から再び相棒へと戻ったタバコが天文部の部室にあることをヒナとの会話で思い出し──いや切らしたわけじゃなくて誰かに見つかるのがやべぇってことで回収しに行った。
だがタイミングが悪く、高松は何かを並べていた。どうやらどこかから持ち込んできた丸い石たちのようで、やっぱりコイツも変なやつだなと認識を改めた。
「コレクションでもしてんのか」
「……これ」
「オレには石の良し悪しはわかんねぇけど、まぁ飾るなら飾るで片付けてから頼むな」
クラスではマスコット的なポジションを確立し変な子だけど構ってあげたいみたいな感覚で一応は馴染んでいるらしい。まだ関わって日が浅いから踏み込むことはしねぇが、オレには高松がすごく傷だらけの殻に閉じこもっているように思えた。
中学の時に何かあったかもわからねぇけど、羽丘はヒナやらバンド流行りのお陰でそういう女子特有の陰湿な空気が随分減ったからそういう環境で、三年掛けてゆっくり道を見つけてほしいもんだ。
「オレはもう帰るけど戸締まりとか、任せる」
「……は、はい」
「じゃ、よろしく」
「あ、さ……さようなら」
慌ただしく帰っていくオレを高松は忙しい人とでも考えてくれるだろうか。いや実際に忙しい、いつも平日だろうが休日だろうがお構いなしにあいつらからのラブコールが来るからな、しかも去年までは羽丘と他校だけで済んでた配置が見事にバラバラになって余計にオレの移動距離が増えた。通勤くらいでしか使われない愛車の出番が増えたのは喜ばしいことではあるが。
「一成さん」
「よう、待たせたな」
「はい」
先に待ち合わせの駅前で立っていたのは氷川紗夜、ヒナの姉で愛おしいオレの生徒の一人である。
コイツは自身が結構多忙で、オレと時間合わせるのが大変なんだ。千聖も同様のハズだが今年に入ってからはシェアハウスをいいことにオレを家まで呼びつける日々で満たされてやがるからな。
「悪いな、全然構ってやれねぇで」
「いえ、その言葉があれば待つ楽しみもあるというものですから」
「……変わらねぇな」
いや、とは言うがオレからすれば随分変わった結果、この姿に落ち着いたと言った方が正しい。なんせオレの知る紗夜は牙を剥く狼だったからな、今じゃすっかり甘噛してくる人懐っこい大型犬状態だが出会った当初は食いちぎられるかと思うほどの鋭さとギリギリに張り詰めた糸にナイフを食い込ませてるような女だった。
「その……」
「どうした?」
「腕を、組みたいのですけれど……」
「そんな殊勝なこと言ってくれんのお前だけだよ、ほら」
「……ありがとう」
紗夜は二年で随分大人っぽくなった。もうオレが横で並んでもある程度なら通報されずに済みそうなくらいには。
というか昔はあんまりなかった色気が出てきたのは、オレのせいじゃなくて本人が性格的に丸く、余裕が出てきたからだと信じたい。頼むからそうであってくれ。
「確かに、こりゃいい雰囲気だな。
「密会……」
「まぁ紗夜とはもうする必要ねぇけどな」
「そうですね」
微笑みを浮かべる紗夜は久しぶりの顔を合わせての会話、という余韻に浸っているようだった。
カップと皿を持ち、優雅に一口運ぶ姿は何処かのいいところの令嬢と言っても信じられる。というかそもそもこんな紗夜が一般庶民扱いなのをオレはまだ信じてねぇからな。
「じっと見られると……その、流石に恥ずかしいわ」
「おっと悪い、いいとこのお嬢様みたいにキレイな所作だったもんで」
「そう……お嬢様、といえば例の件はどうにかなりそうですか?」
「いいや、多分モカも一枚噛んでるような気がする」
あいつ、絶妙なところで情報だけ渡してオレの矛先を自分に変えてやり過ごしやがったからな。モカなりの構って攻撃なら可愛すぎて許せるけどあのヤンデレクソストーカーにそんな可愛らしさは存在しねぇ、ヤリたいからヤッて、寝たいから寝て、食いたいから食う──それが青葉モカの行動原理の一つだからな。
「私としては悪くないものであるのなら放置しても良いのではないか、と考えてしまいます」
「相手がこころだからか」
「はい」
「けど、きっとあいつはオレの決意を許しはしねぇ、そういう時は何処までも独善的に動けるやつだ」
黄昏ティーチャーとして、教師としての幸せを優先したい。オレはそう思ってたし、今も思ってはいる。コイツらにいい男がいればそっちに靡いてほしいし、オレのことなんて忘れて幸せになって教師として送り出したんだって誇れる過去にしたい。
でもこれは結局は誰かを傷つける選択だ。そしてヒナの時に文字通り痛感したよ。
「オレの決意で一番傷つくのは、オレなんだなって」
「一成さん……」
「笑っちまうだろ、教師としての幸せは慕ってくれる生徒を送り出すことだなんて理想を口にしといて、実際はあいつらがオレを見てくれなくなることが怖くて、それを想像すんのがめちゃくちゃ痛ぇ」
「でしたら」
「傍に居て、本当にお前らは幸せなのか? いや
こんな弱音、きっと紗夜くらいにしか吐けねぇ。モカは察してはくれるから逆に吐き出すこともねぇからな。
──紗夜にとってのオレの役割は休むための止まり木で、羽を癒やして飛び立つのを見送るためのオレだって思ってたんだけどな、実際はコイツの愚直さにオレ自身が甘えてんだよな。
「悪い、今の忘れてくれ、つっても無理なんだろうな」
「ええ」
「明日を信じてくれるお前らを信じてみる、だなんて嘘だ」
「いいえ、一成さんは信じようとしてくれていたわ」
「ああけど、やっぱ卒業すると不安になる」
この不安を押し殺して去年は奔走した。倉田の話やら「Roselia」のことで苦悩するリサや紗夜のこと、アイドルとしての自分の在り方を見失って涙を零した千聖のこと、他にもヒナの浮気事件やら千聖のマネージャー関連、蘭とモカの喧嘩やら本当に去年も死ぬほどイベント盛りだくさんだったから、逆に考えずにいられた。
けどヒナを見送った時に、胸に花を付けて笑うあいつの顔を見た時に、オレは信じようとしていた生徒たちの語る「明日」がわかんなくなっちまった。結局また、名前だけはキラキラした暗闇に逆戻りだ。
「そのせいでモカはまた
「……青葉さんは停滞、だったわね」
「ああ、モカは時間を止める術を見つけりゃ真っ先に実行するタイプだ」
けどオレは前に進むし、時間もずっと前に前に進んでいく。青春もいつかは終わって、大人になって、いつか学校で過ごした時間を遠く振り返る日が来る。
今はそんな時計を象徴するのがオレにとっては高松なんだろう。新しく入ってくれた天文部員、ヒナじゃねぇたった一人の天文部にいる主、それが高松燈だ。
「残念ながら今はあのお星さまコンビに出逢ったら心臓止まるだろうけどな」
「そうね、いきなり日菜と弦巻さんの中に入れるのは酷だと思うわ」
「けど、教師って生き物はそうやって入れ替わる生徒を見送るもんだ……教師は」
「そう、
「……ああ」
紗夜の言う通りだ。あの超記憶天才児のヒナだって忘れることはある。都合の悪いことと興味のねぇことはあいつだって忘れちまうんだ。自慢じゃねぇがたくさん取りこぼして、わずか残った片手の中にオレが入ってくれるんだろうってことくらい。
そう自嘲していると紗夜がけれど、と続けた。
「あなたは教師である以前にクズです」
「……ここで罵倒?」
「自覚はあるでしょうし自称しているでしょう」
「だからってキメ顔のお前に言われんのは、正直傷つく」
「──そうではなくて、いいですか、聞いてください」
「……おう」
「あなたは教師ではあるけれど、クズで女を複数囲う最低の男です。そんな最悪で、最高のヒトであるあなたとの思い出が青春の隅だなんて
紗夜の力強い言葉はしっかりとオレの心臓を震わせていた。
オレは教師である以前にクズ、か。確かにいつも
「あなたは私を以前、正しさの奴隷と言いました」
「言ったな」
「それをそのままあなたに返します。あなたは間違っている、間違っているからこそそれが間違いであることに固執しているように思えます」
「……耳が痛ぇな」
結局、明日を信じられねぇのも信じて痛い目を見たからそれを経験則として間違いだって処理してるってことか。
──ねぇ一成、世の中って純粋全部ひゃくぱー正しいことばっかりじゃないんだよ。正しい間違いも間違った正しさも、矛盾してるようでちゃんと存在してる。正解を見つけるっていうのは正しいことと、正しい間違いのミルフィーユを認めちゃうことなんだから。
昔、そんなことを言ったクズ教師がいたな。あの時は意味がわからなかったけど、紗夜の言ってることはそういうことなんだろう。
「一成さんが私達を愛してくださることは、正否に当てはめれば否、間違いであるべきです」
「……けど、それが正しい道でもある、か」
「ええ、だから思いっきりわがままになってください。教師として幸せになりたい、同時に清瀬一成として幸せになりたいと手を伸ばしてみてください」
「……本当に、何から何までサンキュ、紗夜」
本当に、紗夜はいい女になった。高校生の頃から美人ではあったが大人へと近づいて内面もめちゃくちゃ魅力的になった。オレみたいなクズには勿体ねぇくらいにな。
正しい間違いを認める、ヒナを引き留めたこと、千聖を
「オレにはまだ、それを正解だって言い切れねぇ」
「そうでしょうね、言い切るには
「つまりは──明日を信じれなきゃいけねぇってことか」
じゃねぇと本当の意味での黄昏で生徒を照らすような教師としての幸せも、オレ自身の幸せも、どっちも取りこぼして結局は虚しさの中で屋上で独りなんて寂しいことになっちまう。
それを見て、かつてオレを愛してくれた生徒達は、それでもオレを忘れて幸せになっていられるんだろうか。答えは、目の前に転がっていた。
「
「……言い切ってくるな」
「私達にあれほど説教をして、青春がなんなのかと説いて、絆して、抱いて、高校生活を彩ってくれたあなたが色褪せていて、私達が何も思わないはずがありません」
蘭は怒ってるだろう、モカはきっとそのまま死ねとかキレッキレなことを言うんだろうな、千聖には絶対泣かれるだろうし、紗夜は待つことしか出来なくて歯痒い思いをさせちまう、ヒナはきっと拗ねてるかキレてるかの二択だろうな。
そうしたら後はドミノ倒しだ、オレには五人には黙ってる隠れた愛人枠がいるからな、千聖にもモカにも半ばバレてるっぽいところが隠しきれてねぇけど。
「あたしだって、あなたの物語のヒロインになりかった。なのに」
一年と少し前、まだ紗夜が二年生だった頃にそう言ったやつがいる。結局、翌年もオレが教師だかハーレムカス野郎だかなんだかわからん状態でいろんなことに首を突っ込んで奔走しちまったせいでこころの中にあったフラグを叩き折れなかった。
誓ってヤってはねぇ、あいつに手を出すのはマジでリスキーだ。何度か迫られてはいるんだがな。
「……弦巻さんは、正直遅かれ早かれという状態だとは思っていました。後は今井さんも随分、一成さんに執心しているようですしね」
「リサか、やっぱり紗夜もそう思うか」
「気づかないフリは今井さんに失礼ですよ」
「ああ……あいつは案外泣き虫だしな」
世話焼きで、泣き虫で、どうしようもなく自分を出すのが下手な見た目ギャルの中身は純情乙女だからな。
モカは許してくれねぇだろうが、リサが求めてくれるってならオレは手を伸ばすさ。あいつのめんどくせぇところは他のメンツと違ってオレが口を開けても飛び込んではきてくれねぇってことだからな。
「どうしますか、善は急げ、と言いますが」
「いやその前に別のゼンを急がせてもらうよ」
「……それは?」
「据え
「ええ、もう私も大学生ですから」
そうだった、ならちょっといい感じの場所を選ばせてもらうとするよ。
開き直って、男として紗夜を抱くとまた別の気持ちよさがあるんだな。今まではどっかでセフレ感覚だったのかもなオレも。
けどこっからはオレの人生を掛ける覚悟で抱かねぇといけなくなった。じゃねぇとこいつらの人生は重くてとても背負えねぇからな。
クズ教師が前倒しで矯正されている理由、くらたまとこころのせい説
おさらいキャラ紹介
○氷川紗夜
元狂犬、現わんこのおねーちゃん。妹の過去のカレシの事件がきっかけでクズ教師を敵視、かつ監視の名目で知り合う。だが日菜の様子や千聖、リサなどの関わりを見て鳴りをひそめ姉妹仲が修復されたのをきっかけに清瀬堕ち(新言語)した。
一時期は盲目状態だったが現在はクズ教師のダメなところも悪いところもクズなところも全部ひっくるめて慈しみ彼を待つ忠犬へと変貌。実は五人の中で最もまとも。