青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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④蘭華トワイライト

 どこもかしこも、世間はガールズバンドブームで、一昨年は意識しねぇと耳に入ってこなかったそいつらも今じゃ耳を塞いでも入ってくるようになった。

 流行に詳しいオタク曰く、一昨年以前に人気のあったグループはゼロ世代、今のブームに火を点ける下準備段階でその後の世代に影響を与えているのだとか。戸山たちのポピパはその「Glitter*Green(グリグリ)」を先輩バンドとして挙げてるらしい。オレが担任やってる「Afterglow」も結成が早いが当時は全然有名じゃなかったらしく数えられていない。

 そんなアフグロや「Roselia」に前述のポピパ、それに「ハロー、ハッピーワールド!」と「Pastel*Palette」が代表として挙げられる第一世代、これらは合同ライブもしたことがあり横の繋がりが強いことも特徴だ。オレが主に関わってる生徒もこの五つの中のどれかに所属してる。

 

「そうすると第二世代ってましろ達?」

「ああ、お前ら第一世代に強く影響を受けて結成されたバンドだからな」

「……ふぅん、なんか変に大きくなってるね」

「そうだな」

 

 第二世代で特にと挙げられるガールズバンドは本人もポピパ信者で、彼女への憧れからバンドを始めたという「Morfonica」と、リサと紗夜から聞かされた話とメンバーで羽丘に通ってる朝日六花にも肯定された「Roselia」への対抗意識が根底にあり、かつ今の時代をぶち壊し最強であろうとする「RAISE A SUILEN」の二つだ。

 だがこの二つの影響は第一世代の比ではないらしく彼女たちを見てバンドに憧れるティーンズが後を絶たないらしい。

 

「詳しいね、昔は全然興味なかった癖に」

「トゲのある言い方やめろっての、オレが一人でフラッと見に行くジャンルじゃねぇだろ」

「パスパレには行ったのに?」

「あれはオレが一人で行っても浮かないジャンルだったからいいんだよ」

 

 よくないし、と屋上で又聞きのガールズバンド談義にすらつまらなさそうに鼻を鳴らすのはポンコツの、じゃなくて反骨の赤メッシュこと美竹蘭だ。どうやら一昨年から再三誘っても来なかったことをまだ根に持っているらしいが、オレから言わせてもらえば目立つので絶対に行かねぇ。

 アイドルってだけあって男性客がメインターゲットに入ってるパスパレと老若男女なんでもウェルカムなハロハピはオレが一人で聴きに行くことに抵抗がねぇけど、クセの強そうな女性ファンの多いロゼと圧倒的ティーンズ女子が客層を占めるアフグロは勇気が出ねぇんだよな。

 

「まぁ、パスパレも二度といかねぇけどな」

「なんかあったの?」

「想像つくだろ、公私混同するバカがいるんだから」

「……日菜さんか」

 

 大正解、あの構ってちゃんはオレを半ば脅しのような状態でミニライブに誘っておいていざおっかなびっくり聴きに行ってみれば向日葵スマイル四割増しでこっち見て来やがる。冗談じゃねぇんだよな、マジで数人すごい勢いでこっちを見てきたんだから。オレなんて後ろの方でコソコソ聴いてただけだったのに。

 

「それで無事に帰ってきたんだ、すごいね」

「紗夜のお陰でな」

「紗夜さん?」

「隣に居たんだよ、いつの間にか」

 

 あれはあれでビビったけど妹の所属するミニライブでオレと同じく後方で腕を組んでしたり顔で聴いてた。これが所謂後方カレシ面ってやつかと関心した。まぁそんな強火オタクと化した紗夜のお陰でオレにではなく姉に目を向けたんだと解釈されたのは本当に幸いだったと思う。

 

「招待枠とかで見てると思ってた」

「ミニライブだからな」

「なるほど、とにかく助かったみたいでよかったね」

「おう」

「けど……許してはないから」

「……あのなぁ」

「一人が嫌なら、誰か誘えばいいでしょ、クズなんだからその相手くらい確保して来なよ」

 

 唇を尖らせて怒ってはいるけど、割とデレ期なのは年度初めの色々な相手であまり構ってやれなかったせいだな。わかった、と頭を撫でながら約束しておく。

 最悪こころに頼むか、時点がプロとして大変そうなリサに頼むのは少し難易度が高いしアイドル組は誘うことがリスキーだ。

 

「こころといえば、最近集まらないね」

「ん? あぁ、ちょっとな」

「……また何か抱えてる?」

「そんな顔すんな、オレも話がしたいのに顔を合わせてなくてどうするか考えてるだけだ」

 

 ヒナが在学中は縁あってオレが花咲川の天文部員であるこころの面倒も一括で見てたが今はヒナが卒業しちまって、一度もこころから天文部の活動がしたいと連絡が来なくなった。いきなり高松にファミレスで他校の天文部と交流するぞとか言って成功するとは思えねぇからそれはそれでいいんだが。ヒナがいねぇとこころに会いに行く口実も中々ねぇもんだ。

 

「口実とか、気にしてたんだ」

「オイ」

「そっか、でもこころっていつも会いに来る側だったもんね」

「そうなんだよ、それが急に来なくなるとどうしたもんかと悩んじまうわけだ」

「他のヒトも?」

「……そうだな」

 

 紗夜も千聖も元々他校ではあるが羽沢珈琲店に向かえば勝手に来てくれるやつばっかりだった。ヒナなんて天文部の活動と称して駄弁ってばっかりだったし、リサも毎日学校でちょっと言葉を交わしたり、時には天文部に来てくれて二人で話したり。

 けど千聖はシェアハウスでほんの少しとはいえ距離が出来たし、紗夜やリサはプロ入りの慌ただしさの真っ最中、ヒナもなんだかんだと言いながら四月入って一度しか学校に来てねぇ。

 

「本当はそれで会えなくなれば、自然と離れてくれるからいいと思ってた」

「……そう」

「ちょっと前までは望んでた状態になりつつあるんだけどな」

「一成……そっか、寂しいって思ってるんだ」

「認めたくねぇことだけどな」

 

 ヒナに振り回される平日も、リサと話す日常も、千聖や紗夜に会うために羽沢珈琲店へ向かう日々も、こころと活動するためにファミレスへ行くのも、全部手の中にあったからこそ教師として幸せになるだなんて理想を抱いていたんじゃねぇのかってくらいだ。

 大切なもんは、いつだって無くしてから気づく──なんてありきたりな言葉が刺さるよ。

 

「今年はあたしとモカもいなくなっちゃうよ」

「……そうなったらいよいよ学校でお前らと過ごすのも当たり前じゃなくなるんだな」

「うん、このいつも通りももうすぐ終わり」

 

 黄昏がやがて紺色に沈んでしまうように、そして今度は逆向きから青い空へと登っていくように、いつまでも夕日はオレに絶好のロケーションを与えてはくれねぇ。

 モカじゃねぇけど、この時間が永遠であればいいなんて思うほど名残惜しくなる。

 

「センチメンタルだね、いつものクズ教師はどこに行ったの」

「そのクズ教師だって生徒ありきだったってことだよ」

「……うん」

 

 なんだよこのポンコツ、ヒトが弱ってんのに嬉しそうな顔しやがって。

 けど、こんな形でクズ教師(ゆみこ)の気持ちを味わうなんてな。きっと、あいつもオレが上京する時、した後、寂しかったんだろうな。しかもあいつはオレなんかよりよっぽど寂しがりのメンヘラクズ教師だからな。

 

「──後悔しちまうな、んで、後悔しちまうとカッコつける気分にもならねぇ」

「まぁ一成がカッコつけてる時は大抵ロクでもないかダサいし」

「言うようになったな」

「ロクでもない時はカッコいいよ」

「……褒めてねぇだろそれ」

 

 蘭はふふっと笑って、自然とオレの隣にやってきて顎を上げた。その所作でもうどうするつもりなのか分かっちまうオレも敢えて避けることなく、むしろ応えるように蘭との距離をゼロにまでつめる。

 屋上でめくるめく背徳の愛情表現、教師と生徒なんて関係を全部ぶっ壊すような情愛の口づけはほぼ同時に離れることで終わりを告げた。

 

「──あたしの気持ちは、全然変わらなかった」

「卒業するまで待てよ」

「待てないよ、それに生きたいように生きろって説教したの一成でしょ?」

「そうだよな、最近のお前は全部に全力だもんな」

 

 華道もバンドも、しかもバイトまで始めて、しまいには恋にまで全力で青春を過ごすロックな女だ。

 なんだかんだと言って、オレが無駄に説教して課題だなんてカッコつけたこと、お前らみんな真面目に守ってくれるんだもんな。本当に出来た生徒を持ったもんだよ。

 

「せめて進路決まるまでは結論を待てよ」

「……わかった。決まったら、あたしは手加減なんてしない」

「結局、泣かせることになるんだなオレは」

「でもそれがあるから、泣いても笑っても誰かは一成の傍にいられるなら、納得出来るから」

 

 蘭とモカが卒業すれば、その時こそあの時遅らせた戦争が再開される時なんだろう。蘭とヒナは真正面からぶつかって、モカはそれをどういう目で見るんだろうか、千聖はその時には意地張らずに素直に参戦してくれると助かるし、紗夜もそうだ。

 ああ、なんだよ結局、オレは誰も手放す気なんてねぇんだ。足枷になんてなるつもりはねぇけど、ちゃんと言葉に出来ねぇまま今日までずるずる引きずってるけど、オレの気持ちは変わってねぇんだな。

 

「一成が決めてもいいよ、誰かならあたしは納得するから」

「そりゃ無理だな」

「……どうして?」

「オレはきっと、お前らなら誰とでもなんだかんだ最後は幸せになれそうだしな」

 

 もしかしたらそこに教師としての明日はねぇのかもしれない。未成年に手出したから、アイドルに手を出したから、色んな理由でオレは教師なんていうロクでもねぇ職業から強制退場させられるかもな。

 でも、そうだとしても──教師じゃなくなっても誰もオレから去ることはねぇんだよな。

 

「バカ、クズじゃん……優柔不断だし、サイテー」

「そうだな」

「……けど、オレは教師だ、なんてカッコつけない一成が好き」

「蘭とモカ……後はこころか、お前らが卒業するまではオレは教師だってツラはさせてもらうけどな」

「それでいいよ、だって卒業するまではちゃんとセンセイと生徒じゃなきゃいけないし」

 

 なんだかどんどんとオレとしてはよくねぇ方向へと舵を切ってる気がするんだよな。送り出さなきゃなんねぇって思ってたからこそ割り切って五人を囲ってクズムーブとか調子乗ってたところあってな、実のところ。

 それもこれも去るもの追わずとか抜かしてきっちり追いかけちまったオレと、突如知らねぇ男とホテル行ったバカヒナが悪い。

 

「あれはあたしもないとは思ったけど、モカもなんかキレてたし」

「モカはお前とは違う理由だな」

「時々、一成はあたしでも知らないモカの顔を知ってるよね──あたしらの方がよっぽど一緒にいたんだけど」

「ずっと一緒にいた幼馴染でも、いやずっと一緒にいた幼馴染だからこそ見せらんねぇ一面があいつにはあるんだよ」

 

 そもそもストーカーだったのはオレが半ば認めて、諦めてるとも言うが、認めてるから幼馴染ズでも周知の事実となってはいるけど実に三年近くものストーカーをあいつはバレないようにしていたやつだ。あの素を知ってるやつはオレとこころとヒナだけだったはずだ。オレ以外に明かしてるのが二人ってのはそんだけあの天災組を警戒してる証拠だろう。

 

「……あたしは、待つだけは性に合わない」

「おう」

「だからこころの件、あたしにも協力させてほしい」

「珍しいな、ありがてぇけど」

「モカはそういうのあんまり好きじゃないだろうし、そうしたらもう一成の傍で生徒って立場を使えるのはあたしだけだから」

「そんなに気を張らなくても大丈夫だ、きっとこころはオレなんかよりもずっと早く、オレが考えを変え始めてることに気づいてるからな」

「うん」

「今日は練習ねぇんだろ?」

「ない」

「……続きはオレんちでするか?」

「……じゃあ、そうする」

 

 蘭はオレの言葉の裏までちゃんと読み解いてくれて、頬を染めながら頷いた。

 梅雨がくりゃ、もう二年にもなるカラダの関係だというのに蘭は未だに照れて真っ赤になったり、起きぬけの自分の姿に驚いて怒ったりする。不良っぽい見た目してる癖に全然ピュアなところが抜けないのも蘭のいいところだ。ただ、変わったという意味でも蘭は一番だろう。なんせ全部受け身だった最初の頃とは違って艶やかに腰をくねらせてくるんだからな。

 

 

 


 

 

 窓を開け、安物のライターの火を点ける。蘭の前じゃ滅多に吸わねぇが、今日は怖い顔をする美人はすやすやとあどけない寝顔を無防備にも晒している。メッシュを少し撫でると、胸に溢れてくる抑圧してた想いが蓋をぶっ壊そうと叩いてくる。

 ふと、見上げても星は見えねぇ、春の第三角もわかりゃしねぇな。

 

「どうすりゃいいもんかね」

『簡単な方法があるわよ』

「簡単な方法?」

『ええ、きっとそのためにはあなたがまた奔走しなければならないでしょうけれど』

「それは簡単とは言わねぇんだよなぁ」

 

 深夜の電話の相手と言えば白鷺千聖、風呂に入ってることでぎょっとしたがどうやら帰りが遅くなったためのんびり浸かっているらしい。オレの反応が面白かったのか千聖はくすくすとからかうような笑い声を出す。

 悪かったよ、疑ってるわけじゃねぇんだけどびっくりしちまっただけで。

 

『怒ってなんてないわ、相手がいたのか、なんて言われたら別だけれど』

「一途ぶんなよクソビッチ」

『一途よ、私には一成さんだけだもの』

「そりゃどうも」

 

 前も思ったことだが、今年度に入って四月も中盤を過ぎて今更になっちまったが五人全員を抱いて、言葉を交わして、改めてオレは教師としての在り方──違うな、オレ個人の在り方を考え直さねぇといけないと強く感じていた。

 今のオレじゃもう黄昏ティーチャーとしての理想を体現することは不可能だ。そのために清瀬一成(オレ)を切り売りして生徒のためにと大人ぶるのは通用しねぇ。古いやり方じゃもう誰も幸せになんてなっちゃくれねぇんだ。

 

『前から通用してないわよ』

「わかんねぇだろ、数年経ったら丸く収まるかもしれねぇ」

『それを一番信じていられないのは誰かしらね』

「オレだな」

 

 特にヒナ、紗夜、千聖には卒業するまでは構ってやると守れるかもわからねぇ口約束を交わしたからわかる。

 卒業したことで少し距離が出来たものの、()()()()オレを求めてくる。手頃な同年代なんて見向きもせずに。それはさっきの千聖の言葉でも察せることだ。

 

『でも、そう……五人全員とちゃんと話したのね?』

「ヒナとはくだらねぇ話だけだったけどな」

『カラダでは語りあったのでしょう?』

「ヤな言い方すんな」

『ならきっと、フラグは立った、というところね』

 

 なんのフラグだと問いかけても結局千聖は答えてくれずに電話を切られた。つかギャルゲーやってんじゃねぇんだぞこっちは。いいのか攻略キャラ扱いしてやるからなお前も。

 そんな電波に乗らない愚痴を紫煙と一緒に夜空に溶かしていく。紺色に覆われた星の少ない空を見て、オレは今日は金星がキレイだったなと思い出した。日が沈んですぐの西の空に浮かんだ一番星、宵の明星、羽沢が見つけるのが上手だって言ってたな。

 

「……オレも見つけたんだけどな」

 

 ──金星は一等星の一千倍明るく、古代の人々の中では太陽、月と合わせて三位一体で信仰されてきた特別な星であり太陽や月といった最大の天体と同格の存在として扱われていたんですよ。

 そんな後輩の蘊蓄を思い出した。金星、美しく輝くあいつのもう一側面、いつもはピカピカの太陽の笑顔を放つあいつが静かに眼を輝かせる時は正しく一番星だ。

 




おさらいキャラ紹介

○美竹蘭
 作中でも言われていた通りツンデレのポンコツ……じゃなくて反骨の赤メッシュちゃん。誰かさん同様最近は落ち着いてきてるためポンコツでもいいかも。
 クズ教師にとっては個人としてのリスタートを切るために重要な存在、教師としてのリスタートはヒナ、皮肉なことに教師として接そうとしていた蘭が個人でカラダの関係を結んでいた退廃的なヒナが教師の部分を司っている。
 色々あってモカやらヒナやら千聖やらこころやら結良(オリキャラ)にメインヒロインのお株を奪われてメインすら減っている現状だったが今作はモカが非協力的なため羽丘にいる味方は実質蘭のみ。作者にもメインはモカだヒナだこころだ言われてきた過去を越えることが出来るのか!

○川澄由美子
 クズ教師オリジン、オリキャラ。クズの高校生時代の先生であり元カノ、彼が大学一年生の後期中に故人となっている。トラウマであり心の支え、後の時系列では守護霊化計画を遂行中のため出番自体は割とある。
 性格は明るく奔放、屋上でタバコを吸っている不良教師、そのうえパーフェクトクズ教師であるが故にクズを幸せにする以上に自分の幸せを感じていた。クズからはヒナをちょっとまともにして大人にしたらこうなる、と言われている。

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