青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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ついに隠しヒロインの登場


⑤太陽プラン

 桜はもうとっくにシーズンが終わり、徐々に朝夜が寒いと思う日も少なくなってきた。冬眠していた動植物も元気に活動を始めており、春の暖かい太陽を求めて飛び出しているかのようだった。

 ──そんな暖かい日、セーターを着たものの絶対に後悔すると思い再びクローゼットに戻したオレは近所のファミレスへと足を運んでいた。

 

「いらっしゃいま……あ、かずせんせ〜」

「広町、バイトか」

「そーなんです、あ、しろちゃんが探してましたよ〜」

「……なんでだ」

 

 探される理由が本気でわからねぇんだけど、つか倉田と連絡先を交換してなかったなということに今気づいた。広町、桐ヶ谷は押し付けられて、二葉はなんやかんやあった時に流れでそれぞれ知っているんだが。

 じゃなくて、今日の目的はファミレスでも広町でもなく、そこにいるであろう太陽を求めて家から出てきたんだ。

 

「それじゃあ、えーっと、こちらです〜」

「おう」

「──先生!」

 

 手で示された席に向かうと、元気な声が久しぶりにオレの耳を通り抜けていった。

 弦巻こころ──あの五人がヒロインとするならば言わば隠れヒロインとも言うべき、七番目の女、手は出してねぇっつってんだろ。

 そんな自称愛人枠の太陽サマは非常ににこにことオレを手招いてきて、向かい側に腰を下ろすかどうかのタイミングで声を掛けてくる。

 

「随分と久しぶりに感じてしまうわね!」

「三月に会ったばっかりだよ」

「一ヶ月は久しぶりだわ」

「そうかよ」

 

 じゃあ久しぶりってことでいいよ。

 思ったよりもすんなり会うことが出来たのは蘭のお陰だった。何かしらの言葉を掛けてくれて、それでこころからの返事がやってきたんだ。内容は端的だったけどな。

 

「で、デートしましょう! の誘いのままここに来たわけだが」

「そのままよ、あたしは先生とデートがしたかったの」

「そうか」

 

 裏表がないからコイツとの会話はなんも考えなくていいから楽だ。こころの言葉は全てが嘘や偽りのねぇ笑顔の魔法だ。隠し事はするけど、それだって訊かれてしまえば正直にしゃべり出す。

 根っこから、弦巻こころはそういうヤツなんだ。

 

「オレはてっきり話がしたいの、だと思ってたから逆に身構えちまったよ」

「お話もしたかったけれど、デートがしたかったわ、本当はお花見したかったの」

「そりゃ悪かったな……オレが悪かったのか?」

「忙しそうにしていたって日菜が教えてくれたのよ」

「別に遠慮なんて、お前はもうちょいわがままでもいいんだけどな」

「ならあたしのこと、日菜たちのようにしてもいいわよ?」

「それはわがまますぎる」

 

 お前がなんと言おうと弦巻こころは弦巻家のご令嬢であり大事な大事な一人娘だ。それをオレが手折り、手籠めにしたとあれば大変なことだ。こちとら他に五人囲んでるクズ野郎だからな。

 ただコイツの期限までそう時間がねぇのが困りものだ。コイツは、あろうとことか一昨年の冬の入り口くれぇにとんでもねぇ告白してきたようなヤツだ。

 

「お前をどうにかしたら結婚させられかねん」

「なるほど、あたしとえっちなことをしたら一成は結婚してくれるのね!」

「驚くほどポジティブに解釈してくんな」

「あたしは一成と結婚したいの!」

「知ってる、知ってるから丁重にお断りしたんだろうが」

 

 ──もう一度だけ、あたしの十八の誕生日に訊くわ。

 それがこころと交わしたバトル。コイツが二年の時はそれを押し切ろうと本当に振り回された。巻き込まれて、笑って、怒って、抱きしめた回数も、流されて唇を交わしたことだってある。

 

「だからこそ、お断りだ」

「あたしはダメなのかしら?」

「そうじゃねぇ、そうじゃねぇから……これ以上、オレが抱えてどうなるかわかんねぇ泥舟に乗せらんねぇんだよ」

「どの舟だってそうよ、何処へ行くかなんてわからないから先生は明日を信じてあげられないのでしょう?」

 

 ド正論で返されて口を開けなくなってしまう。コイツは本当に、時折誰よりも大人になりやがる。

 その眼は間違いなく、明日を信じている。()()()()()()()()()()()()()、それでもキラキラの瞳で今日よりも良いことがあると信じて疑わねぇまっすぐな眼だ。

 

「いっそ野球チームやサッカーチーム作るくらいの気持ちの方がいいと思うわ!」

「今でも定員オーバーだバカ野郎」

「まだ大丈夫そうだけれど」

「この国の法律(ルール)的にだよ」

 

 日本は一夫一妻制だ、ハーレムなんて認めてたまるか。

 蘭だって誰か一人ならみんな納得すると言ってた。全員を切り離して歩き出すのが無理ならせめて、せめて誰か一人を抱きしめてやりてぇんだ。それで罰を受けるのはオレ一人で済むだろうしな。

 

「……本当に、変わったのね!」

「理想の話か?」

「ええ、黄昏みたいな教師になりたいって言っていた先生と今の先生は別人みたいだわ」

「いいことなのか悪いことなのか」

「あたしにとっては、とーっても、いいことよ!」

「そうか……そうだろうな」

 

 オレの夢をこころは一度は否定しなかった。モカと紗夜のこと、相手を探してほしいと頼んだくらいだ。

 でも、去年度のドタバタした一年はそんなオレの決意をぶち壊すには十分な破壊力のある一年だったよ。その片棒をお前も担いだんだからな。お前のルール違反をオレはちょっとだけ怒ってんだからな。

 

「お前は関わるなっつったんだがな」

「関わってないわよ」

「モニカの件とリサの件、忘れたとは言わせねぇ」

「あなたが蚊帳の中に入れたのは五人よ」

「……ああ言えばこう言う」

「先生に教わったことを実践しているだけなのに、どうして怒るのかしら?」

 

 うぜぇ、出来た生徒だけに余計にうぜぇ。

 確かにオレはどっちかというとああ言えばこう言うタイプ、正論じゃ片付かないことを屁理屈と暴論でなんとかしようとするタイプだ、そんなの自覚してるし意図的にやってる。けど見様見真似で生徒にやられるのは違うんだよなぁ。

 

「暴論サンドイッチの使い手なのは認める、免許皆伝してやる」

「ふふ、嬉しいわね」

「褒めてねぇんだよ」

「それで、ましろに先生を紹介したことと、リサに自分の気持ちを気づかせてあげたことが、一成は不満なのね?」

「なんで訊くんだよ当たり前だろ」

 

 お陰で倉田は連絡先を交換してねぇからなんとか半年オーバー回避出来てるが、リサはオレがもうどうすることも出来ねぇ深みにまでハマってんだよ。

 オレだって、お前のこともリサのことも嫌いじゃねぇ、むしろカラダの関係はねぇがあいつらと同格の存在だとさえ思ってる。特に意識してるわけじゃなかったが結果的に下の名前で呼んでるお前らは特別枠だ。

 

「ただでさえ作戦崩壊してんのに増やしてどうすんだよって文句が言いたかったんだ、ああやっと言えた」

「そんなの、一成を笑顔にして、あたしが一成と一緒にいるために決まっているわ!」

「ヒナの件まで仕込んでたら黒幕だぞ、マジで」

「あれは日菜の不満であって、あたしやモカのせいじゃないわ」

「モカは疑ってねぇ、それが千聖や紗夜だったら疑ってたけどな」

 

 ただ千聖や紗夜がそんなもんで靡くような女じゃねぇってことはヤンデレクソストーカーちゃんも想定済みだろうが、ヒナは予想外だったな。ただあいつは本当にヘラると何しでかすかわかんねぇようなヤツだしオレなんかが理解出来る思考回路はしてねぇんだよな。伊達に一度暴走して荒らし回って自殺未遂かましたやつじゃねぇな。

 

「でも先生に止められて以来、ヒナはすごく幸せそうだったわ」

「そうだな、生徒会長の仕事と天文部の両立のために本気になるって宣言した」

 

 ──やりたいことはぜーんぶやっちゃえばいいんだよ! だって諦めないで本気になった方がるんってするもんね! 

 その言葉通り、浮気騒動の後は生徒会長としての仕事のギアを上げてオレのところに来てはいつもの三段論法だったもんな。生徒会長が吸うなっつってんのにやめねぇんだから。

 

「それに比べて蘭は去年は大人しかったな」

「きっと、卒業していく日菜に譲ったんだわ」

「あいつらしい」

 

 ──それが一成のいつも通りなんだから、カッコつけてればいいんだよ。

 蘭はそんな優しいけどロックな言葉でオレの背中を押してくれた。華道とバンド、バイト、あいつも色んなものに全力でモカとぶつかったこともあったけど、基本はヒナに譲ってた。けど今年こそは自分達の番だって思ってんだろうな。

 

「モカは、まだ?」

「まだっつうかあいつは土壇場までそうだよ」

「先生と一緒なのよモカは、だからこそ先生がなんとかしてあげるしかないわ」

 

 ──卒業したら、日菜さんはせんせーに会いに来てくれるのかな。千聖さんも、紗夜さんも、リサさんもこころんだって。

 ポツリと零したあいつの寂しそうな言葉は、けど十分にお前らのことを認めてる証拠なんだよな。モカには苦戦させられるだろうけどそこはオレだけじゃねぇって信じてるからな。

 

「結局、千聖はオレなんとかしてやるって意味も変わっちまったしな」

「けれど千聖はすごく笑顔になったわ」

「あの顔見てるとオレが一番なんだなって思い知らされたよ」

 

 ──やっぱりあなたがいいわ。この先に何が待ち受けていようと、私は清瀬一成(あなた)に恋をしていたい。

 そんなことを言って相変わらずの大魔王(おとめ)っぷりに拍車を掛けてきた。でもまぁ、マネージャーとの関係を清算し切るには蜂蜜みたいな幸せと秘密の恋に浸らせていた方が、傷だらけのあいつにはいいのかもな。

 

「紗夜は逆に変わらないというかそのまま、真っ当に大人になってるな」

「ふふ、紗夜から聴いたわ、たくさん弱いところを見せてくれたって」

「そんなこと共有すんな」

 

 ──私にとって最良とは、羽ばたける居場所というのは、一成さんの傍にしかありませんから。

 夕暮れの背景にその笑顔を向けられた時は思わず泣きそうになっちまったよ。プロになって、たくさんの大人と、異性と関わることが多くなってもあいつはオレにしかねぇ光を見つけては戻ってきちまうんだろうな。紗夜の覚悟は、眩しくも優しい光だった。

 

「先生」

「……なんだよ」

「もうそろそろ、答えは見つかりそうかしら?」

「どうだろうな、もうちょっと、せめてお前らが卒業するまで長引かせてもいいだろ?」

「ええ、でもあたしの告白の期限もあるわよ?」

「じゃあ卒業まで延長してやる」

「……ふふ、なら生徒である間は待っててあげるわ」

 

 こころの言いたいことは伝わってきた。このままじゃオレは「正しい間違い」というものと戦わなきゃいけねぇんだ。五人どころかリサもこころも抱き込んで幸せにしてぇなんてバカげた妄想を現実にするために必要なもんはいくつかあるんだよな。

 明日を信じる気持ち、ありのままを受け入れようとする努力、間違いをそのまま正解にする覚悟、前に進んで傷つくことを恐れない胆力、やりたいことにまっすぐぶつかれる心、自分の幸せを掴む意思、そして──子どもみたいにでけぇ夢を持つことだ。

 

「その全部が集まればきっと、無敵で笑顔の魔法が使えるようになるわ!」

「今のオレには全部入手困難だ。まるで輝夜姫の婚姻を狙う貴公子の気分だな」

「造り物の偽物じゃ怒ってしまうわ!」

「……ああ」

 

 あと、こころには言わなかったが最後にもう一個だけ必要なもんがある。それはこころの言う無敵で笑顔の魔法が揃った時には自然と手元にあるんだろうけどな。

 ただ、これは「正しい間違い」と戦うためのアイテムじゃねぇんだよな。まぁ戦うんじゃなくてこっちの方がよっぽどオレの手法に近いのは意図されてねぇと信じよう。

 

「ところで、まだ新しい天文部員とは折り合いがついていないのかしら?」

「もうちょっと待ってくれ、なんかずっと思い詰めてるみたいなんだ」

「わかったわ──うふふ」

「なんだよ急に」

「ましろにその子も合わせたら、野球チームが出来てしまうわ!」

「ふざけんな、そんな最悪のチームの監督なんて死んでもごめんだよ」

 

 せめてバスケかバレーで終わらせておいてくれ。団体競技が出来るほど元生徒と生徒侍らせて買うのは顰蹙だけなんだよな。

 タチの悪い冗談をオレは躱しつつ、その日は気が済むまでこころと言葉を交わした。

 やっぱりこころはいつまで経ってもピカピカの太陽サマだ。オレに魔法を教えてくれたあいつにはいつまでも勝てる気がしねぇよ。

 

 

 




明日を信じる気持ち、ありのままを受け入れようとする努力、間違いをそのまま正解にする覚悟、前に進んで傷つくことを恐れない胆力、やりたいことにまっすぐぶつかれる心、自分の幸せを掴む意思、子どもみたいにでけぇ夢

これらはとある順番でそれぞれキャラクターに対応させています。ちなみに無敵で笑顔の魔法がこころですからそれ以外、となります。

おさらいキャラ紹介
○弦巻こころ
 無敵のヒーローにして笑顔の魔法使い。そして自称愛人枠の隠しヒロイン。
 日菜と共に天文部として活動する中で出会い、そして興味を持ち弦巻パワーで一時期花咲川にクズ教師を強制召喚した経歴を持つ。そして生徒として関わっていき千聖や日菜の話を受けて気持ちを芽吹かせていった。
○SEASON3設定と前作の違い。
 前作はその後、教師としての幸せと夢を掴むためにクズ教師によって遠ざけられ、逃げられることで蚊帳の外に置かれてしまった結果、笑顔が消えていくのをただ見ていることしか出来ずに後悔を抱いて「第八章」という大逆転劇を起こす。
 だが今回は蚊帳の外を利用し(このあたりは日菜と千聖の入れ知恵)更に外からましろやらリサやらを投げつけクズ教師をなぁなぁのうちに籠絡、すっかり六章以前のポジションに戻っているが、クズも諦めているため公認。
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