青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3 作:黒マメファナ
お疲れ様〜と明るい建物からすっかり暗くなった道へと出てくる影を見つけたオレはそっと先端の赤色をポケットに入っていた携帯灰皿に押し付けて消していく。車内じゃ吸わねぇとはいえ、匂いが気になるかと少し念入りに暗がりの中テキトーに消臭剤をシートに吹きかけていると後ろから声を掛けられた。
「……やっぱり、カズセンセーだ」
「よっ、向かえに来た」
「なんも連絡もらってないんですケド」
「あ? 紗夜からなんも聞いてねぇの?」
「んー……なんか今日は楽器を抱えて電車に乗らずに済みそうですね、とか言われたね」
「なんで遠回しなんだよ……」
その紗夜は紗夜でもう帰っちまったけどな。二人乗せるつもりだったからアテが外れたが、まぁ気を利かせてくれたってことなんだろう。当のリサはもじもじしているのは予想できなかったんだろうか。
夜道での立ち話もアレだし乗れよと促すと少し迷ってから後部座席を開けて楽器を丁寧に乗せてからその横に座った。
「なんでわざわざ迎えに来てくれたの?」
「リサに会いたくなってな」
「……じょ、じょーだん……だよね?」
「その解釈はお任せする」
去年に千聖やらモカやらに散々言われていたし、こころとファミレスデートで確信したことを本人に確認するために顔が見たかったってのもあるんだよな。
まぁ結果はクロだ。千聖のシロクロ判定はアテにならん時があるが今回はアタリだったな。
「迷惑だったか、卒業した学校の教師にこんなことされんの」
「め、迷惑なんて……そんなわけない。だいたい、卒業したくらいじゃ関わりやめらんねぇからって言ったのセンセーじゃん」
「そうだな」
これが卒業を期に離れよう、区切りがついたんだって割り切ってんならオレもわざわざ顔を見せに行ったりしねぇ。そうなりゃ本当にただの教師と生徒の関係で、そこに伸ばす腕は必要とされてねぇしな。
──けどコイツはそんなカラっとした気持ちなんかじゃねぇ、離れていれば忘れられるかもしれない、忘れなきゃいけない、そう考えてる顔だ。
「……正直、お前になんか言うのは苦手だ」
「え?」
「教師として上から目線で語る時には多少、ブーメラン投げることもあるさ。自分が出来てねぇことを、だからこそガキにやれよって言えなきゃいけねぇ」
「うん」
「けどお前は、リサはあまりにもオレがやってきた後悔をそのままなぞろうとしてくる。だから苦手なんだ」
離れれば忘れてくれる──そう思って突き放した女がいた。大学の三年のGW前、ちょうど今くらいから四年の卒業する直前まで付き合った二つ下の後輩のことだ。
正直、今でもふとした時に思い出すよ。あの時オレが信じてやれなくて、
「オレは忘れてなんてやらねぇ」
「……センセー」
「生憎とな、いつもは増やすつもりはねぇとかこれ以上はとか泣き言ばっかり聞かせてるけど、オレは魔法使いの師匠にもらった言葉があるんだよ」
「……それ、こころじゃん」
「うるせぇ、聞け──オレのことを好きになったみんなを笑顔にしなくちゃいけねぇんだよオレは」
「──っ!」
その言葉にオレも痛くなる。香織、あの性格のいい後輩兼羽丘の元同僚が時折、一緒に何処へ行っただとかご飯食べてるだとか教えてくる度にきっと、アイツも同じ気持ちを持ってて、つか今でも忘れてなんてくれてねぇことがよく分かる。なんせリサが忘れてほしいだなんてバカなことを言いだしたらオレは怒るんだからな。
「……なんで」
「それがオレが理想の教師として、そしてオレ自身の幸せのために必要なことなんだよ」
「だからって、前のセンセーなら追いかけてなんて来なかった癖に」
「前のオレならな、だけどオレは気付かされたんだよ……それじゃあ、リサを泣かせるだけで笑顔になんて出来ねぇってな」
今までは真正面からぶつかってくるヤツばっかりだから忘れてたけど、中にはオレやリサみてぇに不安になると好きなやつから逃げちまうような困ったヤツがいるんだよ。だから今までのやり方、あの積極的なバカどもと同じやり方じゃ通用しねぇ。
つまりは前のオレから今のオレになったのはお前のせいってことにもなるんだよリサ。
「後、もう一個めっちゃムカついてることがある」
「……な、なに?」
「待ってたオレも悪い、けど松原とモカに教えてもらってたんだよ……お前の元カレのこと」
「あ……センセー知ってて……?」
「前、会ったやつだろ」
「……うん」
あれは冬の、二学期末で忙しくなるからってわがままを発動したヒナと三人でショッピングモールへ足を運んだ時のことだったな。
オレが上司からの電話を取ってる間にリサに絡んでヒナに撃退されてた男がいた。最初はなんでもねぇナンパかと思ってたんだがその時にモカから連絡が来てたんだよ。これにはストーカー行為もお咎めなしのファインプレーだって褒めてやったくれぇだ。
「なんで言わなかった、別れてから一度も」
「だ……って、センセーは教師で、ヒナやみんなの相手でいっつも忙しそうで」
「最初の別れた時、屋上でオレと話した時だったってのもモカから聞いた」
「……モカ〜、センセーのストーカー、口軽すぎじゃない……?」
「必要があるって思ったんだろ」
別れてから二年だ、ほぼ二年、そんな間ずっとオレが言うまで黙ってて、もしかして墓まで持ってくつもりだったのか。全部、苦しい過去も、それで苦しめられて助けて欲しいって思ってる気持ちも、そんな中で自分が持ってる好きって気持ちまで、全部胸に仕舞って生きてくつもりかよ。
「それが……大人なんでしょ?」
「それは
「誰か、誰でもいいからセンセーの元カノの話全部知ってるヒトいる?」
「……いねぇ」
ほら、とまさかの論破された。自分語りが苦手な気持ちはオレもよくわかる、わかるけどそんなの胸に仕舞ってもいつか溢れ出す。オレが由美子のことで耐えきれなくなっちまうように、今お前が泣きそうになってるように、傷になるに決まってる。
なんせ失敗例がお前の眼の前で運転してんだからな。
「せ、センセーに恋愛に関して説教されたくない!」
「んだと、失敗してるから説教してるんだろうが」
「それ、お節介って言うんだケド」
「そりゃどうも、教師がいつまでも不干渉貫くわけねぇだろ」
「もうアタシ大学生、卒業したし」
「あっそう、じゃあもう連絡取らなくていいんだな」
「……そ、それは……ヤダ」
「急に素直になるな、風邪引くだろ」
リサの矛盾点、一番は未だに連絡が来ることだろ。オレからしろって言ってるわけでも構ってるわけでもねぇのにインスタにでも上げる感覚でオフの紗夜やら湊やら、白金がカレシといちゃついてる場面やら宇田川妹が姉と同じポーズ取ってるもの、それだけじゃなくてヒナや千聖、松原、羽沢に上原、丸山、桐ヶ谷にオレの知らねぇやつもたくさん。
卒業してからどんだけだ、まだ四月末だぞ正気かって思ったレベルで日記の如く日常が挟まってくる。それで教師と生徒です、卒業したら他人ですってなるわけねぇだろバカか。
「……それが、センセーとアタシの繋がりだったから」
「そうだな、自分のことを伝える練習をしろって言ったもんな」
「ん……卒業しても、終わりになんて出来なくて……でも大学じゃ、センセーはいなくて」
「それで、ちょっとした時間にオレにアレを送り付けてたと」
「あ、あはは……アタシ、結構重いからさ……センセーに依存しちゃうって絶対思ってた」
重さは気にならねぇ──ってのはちょっとカッコつけすぎだけどな。アイツらみんな重いんだよ、だからその重さに耐えかねて投げ出すことはねぇよ。
依存してるって言うならもっとそうだ。アイツらオレを薬物かなんかだと思ってるのかってくらいに求めてきやがって。中毒性があるって知ってたらオレだってこんな手法は取らなかったさ。
「……そっか、あ、コンビニ寄りたい」
「おう、じゃあ次見つけたら止まる」
「お願い」
急にどうしたのかと言われた通り車を止めて、リサは素早く買い物を済ませて出てきた。手に持ってたのはビニール袋とカフェオレと抹茶オレ、その中でカフェオレを渡してきつつ助手席に座ってドリンクホルダーに抹茶オレを入れた。
もう家までほんの数分だが、アイツらと同じように華を咲かせた。緋色の椿、長い冬を耐えてその雪に負けねぇようにハッとするような彩りを見せる強い華だ。
「センセーが唆したんだから、責任取ってよ?」
「責任とは……もしかして、そういうことか?」
「モチロン☆ アタシは、六番目に入る気満々だからね!」
「……もう好きにしてくれ、リサは正直、覚悟してたよ」
「でもひとまず、今日は帰って……また羽丘に遊びに行くから」
「おういつでも来い、今度は待っててやる」
「勇気出なかったら、会いに来てくれると嬉しいケド」
「ちゃんと助けてって言えるようになれよ」
「難しいこと言うね」
オレはリサの言葉に少しだけ笑みが漏れた。助けてって言うのは難しいよな、きっとそれがわかるのはオレが助けも求められずに逃げてばかっりで自分の幸せなんて考えてねぇからなんだろう。
けどこれからはリサが変わってくれる。依存でもいい、重たくてもいいから、ちゃんと言葉にしてくれる。
「後、二人で歩くなら外でセンセーはやめろよ」
「はいはい……じゃあ、呼び捨てにしちゃおうカナ〜」
「好きにしろ」
「はーい、アタシが好きになっちゃったんだから、今まで以上に愛してくれないと泣いちゃうから……よろしくね一成☆」
「明るく言う事じゃねぇな」
「まぁまぁ、アタシを構っておけば有利なこともいっぱいあるんじゃない?」
「それはそうだな、リサの交友関係は会った時からずっと助かってるからな」
こうして、今井リサが六番目の席を予約しちまった。七番の席はねぇってことを言っておかねぇと座りたそうにしてるやつがいるからな。
いや下手するとこころはこれでリサが六番目で増やしたのにあたしはダメなの攻撃をしてくる予兆か? どうやって断ろうか、本当に悩ましい。太陽サマはいつだって本気だからな。
「そういや、こころとコソコソなにやってたんだ?」
「ん? 気になっちゃう?」
「そりゃな、珍しい組み合わせだしこころがコソコソって時点でとんでもなく怪しい」
「でも、特になんもしてないよ。アタシはこころから一成のことが好きなら少しでも、アタシを頭に留めておくことが大事よって言われて」
「おう」
「だからあたしと一緒に遊びましょう……って、それだけ」
「……はぁ、マジか」
「最初は意味わかんないなぁとは思ってて、でも蘭やモカ、ヒナからも連絡来て、紗夜からも一成がアタシのこと気にしてくれてるって教えてもらってさ」
「こころのヤツ……やってくれたな」
つまり情報すらブラフで、オレがリサを構いたくなるように誘導されてたってことだな。後はリサには隠し事もしてんのはまるわかりだな。その情報でオレが求めたのはリサとこころが何をしてるかだ。リサだけじゃなくて自分も構われたがって、今度こそ隠しヒロインからメインに昇格する気で勝負を掛けてきてるな。
「こころが隠し、なら……アタシはサブ?」
「メイン昇格おめでとさん」
「え〜投げやりだ〜?」
「うるせぇ、卒業で減る予定だったのに増えてるのはオレとしては嬉しいって思いづれぇっての」
第一、何をあっさり認めてやがるんだよ今の状況を。リサは前になんで一人を決めないの、フツーじゃないって怒ってたんだろうが。手のひら返して六番目にちゃっかり収まりやがって。
──だがそんな文句はリサの家の前で車を止めた瞬間に、全部リサの口ん中に吸い取られていった。
「……ん、それでもいいって思えたから、アタシは一成が好きなんだよ」
「リサ……」
「え、ちょ……っん!?」
何かが切れてリサが恥じらいつつの一回を塗り替えるようにオレから誘うような濃密な複数回を、息をするタイミングすら奪うくらいに繰り返していく。窓に背中を押し付けてしまうほどの勢いだったが驚いたのはほんの一瞬でリサはオレにしがみついて受け入れてくれる。
「……急に」
「ムラっとしちまった」
「ム……へ、変態!」
「お前が熱烈すぎてな」
「センセーの方が激しいじゃん」
「リサの本当の熱をオレが表すとこのくれぇじゃ足りなさそうなんでな」
「……ばか」
「バカで、クズだよオレは」
「知ってる……二年前から」
リサが積み重ねてきた、募らせてきた気持ち、助けて欲しいって気持ちはこれくらいじゃ足りねぇのはわかってる。オレはコイツの二年間を、もっと言うならそんな後悔をしちまった恋の期間を含めればおおよそ三年間を、埋めなきゃなんねぇ。重たい仕事だ、少なくとも教師の仕事じゃねぇな。
だが、そんな教師の仕事じゃねぇからこそ、黄昏を目指したオレが汲み取ってやるんだ。
なんせオレはただの教師じゃなくて、女子生徒を絆して食べちまうような悪いクズ教師だからな。
始まって七話でカラダの関係増やしてどうすんだクズ。
おさらいキャラ紹介
○今井リサ
サブヒロインポジのハイスペックなんちゃってギャル。世話焼きで交友関係が広いことから在学中なにかとクズによって便利使いされていた都合の良い女。
過去に浮気の末お節介なことに嫌気が差したとカレシに捨てられ、それが傷になっていた。そのためヒナ以外の生徒ともカラダの関係を持つクズ教師から距離を取りつつも離れてはいないという状態が続いていたが三年時にこころに唆されてせめて後悔のないように恋をしようと傍に居続けた。
○前作との違い
前作ではこころを蚊帳の外に置いたためリサに構う余裕がなく放置され、結果としてハッピーエンドの中で唯一傷ついたまま終わっている可哀想な扱い。
だったので救済しました(正直)
○清瀬一成の過去
本人後悔が癒えていないため名前すら出さないが「
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