青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3   作:黒マメファナ

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第一章最終話です


⑦欲張ティーチャー

 高松は今日はいい、と断ったため天文部の活動がなくなったタイミングで、天文部でモカと蘭を健全な方で構ってやることにした。いやモカは健全とは程遠いが、なんせヒトの膝の上にまたがってきて抱きついてやがるからな。

 そんなモカをややうらめし気に眺めつつ、蘭はノートに眼を落としていた。

 

「らーん〜、あれだけ始めのテストはちゃんとしなきゃ〜って話してたのに〜」

「うるさい、勉強しないなら先帰ってて」

「ひどーい、モカちゃん泣いちゃう〜、よよよ〜」

「せめて一成から降りて目を合わせてから言いなよ」

「はいはい、集中しろ、モカも不必要に蘭を煽るな」

「は〜い、んふふ〜パン食べる〜? モカちゃん食べる〜?」

「どっちも遠慮しとく」

 

 蘭がイライラしてるからやめとけって。これでも一年の時に比べて蘭は劇的に授業態度も成績も良くはなった。流石華道の家元の娘さん、地頭はいいんだがそれでも一年の時に比べてという範囲に過ぎねぇ。実力テストが散々だったこととGW過ぎたらすぐ中間だってのにライブだ家のことだとやること満載な蘭に担任として、そしてオレ個人としてタダで私塾を開いてやっていた。まぁ邪魔者はいるんだが。

 

「モカは……まぁ訊くまでもねぇな」

「んふふ〜、赤点は取らないし〜、せんせーの授業なら満点取れるよ〜」

「不正疑われるし実際にお前はストーキングによる不正だろうが」

「実力だよ〜、せんせーなら出しそうな場所わかっちゃうも〜ん」

「……ヒナ辺りに相談しようかな」

 

 なんせ不正が疑われるのはモカだけじゃなくてオレもだからな。誰が好き好んでガキに答えを教えてあげなきゃならねぇんだよ。こちとら受験生抱えてるんだ、んなことしたって困るのはガキ本人だろうが。

 甘い顔したって惚れられてヤレるくらいの特典しかねぇんだから、メリットねぇだろ。

 

「サイテー」

「実体験?」

「又聞きだ」

「……サイテー」

「否定しねぇ」

「羽丘の先生ってさ〜、なんでそんなのばっかりなの〜?」

 

 縁故採用してる時点で察しろ。オレのことだけど、ただ悲しいことにガキとヤるためだろうがなんだろうが教員免許持ってて学校側から雇われてたら教師ってツラ出来ちまうんだよな。オレだって自分の学校の女子三人とヤリまくって休日デートとかして、長期休みには泊りがけの旅行までしてんのに三年の担任だからな。世の中腐ってる。

 

「ほんとに、しかもあんなテキトーな担任でさ」

「ま、モカちゃんママは、よかったね〜、三年も続くといいね〜とか言ってくれてたけど〜」

「モカのお母さんは、よくコレを信用出来るよね」

「コレってなんだこの野郎」

 

 確かにやってることは最低最悪もいいところのクズ教師だってのは認めるが、そのクズ教師に個別授業をタダでしてもらってるやつが言っていい文句じゃねぇんだよ。

 いいんだぜ、別に困るのはオレと親御さんとバンドメンバーとファンなんだからな。

 

「サイテー、脅迫してくるんだけどこのクズ教師」

「わ〜、単位片手にえっちしよ〜と企むクズですな〜、よくあるやつ〜」

「創作の世界ではな」

「……なにそれ」

 

 蘭は性知識こそ随分増えたけど、まだまだそういう妄想めいた創作の世界のジャンルのことはほとんど知らねぇ、多分コスプレとか調教とかそういうのだけだろうな、誰の影響だろうか。こんな純粋な中身箱入りお嬢を家に上げて無防備にエロ本やらを片付けなかった最低男がいるんだよなぁ。

 

「そういうのこそ一成好きそうだけど」

「オレの性癖なんだと思ってんの、オレは無理やりはシュミじゃないね」

「確かにね〜、ごーいんなのは好きだけどね〜」

「うるせぇ」

「あたしもすき〜」

「ねぇ、集中出来ないんだけど」

「悪い」

 

 そもそもなんで猥談めいたものを生徒としなきゃならねぇんだろうな。後はそろそろモカは退いてくれると嬉しいんだが、そんな不健全の塊みてぇな個人指導を繰り返していると突如として天文部のドアが勢いよく開かれ、誰か確認する前に元気の良い声がする。

 三者三様、反応としてはそんな感じだ。オレ達側も、来客者側も。

 

「あら!」

「センセー、それは変態すぎない?」

「カズくんサイテーだ、蘭ちゃんかわいそー」

「誤解だ」

「あんしんしてくださ〜い、はいってませ〜ん」

「集中出来なくて困ってるんですよね、なんとかしてください」

 

 ヒナ、リサ、こころの三人が来て更に賑やかさを増していく。

 まだ二人きりじゃねぇと恥ずかしいのか、リサがいの一番にオレから蘭の指導を奪っていく。まぁモカがこれだからありがたいといえばそうなんだが。モカが漸くオレの上から退いて、ほっと息を吐いた。

 

「ん〜、結構押し付けた割には〜耐えてたね〜」

「……ふざけんな」

 

 本気だったらキスしてきたら一発だってこともわかり切ってる癖にわざとらしいこと言いやがって。

 つか今日、リサが来る予定だったのは知ってたが二人ほど余計なのが着いてきてることに関してはオレはツッコミ入れてやった方がいいか?

 

「カズくんGW暇でしょ?」

「暇かどうかで言えば割りと暇じゃねぇが、四月頭ほどじゃねぇな」

「天文部は、活動しないのかしら?」

「しねぇんじゃねぇかな、そこは訊いてみる……で、ヤな予感したが」

 

 この人数単位でのオレの休み確認ってことは()()()()()()だと判断させてもらう。まだ後一週間はあるが、随分と急だな。

 リサとか紗夜とか千聖とか、後はヒナも本来はそんな急に大型連休を休みとして使える人種じゃねぇだろ。つかこころもハロハピはどうした。

 

「子どもの日はライブがあるわ!」

「あたしと千聖ちゃんはその次の日まで二日間ライブあるよ」

「アタシと紗夜はロックフェス出なきゃいけないからね〜」

「あたしらもだったよね〜」

「……忙しいじゃねぇか、お前ら全員」

 

 すっかり全員、いや「Roselia」は出会った時からそこそこ有名だったが今じゃどいつもこいつも有名人だ。おいそれと纏まった休暇は取れることもねぇだろうとは思ってたが。

 だが、逆を言えばそれ以外だったら休みだと言われてオレはため息を吐く。本番前ってこう詰めるところじゃねぇのか。

 

「いやぁ、そう言われると耳が痛いんだケドね……」

「……解ったよ、ただし、今回は個別でな」

「どーして?」

「固まって二泊三日とかそういう旅行めいたのはナシだ。日帰りで個別、そのためならいくらでも予定を明けてやる」

 

 オレを優先しても損するだけだ。ただでさえオレなんて教師やりながらダラダラと過ごしてるだけだってのに、忙しいお前らがオレに合わせる必要なんてねぇんだよ。

 旅行っぽいことがしてぇなら夏休みにしろ、そっちならいくらでも合わせられるだろ? 

 

「GWには予定合わなくてもその後、休日なら付き合ってやる……それでいいだろ?」

「……まぁ、足並み揃えるよりも独り占めした方が得してるし、あたしはソッチの方がいいと思うけど」

「あたしは先生がそれでいいなら構わないわよ」

「アタシも、出来たらゆっくりデートしたいなぁ、なんて」

「あたしもそっちかな、みんなで遊びたい気持ちもあるけど無理やりはカズくんのシュミじゃないもんね?」

「性癖の話はしてねぇよ」

「……センセー強引なの好きなのに?」

「甘いなぁリサちーは、今度カズくんの好きなヤツ教えてあげるよ」

 

 まーた猥談めいた感じになる。しかも似たような会話が三人の時にあったばかりだったから蘭が頭が痛そうな反応してるじゃねぇかよ。そんな騒がしい中でもきっちりノルマを終えた蘭は、まるで当初の予定がズレたとでも言いたげな顔でツンとした態度でオレに紙を手渡してくる。

 

「……何」

「蘭の要望は?」

「なんであたし」

「最初に訊いとくべきだろ」

「バカ、女誑し」

「あんまりホントのこと言うなよ」

 

 去年、生徒の間ではオレが自分のクラスの生徒や顧問をしている部活の生徒を複数誑かす教師だと密かに噂になっていたのだとか。まぁ事実だしなんとも否定はしねぇ。それがモカっつう問題児もそうなのはやめてほしいが。

 とはいえフォローすんのはシャクだがモカはわざとオレに抱きついて困らせてるわけでも噂にしてオレを教師としていられなくしようとかそういう悪辣な考えがあるわけじゃねぇんだよな。

 

「もう今となっては上原とか羽沢もそれとなくフォローしてくれるようになったし、蘭なんて予知して前もって止めれるようになってきたしな」

「めんぼくないですな〜」

「モカってば無意識にセンセー見つけると抱きついてくもんね」

「なんにも考えてませんからね、モカは」

「ヒナ以下だからな」

 

 ヒナも十分欲望に正直な方だがそれでも二年、三年と外じゃねぇところでは「カズ先生」と呼び分けてくれてたんだ。モカがそういう渾名を持ってくれなくてよかったよ。

 そんな風にぐるりと思っているとモカ以外はなんだかんだちゃんと呼び分けを実行してるやつらなんだな。

 

「蘭ちゃんってカズくんのことクラスでは先生って呼んでるの?」

「そりゃあ、クラスで呼び捨ては流石に」

「でもせんせーは、蘭とモカちゃんは、呼び捨てだけどね〜」

「それはアタシらん時もそうだったしね」

「そーだね」

 

 いいんだよ、オレは最初から気にしてねぇから。それこそ昔だったら平等なのが正しいと信じて呼び方も気にしてたかもしれねぇけど、今のオレにそんなカミサマになりてぇなんて願望はこれっぽっちもねぇからな。

 ──平等の方が()()()ことはわかってる。ただ、オレは人間だからそこの部分じゃどう足掻いても正しくはなれねぇんだよな。

 

「せんせー、お腹減った〜」

「パン食ってただろ、数秒前に」

「それと〜夜ごはんは別〜」

「ならご飯食べに行きましょう!」

「あはは、でも偶にはこのメンバーでご飯もいいカモね☆」

「さんせー」

「どうせ一成の奢りだし」

「おい……まぁ一応訊ねとくが、リクエストは何だ」

 

 雑談から既に一時間は経過して、段々と空が黄昏へ、そして紺色へと変わっていく。そんな空もお構いなしにモカはお腹を鳴らしていつも通りの欲求への忠実っぷりを発揮してくる。

 オレの懐を寂しくする気満々の生徒達のリクエストだ、ロクでもねぇってことだけはわかる。

 

「おにく〜」

「あたしも肉がいい!」

「……寿司」

「いいね〜、アタシも海鮮派カナ〜?」

「回らないやつなら〜、そっちへ推し変もあり〜」

「そりゃ無理な相談だ……こころは?」

「ん〜、悩んでしまうわね……どっちも捨てがたいわ」

 

 回らない寿司屋とかバカ言うな貯金下ろしても食えねぇっての。

 ただ最後の意見を出してねぇこころが悩んだような顔をする。オレとしては多数決で決まった方でいいんだが。ちょうどオレを除けば奇数だしな。

 

「どっちでもいいぜ、コイツらが文句言うとは思えねぇよ」

「うん」

「そうそう、どっちにしろ奢りだし〜?」

「どっちもあり〜って気分だし〜」

「あたしも、どっちでも楽しそう♪」

「……なら、あたしは()()()()食べたいわ!」

 

 どっちも、と来たか。寿司と肉、両方楽しめる店がねぇわけじゃないだろうけど、この無駄にグルメな舌してるヤツらが満足するかって言ったらビミョーだよな。かくいうオレも、食べ物はちゃんとしてぇタイプだし。

 そうすると、突如ではあるがおなじみの黒い服のヒト達がこのような店がございますと地図アプリの起動したスマホを差し出してくる。いやいつからいたんだよこのヒトら、怖いわ。

 それにしても随分近いところにあるもんだな、偶然、いやぁ偶然ってすごいなぁ。

 

「いいお店を見つけたのね!」

「ああ、見つけたらしい……近くに」

「じゃあ、紗夜とか千聖も呼んじゃおっか♪」

「いやでも……これ、オレが払う……んじゃ」

「こちらを二度押してください」

「……なーるほどな」

 

 電源ボタン二度押しはスマホで支払いが出来るってわかる。オレも同じ機種だからな。

 つまり奢ってくれるらしい、やったねゴチだ、と思うことにする。もはや店が新しく出来るなんてことは些事だ。今の一瞬でどうやって材料と従業員を確保したのか、考えるだけ無駄だしな。

 

「……わぁ、お寿司とおにくがりょーほ〜だ〜」

「いいわね、こういう情緒の無さというものも」

「どちらも、という店で両方食べることはないかと思いますが」

「いや、コッチで四人両方食べてるケド……」

「カズくん、お肉のタレでお寿司食べてみるとるんってくる〜」

「味覚バグってる、バカ舌やめろ」

「お魚もお肉も食べられるのは楽しいわね!」

「バカはどっちも食べてる一成だと思う」

 

 ──結果として、貸し切りの謎のカオスな店だった。カウンター式の焼肉屋なのに寿司握ってくれるんだもんな。しかもどっちも絶品だからリアクションに困る。

 そんな感じで、久しぶりで全員集まっての飯は賑やかで、楽しくて、こう言えば怒られそうな気がするが誰かと二人きりってシチュエーションがやっぱり自然だろうけど、いつかの文化祭の打ち上げみてぇにワイワイする方がクズ教師として満たされる感じなんだよなぁ。それに今のオレがやろうとしてるこそがまさしく、うまい肉とうまい寿司を同時に味わいてぇって言ってるようなもんだからかな、どっちも食ってるヒナやモカ、こころに千聖がふいに肉を口にし、いつの間にか紗夜が寿司を食べてるようなこの状況がたまらなく幸せな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで既存七人掘り下げ終わりました。
いやぁ長かった。

焼肉と寿司を同時に食べる、今回の話は最終話の露骨な匂わせなのでお楽しみください。

次回からは新世代組、存在しないSEASON2のメインヒロインとSEASON3のメインヒロインが本格登場します。
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